君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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「好きなだけ暴れて、ブッ壊したいものをブッ壊す!」(12/14)

「フゥ──、アッハハハハハハ! ホンット最高! やっと表に出られた実感ってやつを得たわ!!! アタシってば、小指の先程度には“宿主サマ”に感謝しなきゃねぇ!」

「きみは…優希なのか…?」

 

シャドウを一瞬にして消し飛ばし、まるでせいせいしたとでも言いたげに高笑いするラビリスに似た少女に美鶴が何が起こったのか分からないといった顔で首を傾げた。

明らかに優希とは違う身体つき。むしろ、少女と形容していても豊満な女そのものな身体つきはラビリスを少し大人に成長させたような見た目をしている。

そんな少女は美鶴の問いに顔を不機嫌に歪めるとラビリスを睨み付けた。

 

「アタシぃ? アタシは“宿主サマ”じゃなくてそこで突っ立ってるバカのシャドウよ」

「!!」

 

少女の言葉に動揺が走る。

何故、ラビリスのシャドウが優希の中にいるのか。

優希のことを“宿主サマ”と呼び自らをシャドウと形容した少女の言葉がにわかに信じがたく、誰も口を開くことができない。

 

「まあ? アタシってば、ソイツの中から“宿主サマ”に引き寄せられちゃったみたいで? その代わりこ~~~んな素敵な肉の器に巡り合えたってワケ。キャハハ! 姿も自由自在なんて便利なことこの上ないじゃない! 管理されなきゃ動かせないポンコツの体とはオサラバよ!」

 

状況説明にもなっていない歪んだ笑みと共に語られる言葉には“優希を乗っ取った”以外の情報が含まれていない。

もしかすると、敵か。それとも。

 

「あの子が…姉さんの…!?」

「ラビ姉さんのシャドウ…? にしては何か……」

 

アイギスがショックで目を見開き、メティスが人の身体を得た長姉のシャドウと名乗った少女に疑問を覚える。

ちょっとバストを盛っていないだろうかという感想も添えて自らの控えめに設計されているボディの胸を睨み、それぞれ片手で押さえた。

 

「アンタはウチのシャドウ…なん…? なら敵…? あーもう、よくわからんけど目的はなんなん!? ナギサさんをどうするつもりなんよ!? 返しぃや!」

 

ラビリスが己のシャドウだと名乗った少女に対しそう問いかける。

こうして表に出てきた目的は何なのか。もしこのまま身体を優希に返さないつもりなら、無理やり返してもらうことになるだろうし、返す予定があるのならいつなのか。それを問いたかった。

しかし少女は煩わしげに表情を歪ませると舌打ちをする。

 

「うるッせぇなあ…アタシは好きなだけ暴れて、ブッ壊したいものをブッ壊す! それだけだ! 返せって言われても満足するまで返すわけないでしょ」

「えええ、なに言ってるの!? それ…身体はお兄ちゃんのなのに返してくれないってこと!?」

「そうよ! 何か文句あんの!?」

 

奏子があまりのインパクトによる思考停止から回復し、そう問いかければ少女は喧嘩腰で奏子を睨み付けた。優希本人やラビリスではありえないその行動に驚きながらも奏子は睨み返す。

 

「文句なんてたくさんあるに決まってるでしょ! こうなったら力づくで…」

「やれるもんならやってみなさいよこのクソガキが! 二度と生意気なこと言えなくしてやろうかぁ!? …あ?」

 

一触即発の空気になるも、先にその矛を納めたのは少女の方だった。

 

「何よ。“表に出てる間はこいつらには手を出すな”ぁ?チッ …仕方ないわね」

 

誰かと会話しているようなそぶりを見せ、ため息を吐いて首を二回ほど横に振った少女は奏子に向き直る。

 

「前言撤回。…あんなこと言われたって“宿主サマ”はしばらくは起きないわよ。結構消耗してたし2、3日はかかるんじゃないの。ま、少なくとも宿主サマが起きない限りはアタシだって返せないっての。このままアタシが居なくなったら、ぶっ倒れて頭でもぶつけちゃって死んじゃうかもねェ~~~?」

 

一転。少女はあくどい顔でそう言い放った。たしかに、この少女が語っていることが本当で優希が眠ってしまっているとして、彼女が今この身体を動かすことを放棄すればずっと眠り続けることになるだろう。

流石に2、3日眠り続けるのは身体が弱っている今、避けたいことだ。

10月とは明らかに健康状態が違うために昏睡状態から回復できるかも怪しい。だが、あまり協力的ではなさそうに見える彼女がこうして優希の身体を利用しているというのも問題ではあるので港や奏子からすれば今のところ悪印象に近いものしかなかった。

好きなだけ暴れて壊したいものを壊す、というのは無差別なのか。それとも何かちゃんとした相手がいるのか。それすらもわからない。

 

「…アタシが居なくてもあの焼身自殺志願者が使うからほんとはぶつけなんてしないんでしょうけど…まだまだ暴れ足りないんだからいやでも返さないっての…!」

「焼身自殺志願者…?」

 

ぼそぼそ、と呟いた少女の言葉を湊は聞き逃さなかった。焼身自殺志願者とはなんなのか。マイナスイメージしかないその言葉の意味に興味が湧くも、どうせその口ぶりからして優希本人ではなくラビリスと似たような優希の中に巣食う何かなんだろうと察してそれ以上は口を開くことはなかった。どっちも同じく問題の気配がしたからだ。が、

 

「嘘。サイアク。アンタいまの聞こえてたの? 別に困る事じゃないけどなんだか癪よね…」

 

嫌そうな顔になった少女が湊を睨み付けるも、その視線に敵意は一切含まれていない。

めんどくさ、という感情は多分に含まれていたが。

そんな微妙な空気のふたりの雰囲気を変えようとしたのか、少女に“本体だ”と言われたラビリスが割り込んで履いているズボンを指さした。

 

「ええと…色々気になってんけど…まず、その服…ナギサさんのやろ…? なんで男の人のんを着とるん…?」

「ハァア~~~~~~~~~~~?」

 

そんな質問をするなんて心底ありえない、という顔になった少女はそのままラビリスのスカートをつまみ、ひらひらと振る。

 

「アンタみたいにこんなヒラッヒラしたスカート履けるわけ無いでしょうがッ! 暴れるのに邪魔になるだけじゃないの!」

 

言葉の途中から勢いを上げ、ひとしきりビラビラとスカートをはためかせた少女は満足したのか勢いよくスカートから手を離した。

そんな突拍子もない行動をする少女にラビリスはたじろぎながらも再び口を開く。

 

「じゃ、じゃあ…あの、その身体はナギサさんのやし、それにウチの姿でもあるねんからそんな破廉恥な格好やめてもらえへん…? せめてブラウスのボタンしめるとかできへんかな?」

「嫌よ。ここ閉めたら胸が締まって窮屈なの。分かる? つーか、ちょっと前まですっぽんぽんだったヤツがなにを言ってんだよ! この真面目ちゃんがさあ!」

「す、すっぽんぽん!?」

 

ラビリスはあんまりにもあんまりな少女の言葉に愕然とした。たしかに、ラビリスは昨日まで服を着ずに素体で過ごしていた。だが他の姉妹機だってそうであったしそれがおかしいデザインという訳でもなく、当たり前だがロボットに“裸”という定義はないと思っていたからだ。

だというのに己のシャドウを名乗る少女は何のためらいもなくすっぽんぽん──裸だっただろうと告げたのだ。

 

「すっぽんぽんって…ひどい…」

 

顔を赤らめた天田を少女は目ざとくギロリと睨みつけ、噛みつくように口汚く罵る。

 

「酷くねーよバーカ! なに赤くなってんだマセガキ! ガキはママのおっぱいでもしゃぶってな! あ、そうだった。アンタにはもう母親いないんだっけぇ~…………」

 

そこまで言って突然沈黙した少女はわずかに考えるそぶりを見せ、そして。

 

「……その、今のは悪かったわね…」

 

天田に対し謝った。

そっぽを向きながらだが謝罪したというその事実に天田が目をぱちくりと丸くしている間に恥ずかしいのを隠すためなのか、ふん! と少女はわざとらしく咳払いした。

全体的に相手を舐めているような言動をする少女からしても天田の境遇を揶揄ったり馬鹿にしたりなどというのは流石に駄目だと気がついたらしい。そういうところがラビリスらしい生真面目さを僅かに感じられ、奏子と風花、そして美鶴とラビリス自身が生暖かい目になる。

 

「うっさいわね! アタシだって“そういうこと”は一応わきまえてんのよ! それに……」

 

誰も何も言っていない。だが、少女はその周りの生暖かい視線自体をウザがったのだ。そっぽを向いたまま、少女は言葉を続ける。

 

「アンタの母親のこととか、宿主サマの記憶で見たから知ってんのよ。ほんと、からかったりして悪かったわね。愛とか絆とか、甘っちょろいものなんてくだらないって思うけど……母親の愛は別よ。それだけは言ってあげるわ。このアタシでも認めざるを得ないもの」

 

母親についてなにか思うところがあるのか少女はもごもごと言い訳を始めた。

その顔は何故か少しだけ柔らかい気がし、どこにでも居そうな母親想いの少女然としている。

 

「でもオマエがマセガキなのは変わらねーけどな! アハハッ!」

「うわぁ…おっかねー…」

 

しおらしい態度は一瞬だけで、すぐに嘲るように表情を変えた少女は天田をからかった。

その反応は素直じゃないなあと思う者が数名。めんどくさいなと思う者が数名。ビビっている順平という感じに大きくわかれた。

 

「お前、名前は?」

 

ようやく、少女のペースに呑まれまいと明彦が問いかける。

しかし少女は明彦の問いに表情を歪めたまま不機嫌そうに答えた。

 

「ハァ? 無いわよそんなの。強いて言うならアタシはラビリス(コイツ)ラビリス(コイツ)はアタシ。その事に変わりはないもの。困るってんなら機体ナンバーだった“031”でもいいわよ。あれもアタシ達の名前だもの」

「そんな…」

 

機体ナンバーでもいいとあっけらかんに言った少女に困ったのはアイギスだ。

 

「貴女は姉さんなのかも知れません。けれど貴女ももう既に姉さんとは違う自己を得ている。ならまた別の個人と呼べるのでは無いですか?」

 

アイギスの問いに顔を顰めたのは少女ではなく風花とメティスだった。

 

「でも…アイギス、彼女からはちゃんとシャドウの反応がするの。メティスちゃんからも似たような反応はするけどメティスちゃんよりも彼女の方がよりシャドウそのものといった感じで…」

「風花さんの言う通りです。でも…どうなんでしょうね。あちらのラビ姉さんを“荒っぽい方”のラビ姉さんと仮称しますが少なくとも抑圧されたシャドウそのものには見えるんですけど…どこか混じり物のような……まさか荒っぽい方のラビ姉さんも私やウィッカーマンと似たような存在…? それにしたっていつまでも優希さんの身体を使われたままだと支障が出ますし………あ」

 

何かに気がついたメティスが声を上げる。

そしてしたり顔で“荒っぽい方”と呼んだ少女へと近寄った。

 

「あの、荒っぽい方のラビ姉さん」

「あぁん? 何よ。くだらない事言ったらブッ飛ばすわよ」

 

少女は不機嫌そうにメティスへと顔を向けた。無視をしないだけマシであると言え、さらに手が出なかったことを褒めても良いくらいである。

それくらいにこの少女──ラビリスのシャドウは喧嘩っぱやく戦闘狂なのである。

 

「…自分だけの身体、欲しくないですか?」

「! そんなこと、出来るの? …っば、べつに期待してる訳じゃねー。出来るんならさっさとやれっての! 宿主サマにいつか返さなきゃなんないとかめんどくさいことこの上ないのよ!」

 

ぱちくり。

そこで初めて少女が目を丸くしたがすぐに勝気な歪んだ笑みに戻り噛み付くようにメティスへと詰め寄った。

少女としても自分だけの身体はつくづく欲しいと思っていたのだ。

否、ラビリスという本体へ下克上し、その身体の主導権を奪おうと画策はしていたのだ。ただ、そこへ至るまでの力が圧倒的に足りなかった。

彼女は抑圧されたラビリスの負の側面ではあるものの、そこでまた別の思考を得てしまっただけであり爆発してしまえば乗っ取れたのだろうがそこまでは至らなかった。

 

そのままラビリスは無意識に姉妹機同士で殺し合いをさせ、ヒト扱いしなかった桐条への恨みや、人への情・絆を信じた己への自己嫌悪。そしてそれらを裏切った人間に対して強烈な恨みと破壊衝動を積み上げていった。

それらは本来自他との対話によったり、時間と共に昇華され消えてなくなるものだ。だがそうはならなかった。

だからこそシャドウとしての彼女が生まれ、そして【吸魔】された際に既に冷静ではなく恨み辛みが再燃していた優希と同調してしまい引き寄せられてしまった。

彼女自身も己と近しい感情を抱き、似たような存在である優希にある意味で“気を許してしまった”のだ。

そしてその逆も然り。優希自身も無意識的に彼女を許し、取り込んで同調してしまった。

そんな利害が一致しているともいえる二人が影響し合った結果生まれたペルソナ“もどき”が“ファラリス”であり、ラビリスのシャドウである彼女も己のペルソナを持つには至っていない。

 

「ええ。出来ますよ」

 

そんなことをつゆ知らず、メティスは脅してくる少女に対しあっけらかんと答えた。

 

「ただ、今すぐにというのは無理ですよ。色々と準備があるので優希さんが目を覚ましてからになりますけど」

「ふぅん。なら待っててあげるわ。騙してたらその貧相なボディをバラバラにしてやるから」

 

少女はメティスやアイギスに対し、傍から見れば妹だとは思っていないような辛辣な対応をしておりバラバラにするというのも冗談には聞こえなかった。

そんな姉のシャドウを自称する少女にアイギスはおずおずと気になっていたことを問いかけた。

 

「“荒っぽい方”の姉さん。聞きたいことがあるのですが、どうして優希さんはそんなに深く眠ってしまったのですか? 確かに眠そうでしたけど…さっきまで普通そうだったじゃないですか」

「どうしてって…知らないわよ。どうせ力を使いすぎたのを我慢してたとかじゃないの? 手加減なんてするからよ。爆発させて全部ぶち壊しちゃえば良かったのに。アタシたちはそういうものなんだから、それが正しい形のはずなのに…ホント、意味わかんない!」

 

訊いてきたアイギスにそうぶっきらぼうに返した少女は不満げだ。

だが一気に力を爆発させるより細かい制御をして手加減をする方が力を消耗しやすかった、と少女は語っているのだ。

 

(やはり負担になっていたということか……)

 

美鶴だけはあの状況を見ていたので少女の言うことがはっきりとわかった。

誰も大火傷をせず、物的被害もほぼ出なかったという異様な現象はやはり優希が炎を制御していたからであって、己を焼いていたのは意図的だったという訳だ。

そして普通に会話をしていたのも無理をしていたからであって、すぐに回復したという訳では無かったらしい。

美鶴の“処刑”は食らって数秒後には優希自身が自分の体を炎で包むことで解除してしまったので凍っていた時間はごくわずかだ。だがそれも負担になっていたとしたら。

美鶴はショックだったとはいえ己の激情に駆られ、処刑してしまったことに若干の罪悪感を抱いた。2、3日ほど目覚めないほどの深い眠りに落ちてしまうということはそれくらいに消耗してしまっているということだ。美鶴がその一端を担っていると責められても弁明はできない。

 

「は? あー…しょうがないわねぇ……おい桐条」

 

少女が顔を顰め、何かを観念したかのように唸ったかと思えば不機嫌そうに美鶴を呼んだ。

 

「……なんだ」

「アンタに宿主サマのことであんまり落ち込まれるとこっちも困るのよ。どーでもいいことでグチグチされてもイラつくだけだっての。こうしてクソ憎たらしい桐条なんかのためにアタシが対応しなきゃいけなくなるんだし、ウッザイからそういうのやめてくれる?」

 

その口から出たのは悪感情を隠そうともしない文句だった。

追い打ちをかけるようなその言葉に周りはギョッとするも構わず少女は続けた。

 

「別にあれはあのバカが勝手に加減したことだし、アンタ関係ないじゃない。それともなに? そんな顔するってことは負い目でも感じててぇ? アタシにストレス発散でもさせてくれるのかしらぁ? 殺すのはダメって言われてるから別の方法で壊してあげるけど」

「なっ…」

 

ニヤニヤとわらいながら美鶴に擦り寄りその形の良い胸を押し当てた少女は舌なめずりをした。

ラビリスと全く同じ顔であるというのにその蠱惑的な艶かしい表情に見ていただけの順平がゴクリと唾を飲んだ。が、すぐに首を傾げた。

 

「いや…待てよ? あれ三上センパイの身体でもあるんだよな…? でも中身も外見もラビっちのシャドウので……アレ?」

「? あれは三上なんだろう。敵意がない以上、何をそんなに悩むような問題がある?」

 

よく分からない、と首を傾げる順平の気持ちは同じ男性陣メンツの天田も荒垣も湊もよく分かった。この異常さをよく分かっていないのは明彦だけである。言動からして敵意が無いようには到底見えない。

少女は美鶴に対してだけは直接『クソ憎たらしい』などと暴言を吐いたのが尚更それを際立たせる。

彼女がラビリスのシャドウであるというのが本当ならば、ラビリス自身が桐条という組織によくないイメージを持っているというのは明白だった。だがラビリス自身はそんな様子は全くない。どういうことなのか、なにもわからないために空気を読まずこの少女に「桐条を恨んでいるのか?」などと問いかければどうなるかなど火を見るより明らかだ。

 

「順平、このことについては深く考えない方がいい…」

 

湊としてもあまり深く考えて気づきたくないことに気づきたくは無かった。

そもそも優希自身が許可をしているのか。“焼身自殺志願者”という優希の中にいる存在らしきものはラビリスのシャドウであるその少女が表に出ることを条件付きで許可しているようだったが優希本人が知らぬ間に、ということであれば大問題である。

彼女が表に出ているのは2、3日の間らしいがその間大人しくしているというのは有り得ないだろう。いま、こうなってしまっているように。

 

「有里の言う通りだぜ順平。やめとけ。アイツに関することで大事なのはな、“キリのいいとこで諦めること”だ」

 

遠い目をした荒垣の言葉に湊もうんうんと頷いた。

確かに、手を離すのはダメだが現象に対する理解を突き詰めようとするのは荒垣の言う通りやめた方がいいのだ。世の中には、人の思考の及ばない現象はいくらでもある。

ある程度の理解が出来たらそういうものなのだと受け入れるのも時には大事な事だと湊は知った。

そしてこれはその現象に当てはまる。

恐らく、優希が湊だけに見せた認知の応用で少女の姿を作っているのだろうが優希自身が少女になりきっているという訳ではなく、人格はラビリスのシャドウと名乗る少女そのものなのだろう。

優希という骨格に認知によって作り出された外見という肉をつけ、中身が優希では無いとなればそれはもう優希では無いのではということも想像してしまうがどういうことになっているのか湊にも分からないために口には出さなかった。

 

「待ちぃ! そんな風紀の乱れの代表的なもんみたいなん、ウチが許さんで!!!」

 

相変わらずニヤニヤと笑いながら美鶴へとまとわりつく少女は今にも服を脱がし・脱ぎかねない勢いである。

そんな凶行を阻止しようとラビリスが己のシャドウを止めるために鼻息荒く声を上げた。このままではR-18展開になりかねない。ここには小学生の天田もいるのだ。そんな風紀の乱れきったようなくんずほぐれつな展開はノーセンキュー。そんな正義感から断じてさせる訳にはいかないと少女を美鶴から引き剥がした。

しかし、少女は負けなかった。「いや負けろよ」という内なる声が聞こえてきているが無視して今度はラビリスに歪んだ笑みを向ける。

 

「ふぅん? ならアンタが相手してくれるの? それならそれでいいけど?」

「なっ、どこ触っとんの!? やめぇや!」

「隠すんじゃないわよ。アタシには分かるんだから。胸、大きくしたいんでしょ?」

「は……はあ!? んなわけあらへんもん! なんの冗談を言ってはるん!?」

「我は汝、汝は我。アタシはアンタのシャドウよ。これくらい分かって当然でしょ? それともぉ…やっぱりアタシにバラバラにされたいのかしらぁ? アハハッ!」

 

もちろん、冗談だが。

そもそも機械の身体なのでバストサイズは変え放題ということに双方気がついていないのか、不毛な会話が繰り広げられる。ついでに言えば少女は自分の胸を本体であるラビリスよりも大きくしたかったからしたと白状しているようなものだ。

 

こんなくだらないことに我は汝、汝は我という言葉を使わないで欲しいと再び内なる声が少女に抗議を求めるも「アンタも言いたかったから宿主サマにアレを言ったんだろ、なにも変わんねーんだよバーカ!」と心の声で返せば押し黙る。ちょっと泣いてる雰囲気すらする。弱い。

雑魚は引っ込んでな、と内心でさらに追い打ちをかけるように舌を出した少女は本体であるラビリスの顔をマジマジと見る。

 

(平和ボケしてるようなつっまんない顔ね…)

 

感想として抱いたのはそれだけだ。

確かに、ラビリス自身の抑圧された感情である桐条や人間という存在に対する恨み辛みや怒りはシャドウである己が全てこちらへ持ってきてしまっているとはいえ、ここまで優希以外の人間にも短時間で信頼を置き、馴れ馴れしく仲良しごっこをしていれば少女にも思うところがあるというものだ。

あの桐条にもよろしくお願いします、だなんて言うなんて有り得ない、と少女は思うのだ。

何がよろしくだ。

そんな挨拶をするなどまるで、過去の証そのものである己が忘れ去られ、否定されている。そんな気分になってしまう。

 

(妙に、むしゃくしゃすんのよね。アタシはアタシで良いっていうのに。まさか、宿主サマやあのバカでドジで泣き虫でクソ雑魚な焼身自殺志願者にでも影響されたとか? いや、ないない。無いに決まってるわ。ありえないでしょ、こんな短時間で…)

 

自身とラビリスを同一視しながらも別物として自立しようとしている少女の中でなにかが軋み、音を出す。

 

(そうよ。アタシは復讐の権化。その為に生まれてきたんだから! 仲間だとか絆だとか邪魔なものは全部要らない! アタシだけの身体を手に入れればこんな型落ち品の平和ボケしたポンコツなんか、関係なくなるはず…利用した奴も、こいつらも、全部全部ぶっ壊して自由になってやるんだから!)

 

しかし少女はそんな音を聞かぬ振りをして無かったことにした。メティスから提案されたとおり、自分は自分だけの身体を手に入れやりたいようにやるのだと。

それでいいのだと誤魔化した。

 

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