花に月〜(無職転生だけど)コナ○騒動〜    作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。






花に月〜コナ○騒動〜 4

ー4ー

 

多少の獣臭さを気にしなければ、犬タクシーはなかなか良い乗り物だと思う。

なによりモフモフの手触りがサイコーだ。

猫バスに乗りたいという、本物の子どもだった頃の夢が、遥かな時空を超えて叶ったのだ。

感無量である。

 

俺は今、聖獣レオの背にまたがって魔法大学に向かっている。

 

*  *  *

 

開店早々に服や靴を買ってもらい、ついでに夕飯の買い物も済ませて帰宅。

新しい服を身に付けて、仕上げにローブを羽織ると、チビッコ魔術師の完成だ。

 

さあ出かけるか!

 

戸口に向かったら、当然という顔でシルフィとエリスも付いてきた。

ひとりで行くと主張する俺に、ひとりで出すのは心配だという家族。

 

体内の魔力の流れは、良くも悪くも安定している。

だから、衆人環視の中で突然〝ふしぎなメルモ〟状態になる心配はない、と思う。

というか、ならないことを切に願う。

 

メルモちゃん……お若い読者の皆さんはご存知だろうか。

ナナホシは知らないかもしれない。もちろん俺も、リアルタイムで観た世代ではない。 

不思議なキャンディで大人になったり子どもになったり。

主人公の幼女メルモちゃんが、着ている服はそのままに、大人の肉体へと変身するシーン。

女の子キャラならお色気サービスでも、男が人前でやったら間違いなく通報案件になるだろう。

マジック・アイテムの伸縮ローブだけが俺の命綱だ。

 

だが、よくよく聞いてみたら、みんなの心配の内容は俺の懸念とちょっと違った。

保護者として自分たちが付き添うべき、とおっしゃる。

……各所にルイジェルドが発生しているというのだろうか?

元気にしてるかな、ルイジェルド。

まさか彼の身になにかあって、俺の周囲の人間に次々と取り憑いてるってことはあるまいな。

 

まあ、なんだかんだで、面白がっているだけのような気もするが。

 

双方主張を譲らず、こう着状態におちいる中、救いの前足を差し伸べてくれたのはレオだった。

「ワフッ!(我輩が送ってやろう) ワンワン!(安心して任せるがいい)」

翻訳はテキトーだ。

猫バスならぬ犬タクは電線の上は走らないものの、あっという間に到着し、あっという間に帰っていった。

 

あまり人目に付きたくないし、クリフにはザノバの研究室に来てもらおうか。 

午前最後の授業が始まったあたりの時間帯、昼休みにはまだ間がある。

教室から学生たちが大勢出てくる前に来られてよかった。

 

 

校舎内では、数人とすれ違った。

魔法大学に入学年齢の制限はないため、6〜7才の学生もいるにはいる。

俺くらいの子どもが歩いていても珍しくないはずだ。

 

あれ、二度見されたよ。こっちを振り返ってるヤツまでいる。

なに? 俺って、そんなに不審者か?

 

研究棟へ向かう渡り廊下に、これまた不審な動きをする者がいた。

真新しいローブに、初心者用の杖。

あっちへ行ったと思ったら、こっちから現れて……うろうろキョロキョロする姿が遠くからも見えていた。

迷子だな。ひょっとして、俺もコイツの関係者と思われたのかもしれない。

 

「どうしたの?」

声をかけてみたら、魔術修練場に行こうとして迷ったという。

授業開始時刻に遅れてしまった動揺と焦りが、全身からにじみ出ている。

 

俺より頭ひとつぶんほど大きい、育ちの良さげな人族の彼は、他国の魔法学校から事情で編入してきたばかりだそうだ。

そういえばノルンも、入学当初は教室移動でよく迷子になっていた。

今の俺は後ろ暗い身ではあるが、ここはひとつ助けてやらねばなるまい。

 

修練場は別棟だ。

こんなところをどれだけ探しても、辿り着けるわけがない。

自分より低学年に見えるチビすけに手を引かれ、新入りくんはなんとも情けない表情をした。

ここでは年齢と学年はまったく関係ないし、迷子になった時点ですでに情けないし。

「まあ、気にすんなよ。すぐ慣れるさ」

慰めてやったら、もっとビミョーな顔になった。

口には出さないけど〝なんだ、コイツ〟って思ってるんだろう。

 

魔術実習は危険のないよう配慮はされていても、けっこう事故は多い。

聖級治癒魔術の魔法陣を完備しているし、軽いケガなら生徒同士で治癒をかけあえばいい。

それでも昏倒するなどして、月に何人も医務室送りになっている。

 

ということで俺は、修練場の中に入る前に、外から様子を伺ってみた。

説明中らしき教師の声がする。

大丈夫かな? とかなんとか考えている隙に、新入りくんが扉をガバッと開けてしまった。

 

ちょうどその時、修練場の隅でファイヤーボールが出現した。

「「「あっ!!」」」

教師と、説明を受けていた生徒たちの間をうまい具合に抜けて、まっすぐにこちらに向かって飛んでくる火球。

 

おっと、危ない。

 

火球は俺たちの手前で土壁にぶつかって、爆発音をあげて消えた。

俺が出したアースウォールだ。

 

新入り君が、隣でへたり込んでいる。

いきなり中級火魔術ファイヤーボールが飛んできたかと思うと、次の瞬間2メートル四方の土壁が目の前にドンと現れた。

ただでさえ遅刻に焦っていたところに、この仕打ち。

腰が抜けるのも仕方がない。

 

修練場内部がにわかに騒がしくなった。

自分でやっといてなんだが、ジャマな壁のせいで内側の様子はなにもわからない。

わからんが、見つかったら面倒なことになりそうだというのはわかった。

 

「じゃあねっ」

俺はその場からスタコラサッサと逃げ出した。

 

おそらく、奥のほうで実技演習に励んでいた上級生が暴発させたんだろう。

あんなのが直撃したら、大怪我だ。

治せはするだろうが、当たりどころが悪ければわからない。

 

無詠唱で土魔術……俺がやったって言ってるようなもんだ。

でも、ギリギリこの姿は見られなかったと思う。

普通なら、新入りくんを案内した子どもがルーデウス本人だとは思うはずがない。

きっと、たまたまルーデウスが通りかかったんだ。

うん、そうだ。

たまたま居合わせて、人助けして、名前も告げずに去っていった。

そういうことにしておこう。

 

 

ようやく研究棟にたどり着いた。

「ザノバ、俺だ。入っていいか?」

いつものようにノックをすると、しばらく間があって硬い声が返ってきた。

「どちらさまですかな?」

思わずため息だ。新しい相手に会うたびに、例のやり取りを繰り返さなければならないのだろう。

「ルーデウスだ。ちょっと訳ありなんだが、できればあまり驚かないでほしい」

 

みずからドアを開けたザノバは、まず俺の頭上をキョロリと見回して、その下にある頭に気付くと、長細い体を折って顔を覗き込んできた。

目が合ったので、ウインクひとつ。

 

しばしのタイムラグのあと、

「うひょーっ! なんとっ!」 飛びずさるザノバ。

シェーッとでも叫びそうな、味わい深いポーズを披露してくれたのであった。

 

その後ジンジャーやジュリとも、お約束のやり取りをしたのは言うまでもない。

なんか、そろそろ面倒くさくなってきたぞ……

 

もう間もなく昼休み。

あまり校舎内を歩き回らないほうがいいだろうと、ジンジャーがクリフを呼びに行ってくれた。

 

「さすがは師匠。あいかわらず余の常識の上を行かれますな。

極めて精巧に作られた人形かと思いましたぞ」

ハッハッハと朗らかな笑い。

この姿は、危機感よりホンワカ感をかもすらしい。

 

ジュリが珍獣を見るような視線を向けてくる。

座る前に背比べしてもらったら、俺のほうが高かった。ちょっと嬉しい。

 

 

短いノックとほぼ同時にドアが開いた。

 

「おい! 噂になってるが大丈夫、か……?」

躊躇なく部屋に入ってきたクリフの視線が俺をとらえる。

文末の「か」のところで数秒動きが止まったものの、すぐに持ち直すと、いつもと変わらぬ態度で俺の対面に腰を下ろした。

あらかじめ聞かされていたにしても、やっぱりクリフ先輩はオトコマエだった。

 

「ここに来る途中、いろんな所で大騒ぎだったぞ。

ルーデウス・グレイラットに隠し子発覚!に始まって、

愛人が子どもを連れて学校に乗り込んだ!とか、

隠し子も無詠唱魔術の遣い手で、修練場を襲撃した!とか。

それから、ルーデウス本人は妻たちを恐れて雲隠れした!!ということだそうだ。

こりゃあ、昼休みの間に全校に広まるな」

 

廊下で見かけたヤツらが発信元か?

修練場の話でさらに尾ひれが付いたんだろう。

 

ああ……職員室にまで噂が到達したら、ロキシーに怒られるだろうな。

 

俺は、昨日からの事情をかいつまんで説明した。

クリフの質問にはできるだけ答えるが、なにせ俺自身なにが起こったのか、よく理解していない。

安全が確認されない以上、魔石の現物を見てもらうわけにはいかないし。

二次被害が出たらエラいことだ。

 

「まず、身体の大きさが子どもに戻っていても、記憶や思考はそのままなんだろう?

つまり、脳や神経系が退行したわけじゃない」

 

……なるほど。

たしかに若返りや転生なんてのは、それまでの記憶が保持されていないと、あんまり旨味はない。

俺がいい例だ。

オールリセットですべて忘れるというなら、若返りが成功したことすらわからなくなるもんな。

失敗して死んだりするリスクを負ってまで試すかというと、難しいところだ。

 

「魔術はどうなんだ? お子様レベルに戻ったのか?」

「昨日の感じでは、変わらず使えるんじゃないですかね。

さすがに全部試したわけじゃないですが。

魔眼もちゃんと入っているし、もっと大きくなってからの傷なんかも、痕がそのまま残ってますよ」

「そうか……」とクリフが眉根を寄せる。

 

「体格が大幅に違う以上、筋肉や骨格、脳ミソ含めた内臓まで、全細胞が入れ替わったというならまだわかる」

それって、もうすでに別人じゃなかろうか。

「肉体のみの時間転移……てわけでもなさそうですよね」

過去から肉体を持ってきて、現在の意識を憑依させる……とか、龍族の秘術でありそうだ。

でもその場合、傷痕なんかの辻褄が合わなくなる。

 

自分で試してダメだった解毒魔術や、果ては神撃魔術までお願いしてみたが、やはり状況は変わらなかった。

 

「呪いだというなら、リーゼの例もある。

物を介して軽減させることはできるかもしれない」

軽減か……8才が10才になったり。あんまり変わらんな。

もっとも〝呪いだから〟で思考停止しないところが、クリフのすごいところだ。

 

「まあ……結局は、様子見するしかないですね。

もしかしたら、一時的なものだったという可能性もありますし」

「力になれなくてすまない」

「いえ、おかげで少し、頭が整理できました」

 

元に戻る方法を模索すると同時に、このままだった時のことも考えないといけない。

仕事に影響が出るもんな。

あとでオルステッドのところに相談しに行こう。

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

そこそこオタク期間は長いけれど、
この人生で、ザノバを描くことになるとは……と、結構マジでしみじみしました。


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