花に月〜(無職転生だけど)コナ○騒動〜    作:麓63

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※あとがき部分に拙い挿絵を1枚付けています。
 イメージが壊れたり、限定される恐れもありますので、好まれない方はご注意を。





花に月〜コナ○騒動〜 8

ー8ー

 

大きな音と、男たちの悲鳴。

が、それも数秒のこと。あっけなく静かになった。

 

ならず者がどれだけ集まろうが、オルステッドにとってはハエを払うようなものだ。

いや、払わずとも、ハエのほうから這々(ほうほう)(てい)で逃げだすだろう。

はっきり言って、なんて贅沢! オルステッドの無駄遣いだ。

まあ、せっかく来てもらったのだから甘えよう。

 

俺の隣でウトウトしていたサクヤを始め、子どもたちがビクンと目を覚ました。

かわいそうに、すっかり物音に敏感になっている。

 

しばらく外の様子を窺って安全確認したのち、

「さあ、ここから出るよ」

土魔術で南京錠を破壊した。

 

子どもの中に、つつこうが揺すろうが、どうしても起きてくれない大物がひとり。

仕方ないから、俺の背に乗っけてもらった。

体格にあまり差がないぶん少々動きにくいが、片手は使えるから問題はないだろう。

「あたしのほうが大きいんだから、背負わせてよ」

サクヤが言うが、誘拐監禁されていた女の子にそんなことさせるわけにはいかない。

眠った子は、びっくりするくらい重たくなるんだよなぁ。

 

一度眠ると絶対に起きない。思えば、弟の小さい頃がそうだった。

ふたりで遊びに行った帰りにやられて、泣きたくなったことが何度もある。

ルーシーはお利口さんなのか、そういった場面はまだ見たことがない。

というか、一緒に出かけたこと自体まだほとんどないかも。

……なんだか寂しい。ルーシーとララに会いたいな。

 

ひとり背負って用心しつつ外へ出ると、ほか4人もおっかなびっくり付いてくる。

外はシンと静まり返り、人っ子ひとり姿は見えなかった。

俺も来る時に乗せられた荷馬車が1台あるだけだ。

 

あの男たちがどうなっても知ったこっちゃないが、人相の悪い顔がああなったりこうなったりしているのを、幼い子には絶対に見せたくない。

目に触れないところに片付けてくれた社長、どうもありがとう。

 

と、賊の生き残りが、馬車の幌からヌッと現れた。

馬の気配に紛れて潜んでいたヤツを、取りこぼしたのだろうか。

せっかく感謝したのに、とんだ凡ミスじゃないですか、社長さん……

 

血走った目、蒼白な顔には脂汗、ひと目でわかるほどに男は震えている。

「お、お……お前らぁ〜!!」

俺の背後で、子どもたちが引きつるような悲鳴をあげた。

 

恐慌状態に陥っている。無理もなかろう。

コイツはオルステッドの殺気を間近で感じ、仲間たちが一瞬で屠られるのを目撃したはずだ。

不明瞭な言葉を口走る半狂乱の男が、馬車から飛び降りようとして……

「『泥沼』」

 

着地することなく泥の中に膝まで沈み、べシャンと倒れた。

 

 

男をグルグル巻きにして牢屋に放り込もうかとも思ったが、町への道がわからなかったので、不本意ながら連れていくことにした。

人攫いとして官憲に突き出そうにも、この国ではおそらく無駄だろう。

 

後腐れのないように、どこか遠いとこに捨ててこないとなあ。

〝悪いことしたら、銀色の怖いおじちゃんが来るぞ〜〟

とかなんとか脅しとけば、改心するかもしれない。

 

怯える馬を落ち着かせながら、怯えきった男に道を確かめながら、その男を怖がる子どもたちをなだめながら町へと向かう。

身ひとつで連れてこられたので、残念ながら光の精霊スクロールはない。

まん丸には少しだけ足らぬ月、その薄明かりだけが頼りだ。

道から外れないよう、ゆっくり慎重に馬を走らせていった。

 

行程は思うように捗らない。

喉が渇いたと言われれば馬車を止めて水を出し、オシッコと言われてやっぱり馬車を止めて物陰まで連れて行き、暗くて怖いからお歌うたってと言うから歌ったら泣かれて……なんでやねん。

 

俺は幼稚園の先生じゃないぞ。

なんだか、どっと疲れてしまった。

子どもって、理屈じゃ絶対に動いてくれないってのが身に沁みてわかったよ……

 

オルステッドは、最初この仕事にひとりで行こうとしてたんだよな。

チビっ子たちをどうするつもりだったのか。

彼が子守りするのは、うちの子限定じゃないと不可能だろう。

 

「今までずっと小さい子たちの面倒……えらいな。大変だったろう?」

サクヤへの尊敬がじわじわと深まる。俺ときたら、数時間でほぼグロッキーだ。

 

「うーん……でも、あたしひとりだったら、きっと泣いてばかりだったろうなあ。

怖いって思う暇なかったから、かえって良かったのかもね」

サクヤは荷台でいちばん小さい子を抱いている。

妹のコノハのほうは、足元に転がる男を気にしながらも、前を見て障害物のあるのを教えてくれていた。

1頭立ての馬車に、子ども6人と大人ひとり。なかなかに狭いし、馬もしんどそうだ。

 

「ねえ、名前教えてよ」とサクヤ。

「んーと、ルディ……かな」

「どうしてあたしたちを助けてくれたの?」

「仕事みたいなもんだよ」

 

この姉妹を、満月の晩に間に合うよう〝月の谷〟の集落に帰すのが、今回の俺の任務だ。

いきなり監禁場所に乗り込んで救出してもよかったが、中の様子がわからなかったのと、必要以上に怖がらせることもなかろうと、回りくどい手順を踏ませてもらった。

俺の姿が好都合というのもあったしな。

 

攫ってもらえなかったら、どうするつもりだったって?

ま、そん時はそん時だ。

やりようはいくらでもあるさ。

 

「谷に帰ったら、サクヤちゃんにも大切なお仕事があるんだよ。

花をいっぱい咲かすの。あたしもお手伝いしたんだ」

誇らしげに言うコノハの言葉を聞く頃、馬車はようやく明け方の町に入っていった。

 

 

3人目を親元に帰すと、もうかなり日も高い。

さらに奥地にある月の谷へと、サクヤとコノハの案内で馬車を走らせつづけた。

川沿いの道を進むのは、森を抜けるよりもどうしても遠回りになる。

 

人間も馬も疲労困ぱい。

休憩を取ったところ姉妹が眠り込み、どうしても起きなくなった。

ああ……また例のやつか。

ゲンナリしていると、「子どもは眠らせた」なんて言いつつオルステッドが現れたのであった。

 

俺のバックパックを背負って、森を走ってきてくれたのだろうか。

ローブがなくて、なんとも不安だったからありがたい。

 

そういえば、グルグル巻き男がいたな。町を抜けたあたりから、すっかり存在を忘れていた。

本気で嫌がる男を無理矢理オルステッドに紹介して、それから解放してやることにする。

「今度会ったら必ず殺す、と言ってます。

あんな顔ですが、彼は正義の味方なので、あなたが悪事を働くとすぐにやってきますよ」

と、涙と鼻水でぐちょぐちょの顔に耳打ち。

男は腰を抜かして、文字どおり転げながら逃げていった。

 

「なぜ逃した」

「昨夜から2度も死ぬほど怖い思いをしたので、もう悪さはしないでしょう。

仲間もいなくなりましたしね」

「お前は甘い」

オルステッドは吐き捨てるように言った。

 

まあ、俺が甘ちゃんなのは否定しない。正直なところ、殺さずに済むなら殺したくないもんな。

ただ、みんないろんな事情を抱えながら、必死に生きている。

あの男にも、アイツなりの人生があるだろう。

やり直すチャンスはあってもいいと思うんだ。

 

 

川に沿って上流にさかのぼれば、やがて月の谷だ。

 

赤龍山脈からリングス海へと流れる大河は、多くの支流に分かれながら、肥沃な土と養分を下流域へと運ぶ。

この一帯は、農業生産地として周辺国の食料事情を支えていた。

 

中流域の山には、春から夏にかけて繁茂する、毒性の高い植物があるそうだ。

夏が終わる頃、その植物は、土壌に高濃度の毒素を残して自家中毒で枯れてしまう。

毒は山の傾斜に沿って広がり、秋の長雨で谷川に溶け込むと、やがて下流の農地にまで到達するのだ。

土壌汚染による凶作を、長いあいだ防いできたのが月の谷の人々というわけだ。

とりわけ、サクヤの存在が鍵になるのだという。

 

「毒により農地を捨てた多数の農民が、兵士として周辺国へと流れる。

例の魔石で凶暴化した魔獣の討伐に大量投入されたのも、そんな元農民の兵だ」

オルステッドは、馬からできるだけ距離を取ろうとしてか、荷台の一番後ろに座っている。

気の毒なのは馬だ。

背後に感じる恐ろしい気配から逃れようと、それこそ馬車馬のように走りつづけた。

 

「しかし今回、暴れる魔獣は現れず、このままでは不作による飢饉もやってこよう。

不安定な情勢の中に増員された兵士で、紛争国同士の軍事バランスは崩壊する。

王竜王国まで巻き込んでな。

これは、あまり都合が良くない」

 

最初は石コロ程度でも、雪玉が転がって大きくなるように、やがて重大な結果に繋がることがある。

1か所触ると、芋づる的にやることが増える厄介なパターンだ。

この仕事の難しいところで、同時に醍醐味と言えるかもしれない。

もっとも俺自身は言われるままに動いているに過ぎず、大局観をもってやっているわけではないが。

 

「あとは任せたぞ」

振り返ると、もうオルステッドの姿はなかった。

 

もうじき姉妹も目を覚ますだろう。

危機は去ったと安堵したのか、馬の走るスピードがぐっと遅くなった。

 

「お前もご苦労だったな」

月の谷には、きっと美味しい草がいっぱいあるから頑張れ。

なんなら、可愛い牝馬もいるかもしれない。

 

 

 

 

 

 





【挿絵表示】

真面目なお顔で馬車操ってますが、これって手綱が機能してないんじゃ?と。
でも、もうお馬さんの顔を描き直す気力がなかったのです。


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