花に月〜(無職転生だけど)コナ○騒動〜    作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので好まれない方は、ご注意を。






花に月〜コナ○騒動〜 5

―5―

 

解決はしなくても、誰かに話すだけで気持ちが楽になるって本当だ。

気のおけない友人の存在は、しみじみありがたい。

 

買ってきてもらった食い物をつまみつつ、気付けばそろそろ終業時間。

ずいぶんと長居してしまったようだ。

たった半日だけれど、味わったお子様体験の数々……

中でも、オルステッドや奥さんたちの反応なんか、大受けだった。

いや、だから。笑いごとじゃないんだってばよ、と声を大にして言いたいのだが。

 

「このあと用事もあるし、帰りたいんだけど……どうするかな」

窓からは、たくさんの学生が歩いているのが見えた。

 

「今出ていったら、確実に人垣ができるんじゃないか?」

「変装してみたらどうですかな? ジュリの服もありますし」

「そうだ、そのローブ姿ってのがマズいのかもしれないぞ。

まんまミニチュア・ルーデウスだからな」

 

なにがあってもローブを脱ぐつもりはない。というか、脱げない。

いつどうなるかもわからない爆弾を抱えているこの身体……俺の人間の尊厳がかかっているのだ。

伸縮ローブは、もはや第二のご神体とあがめたいほど心の支えになっている。

 

さて、どうやって脱出しよう。

ノルンあたりに伝言を頼んで、犬タクを呼んでもらおうか。

大きなモフモフに乗ったチビッコ魔術師なんて、メルヘンな姿がもっと噂を呼ぶかもだが。

そういえば、家族でノルンにだけはまだ会ってなかったな。

 

「兄さん!! やっぱりここにいたんですねっ!」

 

そう考えた時、まさに本人がやってきた。

ザノバたちの手前、いちおう落ち着いた態度をよそおってはいたものの、モンモンと漂う怒りのオーラは消せていない。

 

「朝からロキシー姉さんに聞いてはいたんですが———」

俺の姿に一瞬ひるむが、すぐにキッと睨みつけてきた。さすがだ。

 

「その非常識な格好で、なんでわざわざ学校に出てくるんですか!

それだけじゃ飽き足らず、修練場でまで暴れるなんて……!

もう、すっごい噂になってて、みんな私に隠し子の真相を聞きにくるんです!」

ありゃりゃ……ロキシーじゃなくて、ノルンからの怒られコースだったか。

 

「次から次へと騒動を起こして……ただでさえ目立ってるのに。

兄さんは自覚が足らなすぎます!!」

「ええと、面倒ごとが向こうから寄ってくるだけでね、べつに好きで騒ぎを起こしてるわけじゃ……」

「とにかくっ! 急いで帰りますからね!」

 

いつもだったら怒りの表情もプンスカと上目遣いで可愛らしいが、見下ろされながらというのも、またオツなもんだな。

蔑まれ感がたまらない。ゾクゾクするような新たな魅力発見だ。

 

ノルンはキュッと俺の手を取った。どうやら一緒に帰ってくれるらしい。

 

 

兄さんの手をつかんで、廊下に出た。

 

というか、ちっちゃい手。

こんなになっちゃったんだ……。なんだかショック。

 

友達から、「ノルンのお兄さんってどんな人?」って聞かれることがよくある。

みんながどんなイメージを持っているのかは知らないが、私が目にする普段の兄さんは、どこか抜けててノホホンとした印象だ。

嬉しそうにレオをモフってる姿とか、姉さんたちに怒られてペコペコしてるところとか、ルーシーに逃げられて落ち込んでる情けない背中とか。

けれども、本当は危険な仕事をこなしているのも知っている。ひとつ間違えば、簡単に命を落とすような。

今さらながらにそれを実感して、ちょっとだけ胸に冷たいものが走る。

 

兄さんが突然いなくなったらどうしよう。

お父さんが亡くなり、お母さんもあんな状態で。

兄さんの存在は、一家の大黒柱という以上に、大切な心の拠り所になっているのだから。

 

とはいえ今、私に手を引かれてホテホテと歩いている兄さんに、あんまり深刻さは感じられない。

……まあ、こんな人なのだ。

 

研究棟を出たあたりから、知ってる人知らない人、たくさんの人に囲まれて、なかなか前に進めなくなった。

できるだけ兄さんを人の視線から隠しながら、用意したセリフを繰り返す。

「いとこが訪ねてきたんです〜。

兄によく似てますよね〜。ええ、よく言われます〜」

かなり棒読みになってるだろうけど、仕方ない。

 

隣では、空気を読んだつもりか、

「うわー、ノルン姉ちゃんの学校って大きいねー」

とかなんとか言いながら、キョロキョロしている。

だから……目立たないようにしてなさいってば。

 

「キミたち、いとこ同士なのか。名前は?」

突然名前を尋ねられた兄さんが、一瞬うろたえて「パウロ」と答えやがった。

思わずキッと見たら、なにを思ったか、それ以来同じ質問には「コナンだよ」と返すようになった。

コナンって誰? どこから出てきた名前なんだろう。

 

 

ようやく校舎から脱出したところで、ロキシー姉さんが待っていた。

「なんだか微笑ましいですね。

そうしていると、お揃いの可愛いお人形さんみたいですよ」

 

いけない、忘れてた。

往来に出てやっと、繋ぎっぱなしだった兄さんの手を離した。

 

兄さんと手を繋いだのって、いつぶりだろうか。

そもそもそんなことって、あったっけ?

 

兄妹で手を繋ぐのが自然な年齢の頃、私は心に厚い壁を作っていた。

兄さんはいつだって私のこと気にかけてくれていたけれど、強引に距離を詰めるようなことはしない人だ。

そのへんは、お父さんとはちょっと違う。

でも、私が素直に甘えていたら、きっと鬱陶しいレベルで愛情を返してくれただろう。

ちょっと勿体なかったようにも思う。

 

いや、私が甘えようが甘えまいが関係なく、いつだって愛情を注いでくれていた。

 

兄さんは空いた手で、ロキシー姉さんの手を取った。

「奥さんとの仲も良好ということで、ルーデウス隠し子説は消えるでしょう」

「そう願いたいですね。職員室で、あんなに注目を浴びたのは初めてでしたから」

 

ふたり寄り添う姿は、親子……じゃないか、歳の離れた姉と弟に見えるだろう。

でも、たがいに向ける視線は恋人同士のそれだ。

私にもいつか、こんなふうに見つめ合える相手ができるのだろうか。

 

兄さんがちっちゃくなっちゃった。

大変な事態、といえばそうなのだけれど、今この瞬間の空気は心地良い。

3人で、ゆっくり歩いて帰った。

 

 

定時で上がったロキシーに、予定外のノルンまで揃ったので、我が家では早めの夕食となった。

ゼニスは今朝より落ち着いているみたいだったが、やはり隣に座らされる俺。

家族揃っての和やかな食卓だ。

 

食事の席で、解決までもう少し時間がかかりそうなことと、さしあたっての方針を説明した。

こうなった原因や元に戻る方法を探りつつ、やれる仕事は今までどおり進めていくこと。

学校は今日で懲りたから、しばらく行くのはやめておくこと。

 

「皆さん、どうもお騒がせしてます。

もうしばらくご迷惑をかけるでしょうが、よろしくお願いします」

頭を下げたら、パチパチとおざなりの拍手をもらった。

 

さて、腹もくちくなったし、オルステッドのところに一度顔を出しておくか。

よいしょと背伸びして、壁に掛けていたローブを手に取った。

ちょっとしたところで、リーチ不足を感じる。

不便ではあるが、もともと俺は遠距離攻撃型だから、戦闘になってもさほど影響はないだろう。

 

「ルディ、出かけるの? そろそろ暗いよ?」

「仕事復帰は、もうしばらく様子を見たほうがいいように思うのですが」

「私も一緒に行くわ!」

「兄さん、明日の朝でもかまわないんじゃないですか?」

「えーっ? お兄ちゃんとお風呂入ろうと思ったのに!」

いろんな声が飛んでくる。愛されてるな、俺って。

 

「オルステッド様と話すだけだよ、すぐ戻る。

予定が狂っちゃったからな、今後のことを相談してくるよ。

レオ、ちょっと事務所まで頼めるか?」

部屋の隅でとっておきの骨をしゃぶっていたレオが顔を上げ、「ワオン」と答えた。

 

「レオが一緒だから大丈夫」

すっかり過保護になった家族を言いくるめ、犬タクにまたがった。

 

日頃から俺は、ルーシーやララのことを心配しすぎ、過保護すぎと言われつづけてきたものだが、今日でわかった。

ほかのみんなだって……いや、もっと重度だと思う。

 

人生2度目の〝見た目は子ども、頭脳は大人〟状態。

まあ、残念ながら頭脳のほうは特に武器にはなっていないが、中身は熟練魔術師で最強龍神の配下だ。

皆もそれはわかっているはずなのに。その上でこの過干渉はなんなんだろうか。

 

帰ったら、子どもたちの躾とか教育とか、話し合わないとな。

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

ほのぼの帰り道。
どのキャラも好きなんですが、なぜかロキシーを描くのが苦手です。


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