夜
「ナギサの頼みだからと来てみれば、なんですかこの…」
「なにって、クリスマスパーティーだけど」
12月25日。朔間くんちでクリスマスパーティーを開くことになったのでできる限りの面子をそろえた。
ら、タカヤがドン引きした。
恐らく、タカヤにはクリスマスパーティーというモノが無縁だったからこのような反応になっているのだろう。致し方なしだ。
代わりにイズミくんと
「いえ、貴方のトンチキな格好のことです」
「せや、なんやほんまのトンチキ集団になったんかいな?」
げんなりと、疲れたようによろよろと指をさしてくるタカヤとジンに自分の格好を鑑みてみる。
白いファーのついた赤い服に、サンタ帽。
これはどう見ても──
「サンタ服だよ」
「そうでは──……、もういいです。貴方がそうなのは何を言っても変わりませんからね」
何か言おうとして、そしてやめたタカヤはひどく疲れたような顔をしている。
まだパーティーは始まったばかりなのにどうしてこんなに疲れているのか。理由はわかるが理解はしない。
まあなんというか。原因は十中八九自分の格好と湊たちの格好だろう。
紗耶ちゃんを怖がらせないように、自分と湊と荒垣くんと真田くん、綾時くんはそれぞれ着ぐるみかサンタ服を着用だ。コロマルと天田くんは普通である。
流石にこれに付き合わせるのは可哀想だからだ。
ちなみに伊織はチドリと二日連続デートらしい。お熱いことで。
「ほら、紗耶。トナカイさんだぞ」
「トナカイさん! おおきいー! ふわふわー!」
なんて言っているイズミくんと紗耶ちゃんが微笑ましい。
時価ネットたなかで着ぐるみやサンタ服をお取り寄せして正解だった。
ちなみにこれ、それなりに防御力があるのかタルタロスにも着ていける代物になっている。奏子がもしかしたら面白がって着せたがるかもしれないのでこの先も取っておこうと思う。
自分もみてみたい。サンタ服と着ぐるみで戦うこの面子を。
「あ、吾郎。こんな人たちだけど悪い人じゃないからさ…緊張とか遠慮とかしなくていいからな」
イズミくんが後ろで緊張した様子の茶髪の男の子に話しかける。一瞬少女かと見まごうほどに整った顔だというのがわかる彼はこの間から朝倉医院に居る子で、“明智吾郎”くんというらしい。
天田くんと同じ年で、天田くんと同じく母親と死別している。程度のことを聞いている。
どうして朝倉医院に世話になることになったのかはわからないが、深入りするのも悪いだろう。ヒトには聞かれたくないことのひとつやふたつ、いや、五つくらいはあるだろうから。
それに今日は楽しい楽しいクリスマス会だ。
「してない。あの、挨拶遅れました。…僕は明智吾郎です。今日はクリスマス会に僕も招待していただいてありがとうございます」
「…出会ったばかりの時の天田みたいだな」
きっちりと挨拶をした吾郎くんを見た真田くんがそっと耳打ちしてくる。確かに、歳不相応に丁寧だが固く、距離のある感じは天田くんそっくりだ。
何か訳ありなのは朝倉先生のところにいる時点で確定なので、悪魔絡みか、もしくは。
だが自分にはどうすることもできない。吾郎君は別に今、助けを求めているわけでもなんでもない。クリスマス会を楽しみに──かどうかはわからないが一応来てくれたのだ。こんなところで人生相談というわけにもいかないだろう。
「なにかあったとしても、俺たちにいま、できることはないよ」
「…らしくないな」
「とは言っても…」
難しい問題なのだから下手に首を突っ込めば天田くん以上に拗れてしまうのは目に見えている。
そもそも何かがある、というのも自分たちが勝手に予測しているだけのことだ。実際一時保護というだけでなにもないかもしれない。
「一応、クリスマス会が終わっても気になるようなら真田くんのほうから朝倉先生やイズミくんに訊いてみればいいんじゃないかな」
「こういうことはどうも苦手でな…シンジか天田を頼るか」
「自分で頑張りなよ…いや、何かやらかす前に相談して」
「やらかすのはお前の方だろう」
「言ったな!?」
真田くん自身にもかき乱してしまうかもしれないという自覚があるらしい。
というか、天田くんや荒垣くんと親しい間柄ではある真田くんだが、ストレガの面々とはなぜか一定の距離を保っているのかあまり親しくないように思える。
荒垣くんは最近タカヤやジンとも普通に話すようになってきているし、軽いジョークを交わしたりもするようになった。
イズミくんとは特別悪い関係という訳ではなく、普通だ。
イズミくんが荒垣くんを天田くんのお母さんの仇だと思って復讐を依頼したこともあるという並々ならない関係だったが、荒垣くんだけでなく自分も天田君のお母さんの仇だということを説明し、事情があった(10割自分のせいなのだけれど)と伝えると神妙に、そして悲痛な顔で「そうか…」とだけ言って、無かったことにはできないけれど特別態度を変えることもなく荒垣くんや自分に接してくれている。
イズミくんは良い人だ。本当に、もったいないくらいに。
「あ、あの、そろそろプレゼント交換しない…?」
朔間くんがおずおずといった様子でそう告げてくる。
ケーキで汚れたりしないように、先にプレゼント交換をしようということになっていたので、確かにこのタイミングしかないし自己紹介とかもそこそこに、早くしないと紗耶ちゃんが寝る時間が来てしまう。
「そうだった!」
慌てて用意したプレゼントを取り出す。
そうしてランダムに交換していく。何が入ってるかは自分が用意したもの以外分からない。天田くんと吾郎くん、紗耶ちゃんの子供組には自分が余分に交換用のプレゼントを用意して手渡してある。
全員が交換し終わったら開封だ。
ぺりぺりと包みを開ける。
「あ、フェザーマン大全だ」
中には分厚いフェザーマンのファンブックが入っていた。最近発売されたもので、ついでに言うと自分が朝倉先生からお金を預かって子供組用に用意したものである。回り回って戻ってきてしまったらしい。
「僕のは…なんだろう、これ…?」
横の綾時くんがプレゼントを開けて首をかしげている。
その手には謎の物体が鎮座している。一言で言うなら石だ。
「あ、それ。屋久島で拾ったなんかの石」
そこへ湊がいけしゃあしゃあと答える。そんなものをなぜクリスマスプレゼントに選ぼうと思ったのか。
「ご利益あるかなって」
「そうなんだ! へぇ、屋久島の!」
マイペースすぎる答えに綾時くんは怒るでもなく若干嬉しそうなので放置だ。
受け取ったのが天田くんたちじゃなくて良かった、とそっと胸を撫で下ろしてタカヤのほうを見れば何かの袋を持ち上げて眺めていた。
「これは──プロテイン…?」
「ぶふっ! タカヤにプロテイン!? ムキムキになるタカヤ…ふははっ、想像つかない…!」
思わず笑ってしまう。
中身は大量のプロテインと来た。真田くんが選んだのであろう3キロくらいありそうなそれはタカヤでは到底消費しきれない量だ。
もし消費したとしてムキムキになったタカヤを勝手に想像して──タカヤには悪いが笑いが止まらなくなる。
「ふは、ふへへっ! ひっー! ダメだ笑いが止まらない! ムキムキのタカヤ…!」
「何がそんなにおかしいんだか…」
とはいえ、プロテインを飲んだからと言って真田くんがムキムキになっていない(細マッチョではある)ので、タカヤがムキムキになるとは限らない。だがムキムキのタカヤという語感が妙に腹をくすぐってきて、笑いが止まらない。
笑いを堪えるために他の人のプレゼントも盗み見る。
が、ふと視線を感じて探してみれば、吾郎くんがオレンジ色のタコのぬいぐるみを手にこちらをじっと見つめている。
否、こちらの手にあるフェザーマン大全を、だ。
「吾郎くん、もし良かったら交換しない?」
「えっ?」
「俺、海の生き物好きなんだよねー」
嘘はついてない。嘘は。
きっと、恐らく。吾郎くんはフェザーマンが好きなんだろうと思う。同じ歳の天田くんがフェザーマン好きなのだから、そうに違いない。
たぶん。
「俺、どーしてもそのタコさんが欲しくてさ、交換してくれると嬉しいなって」
「それなら…」
「ありがとうー! すっごく嬉しい!」
若干苦笑いで交換を許可してくれた吾郎くんにお礼を言って交換して、こちらへ来たぬいぐるみを抱きしめる。ああ、柔らかな感触。素晴らしい。
それにフェザーマン大全が吾郎くんの手元に移ったというのもいい事だと思う。
あまり読まない自分よりかは、ちゃんと読んで楽しめる人に渡った方が本も嬉しいだろう。
「マジで抱きしめてる…」
なにか小声で聞こえたような気がしたが気の所為だということにしておこう。
そこへ、天田くんが吾郎くんへと近寄っていく。恐らく交換したところを見ていたのだろう。
天田くんの手にはフェザーマンのDVDセットが抱えられていたのでちゃんと手に入れられたその運の高さには賞賛を与えたいところだ。
「あ、明智くん。三上さんにフェザーマン大全交換してもらったんだね」
「う、うん…一応」
「僕さ、フェザーマン好きなんだ。明智くんは誰が好き?」
などとぎこちないながらも会話を始めた2人を他所に、紗耶ちゃんの為にお姫様なりきりセットとパステルカラーなユニコーンのぬいぐるみをゲットしたイズミくんがガッツポーズを決めていたのが見えた。恐らく自分のように交渉して交換したかどうにかしたのだろう。
だって、さっき見た時は真田くんがお姫様なりきりセットを持っていたのだから。
「朔間くんは?」
「え? 僕? 僕は…これ」
訊けば、朔間くんがおずおずとプレゼントを見せてくれる。
それはシンプルなデザインの鍋つかみだった。恐らくこれは荒垣くんのチョイスだろう。
「でも僕、自炊とかしたことないし…どうしよう…って」
「これからしてみるってのは? 良ければ教えるよ」
「そうだよね、せっかく貰ったものなんだし使わなきゃだよね」
今日の晩御飯はデリバリーのチキンにピザなので使い道がないが、これから一人暮らしをしていく朔間くんにとっては鍋つかみはあって困らないだろう。
実際オーブン料理や焼き芋、熱くなった鍋の取っ手を持つのに大活躍している。
ひと通りプレゼント交換が済んだのでプレゼントをみんな脇において食事となった。
ちなみにこのデリバリーのチキンとピザの代金は朝倉先生が出してくれた。
ありがたい限りだ。
「楽しめよ」と一度クリスマス会の件を伝えに朝倉医院に寄った時に笑いかけてくれた朝倉先生の顔は笑顔だった。
先生の好意に甘えてこうして豪勢なクリスマス会になったわけで、先生には頭が上がらない。
また今度、タカヤたちと相談して何か贈り物でもしようと思う。
贈り物と言えば先生からもらったアガスティアの木の種はまだ芽吹いていない。
毎日水やりをしているが朝倉先生の言った春先まではまだまだ時間がある。誰かに託してしまおうかと思うも、それができない自分がいる。
折角もらったもの、というのもあるがどうにも手放しがたく、ついダラダラと世話してしまっている。
ある意味、朝倉先生の思うつぼだ。
そんなアガスティアの鉢植えはあまり寒くないが日当たりは良い机の上に置いてある。
窓際だとさすがに寒すぎて枯れてしまうかなと思ったからだ。流石に、もうすぐ1月になろうという時期に窓際は寒すぎる。
枯らすのは本当にもったいない。最悪、鉢植え用の毛糸のパンツを編んでしまおうかと考えるくらいには愛着がわいてしまっていて仕方がない。おのれ朝倉先生。
とまあそんなこんなでピザとチキンを食べ終えあっという間に帰る時間になった。
楽しい時間は一瞬で過ぎてしまう。
朔間くんにお礼を言って帰路につく。
その途中、雪がちらほらと降り始め夜の道に降り注いだ。
そんな中で、隣を歩いていた天田くんに話しかける。
「天田くん、どうだった? 楽しかった?」
「とっても。ありがとうございます」
「良かった。というかお礼とかいいよ。むしろこっちが来てくれてありがとうって言うべきだしさ」
突然の企画だったため、予定があるかと断られるかと思ったが来てくれてよかったと思う。
来てくれなかったら初対面の吾郎くんとは気まずいクリスマス会になっていたかもしれないし。
「そういえば、吾郎くんと何か話してたみたいだけど仲良くなれた?」
「はい! こんど遊ぼうって約束もしたんです。まだフェザーマン大全を読み終えてないし、今度は朝倉医院さんでDVDを観させてもらおうって」
「いいんじゃないかな。朝倉先生も快諾してくれるよ、きっと」
順調に仲良くなっているようでよかった。
吾郎くんのことは真田くんも心配しているみたいだが、この調子だと心配はいらないかもしれない。
目つきと言動で誤解されやすいが意外と朝倉先生は子供に甘い。紗耶ちゃんに対しては言わずもがな。正直自分たちにも甘いのではないかと思うくらいだ。
だからこそ、タカヤたちストレガをデータ取りの名目で住まわせたり、吾郎くんみたいに一時保護をしたりしているのだろう。
もしかしたら朝倉先生のところでわざわざ保護されているということは、吾郎くんの件も悪魔かペルソナ絡みなのかもしれない。
(なんて、そんなわけないか)
本当にたまたまかもしれないし、関係がないのに邪推して深堀するわけにもいかない。
間違っていたらそれこそ恥ずかしいどころか吾郎くんを傷つけてしまったり余計なごたごたに巻き込んでしまうかもしれない。そんなことは避けるべきだと思うし、あと一カ月しかない自分に何ができるかと言われればなにもない。
ずるいかもしれないが、今の自分にはこれで精いっぱいだ。何かできることもなければ何かをする必要性も今のところ吾郎くんには見えない。
「それにしても、あと数日で大晦日だなんて考えられないです。それに…」
天田くんの言いたいことはわかる。大晦日が終わればもう決戦の日まで一カ月を切ることになる。
ここからが正念場だ。
決戦の日、勝てないとは絶対に言えない。だがどうやっても、勝てるようにしないといけないのだ。
「大丈夫。きっとなんとかなるよ」
「そう、ですね。そうですよね!」
「それにいまは楽しいことだけ考えるんだよ。正月は荒垣くんとおせち作るから、沢山食べるんだぞ~」
茶化してみる。
「おう、沢山食えよ」
と、そこへ荒垣くんも乗ってくるようにニカッと笑いながら天田くんの頭を乱暴に撫でた。
「もう子供じゃないんですから!」
「まだ子供だろ」
「未成年という意味では僕らもまだ子供だけどね」
むくれる天田くんに真田くんがぴしゃりと返せば、珍しく綾時くんがそう静かに告げた。
確かに、と思っているとそこで会話が終了してしまったのか沈黙だけがその場を支配する。
静かな夜に、こうして雪を踏みしめる音だけが響いているというのも悪くない。
今日は本当に楽しかった。
このまま世界の時が止まってしまえば、なんて冗談めかして思ってみる。昨日も同じことを思っていたが。
もちろん、時は止まることなく動き続けている。
そのことに内心ホッとした。冗談めかして思ったものの、止まってしまったらまた3月31日の繰り返しになるのでシャレにならなくなる。
いや、止められるということは動かせるということでもあるので大した問題ではないのかもしれない。
何かあったら怖いのでこれ以上そういうことを考えるのはやめて、ガードレールに溜まっている雪をサッととってぎゅっと握る。
「なにしてるの?」
「いや、雪の感触確かめてる」
この何とも言えない触感と音が冬だなあと思わせるから嫌いじゃない。
「そう…変なの」
「変で結構!」
手袋もなしに触ると手が冷たくなるが今はなんだか暖かいので気にしていない。
その握ったものを湊の頬に当ててみる。
「えい」
「っ!?」
びくりと肩を跳ね上げた湊はこちらをじろりと睨み付けると無言で脇の雪をひっつかむとこちらの服の襟の中にその雪を放り込んできた。
あまりに素早い動作だったので反応できず、その冷たさが首筋に襲い掛かった。
「ぎゃあ!」
「何騒いでやがる」
そんな荒垣くんの呆れたような声と共に雪合戦が始まったのだった。
帰りが遅くなって叱られたのは言うまでもない。