君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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不安定な心(12/15)

寮以外で他人の目を気にせず集まれる場所を奏子は知らなかったため、美鶴に放課後に話があると連絡してはいたもののどこですればいいのかと悩んでいたところ美鶴本人から提案があり、ちょうど今日は活動がなかった生徒会室を使うことになった。

 

「それで、どうしたんだ有里。きみから私を呼び出すというのは珍しいな。いつもは逆だというのに…」

 

部屋の鍵を閉め、誰も入ってこれないようにした美鶴が振り返りながらそう言った。

実際、奏子から美鶴を呼び出すなどということはこれが初めてだ。奏子はゆかりや風花、荒垣などとともに行動していることが多いが美鶴とは美鶴の方から声をかけられない限りあまり寮以外で会うことはなかった。

もちろん、不仲というわけではなく寮ではたわいもない会話をしたりお菓子のおすそ分けをしたり、ゆかりや風花とやることと変わらない対応をしている。

ただ、奏子にとっては忙しい美鶴に特に用事がないのに連絡をするということ自体気が引けることであり、これまで美鶴本人を呼び出してまで訊くようなことがなかっただけという話だった。

 

「ちょっと聞きたいこと、というより確かめたいことがあって」

 

困ったような笑みを浮かべながら奏子は返事をする。その答えに美鶴が首を傾げた。

 

「確かめたいこと?」

「はい。これは私の自己満足、ですけど」

 

奏子のその表情に美鶴は優希と似たような笑い方をする、とそこでも無意識に優希との共通点を探してしまいそうになりその思考を振り払う。

 

「…この前、寮が襲撃されたとき。あの人たちの狙いって正確に言えば私と湊で、お兄ちゃんを脅すために私たちを連れて行こうとしたんじゃないんですか? 桐条の…その処分されたって人はお兄ちゃんの触れられたくないところに──例えば私たちの事故のこととか、ストレガの人たちのことに触れてしまったんじゃないんですか? だから、お兄ちゃんは…」

「……私からはなにも言えない」

 

奏子の正解に近い追及に、美鶴はそれでも首を横に振った。

だが、その答えは奏子にとっても予測済みだ。

 

「ここにお兄ちゃんが居なくても? 荒っぽい方のラビリスちゃんはもう学校を出てますよ。ここに来る前確認しました」

 

それが狙いで人目のない場所に行きたいと言い出したのか、と美鶴は納得する。確かに、美鶴がここまで意固地になっているのは優希の耳に入れたくないからであり、その心配がないなら意固地になる必要もないように思えた。

そして目の前にいるのは何の関係もない言いふらすような人間ではなく、肉親であり家族である奏子だ。

不用意に優希自身に直接それを告げる、といったことはないだろう。

真剣な目をしているいまの奏子相手にごまかしは効かない。この様子では黙ることも許しては貰えないだろう。諦め、口を開く。

 

「……今回の事件の首謀者──高寺の狙いは彼の持つ倉橋商事の株式、だけではない。あれもグループのために欲しがっていたようだが、本当の狙いは彼の口封じだった」

 

大きく奏子の目が見開かれる。

 

「口封じ? お兄ちゃんを殺すってこと!?」

「いや、殺すのは最悪の場合だったらしい。高寺としては、過去のことを何も語らず、何も求めずいてほしかったようだ。…いや、“何も知らない三上優希でいてほしかった”と。有里渚に戻ってくれるな、とも」

「……なにそれ…身勝手すぎる…」

 

優希が何を言ったのか、奏子は知らない。だが、高寺はかつての実験体だった優希を──否、“実験体のナギサ”を疎んじていたようだ。

どうして、などと奏子は言えなかった。高寺という人間は桐条グループの中でもかなり上の立場にいたらしいと聞く。ならば、負の面である実験の生き残りは目の上のたんこぶか、それ以上の存在だろう。

 

「ああ。そんな身勝手な理由は許されるはずがない。彼は…父にかつての実験の被害者たちの遺体を弔い、慰霊碑を立ててくれと、至極真っ当なことしか要求してこなかった。だというのに…!」

 

奏子が訊くまでもなく、美鶴が義憤に駆られた様子で憤る。

その言葉を聞いて奏子は高寺が兄の地雷を踏んだことを確信した。優希自身が直接武治に頼みごとをするなどというのはよっぽどのことだ。実験の被害者というのも恐らくはほかの“ストレガの子供たち”だろう。だというのにそれを封じようとした。

 

(なんていうか、桐条って美鶴先輩や武治さんがまともなだけで他はもろもろヤバいんじゃ…手段選ばずって感じがする…)

 

元から桐条グループそのものを好きでもなかった奏子だったが、余計にそう思えてしまうくらいには幾月や高寺といった人間を輩出してきたグループ自体を擁護できなくなってきてしまった。

手段を択ばず利益を優先することが大人になるということなのか。被害者を泣き寝入りさせることが大人のやりかたなのか。

そうではない、と奏子は思う。朝倉や尚也、麻希たちを見ていて思うのだ。

アザミも当たり前だがカダスで見たシャドウとは違ってピリピリとした雰囲気や敵意も何もなく、料亭で遺産相続の話になった際、奏子や湊に優しかった。

優しいおばさん、といった対応だったのだ。そして優希や奏子、湊に不利益になりそうな部分は矢面に立って突っぱねていた。

だからこそ、奏子は彼らのように強く優しくありたいと思うようになった。

 

そして大人ではないが荒垣も被害者とも呼べる天田を泣き寝入りさせようなどとは思わず、向き合おうとしていた。途中までは天田の復讐心を知り、自らが死ぬことによって償おうとまでしていたらしい。

そこは褒められたものではないが決して他者をないがしろにはしていない。口封じも泣き寝入りにさせることもしていない。

 

(やっぱり、間違ってる)

 

奏子は眉を寄せ、再びそう思った。

だが件の高寺という男は既に優希の要望通りに処分が下されているらしく、奏子や湊、そして養父母がその男を直接見ることは叶わないだろう。

知ることができない相手。だが、やったことは聞いただけの奏子にも許せることではないために優希が伏せようとしたことも理解できた。

これは、聞かせたくないだろうし話せば殺意を滾らせても仕方ないと思う。奏子がそう思ってしまうほどには予測していた程度を飛び越えやりすぎていたらしい。

 

「…ありがとうございます先輩。私の方からはもうお兄ちゃんにこのことは話さないつもりです」

「ああ…」

 

けじめのつもりでそう告げる。

この話は終わりだ。優希本人が語りたがらないのなら、終わらせなければならない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「兄さ…望月くん。今日は優希の弟とか妹や女の子と一緒じゃないんだ」

 

悶々と悩みながら校内の階段を階段を降りていた朔間はばったり綾時と出くわし思わずそう言ってしまう。綾時は望月姓であり、朔間は朔間だ。兄弟ではないし年齢的にも朔間が優希と同じ高校三年生として『設定』を作り上げてしまったが為に朔間の方が兄になってしまうので兄と呼ぶのも間違っている。

しまった、と思う間もなく綾時が朔間に気がつきにこやかにほほ笑む。

 

「きみは…朔間先輩って呼んだ方が良いかな?」

「……朔間でいいよ」

「じゃあ僕も綾時でいいよ」

 

微妙な雰囲気だ。

綾時としては触れにくく、朔間からすれば話しにくい。

しかしなぜか共に自然と帰路を歩く。

 

綾時には全く覚えのない、デスの一部のようなものである朔間は綾時の知らない綾時を知っている。

そして朔間はモルフェとして綾時のことをループするごとにずっと見てきていた。

そしてその間に優希がループする原因となった湊と奏子、ファルロスに対し、憎悪に近い敵意を募らせていったのだ。

それもそうだ。惨たらしく宿主が死ぬ様を見せつけられ、その原因となった三人に何も思わないはずがない。

朔間(モルフェ)が優希に頼まれていたにもかかわらず、タルタロスの探索に関わらなかったのはそうやって自分の存在を棚上げし、勝手にそう思っていたのを恥じて合わせる顔がなかったからだ。

そもそも、朔間は特別課外活動部を仲間だとは思っていない。どちらかと言えばストレガの方が朔間の心理的に付き合いやすいのだ。優希には悪いが力を貸すならストレガの方が良い、とすら思うほどに。

だからこそ特別課外活動部の一員のように仲の良い綾時に対し、苦手意識を持ってしまっていた。

嫌いなわけではない。だが、好きでもない、といったところか。

綾時にも朔間と共にいた記憶などないだろうし、ファルロスとしての人格を持ったのは湊や奏子に封印されて以降だろうと知っている朔間は生まれた時系列的に兄と呼んでもおかしくない相手ではあるものの綾時に特に思い入れもないために共感や同情すらできない。

しゃべることが苦手なために話題もない。

 

ただ、聞きたいことが一つだけあった。

 

「きみはさ…辛くならないの? 戦う力を失って…何の役にも立てなくなることが」

「? なにがだい?」

 

朔間の問いに綾時が首を傾げる。

言われていることがよくわからなかったのだ。

 

「だから、綾時くんは“デス”としての力を失った。そのせいで、戦えないただの人間になったんだよ? 怖くないの? 無力なのがつらくないの? …こんなこと、奪った僕がいうのもヘンだけど」

 

改めて綾時に説明しなおした朔間は目を逸らした。

その顔に浮かぶのは罪悪感か、それとも責任逃れか。綾時にはわからない。ただ、朔間が無力になることをひどく恐れているようにも思えた。

 

「べつに、って言ったらおかしいかもしれないね。でも僕は戦えないからって湊や奏子ちゃんとの縁や絆がなくなったわけでもないし、僕の力の断片であるタナトスはそこにいる。それに彼らがただの僕を受け入れてくれてるから気にしてないよ」

 

綾時は飄々と答える。これはまぎれもない本心だ。

湊も奏子も綾時を否定も拒絶もしていない。戦う力がなくともただの人間で友達である綾時として受け入れている。

何も負い目は無いし無力感もない。

彼らはきっと、綾時を戦力として頼らなくても十分やっていける。そう信じているからだ。

 

「そう、なんだ…強いんだね、きみは」

 

目を伏せた朔間はぽつりとそう返事を返す。

朔間から聞いたことであるが、どんな答えを貰えば自分が納得できるかなど、最初からわからなかった。

どんな反応を返すべきかも、このことを聞いてどうしたいかも何も無かったのだ。

ただ、聞いてみたい。そう思っただけだった。

 

「きみは、どうなんだい。もし戦う力を無くしたとして、その時どう思う?」

 

綾時の言葉に朔間は思い出す。

記憶を封印することに注力し、優希に対して無力だったかつての己を。

 

「最悪の気分だよ。なんにも出来ないんだ。大事な人がただ危険に突っ込んで死ぬのを見てるだけなんだから」

 

力を失いたくない、と朔間は思う。けれど今、優希の周りにはかつてとは違い、分かり合おうとして共に戦ってくれる人間がいる。仲間がいる。

ならば、自分の存在はいらないのでは無いのか。優希自身もあの時特別課外活動部を助けてあげて欲しいという要望を言っただけでそれきりだ。朔間がそれをしていなくとも責めていない。何も言わない。

関係はただのクラスメイトに戻ってしまっている。朔間が優希の中に刷り込んだ『設定』として、記憶の整合性や周りとの乖離を少なくするためにあまり接点のない関係を選んだとはいえ、ここまで何も無いとは思ってもみなかったのだ。

電話番号も渡した。出来ることはした。修学旅行の班だって一緒だった。だと言うのに、優希とはたまに会話する程度だ。

だからこそ、

 

「……でも、優希はきっと無力になった僕を責めはしないと思う。けどそれだけなんだ」

 

そう思った。

責めはしないし受け入れてはくれるのだろう。だが、優希はそこまでだ。

距離を詰めてはくれないし、どうせ自分は卒業できずに死ぬという思いを持っているからなのかクラスメイトと交流を深めようとはしない。それは朔間に対しても同じなのだろう。

いつしか優希は最初に得ていたクラス内の友達でさえも忘れてしまった。作るのをやめてしまった。拒絶している訳ではなく、そこから先の交流を上手くかわしているといったところか。

酷く浅い段階で関係を持つことをやめてしまったのだ。

もちろん、誘われれば遊びに行くが友達としてという訳ではなくクラスメイトで数合わせ、といった感じだ。

周りを軽んじている訳ではないのは分かる。それでも朔間は優希に特に関係を深めるほどでもないと思われているような態度が寂しくもあったのだ。

 

自分は優希にとっては特別ではなかったのか。要らないと思われていないだろうか。

それがいま、朔間(モルフェ)の抱えている悩みでもあった。

しかしこんなことは本人に訊くしか解決方法が無いことくらいわかっていた。だが朔間は訊く勇気がなかった。

 

「ごめん、僕行くとこ思い出したから。じゃあね」

「えっ? ちょ、ちょっと待って!」

 

行かなければ。役に立つにはどうすればいいのか。何がいいのか。

行くべき場所はわかっている。きっと、そこに目的の人物が居るはずなのだと繋がりから辿ることが出来る。

朔間は綾時の静止も聞かずに駆け出していった。

 

走っているうちに、どうして優希が大事なのかと考える。どうして、役に立ちたかったのか。

それは自分たちを内包してしまったせいで受けなくてもいい苦しみを受けたからだ。

 

(それだけ? 僕は、それだけのことで優希が大事なの?)

 

違うと否定する。

優希(ナギサ)はモルフェのことを否定しなかった。受け入れて、実験の合間に様々な話をしていた。

それは辛いことからの逃避だったのだろう。けれどただのシャドウでしかなかったモルフェにとってはその差し出された手が何者でもない自分に存在してもいいという許しを与えてくれたような気がしたからだ。

知らなかったとはいえデスの一部(ヒュプノス)ではなく、モルフェとして扱ってくれていたから。

 

(だから、僕は守りたいって思ったんだ。義理立てでもなんでもいい。僕に僕という形をくれたから、守らなきゃならなかったんだ)

 

けれどこれからは? と訊かれれば朔間は答えられないだろう。

もう優希は誰かに守られなくても戦っていける。

 

「……」

 

足取りが重くなる。けれど、行かなければ事態は何も動かない。力を持っているのに傍観者でいるわけにもいかない。

目の前の雑居ビルを睨み付け、階段を上る。そしてそのまま扉をそっと開けると真っすぐ目当ての部屋へと向かう。

そこにはソファーの上でけだるげに何かを考えこんでいるタカヤの姿があった。

 

「何の用です」

 

タカヤは朔間の姿をちらりと見ると特に気にした様子もなく自然とそう問い詰める。

問われた朔間は一瞬ここに来たことを後悔しかけるも息を吸い、そして口を開く。

 

「タカヤ、きみは力が欲しくない?」

 

言われた言葉にタカヤは眉を顰めた。なにがあって力が欲しいかなどと唐突に聞いてくるのか。何の用でここに来たのかと問うたのに逆に問われてしまうなどとは思ってもみなかったのだ。

 

「…どういうことです?」

「きみのペルソナに僕の力を受け渡せば、きみのペルソナは薬を飲まなくても安定するだろうしもっと強くなれる。その代わり、僕は影時間に関するすべての記憶が消えてただの人間になるけど…でもその方が良いと思ったから…だから」

 

朔間から語られたのはタカヤにとって素直に頷けるようなものではなかった。

タカヤのためになるとはいえ、そんなことを優希が許可するはずがない。

 

「貴方はナギサのペルソナだったはず。ナギサの許しがあってそのようなことを言っているのですか?」

「それは…」

 

訊けば言い淀む朔間にタカヤは何も相談せずにここまで来てこのようなことを言い出したのだな、と察した。

「馬鹿なことを」と言おうとし、やめて別の言葉で取り繕う。

 

「違うでしょう。これは貴方の自己判断では? ならばやめておきなさい。自分がいない間に友人である貴方に何かあれば激怒するに違いない」

 

そう告げてみるが朔間の顔は明るくならない。

 

「友…本当に、優希はそう思ってるのかな…」

 

ぽつりとつぶやかれた言葉にタカヤは若干の面倒くささを感じながらも対応することに決めた。

こじらせて大変なことに発展し、優希を怒らせてはたまったものではないと思っていたからだ。タカヤに直接怒りを向けることはないだろうが、ずっと燻らせ爆発させる方が恐ろしい。なるべくタカヤが優希と敵対したくないというのはその理由も含んでいた。

タカヤは優希の爆発力を知っている。だからこそ、そうさせないために敵対的な態度をとらないようにもしていたし、最悪を防ぐために弟妹を傷つけることもあり得ると事前に話したりしていた。

関わりあいがなく、敵のままでいるのならこの程度の気遣いもしなかったのだろうが一度気づいて誘ってしまったのはタカヤなので仕方ないとあきらめていた。

 

「…はあ、…思っていますとも。ナギサは自分の懐に入れた存在に手出しされることをひどく嫌います。そして、傷つけた相手に並々ならぬ敵意と憎悪を向ける。彼は意外と激情家なのですよ」

「…友達を傷つけられたときの優希が怖いのは知ってる。まだ完全じゃなかったのに無意識にニャルラトホテプや僕の力を引き出して勝手に使っちゃうくらいにはあの時怒ってたし」

 

忠告したタカヤにあっさりと頷いた朔間の『あの時』という言葉に今度はタカヤはさらに眉を顰める。

 

「あの時?」

「なんでもない」

 

オウム返しをするように聞き返せば首を横に振られはぐらかされる。

朔間にとって言いたくない話題だったのだろう。その表情には若干怯えが含まれていた。

タカヤはそれならそれで、と追及するのをやめ、朔間と優希の問題について挙げる。

 

「ナギサは強制するもされるも好きではありませんからね。自主性を重んじるといいますか。ナギサが良かれと思って貴方にした対応が裏目に出ている。誰かに何かを決めてもらわなければ不安な貴方とはすこぶる相性が悪いのでしょう」

 

タカヤからすれば心地の良い距離感である、優希の他者に必要以上に関わろうとしない態度は他者(だれか)を誤解させかねないと常々思っていたがまさか朔間(優希のヒュプノス)がそうなるなどとは思ってもみなかったのだ。

そもそも、ペルソナに人格があるなどとも思わなければこうして人間のように動くというのもタカヤからすれば驚くばかりだ。とはいえそんな存在を宿主だった優希に何も確認も取らずなかったことにさせてしまってまで強くなりたいなどとは思わない。

見えている地雷に触れて爆発させるほどタカヤは優希を侮ってはいない。

 

「不安…? 僕が…?」

 

タカヤに不安だ、と言われた朔間は気が付いていなかったのかぽかんとしている。

 

「気づいていなかったのですか? 貴方は自主性が殆ど無い。いえ、あるにはあるのでしょうが誰かに決めてもらわなければ不安で仕方がないといいますか。自分が正しいかどうかすらわからないのでしょう?」

「で、でも…」

「それこそ、“人間らしくていい”のでは? ナギサならきっとそう言うでしょう。気になるなら今からでも訊きに行けばいい」

 

早く出ていけ、と言いたげなタカヤの視線に根負けし、朔間は優希が今どうなっているのかを言うことなくとぼとぼと雑居ビルを出ていくのだった。

頭の中を占めるのはタカヤにすら優希と相談しよく考えてから出直せ、と言われたことだ。

 

「いつもそうだ…僕が考えてやること全部優希にとって悪い方向に出てる…」

 

はあ、とため息を吐いて朔間は帰路を歩き始める。

自分が勝手に動けば悪い方向へと物事が動いてしまう。

これから自分が何をすべきなのか。何をしたいのか。何もわからなくなってきた。

無理にあのラビリスという少女に突撃するほど朔間(モルフェ)には無鉄砲さもなく、ただただ、悶々とした日々を過ごすしかないのかとあきらめの気持ちを抱えながら。

 

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