12/21(月)
影時間
カダス
「ということでなかなかみんなが挑戦してくれないので俺はしょげました」
「という事でって突然すぎじゃない?」
奏子の鋭いツッコミが入るが無視。
ことはその日の朝にまで遡る。
朝、ふと起きた時にこう思ったのだ。
──あれ? 湊たちもタカヤたちも俺の訓練受けてくれてなくね? と。
もう12月も末に近いのに1度も受けてくれてない。
そのことに気がついてしまった。いや、別に強制はしてなかったからみんなにもタイミングがあるのだろうと放置していた自分も悪い。私用だってあるしタルタロスの攻略だって必要だ。が、それにしたって放置されすぎでは?と思ったからこそ特別課外活動部の全員をこうして呼び出した訳である。
「だってみんな全然訓練受けてくれないじゃん! もっとこう、やる気があるもんだと思ってたんだよぉ!」
「いや、まあ、なんつーか……その、」
うわーんと泣き真似をすれば、なにかもごもごと伊織が口ごもっている。
「皆まで言わはらんでもわかるで…ナギサくんは……色々とアレやもんね…」
「アレって何!?」
ラビリスからの追撃に思わずツッコんでしまう。
アレとは何だアレとは。
本来ならこういうものはこぞって来てくれるものでは無いのか。戦闘狂の湊でさえ、微妙に避けている現状にそんなに魅力がないか危ないのかと考えてしまう。
「というか、みんな。訓練は怖くないんだよ!? 死なないしある程度の傷は治るし、豪華賞品だってある! 何も怖くない!」
「うわ胡散臭…流石に先輩と言えどもそれは信用0なんですけど……」
「ええ、岳羽、なんでさ…?」
「謳い文句が詐欺のそれだから、ですかね」
ひどい。あまりにも酷い。
本気で泣きそうになってくる。詐欺じゃないし何も怖くない。…たぶん。
悪魔選もなるべくキモくなくて邪悪ではなく怖くないやつを選んでいる──はずだ。
キモカワは居るかもしれないけど。
「てか、みんなは逆にタルタロスで命懸けの戦いしてんじゃん…普通逆でしょ…」
そう、逆なのだ。セーフティーのついているこちらにばかり寄るならともかく、なんの保証もないタルタロス攻略に励んでいるというのはおかしくないだろうか。
「だって優希、死んでも最終的に勝てばOKみたいに思ってない?」
「うん」
何がおかしいのか。負けてもここでは再挑戦出来る。
勝つまでやればいいだけの話では無いのか。というか現実は1度しくじれば終わりなのだから、かなり優しい方では無いのだろうか。
「そこだよ、そこ。その考え方」
「ああ、そうだな。優希、そこがだめなんだ」
「なんでさ!?」
湊と美鶴さんにそう言われ、本日二回目の「なんでさ」である。
今の考えの何がおかしかったのか。何もおかしいところはなかった…はずだ。いや、まさか。
「再挑戦出来ないようにすればいいのか!?」
「どうしてそうなるの!?」
奏子が戸惑ったのでどうやら違うらしい。
全くもって答えがわからない。なにか肝心なところですれ違っている気がする。
が、
「えーもうなんか面倒臭いし初級に挑戦しろ! してください!」
土下座する。こうでもしないと埒が明かない。
「うわあ、本気の土下座だ…」
天田くんにドン引きしたような目で見られるが構わない。こうでもしないと色々と理由をつけて避けられそうな気がしたからだ。
下手したらこのまま決戦に向かいかねない。まあそれでもいいと思うが悪魔との戦闘に慣れていないこのメンツでもし悪魔を仕向けられた場合、どうなるか分からないというのが大きい。
そのまま倒せるのか、それとも。
決戦前に苦戦するかしないかでその後も変わってくる。
全滅はなるべく避けたいのだ。戦闘不能ならまだ良い。が、誰かが死ぬのはかなり困る。もう一度やり直しだ。
その機会が来ないかもしれないが。
「まあ…初級なら……」
内容は分からないけど、と言いたげな奏子の視線から顔を逸らし、立ち上がる。
「言ったね!? 言ったな!?」
気分はウキウキアゲアゲだ。
腕を天高く上げ、悪魔を喚び出した。
「来い!」
雷のような光と共に、三体の悪魔がそこに召喚される。
並んだのは大量の蛇の首だった。
7つと、8つと9つ。
それぞれ水色に近い緑、深い緑、黒と色の違うものだ。
アナンタ、ヤマタノオロチ、ヒュドラ。
それが呼び出した彼らの名前だった。
得意とする属性もそれぞれ違う。
「また頭の多い蛇!?」
岳羽が悲鳴に近い抗議の声を上げた。
しまった。みんなは蛇頭黄幡神と戦っていたんだったか。もう1ヶ月ほど前になるがネタ被りをしたかもしれない。
『そういうことでは無いと思うぞ』
倉橋翁が思考を読んでそう言うがネタ被り以外の何があるのだろうか。
アナンタ、ヤマタノオロチ、そしてヒュドラ。
この三体で臨機応変に対応することを学んでもらおうと思ったがどうやら失敗だったかもしれない。
『アナライズできました! それぞれ龍王 アナンタ、龍王 ヤマタノオロチ、邪竜 ヒュドラというみたいです!』
説明する間もなく、山岸からアナライズ完了の報せが届く。
だんだん山岸も悪魔という存在になれて来ているのか、アナライズが早くなっている気がする。
良い傾向だ。
「お爺様も入る?」
蛇頭黄幡神も入れば首の数はさらに増えるだろう。いくらかスケールダウンして召喚しているがそれでもここは狭いので絡まったりして。
『やる訳なかろう』
「あっそ」
一蹴して消えていったので会話はそこまでだ。
アナンタたちの方向を見れば、なにやら言い争いをしているようだ。
「オレサマ、アタマガ多イ! トッテモ 強イ!」
「なんじゃと、わしは千の首を持つ蛇じゃぞ! わしの方が強い!」
「オレサマ、首ガ9本! 1番強イ!オマエ、7本シカナイ! ウソツキ! オマエモ、 首8ツ! 弱イ!」
「ナンダト!」
「そう見えるだけじゃ! まあよい、いい度胸じゃ! 年寄りを敬わんやつはちぃとお仕置してやるかの!」
内容は誰がいちばん強いか、だった。
しかも基準が首が多いか多くないかで、本当にくだらない喧嘩から戦闘に発展している。
『ええと、喧嘩してるみたいですね…?』
「お兄ちゃん?」
「すみませんでした」
悪魔として再現しすぎたかもしれない。もしくは、メティスの言う不純なマグネタイトのせいで制御が出来なくなっているのか。
こちらの命令も受け付けなさそうなので帰還させることも出来なさそうだ。
これでは想定していた訓練にならない。
「【ブフダイン】ぢゃ!」
「オレサマ、寒サニ、ツヨイ! ヘッチャラ!」
ヤマタノオロチに対し、アナンタがブフダインを繰り出すもあまり効いていないようだ。
威力が低いという訳ではなく、ヤマタノオロチ自体に耐性があるらしい。
「ペルソナのヤマタノオロチと耐性は似てるのか…」
湊がボソリと呟く。
完全に同じという訳では無いがおそらく似ているのだろう。
というか、特訓になっていないこの現状をどう収めるべきか。
「……とりあえず、仲魔割れしてるけどみんなには戦ってもらおうかな…」
「えー」
「何とかしてくださいよ。なんかこれ、やりにくくて…」
「そこも含めて特訓ってことで」
とりあえず不満の声が上がっているが無視をして特訓ということにする。
これだけ悪魔を再現出来ているのだ。戦った時の実力もそれ相応。今の湊達とちょうど同じくらいだろう。
中級と上級だと湊たちの実力よりも上の相手を想定しているため、これがちょうどいい塩梅なのではないかと思っている。
「ゼンゼン初級じゃなくないスか? なんかもっとこう、カワイイ感じのやつ想定してたんすけど!」
「え? 可愛いじゃんみんな」
「センパイのセンスはやっぱわかんねえっすわ…」
どうしてそこでその評価になるのか。謎だ。
そんなことを言うのなら、この喧嘩をおさめるために“カワイイ感じのやつ”を召喚するしかない。ただし、その悪魔は中級以上の強さのトンデモない悪魔なのだが。
「じゃあ伊織の期待に応えて。カワイイ感じのやつを出してあげよう!」
「エッ、マジっすか!」
恐らく、伊織の言うカワイイ感じのやつというのは弱くぬいぐるみのようなカワイイ感じか、それともピクシーのような可憐な感じを想像しているのだろう。
確かに、合っている。合っているのだが、
「嫌な予感がするぜ」
荒垣くんの言葉は正解だ。
その悪魔はただカワイイだけじゃない。
「お願いします!
「ヒーホー!」
稲光と共に、金色のバケツのようなヘルメットを被った、緑の戦闘服のジャックフロストが現れる。
その手にはマシンガンのような銃が握られており、かわいらしくはあるが物々しい雰囲気も醸し出している。
「訓練を受けたいというのはオマエラか? この俺がみっちり扱いてやる!」
発されたのは愛らしいがしかし厳しい声。ヒーホーと可愛く回る丸っこいジャックフロストの面影は少ししかない。
「嬉しいか? では早く顔面に伝えて、嬉しい顔をしろ!」
「うぇっ!?」
「やっぱりな…めんどくせーやつを出してきやがった」
手に持った機銃を特別課外活動部に向け──しかし騒いでいる三匹の蛇悪魔にデモニホは視線を向けた。
「なんだ? 何をしている! さっさと陣形につけ! 返事は『イエス、ホー!』以外認めないぞ! …ホ!」
「ギャア!」
「イテテッ! 年寄りをもう少し労わらんかい!」
一瞬で三匹の蛇悪魔に銃弾を放ったデモニホはあっという間に傘下に置いてしまう。
「さあ、訓練開始だホー! 泣いたり笑ったりできなくしてやるぞ!」
デモニホはどうやら不純なマグネタイトの影響を受けていないのかもしれない。人々の認知通り。厳しい教官だ。
不意に、その視線がこちらを向いた。湊たちの方ではなく、自分の方に。
「なにをボーっと突っ立っている! オマエも訓練に参加しろ!」
「へ?」
一瞬、言われたことの意味がわからなかった。
なんで? 自分に言っているのか? と。
「扱く側か、それとも扱かれる側か! 三秒で選べ!」
「えぇっ…!? じゃあ、し、扱く側で!」
流石に訓練だというのに味方側に自分も参加しては意味がない。
ゲームマスターである自分が特別課外活動部の味方につくのは反則だ。流石に。
ただ、三匹を諫めるために再現し、呼び出したデモニホが、こうも訓練にノリノリだとは思わなかった。恐らく、本物もこのように訓練にノリノリなのだろう。たぶん。
槍ではなく、刀を作り出して片手でラフに構える。デモニホ教官とお揃いの機銃も用意し、反対の手で持った。
「なんだ、三上、お前も戦うのか?」
「戦わないと俺も教官に扱かれるから…」
仕方なく、だ。
さすがに【てっけんせいさい】は食らいたくない。ただでさえ貴重な脳細胞が減る。
やらなければやられるという状態はごめんだ。
それにしても、この物量ならば特別課外活動部の総勢十名弱にでも勝ててしまうのではないのだろうか。首の多さだけなら余裕で勝っているし。
「えーっと、色々予定変更にはなったけどみんなには多方向から飛んでくる攻撃の訓練をしてもらおうかと思ってる! 上手くいなすなり、交わすなりして隙を見つけて教官と三体の悪魔を倒してみせてくれ! はい、よーいドン!」
「えっいまから!?」
そう言った瞬間、駆け出す。
誰かが驚いたような声を出したが関係ない。狙いを定めずに機銃を乱射する。
「うわっあぶな!」
「危ないに決まってるよ、一応実銃の再現なんだから! 当たると痛いぞ!」
忠告はしておき、そのままスライディングし、一気に間合いを詰めてアナンタに向かっていた真田君をまずは狙う。
「ローキーック!」
「っ!」
声を出したせいなのか寸前で気づかれ、避けられてしまうが問題ない。いつも初撃を躱されてしまうので対策はちゃんと考えている。
「フハハ甘いぞ真田君! 今の俺には飛び道具があるんだな!」
機銃の引き金を容赦なく引く。超至近距離だ。これで避けられたら流石にその反射神経に驚くほかない。
「ぐっ!」
「いや、ちょっとでも避けれるのか!?」
驚いた。なんと真田君、銃弾を完全にかわすことはできなかったが直撃を避けてダメージを低くしたのだ。
ボクシング部は伊達じゃないというべきか。だが残念だ。これでは二撃目が避けられない。
トドメを刺すべく引き金を引く。
「!」
身構えるがもう遅い。
銃口からぱふ、という気の抜けた音と共に、カラフルなリボンと紙吹雪が真田君に降り注ぐ。
「は…!? どういう──」
「はい、真田君は今ので死んでました。ということでどーん!」
「がっ!?」
強烈な回し蹴りをそのまま叩き込み、刀を構えなおしてデモニホと三匹の悪魔に苦戦している他の面子を見やる。
「アキ! ちっ、やるしかねえみてえだな…!」
荒垣君だけはこちらに猛スピードで突っ込んでくるがワンテンポ遅かった。もう少し早ければ真田君を助けられたろうに。
「うーん、単独で来るのは推奨しないなあ。そもそもタイマンは想定してないんだなこれが」
これでは訓練にならない。
倒れた真田君を置いて、さっさと逃げることにする。こういう時は逃げるが勝ちだ。
そうやって、合間合間に銃弾をばらまきつつ周りの様子を見る。
天田君や岳羽がすこし、銃弾に対する防御が上手くない気がするのは気のせいだろうか。天田君はまだ経験不足だからとして、岳羽は遠距離武器である弓を使って狙いを定めているから立ち止まることが多いようだ。仕方ないと一蹴できればいいが二人にはもう少し銃弾に対する対策を何とかしてもらうなりなんなりしてもらおう。
相手はあの神条さん──神取だ。銃を使って来ないとも限らないし、この先また何かがあって銃を使う人間の相手をしないとも限らない。
対策をしていて損は無いはずだ。
逆に、コロマルやアイギスたち三姉妹はやはりというべきか、銃に対する動きがかなり手馴れている。特に三姉妹は化け物退治を目的として作られたからか悪魔への対応力も高い。
が、反面、メティスを除いて鬼教官なデモニホとは相性が悪いのか少し動きがぎこちないようにも思える。
ああいった相手もアイギスたちは大丈夫なのかと思っていたが、まがいなりにも喋って動くヒト型をしている為少し抵抗があるのだろう。
まずはその戸惑いを払拭しないといけないが上手い方法が見つからないし自分がやれば余計拗れてしまうに違いないのでまずはメティスに相談するかしないといけない。
そしてメティスは何ともないので何も言わないでもよさそうだ。姉との連携もしっかりとれている。ただ、姉たち以外との連携はあまり良くない。湊や奏子とは息が合うが、他とはメティスが先行しすぎているきらいがある。
メティスとて、合わせようとしていないわけではないのだろうが、まだまだ距離感を掴み切れていない様子だ。
ここはこうやって戦闘を積み重ねることでしか解決できないので保留。
そんな感じで観察をしていたがデモニホは一応戦っているからなのか、特に何かを言ってくるわけでもないらしい。
ここからはどうするか悩みどころだが、まだまだ戦いは始まったばかりだ。