花に月〜(無職転生だけど)コナ○騒動〜    作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。





花に月〜コナ○騒動〜 6

ー6ー

 

1日待ってみたがルーデウスは現れなかった。

 

昨夜のあの状態では仕方なかろうと思い直し、オルステッドは装備を整えた。

経過が気がかりだったし、出先から戻るまで数日かかるだろうから、その前に会っておきたかったのだが。

 

これまでは出来事の因果を確認しながら、ここぞというところでテコ入れするスタイルで動いてきた。

それが今回、とくにルーデウスが関わるようになって以降、先を読むのがどうにも難しい。

困ったことだと感じつつ、展開を面白がっている自分がいるのも事実だ。

マンネリ……そう、自分の使命だか宿命だかに、いささかウンザリしていたのかもしれない。

 

この周回はイレギュラーが多すぎる。

このような拠点を構えたのも、珍しいことだ。

今やすっかり馴染んだ書斎から出ようとした時、外にかすかな気配を感じた。

 

ヤツだ。犬もいる。

「ようやく来たか」

簡易な旅装に身を包んだオルステッドは、ドアノブに手を掛けて気配を断ち、足音が近づいてくるのを待ち構え……

 

ノックの瞬間、いっきにドアを手前に引き開けた。

神の名を冠する者にのみ許された、まさに神タイミング。

子どもがひとり、空振りした握りこぶしを突き出した状態でボフンと飛び込んできた。

 

「な、なに?」 

状況が飲み込めないままギュッとしがみついている、オルステッド自身の半分にも満たない小さな身体。

 

……ふむ。昨夜から大きくも小さくも変化していない。

これはどうしたものか。

 

じっと観察していると、恐る恐る見上げてきたルーデウスと目が合った。

「わっ! す、すみませんっ!」

腹のあたりにかかっていた重みと温もりが、慌てて離れていった。

 

「そこにおられるのに、まったく気付かず……

あれ? 今からお出かけですか?」

「ずっとお前を待っていたが、期日が重要な案件があるのだ。

ゆえに、これから行ってくる」

「うわっ、それって俺の仕事だったんですよね。

申し訳ありません、準備して向かいますから!」

 

小走りに部屋を出たルーデウスは、すぐに大きな荷物を抱えて戻ってきた。

もちろん特別に大きいというわけではなく、普段使っているバックパックだ。

あくまで、体格に比してという話である。

 

「それで、どういった内容ですか?」

尋ねながらも「レオに伝言預けなきゃな……」と、棚から紙を引っ張り出している。

 

この切り替えの早さは立派だ、ただ。

「いい、このまま俺が出向こう。

先ほどの、無警戒にぶつかってきたお前を見ると、少々不安だからな」

「いやいや、さっきのは反則ですよ。

警戒もなにも、そもそもオルステッド様がいる場所は、いちばん安全でしょうに」

 

サラリと発せられた言葉に、オルステッドはわずかに眉をひそめた。

続けて引出しからペンを取り出していたルーデウスは、そんな微かな表情の変化を気付くはずもない。

「しかるべき場面では、俺も警戒心マックスにしてますよ。小心者ですからね」

言いながら、手は家族への伝言を紙片に書き付けつけている。

 

「期間はどれくらいみておけばいいですかね?」

「お前が魔石を取ってきた場所と同じ方面だ。もう少し奥に行くがな。

移動込みで5日といったところだろう」

「わかりました。

ではちょっと行って、外で待たせてるレオに、家への手紙を頼んできます」

紙をつかんでパタパタと飛び出していった。

 

忙しないこと、この上ない。

 

「俺の居場所こそ、すべての生き物にとって最も危険で警戒すべき場所だと思ったが……」

オルステッドは独りごちて、酷薄な顔を歪ませた。

もしかして笑ったのかもしれないが、本当のところは誰にもわからない。

 

 

シーローン王国郊外の転移魔法陣に移動し、そこから北へと森を抜けていく。

そろそろ夜半にかかる頃だ。

野営に良さそうな場所を探しながら足を進めていた。

 

俺としては完全にひとり旅のつもりだったが、道連れがいる。

移動しながら説明しようと言うので、まさかと思っていたら、オルステッドが先に歩き出したのだ。

 

……あれ? 

あれれ? 

戸惑っているうちに一緒に転移して、一緒に森の中を歩いていた。

 

周囲にたくさん潜んでいるはずの魔物が、ただならぬ気配に怯えてか、姿を現さない。

ごくたまに血迷ったのが飛び出してきても、一瞬で消された。

そこら中にいるトゥレントでさえ、不気味におとなしいのだ。

知能もないだろうに、本能でなにかを察知しているのか。

 

この道行きは楽でいい。だけれど、なんだか寂しい気もする。

 

周囲から嫌われ、避けられながら生きていく……など、自分には到底できそうにない。

俺は人から拒絶されるのが恐ろしい。前世からのトラウマだ。

それゆえ、時に八方美人的に振る舞ってしまう自覚もあった。

 

気が遠くなるほどの長い年月、オルステッドはどれほどの孤独を超えてきたのか。

前を歩く広く厳しい背中。

頼もしいはずなのに、見上げていると、胸の奥がチクチク痛んで仕方ない。

それを紛らせるため、仕事の話が終わってからも益体もないことを話しかけつづける。

彼はそれに最小限の言葉で返した。

 

鬱陶しいヤツと思われてるかな。

でも、せめて俺と一緒の時くらいは、呪いのことなど忘れてほしい。

余計なお世話、ちっぽけな自己満足だってのは、もとより百も承知だ。

 

 

静かな夜の森に、ふたり分の足音が響く。

 

オルステッドと今の俺ではコンパスが違いすぎるため、ペースを合わせるのにほぼ小走りになる。

別に構わない。この身体は身軽だし。

 

ナナホシを連れ回していた時は、歩く速さに気を遣ったりしてたんだろうか。

放っておけば野垂れ死に間違いなしの異世界少女。

あれこれ気を回して、なにかと世話を焼かなければ立ち行かなかったはずだ。

ほかの誰の手も借りず、言葉を教え、この世界の常識を教え、食べさせて、危険から守り……。

自分の目的のためというのはもちろんだろう。

でも、それだけでできることではない。

 

つき合いが長くなるほど、彼なりの優しさに気付かされることも増えてきた。

表現が不器用だったり、言葉足らずだったりするのもご愛嬌だ。

今まで、ずっとひとりでやってきたのだから。

 

最近では、表情の変化もわかってきたような気がしないでもない。

まあ、本人に確かめたことはないから、勘違いかもしれないけどな。

一見怒っているけど、これは困ってる顔だな、とか。

睨んでいるけど、ちょっと照れてるっぽい、とか。

口のはしが不機嫌に歪むのは、実は笑ってるんじゃないか、とか。

もちろん本当に怒っている時は、呪い云々関係なく、チビるほどの恐ろしさだ。

 

この数日の短い旅で、もっと互いの距離が縮まって信頼を深められたら、と思う。

 

信頼といえば……

〝すぐ戻るから〟で押し切って、家を出てきたんだよなあ。

家族からの信頼が、そろそろ完全に枯渇するかも。

「まいったな〜……」

思わず漏れた心の声に、オルステッドがこちらを振り返った。

 

「っ……!!!」

 

マジで今、口から心臓吐き出しかけたよ。

 

生き物の気配もまばらな深夜の森は、ただでさえホラーな雰囲気なのだ。

光のスクルールの精霊ちゃんは、足元に危険がないように気を効かせてくれたのか、腰高のやや低いところを飛んでいる。

不意打ちで振り返ったオルステッドを、下からの光源で浮かび上がらせ———

 

心の準備ができていなかったぶん、ダメージが大きかった……

「いや、その……ちょっと家庭のグチがこぼれました。

断じて仕事への不満ではありません、はい!」

 

長時間〝孤独な背中〟を追いかけたせいで生じた俺の感傷は、一発で引っ込んだのであった。

 

 

野営場所を決め、土魔術で簡単なテーブルと椅子を作り出す。

やれやれ、やっとひと息つける。

 

これまた土魔術製カップに適当に茶葉を振り入れて、ジョボジョボとお湯で満たすと、オルステッドに渡した。

彼の魔力は、たとえ微量であっても省エネの方針だ。

次は魔物を狩ってこないとな、とか考えつつ、持ってきた食料を半分こした。

 

よく考えたら夕飯食べてきたっけ。まあ小腹が空いたからいいか。

そういえば……

「一緒に飲み食いすることって、あんまりなかったですよね」 

 

俺は食欲・性欲・睡眠欲……とくに前ふたつは充分に満たしておきたいタイプだ。

だが、オルステッドが生理的欲求を満たしているところは、あまり想像できない。

あの書斎でワインかなにかのボトルを見たこともあるが、飲んでいる姿は知らない。

日々の食事はどうしているのか。トイレや風呂、掃除に洗濯……

性欲に至っては、想像しかけたところで頭がバグった。

 

彼の生活は謎が多い。

いつか〝密着! 龍神オルステッド24時〟とかやってみるか。怖いもの見たさだ。

 

「……しばらく食わなければ食わないで、どうとでもなる。

人族ほどひ弱ではないからな」

そんなもんなのか? 龍族ってそうなのだろうか。

 

「ペルギウス様は、食にもこだわりがありますよね。

時々、ナナホシのところに差し入れ持っていったりするんですよ。

俺たちの世界のものを再現した試作料理なんですが、すぐに聞きつけて『我のぶんもあろうな』と」

口調を真似てみたら、オルステッドは悪そうな笑みを浮かべた。

子どもの声で、ペルギウスのモノマネは無理があったな。

 

「お前が作った料理を口にするのか」

「実際に作るのは妹ですがね。

なかなか合格点はいただけません。きっと、もの珍しいだけなんでしょう」

その流れで米の話題になり、食い物関係の雑談となった。

ほぼ俺がしゃべってたけどさ。

 

最後に明日からの動きを打ち合わせて、交代で休んだ。

オルステッドは座った姿勢で目を閉じるだけの、ルイジェルドスタイルだった。

 

 

 

 





【挿絵表示】

社長さんの外套のあみだくじ部分(?)にいつも悩まされています。
勘弁してくれ。


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