君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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Ⅴ 法皇 &Ⅵ 恋愛
大炎上日和(6/11~6/13)


6/11(木) 夜

 

シャドウに操られていた可能性もあったので満月の次の日は大事をとって休んだが、リハビリも先週の金曜日の時点で終わっていたので昨日から学校と戦闘に復帰している。

名実ともに完全復活というわけだ。

あの後、山岸は森山夏紀と和解し、奏子ともちゃんとした友だちになったらしい。

奏子は「風花ちゃんが許してるなら私はそれでいいよ」と大人な対応をしていたらしい。

らしい、というのは自分は湊と先に帰ったからでその場にいなかったため伝聞で聞いた形になるからだ。

体調は昼やそれ以前に比べて格段に良くなっていたが、それでも熱が上がってきているらしかったので「早く帰って寝ろ」という事だった。

寮に帰ればモコイさんに酷く心配されたし痛みのないポカポカという擬音付きのパンチを何度か喰らった。訳せば、「突然消えてどこかに行ってしまって探そうにもどこにいるかわからなかった」とのこと。

 

「チミの気配も何もかもが消えてたからボクちんビックリちゃんだヨ」

 

とはモコイさんの談。悪魔による誘拐も頭をよぎったらしい。たまに、そうやって洗脳もしくは思考を鈍らせて言葉巧みに自分の巣へと誘き寄せるやつがいるのだそうな。

この前のアンズーのように。

その事実にシャドウの呼び声も悪魔の誘惑にも気を付けないといけないのかもしれないと気を引き締めた。

モコイさんが自分を心配した理由として「チミのお金で美味しいものを食べられなくなるのは惜しいからネ!」と言い放った時は悪魔らしいな、と思いつつもそれが半分本心混じりの照れ隠しであることはこの短い付き合いの中でわかっていたので礼を言うにとどめておいた。

 

そして今日、幾月によって作戦室に特別課外活動部の全員と山岸が集められていた。

理由は言わずもがな山岸の勧誘だろう。

ソファに深く座り込みあくびを噛みしめる。

 

「話は聞いてるよ。“山岸風花”君だね」

「は、はい」

「ハハ、そんな緊張しなくていいから。ま、かけて」

 

幾月がやさしく促すも、なぜか山岸は自分の方をちらちらと気にしながら怯えたようにぎこちなく頷いてから奏子の隣に座った。

 

(…?)

 

何か彼女の気に障るような、怯えられるようなことを自分はしたのだろうか。

覚えがないし心当たりもない。

もしかしたら、不良の件と同じく去年か一昨年のどちらかに既に顔見知りで、とんでもないことをした可能性が無きにしも非ずなのだ。

 

(とりあえず何か誤解があるんならさっさと解いとこうかな…)

 

思案する。

あの怯えようは正直びくびくしてばかりいる今の山岸にしてもおかしい。

自分の顔だってそんな怒ったような表情をしているわけでもないしそもそも山岸や女子なんかに手を出す性格を自分がしているとは思えない。というかまずない。これは自分が真逆にひっくり返らないかぎりまずありえないと断言できる。

そしてそのような要因は、特別課外活動部に所属していなければ起こりえないことだ。

していても起こらないかもしれない。

とにかく、可能性はほぼゼロに等しい、という事だ。

 

(それなら…なんで怯えられているんだ?)

 

まさか自分の変な言動をみられたとか変な噂を聞いたとかじゃないか、と思うもすぐにその可能性を一蹴する。

もし変な噂が飛び交っていれば自分なんかよりも先に奏子か湊か美鶴さんが気づく。

しかも奏子は山岸の友達だ。その友達の兄の話くらいするだろう。そしてそこ経由でこちらに回ってくるはずであるし全く以て何が原因で怯えられているのかさっぱりわからない。

正直、巷で話題の探偵王子にパパッとこのなぞを解いてもらいたいくらいだ。

……そういえば全く関係ないが明日はバナナが夕方特売だったはずなので放課後に買って帰らないと。奏子が好きなバナナケーキにしてもいいかもしれない。チョコも入れれば更においしそうだ。モコイさんも食べるだろうか。

 

「…くん、三上君!」

「はい!?」

 

突然幾月に呼ばれびくりと驚く。

思わず大きな声で声をあげてしまった。視線が自分に集まる。

しまった、考えに夢中になっていて全く話を聞いていなかった。いや、大体会話の内容は意識不明に陥っていたいじめっ子たちが回復したとか山岸に特別課外活動部に入ってほしいとか満月に大型シャドウがやって来るとかそんなところだったので聞く必要もないかと流していたのだ。

それが、こんなところで裏目に出るとは思わなかった。

 

「三上君、きみはまだ少し体調が悪いんじゃないかい?」

「いえ…少し考え事をしてて……すみません」

「大丈夫か三上。らしくないぞ。無理しているんじゃないか」

「違うんですホント俺クッソどうでもいいけどどうでもよくない考え事してしまっててホントすみません…」

 

しどろもどろになる。

凄まじく恥ずかしい。顔に熱が集まるので両手で覆う。

 

「お兄ちゃん何考えてたの…」

「明日特売のバナナのこと…一個80円は安いから…沢山買ってケーキにしようかなって…真面目な話してたのに頭がバナナでいっぱいになってましたすみません…」

 

最終的にはそうなってしまってたのでそういうことにしておく。

すると『バナナ』という単語に反応したのか奏子が即座に食いついた。

 

「バナナなら仕方ないかも…!? お兄ちゃんケーキ作ったらもちろん食べてもいいよね!?」

「僕にもそれ貰えるよね?」

「そのつもりで考えてたから…」

 

湊まで便乗したことにもうどうにでもなれと顔を覆いながらそう答えると、「ぷ、」と吹き出すような笑い声が。

 

「あははは…三上先輩のこと、怖い人だと思ってたんですけど、思ってたより普通で安心しました」

 

山岸が笑っていた。

目を見開く。何とか印象を変えることに成功したらしい。というか怖い人だと思われてたという事はやっぱり何かやらかしてたわけで。

 

(これからは気を付けないとな…)

 

もしかしたらまだ見ぬストレガのメンツとも何かあったりなかったりするかもしれない。

正直、彼らの事は憎からず思っているのであまりごたごたを巻き起こしたくない。勧誘はノーサンキューだが。

 

 

 

 

6/12(金)

 

夕方の熾烈な戦いを勝ち抜き、特売のバナナを無事ゲットしたので寮のキッチンでケーキを作ったのはいいが、殆ど奏子と湊の胃袋に収まってしまった。

モコイさんにもプレゼントしたところ、喜んで食べてくれたので嬉しい限りだ。

残念ながら明日くるであろう山岸の分は残らなかった。

奏子と岳羽が作りたそうにしてたので、今度は奏子と山岸と岳羽を誘って作ってもいいかもしれない。

奏子と岳羽はともかく山岸にはレシピ通りに作ることを厳命して材料はこちらで分量まではきっちり量ったものを用意する。勝手に別の材料を使われないようにすればいけるとおもう。…そう思いたい。

 

 

 

 

ゴォオオオオオオオオオオオオオオオ!

 

燃え盛る炎。

火柱が立ち上がるように激しく燃えるその炎を前に、自分は顔を真っ青にしてモコイさんは遠い目をしていた。

 

「あわわわわわわ…」

「燃え上がるほどバーニングだね…」

 

一言言わせてもらうなら、こんなに燃えるとは思ってなかった。が現在の心境だ。

もちろんネットでの炎上とかじゃない。放火魔でもない。

何をと言えばいいのか。何から説明すればいいのか。正直なところよくわからない。

とにかく、この炎は放置していても大丈夫なものかつ人間社会に影響を与えるものではないことは確かだ。

ただし、

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

巣の主である悪魔は身体を炭化させつつも現在進行形でファイアー地獄盆踊りしていた。

こうなった経緯は数時間前に遡る。

 

6/13(土) 放課後

 

「今度はラムレーズンケーキにでも挑戦してみようかな…」

「また何かデリシャスでウマウマなものを作るんだね」

「そうそう。あ、お酒をしみこませたスポンジのチョコケーキでもいいな…」

「モコイさん、実はとってもテイスティで好きなんスよ…お酒。グフフ」

「飲酒は駄目…いや、悪魔だからいいのか…? とにかく、未成年は飲酒目的じゃアルコール買えないからモコイさんは食べ物に入れる以外ではお酒我慢になっちゃうけどごめんね」

「ノープロブレム!」

 

ポロニアンモールにある酒屋でまた別のケーキに使う製菓用の洋酒を購入し(もちろん飲酒目的ではないことをちゃんと説明した)、帰り路を歩いていた。

いつもの道から外れていないちゃんとした道を通っていたにもかかわらず、後ろから悪魔に襲い掛かられ──もつれこんでいるうちに悪魔の巣へと迷い込んでしまった次第だ。

 

しかし怪我も治り万全の状態かつ新しい武器を手に入れた自分とモコイさんの敵ではなく。

さっくりと最深部まで到達し、さあ主とご対面だ、というところまで来た。

 

「オーーーーッホッホッホ! アタシの美貌に酔いしれ、そのまま養分となるがいいわ!」

「ワオ、とってもファビュラスだね」

「イヤね、ニンゲンだけじゃなく汚い悪魔もいっしょだなんて。濃厚な生き血が啜れないじゃないの」

 

バラの花弁が下半身になっている妖艶な美女悪魔を前に、「アレは妖樹 アルラウネって悪魔だヨ。またひとつ、賢くなったね。チミ」とモコイさんが耳打ちしてくる。

植物がうねるようにして出来ているこの巣の内部構造からみるに、見た目が思いっきり植物なアルラウネはそのまま火に弱いと見ていいかもしれない。

こういう時にアナライズしてくれる味方がいないというのはキツイ。シャドウならともかく悪魔は未知の存在なのだ。湊や奏子の降ろすペルソナと姿かたちが似ているとはいえ、そうそう弱点や耐性までもが一致するとは限らないため常に手探りの状況に戦っているに等しい。いつまでも、こちらがあてにしている同じ姿のペルソナと同じステータスだとは限らないのだ。

弱い敵なら全属性の魔法攻撃を交互に試しで打ちつつ弱点を探るというやり方もしやすいが、強い敵となってくると反射や無効で戸惑っているうちにお陀仏となりかねない。

ペルソナ・パンタソスの【アギダイン】でもいいが弱点ではなく反射だったときにこちらがダメージを負いかねないのでもう少し威力の低い属性攻撃手段をとることにした。

 

(とりあえず様子見でアギラオジェムを…)

 

なぜか悪魔の巣の宝箱(のようなもの)に入っていたジェムを懐から取り出そうとまさぐった。

つるつるしたそれを手に掴み、よく見もせずに放り投げる。

 

パリン!

「なんなのよ!? …?」

 

それは、アルラウネの蔓に叩き落とされ音を立てて割れた後()()()()()()()()()()()

おかしい。アギラオジェムなら割れた瞬間に発火するはずなのだ。だというのになぜ、とその甘い匂いを鼻腔に入れた瞬間、その正体に気が付く。

 

(しまった…! あれはさっき買った洋酒だ…!)

「アーッハッハッハッハ! なにをしてくるのかと思えば、こんなものとは! 馬鹿ねえアナタ!」

 

高笑いする悪魔がバラのような蔓で攻撃してくるのを避けるも、二撃目が飛んできて思わず買い物袋を盾にして横に飛ぶ。

買い足した小麦粉の袋が買い物袋ごと裂かれ、空気中に粉が飛び散る。アレが直撃していたら無事では済まなかっただろう。

 

「チッ…モコイさん!」

「お呼びカナ!?」

「さあ、もう逃げられないわよニンゲン! 小賢しい真似もここまでよ!」

 

ブーメランを投げようと機会を伺っていたモコイさんを呼び寄せて抱え、もう一度、と今度はちゃんとその手に取ったものがアギラオジェムだという事を確認して放り投げた。

瞬間、

 

ボンッ!!!!!!

 

凄まじい爆発と共に、アギラオジェムが火力を上げてアルラウネに襲い掛かる。

 

──粉塵爆発

 

苦し紛れに盾にした小麦粉の袋がプラスに作用したらしい。モコイさんを抱えたまま自分もゴロゴロと巣の床を転がった。

 

「いっつつ…モコイさん、大丈夫?」

「ノープロブレム」

 

起き上がると、凄まじい熱気が顔を撫でた。

そして目線の先には──

 

「ギャアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」

 

大☆炎☆上

アルコールを浴びたからか燃え盛る炎の柱となったアルラウネがもだえ苦しんでいた。

そして冒頭に至る。

 

これ、大丈夫なんだろうか。隔絶された空間である悪魔の巣の中で起きたことは人間の住む世界にあまり影響はないとモコイさんから聞いているがそれでも不安になるくらい燃え盛っている。

トリスアギオン(クソ強炎魔法)と同じぐらい燃えている。

 

「ねえモコイさん…」

葛葉(クズノハ)のサマナーくんが来ないといいね…コレ」

「…葛葉? サマナー?」

 

心配になってもう一度確認しようかと声を掛けたらモコイさんの口から聞き慣れぬ名前が。

 

「チミは知らないんだっけ。ボクら悪魔と契約してるニンゲンをデビルサマナーって言うのサ」

「へえ…」

「で、葛葉はそのなかでもイケてるサマナーのコトだヨ。で、イマのライドウくんは…ぶるぶる」

 

モコイさんが身震いする。

そんなに怖い存在なのだろうか。

 

「ボクら、正式に契約してないからサマナーと仲魔の関係じゃないんスよね…場合によっては洗脳してると取られて…がくぶる」

「ああ、口約束だもんね…」

「それに、サマナーになるには召喚器が必要で…チミがぺるそな?を召喚する銃じゃないヨ、管やGUMP(ガンプ)COMP(コンプ)トカってヤツね」

 

管とGUMP、それにCOMP。聞いたことがない。

一般人には無用の長物なので知られてない部類のアイテムなのかもしれない。

 

「ボクら見方によってはダメダメ違法ダークサマナーか、野良悪魔とそれに憑依されてるニンゲンになっちゃうのネ…」

 

それが何故先ほどの葛葉云々に繋がるのか。今のこの大炎上な現状とモコイさんの怯えようからして何となく察しがついた。

 

「もしかしてその葛葉って警察みたいなもんなの?」

「ノンノン! ポリスメンは”ヤタガラス”って集まり。ソコ、悪魔カンケー専門のポリスメン。クズノハのライドウくんはそこから依頼を貰って働いてるんだネ。デスマーチ」

 

まあ、どちらにせよ変わらないものなのだろう。

違法なサマナーと人間に害成す存在(あくま)を討伐する集団。それがヤタガラスであり、そこで働いてる強いサマナーが葛葉ライドウくん?という人物らしい。

そして自分たちは正式に契約してないのでモコイさんが人間に害成す存在もしくは2人纏めて違法サマナーとその仲魔として目を付けられかねない、という事だ。

 

「とにかくそう言うのに目を付けられないように行動しつついこっか」

「ウム」

 

目立ったりお尋ね者になるのはこちらとしても避けたい。

悪魔を狩りつつ鍛錬できるちょうどいい場所、と思いきやそういう落とし穴があったとは。というかそうじゃないと悪魔なんて言う特定条件下で人間を好き放題できる存在がいて人間が滅ばないわけがないよなあとも思った。

今の平和(仮)はそんな陰ながらサマナーが頑張ってくれていた上のものなのかもしれない。ただし今度は自分たちが頑張らないと1月末には確定事項で滅びが来てしまうのでどうしようもないけれど。

 

 

 

 

影時間

タルタロス

 

「三上、今日から私も前線に復帰する。…よろしく頼む」

「無理しないでね」

「ふ、分かってるさ」

 

アルラウネを大☆炎☆上させたあと、寮に帰ると湊と奏子がタルタロスに行きたい、と言い出したのでさっそく新メンバーの山岸を連れて来ていた。

美鶴さんも今日から復帰らしく、やる気満々だ。

しかし残念なことに自分は待機組。今日は湊がリーダーだ。

臨時リーダーだったが結局自分が不安定なので時と場合によって臨機応変に事前に相談の上で変えてもらう、という事になった。

今日の自分は待機したい気分だったし、四人組で挑まなければいけないという制約はこれっぽっちもないがバックアップする山岸が慣れるためでもあるしまずは基本の形から行こう、という事で待機を選んだ。

 

「そういえば、三上。得物を変えたのか?」

 

湊たちを見送り、しばらくぼーっとしていると、唐突に真田くんに話しかけられる。

視線の先には組み立て式のバトルアックス(模造品)が。ちなみに時価ネットたなかで購入したものだ。

本当にあそこは何でも取り扱ってるので武器商人かと思ってしまうがそんなことは無いらしい。

 

「まあね。サバイバルナイフも取り回しがよくて嫌いじゃないけど腕が完治したしこれもいいかなって」

「意外と鍛えてるのか」

「まあそんなかんじかな」

 

主に力に振ってます。なんて言っても伝わらないだろう。

正直自分でもよくわかっていない。なんで筋肉量や体形が変わらないのにぐんぐん力や魔力や体力や素早さが上がっていくのか。

ペルソナによる補正以外にも最近は成長を実感した時になにか任意で値を割り振っているような…うっあたまが。

 

「三上先輩…よかった…今日はちゃんと“視え”る…」

 

真田くんの横で、安心したようにそう息を吐いた山岸のつぶやきは聞こえるはずもなく。

結局その日は湊と奏子が満足するまで真田くんと伊織と待ちぼうけしていた。

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