君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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本心はどこに(12/17)

「それって、どういう──」

 

“もう遅い”。その違和感にアイギスや他のメンツが気づいた瞬間に乾いた銃声が響き、弾かれるように優希の身体が倒れる。

 

「え…どう、して…」

 

その音が発されたのはアイギスの手からだ。

下げられていたはずの銃口(それ)は腕ごといつの間にか上げられており、視線はどしゃりと力なく倒れた優希を見つめていた。

撃たれた胸からはじわじわと血が広がり、床を汚していく。

 

突然の事に誰もが動けなくなり、戦っていたラビリスとそのシャドウである少女も目を見開いて戦闘を止めていた。

 

「わ、わたし…わたしが……優希さんを……あ、ああ……そんな…」

 

アイギスは絶望した顔で地面へとへたり込む。

あの時は寸での所で止まったのに、今度は止まらなかった。止められなかった。意識すらしていなかった。なのに、どうして優希がそこで血を流しながら倒れているのかがアイギスには分からなかった。

終わりだ。誰もがそう思った。こんなに呆気なく。しかも仲間の手で終わりが迎えられてしまった。

 

「ごめんなさい…ごめんなさい…!」

 

優希を無意識に殺してしまったという罪の意識に押し潰されそうになったアイギスの目に、不意に燃える炎が目につく。

死体となった優希が燃えている。

否、炎となって消えていっている。

 

「──と、まあこんな感じで。どう、アイギス。対話でってオーダーだったから多少荒療治だったけどデスの討伐は完了したから、その命令に関するひっかかりが取れたんじゃないかな」

 

アイギスの頭上から、優希の声が聞こえ咄嗟にアイギスはその顔を上げた。

そこには五体満足でピンピンしている優希が平気な顔をして立っている。

 

「え…あ…ゆ、優希さん…? ほ、本物、ですか?」

「うん。こっちの俺が本物。さっきのアイギスが近づいたほうが幻覚で、偽物。それに前も言ったけどあれがもし本物の俺だったとしてもここでは死ねないから結果に変わりはないはずだ」

「いつから…」

 

いけしゃあしゃあと答えた優希は全くもって怪我をしているというふうには見えなかった。銃創も出血も何もない。銃で撃たれたという事実自体が消え去ったようにも見えるが優希の説明によればあれは幻覚だったらしい。

あんな生々しいものが幻覚だというのなら、いったいいつから。そのアイギスの疑問は誰もが思っていたことだった。

 

「いつって…アイギスが足を踏み出した瞬間かな。必要以上に近づきすぎるとああなるって分かってたから。俺の偽物を見せてただけ」

 

2人きり、かつ近づき過ぎた状態で隙を見せれば殺されるとわかっていたとでも言うかのような発言をしていることから優希はアイギスを信用していなかったようだった。

それでも優希はアイギスの頬に触れ、なにかを探るように目を瞑った。

 

「…アイギスの意志を無視してまでデスを倒そうとしてるのは凄いと思うよ」

 

ぱきん、と頭の中で小さく音がするもアイギスに違和感はない。むしろ何か引っかかっていたもやのようなものが取れた気すらした。

 

「うん、とれた。ご馳走様。もういいから」

「ありがとう、ございます。…いえ、どういうことなんですか!?」

 

混乱から抜け出せていないアイギスが身を引こうとした優希に詰め寄る。

 

「どうもこうも…アイギスについてた小型の回路を壊しただけだよ。きみのは──なんというか精神に作用して死の宣告者(デス)に対する攻撃性をより積極的に、より増幅させるものっぽかったけど。だからわかりにくかったんだ」

「回路が…?」

 

条件を何度か試し、優希はアイギスとだけ至近距離でいるという事がその装置の動作条件だと推測した。

だから戦って己を1度殺してもらうなりなんなりして命令を完了したと思わせる。そしてその隙に装置を破壊する予定だったのだ。だが、アイギスが対話を求め、自分からのこのこと近づいてきたのでリスクの多いその作戦はやめ、幻覚によって誤認させる方法に変えただけ。

 

抱えている虚無感は未だにある。

しかしそんなものは吐き出した時点でどうでも良くはないが大した問題ではなくなっている。優希はそう思うようにしている。

その考えこそが湊や奏子、他の人間に指摘された事だと言うのに優希は何も分かっていない。

アイギスに対して未だ必要以上の関係を持ちたくない、となぜか幼少の頃の記憶を取り戻してから優希は思ってしまうようになってしまった。

嫌い、というわけではない。けれどメティスのように腐れ縁のような気楽さはなく、ラビリスのように同じような境遇だった情が湧いているというわけでもない。

アイギスはアイギスで罪を抱え、湊と奏子のことに苦しんでいる境遇は辛いものであろうということを優希はわかっているのだが、なぜかメティスやラビリスのふたりのように距離を詰めても良い、とは思えなくなったのだ。

ただ、『仲間』だからそうする。『湊と奏子が大切に思っているから気遣う』程度なのだ。

むしろアイギスは何も悪くないというのに八つ当たりじみた刺々しい言動になってしまう自分が嫌だった。

なにか、引っかかっている。けれどやめられない。自制の効かない己が最も忌々しかった。

 

「…そうだよ。俺に近づいてもモヤモヤしてるものを感じなくなったはずだ」

 

堅い声と苦々しい顔つきをする優希は静かに言葉を吐き出した。

精一杯、それでもマシに聞こえるように平静を取り繕おうとしたがその声はいつもより低い。

 

「本当ですね。でも、どうして…」

 

明らかに優希に対する感情のうち、激しい敵意が無くなったことに戸惑うアイギスはどうして回路が取り付けられているのがわかったのかが謎だった。そういうことに察しが良さそうなメティスですらもアイギスの機械として与えられた命令のためにそうなってると思っていたくらいなのだ。

 

「ああ、ラビリスにそういうものがついてたから。幾月が触ってたとはいえずっと寮の地下で放置されてたメティスはともかく桐条の人の手によく触れてるアイギスにもそういうものがついててもおかしくないかなって」

「姉さんと似たようなものが…」

 

ラビリスという前例を見たからこそ、アイギスもその可能性があるのではないかと1人でずっと考えていた優希は思ったらしい。

そして実際に、ラビリスのように自我の殆どを奪い無理やり戦わせるほど強力なものでは無いがアイギスの精神と咄嗟の時の行動に働きかけるような回路が取り付けられていたという。

 

「たぶん、取り付けた人は善意だったんじゃないかな。まさか死の宣告者(デス)がヒトになるなんて思わなかったろうし。1度負けた相手に対面した時にきみが怖気付かないようにってことだと思う。あくまで、装置がとりつけられてること自体を好意的に予測するなら、だけど」

 

そう言って、優希は苦虫を噛み潰したような顔のままアイギスから距離を取り口を噤む。

そのまま何か息苦しいものから逃れたかのように小さく息を吐き、目を閉じて落ち着くように静かにしている。

これでは何も変わっていない。アイギスが優希を遠ざけるか、優希がアイギスを遠ざけるかの違いでしかない。

取り付けられた機械を取り、アイギスの抵抗感をなくしたとはいえ、今度は優希自身が自らの意志でアイギスを避けていては意味がないのだ。

しかし操られているわけでもない心の距離は何か物理的なもので解決できるわけもなく。今すぐに解決できるものでもなかった。

 

「それでも…姉さんや皆さんの心に傷をつけるようなあんなやり方しなくたって良かったのに!」

 

静寂を破るように叫んだメティスは優希が見せた先程の光景について怒っている様子だった。メティスの中で、優先順位が一番であるアイギスをああして扱えばそう怒りもするだろう。アイギスを傷つけた敵と認定して飛び掛からないだけメティスは成長しているともいえる。

確かに、あのようなショッキングなものをみせ、この場にいるもの全員の心を折りかねないやり方でアイギスの問題を解決する必要などない。

メティスの言葉を目を開き黙って聞いていた優希だが、何が悪いのか分かっていないような表情を浮かべている。

 

「ああする必要はあるよ。アイギスには俺を見殺しにしたってことを自覚してもらわないといけない。だから、もう一度殺させたんだよ」

「見殺し…? いつ、姉さんがそんなことをしたっていうんです!? まさか、『これまで』の繰り返しで起こったことだとでも言いませんよね!?」

 

アイギス本人が知覚していない事柄を挙げ、それを罪として責め立てようとしているのなら言語道断だ、とメティスは問い詰めるも、優希は悪びれる様子がない。

 

「違う。これは俺の八つ当たりだから、アイギスに直接的な罪はない。でも後悔はしていないよ。身勝手だけど忘れないで、背負っていて欲しいんだ」

 

否定し、優希自身もアイギスには罪はない、と告げているにも関わらず相反するように“八つ当たりだ”と言い出す優希はまったくもって普段通りではない。

湊と奏子ですら、こんな様子の優希は見たことがない。

桐条本邸から帰ってきて以来、兄が極端に悪い方向に変わってしまったかのように思えて仕方がない。目的の為ならば手段を選ばない強情さを得てしまったように見えるのだ。

 

「だからといってそんなこと、許されるわけが──」

「許さなくていい。ずっと、許さなくていいから」

 

即答だった。

誰もが今の優希の内心を理解できない。

 

「天田くんも、俺を許さないで。ずっと、恨んでいてほしい」

「なにを…三上さん、何を言ってるんですか…!」

 

流石の天田も優希の言葉が理解できないようで狼狽えている。

確かに、優希は荒垣と共にペルソナを暴走させたせいで天田の母親の死因となった。そしてそれを知った時、天田は恨んだ。だが今は優希に対しても荒垣に対してもそうではない。

だと言うのに恨まれることを望んでいるようなことをいまさら明確に口に出した優希の言葉に違和感を感じて混乱する。

その言葉の意図がなにもわからない。

 

「恨むも恨まないも自由だ。けど、俺としては恨んでいて欲しいってだけなんだ」

 

天田の問いに優希はそれだけ答えた。

ただ、優希の無事が分かって再び戦いだしたラビリスたちをじっと見つめている。

その光景を目に焼きつけるように。

 

「今のが、三上の本心だと思うか?」

 

ぼそりと明彦が天田に問う。

それに対し天田は困る。本心だとは思えない。が、まったく本心ではないと言いきれない。

黙って首を横にちいさく振った。

 

「…わかりません」

「俺もだ。いまのアイツが何を考えてるのかさっぱり分からない」

 

ぎこちなく頼ってきたかと思えばすぐに離れていってしまう優希に明彦もお手上げだった。

近くで呆然としている荒垣や弟妹である双子も同じだろう。

とはいえ頼ろうとしてきた矢先に襲撃され、しかもその犯人がシャドウではなく人間となれば人間不信に陥っても仕方ないともいえる。だが、その反応がかたくなすぎるのだ。

最低限弟妹である湊と奏子、比較的仲のいい美鶴や荒垣といった『いつもの』といってもいい間柄でさえ今の優希はなにも明かそうとしていないように見えた。

 

(…どうだかな)

 

明彦は眉を顰める。

明かしていないのではなく、逆なのだと。

優希は隠しているのではなく()()()()()()()()風に見えた。

今までは隠していたことを隠さないようにして、なりふり構わず前面に出したのがこの状況を作り出しているのではないかと思ったのだ。

 

「…よし」

 

パン、とグローブをはめたままの手を打ち付け、そして構える。

 

「三上! 俺と戦え!」

「ええ!?」

「真田先輩正気っスか!?」

 

突然優希へと宣戦布告した明彦に、ぎょっとゆかりと順平が声を上げる。

なにがどうしてこうなったのか。あんな余裕と容赦がなさそうな優希(あに)と戦うなんてどうかしてる、とか戦闘狂には戦闘狂をぶつけよというお告げでもあったのか、ともごもごと沢山の言葉を吐き出そうとして──待ってましたと言わんばかりに獰猛な笑みを浮かべた優希を見て奏子はそれを吐くのをやめ、湊は何も言わなかった代わりに大きく溜息を吐いた。

 

「流石真田くん、分かってるね。俺もちょうど運動したいところだったん、だ!」

 

その言葉の中には「八つ当たりも兼ねて」という意味も含まれていただろう。

なにが優希を苛々させているのかは分からないが相当なものをため込んでいる様子でもある。

トントンと軽く跳びながら最後の『だ』、を言い終えるや否や、遠慮も躊躇いもなしにまるで猛獣のように優希は間髪入れず明彦へととびかかった。

強烈な蹴りが明彦の頬に直撃する──

 

「フッ!」

 

かに思えたが直線的なその行動を予測できないわけがなく。明彦はその蹴りを身体を傾けるだけで避ける。

 

「まあ、そうだよな! アハハ! これぐらい避けてもらわなくっちゃさあ!」

 

一撃を避けた明彦に対し、興奮気味に笑う優希は先ほどまでの無表情から一転、楽しそうにしている。

お返しと言わんばかりにストレートを繰り返す明彦の攻撃を全て避けながらけらけらと笑っているのだ。

 

「男って…」

 

なんであんなに戦いを楽しめるのか。とジト目で戦っている明彦と優希を見つめるゆかりだったがその声と呆れが伝わったのか湊がまた一つため息を吐いた。

 

「僕らも一緒にしないで」

 

とは言うものの、湊は自身でそれなりに戦闘狂だということは自覚している。

奏子は戦闘狂ほどではないものの喧嘩っ早いのでどうやら血は争えないらしい。

気が強いのは母だったのか。それとも父か。母だろうなと湊は思った。

母はヒステリックという訳では無いがあの倉橋黄盛の娘ということもあり、身体は弱かったが芯の強さがあった。

そして湊と奏子の知る中で父はいつも優しく、母や子供のことを常に気にかけている印象だった。

演奏家としての対外的な名は知らないがそこそこ売れていたバイオリニストだったらしく公演などで家に居ない日の方が多かったが、それでも湊が覚えている限り家族サービスはきちんとしていたしかまってもらえた思い出がたくさんあり、何もしていないというわけでもなかった。

だが、養父であるハジメのように堅くきっちりしているというわけでもない。

見た目が威圧的というわけでもなかった。ハジメとは正反対で線が細く、美少年がそのまま大人になった男といった感じだった。しかしその見た目にそぐわず身体はとんでもなく丈夫で線の細さに見合わない力持ちだったと聞く。湊と奏子が特に病気がちでもなんでもない健康体であることと音楽好きは間違いなく父親譲りだろう。それぞれ好きなジャンルは違うが。

 

そんな父が音楽をやめてしまったのは優希()が居なくなってからだった、と湊は思い出した。

しかしそれだけだ。家族が居なくなるというのは仕事をやめてしまう原因としても何らおかしくない。

それも、芸能活動ならなおさらだ。

そんなことを考えていれば明彦のストレートが優希のこめかみにクリーンヒットし、尻もちをつくのがみえた。

その目は一瞬殺気立つも、すぐに抑えられ笑みの形に変わる。

 

「ふっ、ふふっ、ふふふっ、あはは、あはははは! いたい! 真田くんのパンチ、結構痛いなあ! そっか、そっか! 痛いんだ、まだ!」

「おい、大丈夫か?」

 

肩を震わせ、腹を抱えて大きく笑いだした優希に臨戦態勢を解いた明彦が手を差し伸べる。

差し出された手に対して少し戸惑う仕草を見せた優希だったが、ややあってその手を取り立ち上がった。

 

「あー…ありがと。なんかさ、スッキリしたかも。真田くんのストレート、効いたよ」

「そうか。お前もボクシング、やってみないか? 今からでも遅くは無いぞ」

「やらないよ。ここまで動けてるのは影時間で、カダスにいるからだし。普通の時間だと今の俺は倒れる。入院生活とかしたくない」

 

心底、病院や入院生活は嫌だと言いたげに苦虫を噛み潰したような顔をした優希はそっぽを向いて掴んでいた手を離してそそくさと明彦から距離をとる。

不快感からそうした訳ではなく、なんとなしに気まずいようだ。

だがさほどその行為を気にする明彦ではなく、別のことへと疑問を抱いていた。

 

「結局、お前が仕掛けたのは最初の一撃だけだ。しかも手加減をしていただろう。どうすれば本気を出す?」

「うーん、どうやっても出さないかな。今持ってる力は完全に俺のものって訳でもないし、人に振るうのはあまり好きじゃないから」

 

どうやっても出さない、という頑なな態度と意味深な言い方に明彦は釈然としないものを感じる。

否、言葉の意味は分かっているのだ。そのままのとおりに受け取るだけでいい。だが、明彦が人を辞めれば相手をする、と言っているようにも聞こえてしまったのだ。

 

「人じゃなければいいのか?」

「悪魔になるとか言い出すのならやめてね。絶対にロクな結果にならないから。そういうのじゃなくて…なんだろう、みんなには向けたくない。こういうのは」

 

返ってきたのは否定だ。それも間髪入れずに。

優希は一旦ため息を吐き、そして大きく息を吸った。

吐き出されたのは、想像していたものよりも小さな声。

 

「……人に向けられない訳じゃない。けど、まだ俺のままでいたいって言えば良いのかな。いや、甘えだっていうのはわかってるんだ。自分の心がまだ大事で、あんな力を振るわなくてもいいっていう状況に甘えてる。さっきのだって本気だったけど…ここがカダスじゃなきゃあんなこと言えない」

 

言外にその力を人に向けて振るい、不可逆的な損傷を与えてしまうことがあれば精神的に耐えられないと言っているようなものだった。そしてそれを意図的に避けていることも。

 

「誰かを守りたいなら、もう覚悟を決めてきゃいけないのに」

 

何かを迷うように震える声でそう告げたその表情は芳しくない。

 

「三上、お前は…」

「それ以上言わないで欲しいなあ。情けなくなっちゃうじゃん。イライラしてアイギスやみんなに当たってさ、駄々を捏ねてワガママまで言って…まるで俺、小さな子供みたいだ…」

 

にへら、と先ほどまでのしみったれた表情をやめ、優希は無理に笑おうとしているのか不格好な笑顔のままに意気消沈している。

 

「そうだな」

 

明彦は否定しなかった。

先程までの優希はかたくなだった。優希らしからぬ行動に何かあるのではないかと思っていたが、純粋にイライラしていただけだったらしい。

それはそれでイライラしている時の優希がこういうものなのだと知れて意外だった。多少刺々しくなり思考がネガティヴに寄る程度で済んでいるのならマシと言わざるを得ない。

これでワガママを言い、駄々を捏ねた挙句当り散らしていると言うのは些か遠慮しすぎではないのだろうかとも明彦は思ってしまった。

 

「だが、この程度何度でも受け止めてやる。またやり合ってもいい。俺でよければいくらでも付き合ってやるさ」

「…でも、」

「その代わり! お前も俺に付き合え! ここでなら好きなだけ暴れられるんだろう? なら、毎日戦い放題という訳だな!」

「うえぇ…!? いや、そういう訳でもある…んだけどそういうことじゃないって言うか…タルタロスもちゃんと登ろう?」

 

途中で首を傾げはじめた優希は明彦がここに毎日のように入り浸るのを防ぐためなのか、タルタロスの攻略を促すも順調に進んでいるので特に妨げる要因とはなっていないことに気がついていない。いい場所を見つけたと言わんばかりにハッスルしている明彦を止めることは叶わず来る入り浸りの毎日を想像してげんなりする。

 

「……真田くんに見せるんじゃなかったかなここ…」

「諦めろ。てめぇがオレらをここに連れてきてこうしてアキを焚き付けちまったんだからよ。ああなったアイツは止まらねーぞ」

 

荒垣からの憐憫の視線と当たり前の言葉に優希は納得のいかないような顔をする。

 

「そうなんだけどさ…真田くんだけ連れてこないって訳にも絶対いかないし、でも毎日来られるのもそれはそれで……めんどくさい。せめて3日に1度とか、駄目か。特訓するって言ったの、俺の方だしなあ…」

「気持ちはわからなくもないぜ。けどな、もう一度言ってやる。諦めろ」

「ですよね…」

 

諦めろと2度も言われてしまえば観念する他ない。

自由意志を尊重するからこそ、優希は明彦のこの意気込みを止められないでいる。この意気込み自体は願ったり叶ったりのようなものではあるのだが、このようにハッスルしすぎている明彦に対ししつこい・面倒くさいという気持ちが勝ってしまいげんなりしていた。荒垣が明彦に対しそちらの方面だけに関しては諦めの気持ちを持つのもわかるというものだ。

 

(まあ、特訓とはいえみんなの相手をするのは俺じゃないしいっか)

 

すぐに思考を切り替え、自らが焚き付けたラビリスたちの戦いを見つめた。

優希は自身が手を貸した戦いのその結末がどうなるのかを責任もって見届けなければならなかったからだ。

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