君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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P3R発売おめでとうございます!(遅い)
一応この小説はリロードの要素は無しで完結まで行きたいと思います。
ゆっくりですが完結まであと少し。見守っていただければ幸いです。


いざ、魔界へ(1/3)

「──もうひとつの東京(魔界)に行ってみたくはないかい?」

「行きたいと手放しで喜んで言うとでも?」

 

顔をしかめる。

ジャボの話はまず信用できるものではない。

そもそもが仲がいいというわけでもなければ信用できるほどの関係でもない。

 

「そう言うと思ったよ。けど約束を反故にして放っておくこともきみは出来ないだろう」

 

よくわかっている。

ジャボはこちらを見透かし、否と言わせないようにしている。

その余裕の表れは、未来を本当に見通しているからなのか。それとも。

 

「シュブ=ニグラスの一件とは無関係に、魔界の悪魔の一柱がこちらへ出ようとしている。そして、甚大な被害をもたらす。それはもう、被害者が沢山出るだろうね」

 

ジャボの口ぶりはあくまでも凪いでいる。

まるで、世間話をするかのようだ。

 

「それを俺に止めろと?」

「話が早い。今の君になら、可能だろう?」

 

それに、と続ける。

 

「こちら側へ出てきて、きみの大事な存在が巻き込まれでもしたら──ああ、そんな怖い顔をしないでくれよ。可能性の話をしているんだ」

 

睨みつければ、肩をすくめて鼻で笑われる。

こちらを買いかぶっているのか、そうでないのかよくわからない存在だ。

そもそも、コイツの話が罠だという可能性もある。何がしたいのか、全くよくわからないというのが現状だ。

ただ、もしこの話が本当なら、シュブ=ニグラスとの決戦を控えている中で無駄な消耗を──それも、大怪我を負うような戦いは控えたい。

悪魔は昼夜問わず襲ってくる。影時間のみ現れるシャドウとは違うのだ。

今のところ、ほぼ影時間でしかペルソナを召喚したことのない湊達が襲われでもしたら。

とっさに対応できるかと言われれば、そうじゃないだろう。

アイギスやメティス、ラビリスが多少自衛できるものを持っているからといって、皆を守りながらジャボの言う"悪魔"を倒せるかと言われたら厳しいものがある。

この前の桐条の警備部隊の襲撃にしたってそうだ。何らかの理由で召喚器を持ってなかったらまともに戦えないだろう。

それらを考えると、答えはひとつしかない。

だが、素直に頷いてのこのこと行ってやる義理もこの男にはない。

 

「断る」

「何故? 件の悪魔はこちら側で受肉するために膨大な量のマグネタイトをため込んでいる。それも、不純物のない、綺麗なものをね。それはつまり、きみの探し物じゃないのか」

「……クソ」

 

もう一度、ジャボは幼子に言い含めるようにこちらにそう言ってきた。

こうなれば、頷くほかない。がしがしと頭を掻く。

 

「こちらが信用ならないのはわかっているさ。けど、これが終わればひとつ、貸し借りしたってことで信用してはくれないか」

 

先程とは違う、真剣なまなざしでジャボはそう告げた。

一体こちらに貸しを作ってなんになるのか。あちらに利はない。こんな、ちっぽけな存在にそこまで入れ込む利が。

 

「信用というのは悪魔の中でも重要だ。それを、理解してほしい」

 

その言葉を最後に、不意に身体が"落ちた”。

 

「待て、まだいいとは一言も──」

 

暗転。

 

「いっ~~~~~~!!!!」

 

突然落とされ、受け身など取れるはずもなく、地面に尻もちをついた。

ざり、と砂の感触がし、手のひらを見れば黄色い砂がついていた。

僅かなアスファルトと、それを埋め尽くす砂。

顔をあげれば、異様な光景が広がっていた。

 

「……っ」

 

色褪せ歪んだ東京タワーと、裏返しに丸まり、球体のようになった世界。

空に空はなく、ひたすら崩壊した建物の残骸と砂地が続いている。

 

「これが…魔界…?」

 

思わず、呟く。

もっとおどろおどろしいよくある地獄のようなものを想像していたが、そうではなく。むしろ静かなものだった。

立ち上がり、ズボンの尻についた砂を落とす。

 

周りは本当に静かだ。物音ひとつなく、風がからからと吹いているだけ。

 

「え…なに、ここ、どこ!?」

 

ふと、聞き慣れた声がして振り向く。

そこにいたのは、奏子と湊だった。

 

「……は、」

 

なんで。どうして。

だなんて思う暇もない。

そこにいる。それが事実だった。

 

「あのクソ野郎…」

 

危険地帯から遠ざけようとして、逆に巻き込んでしまった。

一番巻き込みたくない二人を。

くしゃり、と前髪をかきあげる。

自分にこの魔界から現実世界に帰る手段はない。つまり、ふたりを帰す手段はないのだ。

そして、ジャボの目的が悪魔の討伐ないしは無力化にあるのは間違いない。

それを果たさなければ帰ることはできないだろう。

なぜ、ふたりを巻き込んだのかじっくりと聞く必要があるが。

 

「お兄ちゃん! ここ、どこなの!? さっき喋ってた人って誰!? 夢じゃないの!?」

「奏子。落ち着いて。矢継ぎ早に訊きすぎ」

 

湊が奏子を窘める。

こういう時に冷静なのはありがたい。

さっき喋っていた人は誰か、という問いがあるということは奏子と湊は近くまでついてきていたのだろう。

後をつけたのかたまたまなのかはわからないが。

それはそうと、奏子の問いに答えなくてはならない。

 

「あー…ここは、魔界」

「魔界!? 魔界ってあの悪魔とかそういう化け物がいる?」

「…そう。端的に言えば、俺はここにいるある悪魔を倒しに連れてこられた。たぶん、ふたりが巻き込まれたのは偶然だろうけど」

 

そういうことにしておこう。

そう思わないと、ジャボに一発入れたくなってしまう。

 

「それで? その悪魔って?」

 

湊が表情を変えずに訊いてくる。

武器も召喚器もないのに冷静だな、と感心するも、自分はその件の悪魔とやらを知らない。

 

「...それが、わからない」

 

恥ずかしながら。

ただ、膨大な量のマグネタイトを貯め込んでいるということは、それなりの悪魔だということだ。

そしてジャボが何も語らずにこの魔界に落とした。それすなわち見ただけでわかるやつ、ということに他ならないのではないのだろうか。

 

「ただ、たぶん見ただけでわかる」

「…そう。ならいい」

 

ただ、問題なのが自分はともかく二人は護身用の武器もなければ召喚器もないということだ。

魔界でペルソナが召喚できるのか、とか色々気になるところではあるが悪魔の巣と原理が変わらないのであれば可能だろう。

ふたりの負担になるのであまりそういう事を勧めたくないが。

 

「ちょっと待って」

 

近くにあった標識を熱で切り取り、ひとつは刀のように加工し、もうひとつは先だけを加工して薙刀のようにする。

不格好だがないよりかはマシだろう。

 

「これ、持ってて。できるなら安全な場所でいて欲しいけど…そんなの、ここにはなさそうだし」

 

どこから悪魔が出てくるかわからない。安全だと思った場所がそうでないなんてよくあることだ。

タルタロスだろうが寮だろうが、影時間に安全地帯が無いのと同じだ。

 

「……うん」

「奏子、いつもとやることは同じ。ペルソナが召喚できないだけで何ら変わらない。襲ってくる奴らは叩き潰せばいい」

「そうだよね…うん、わかった!」

 

一応、悪魔の中にはモコイさんのように話も通じる個体がいるのでシャドウのようにむやみやたらと殴りかからなくていいと思うのだが、ふたりがそんなことを知るはずもなく。

 

「とりあえず、歩こうか。たぶん近い場所に落としてくれた…と思いたいし」

 

疲れたら言うんだよ、と言うのも忘れずに。

 

しばらく歩いた。だが、何もない。

怖いくらいになにもないのだ。

悪魔もいない。

本当にここは魔界なのかと不安になるほど、なにとも出会わない。

静寂。それがこの場所を包んでいる。

山岸が居れば何か気配を探知できたのかもしれないが、いない人間を頼りにしようとしてもしかたない。

 

「何もないね…」

「…うん」

「……」

 

そんな、短い会話だけが通り過ぎていく。

──と。

 

「……い、おい。そこの。三人組のあんちゃんたちだよ! こっち、こっちに来な!」

 

半壊しているビルの物陰から、微かな声が聞こえた。

 

「ねえ、誰か呼んでるよ」

「罠かもしれない」

「どうする?」

 

奏子と湊が顔を見合わせながら、こちらへと訊いてくる。

だが、罠だとしてもここで初めて声をかけてきた存在だ。無視をして何の手掛かりもなく歩き続けるよりかはマシだろう。

それにもしかしたら友好な存在かもしれない。

 

「行ってみよう」

 

軽率かもしれないが、何かあれば戦って倒すだけの話だ。

そう決めて、物陰へと近づく。すると、

 

「よぅ。あんちゃんら、見ない顔だな。新入りか? 珍しいな」

 

目の前にふわふわと小さな狐面を被ったなんとも形容しがたい生き物が浮いている。

 

「かわいーっ! キツネの…悪魔?」

「そうだぜ。オイラは聖獣 チロンヌプ。ここいらで道案内やってるんだ」

 

「つっても利用者はまだ居ねーんだけどな!」と胸を張りながら笑う姿は豪快と言うよりかは愛らしい。

チロンヌプ。初めて見る悪魔だ。

とはいえ、そんなに悪魔に詳しいわけでもないのでまだ見ぬ悪魔はたくさんいることだろう。

 

「でも、ここからは早く離れた方がいいぜ。“魔王”が悪魔だろうが何でもかんでも食っちまうからな」

 

真剣な声色でチロンヌプはそう告げる。

何でもかんでも食べる魔王。それが原因でこの辺りは静かなのか。

 

「ここいらに弱小悪魔の集落があったんだが、そいつのせいで皆怯えて隠れちまってる。オイラもその弱小悪魔の一体ってわけさ」

 

どうやら、隠れている悪魔もいるらしい。

逆に言えば、隠れなかった悪魔は軒並みその魔王とやらの胃袋の中に納まったということだろう。

そう思って不意にちらりと視線を逸らせば、物陰からジャックフロストとピクシーがこちらの様子を窺うように顔を覗かせていた。

人を殺そうと思えばいくらでも殺せる彼らだが、こうして隠れているということは悪魔の中では弱い部類に入るのだろう。

そして、襲ってこないということは比較的友好な悪魔だということでもある。

少なくとも話が通じないというわけではないだろう。話が通じなければ即座に襲われて、戦闘状態に陥っているからだ。

 

「…そいつはどこに?」

「まさか、倒しに行くのか!? 悪いことは言わねぇよ! やめときな!」

 

チロンヌプが慌てたように止める。

だが、その悪魔が目的の悪魔だとしたら、自分はそいつを倒さなければならない。

そうしなければ帰れないのだ。

それを伝えると、チロンヌプはううーん、と唸った。

 

「でもよぉ…ニンゲンがたった三人ぽっちで倒せる相手だとも思えねえ。やめといた方が良いと思うぜ」

 

チロンヌプの言うことはもっともだった。だが、ジャボが何の考えも無しに自分を──自分たちをこの魔界に落としたわけではないだろう。

何かしらの勝算があってこそではないのだろうか。

もしかすると、ジャボにとって自分たちは捨て駒なのかもしれないが、自分の場合は死ぬとシュブ=ニグラスが即座に目覚める爆弾の様なものなのでそういうことはないだろうと思いたい。

 

「それでも、やらなきゃいけないんだ。できる、できないじゃない。やらないといけないことなんだ」

 

自分に言い聞かせるようにチロンヌプを説得する。

奏子と湊を無事に連れて帰らないといけない。そして未知の相手というふたつのプレッシャーが襲い掛かっている状態だが、いつも通り気をつけないと足元を掬われて負ける。

それだけは絶対に避けなければならない。もう、ここまで来て“巻き戻し”は出来ないのだから。

そんな覚悟をしつつ、チロンヌプを見つめれば観念したようにチロンヌプは頷いた。

 

「…よし、わかった! そこまで言うのなら案内してやる。ただし、しっかりオイラを守ってくれよな! 死ぬのは嫌だからな!」

「ああ。任せてくれ」

 

この親切な悪魔をモコイさんのようなことにはしない。

絶対に。

そう誓い、先導するチロンヌプについて歩き出す。

まだ見ぬ魔王とやらを倒す算段を立てながら。

 

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