君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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全ての人の魂の戦い(1/31)

暗闇の中、シュブ=ニグラスの姿が浮かび上がった。

 

「何故!? 何故です!? なぜ、そこから立ち上がれるのです!?」

「まだ、終わっていないからだ」

 

しっかりと見つめ返せば、ありえないものを見るかのような目で見られる。

 

「いいえ、貴方は終わったのです! わたくしに取り込まれた。──だというのに、何故、まだ人としての形を保っているのです!?」

「何度も言わせるな。まだ、終わっていない! なにも!」

 

叫ぶ。

こいつを退けるまでは何も終わらない。まだなのだ。

中途半端な途中で終わるわけにもいかない。それに、生きて帰ると約束した。

そう、決意したのだ。

 

「ならば、完膚なきまでに殺します。お死になさい!」

 

冷静さを失ったシュブニグラスがその触手を振るう。

しかし、シュブ=ニグラスの触手がこちらへ届くことはない。

 

「そのアルカナは示した。避けようのない死。けれど足掻くことの大切さを」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──死神。

 

「"ヒュプノス"!」【アンティクトン】

 

膨大な魔力の爆発によって焼かれ、その勢いを無くしたからだ。

恐らく、『外』では湊達がまだ戦っているのだろう。ならば、少しでもダメージを与えなければならない。

 

「そのアルカナは示した。安らぎを得、愛を知ることが死からの再起への第1歩なのだと」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──節制。

 

「"オネイロイ"!」【ヒートライザ】

 

叫ぶ。

三位一体のペルソナ、オネイロイが現れ、自身の能力を底上げする。これで、下準備はばっちりだ。

 

「そのアルカナは示した。友の裏切りによって乗り越えるべきものを」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──悪魔。

 

「“アリス”!」

『ねぇ、【しんでくれる?】』

 

アリスが現れ、シュブニグラスに向かってその指をさす。

瞬間、トランプと槍が降り注ぎ、シュブニグラスの身体を貫いた。

もう、アリスに対する怒りはない。

 

「あああっ!!」

 

初めての痛みにのけぞるシュブ=ニグラスに手を緩めることはしない。

 

「そのアルカナは示した。今まで信じてきたものに裏切られたとしても、善悪関係なく大事なものを貫く強さを」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──塔。

 

「"デヴァ・マーラ"!」【カーマ・シラーストラ】

 

神取さんとの"絆"。それは、たとえどんな関係であろうとも自分の中で息づいていた。

黒い天魔(デヴァ・マーラ)が手に持っていた円盤を天高く放り投げ、弓に矢を番え、それを天に向ける。

徐々に円盤に日輪の如く光が集まり、そして、一撃が放たれた。

流星のように落ちるそれがシュブ=ニグラスの身体を焼く。

 

「く…あ…! 小癪な…!」

 

痛みに呻きながらも、シュブ=ニグラスはこちらに向かって黒い泥を飛ばす。

それが付着した瞬間、身体から力が抜けるような感覚に陥る。

よく知るそれは、能力低下の攻撃のようだった。

【ヒートライザ】で上げられた能力値が一気にマイナスまで下がる。

 

「そのアルカナは示した。日常に充実を与え、忘れていた生きることへの希望を」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──星。

 

「…俺の星。“モコイさん”」

『生きたいネ、一緒に』【デクンダ】

「ああ、共に。生きよう」

 

暖かい光が体を包み、能力の低下(それ)を打ち消した。

 

「そのアルカナは示した。迷いや不安があっても、信じる者を頼る大切さを」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──月。

 

「"アールキング"!」

 

朝倉先生との絆の証。

老樹を思わせる風貌のそれが、大きく手に持った杖ごと腕を振り上げる。

 

【ハンノキの王】

 

癒しの力が体を包み、一気に力がみなぎって来る。

生命力の増強。それを、このペルソナは一時的にだが行ってくれた。

これでまだ、戦える。

 

「そのアルカナは示した。成功を掴み取るカギは、常に己の内で燃え滾っているのだと──!」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──太陽。

 

「“クトゥグア”!」

「負けるんじゃないぞ! 俺たちは、やり切らなきゃならないんだからさ!」【ホムスビ】

 

もうひとりの自分である、ウィッカーマン。それが変異した存在。

それでも、ずっと共に居てくれた。その炎を胸に灯し、前を見据える。

 

「あああああっ!」

 

業火に悲鳴を上げるシュブ=ニグラス。

その余裕のない様子から、だいぶダメージが蓄積してきているのがわかった。

あと一押し、いや、ふた押しか。

大きく息を吸い、叫ぶ。

 

「そのアルカナは示した。堂々巡りの輪廻の輪から抜け出し、自らの手で決着をつけることをッ!!!」

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──審判。

 

ライドウくんや、クリシュナたちとの縁。そして絆。

それらが、ちゃんとした形で力を貸してくれる。

 

「“アマツミカボシ”!」【落星】

 

何もない空間から、巨大な星が落ちる。それは、シュブ=ニグラスを凍てつかせ、その動きを止めさせた。

 

「くっ!?」

「おおおおおお!!! “ブラフマー”!!!!」

 

その隙を見逃さない。

 

カードが、眼前に浮かぶ。

その絵柄は──世界。

 

誰に与えられたものでもない、正真正銘、自分のペルソナだ。

ブラフマーが光を放つ。それは、いくつもの光となってシュブ=ニグラスに襲い掛かる。

回避行動がとれない彼女はそれをもろに受けてしまい、そのまま力なく倒れる。

終わりだ。もう、()()彼女は動けない。

 

「ふ…ふふ…ふふふ…」

 

シュブ=ニグラスが嗤う。

だが、それを聞き終わる前に、自分の意識は暗闇へと落ちていった。

 

 

 

 

「あああっ!!」

 

突如、悲鳴を上げ身もだえたシュブ=ニグラスに、消耗していた特別課外活動部の面々は勢いづいた。

何故ならば、彼女が何もしていないのにダメージを負っているというのは優希が今も戦っている証拠でもあるからだ。

 

「へっ、俺らも負けてらんねえな」【グラム】

「はい!」【イノセントアタック】

 

荒垣のペルソナ、"シグルド"がその剣でエレボスに斬りかかり、天田のペルソナである"カーラ・ネミ"も追撃に移る。

その隙をカバーするように、ラビリスの“アリアドネ”とメティスの"プシュケー"の攻撃が飛ぶ。

迎撃能力を持たず、元々大柄で回避行動などというものをとれないエレボスは、まともにそれを受けるしかない。

 

「────!」

「お願い、“アテナ”!」【ゴッドハンド】

 

大きくのけぞるエレボス。そこへ、アイギスの"アテナ"が放つ拳が叩きこまれる。

バランスを崩し、頂上の床へと轟音を立てて沈んだエレボスに炎の爆発が襲い掛かる。

 

「っしゃあ、どうだ!」

「ワン!」

 

ガッツポーズをする順平と、どうだと言わんばかりに吠えるコロマル。

その横を、明彦が走り抜ける。

 

「"カエサル"!」【ジオダイン】

 

そしてそのまま召喚器の引き金を引き、"カエサル"を呼び出し稲妻を落とす。

電撃を受けたエレボスはしかし、次の瞬間には態勢を立て直し、明彦へとその剛腕を伸ばそうとしていた。

 

「やらせないんだから!」【ガルダイン】

「ああ、やらせはせん!」【ブフダイン】

 

それを、ゆかりの“イシス”の【ガルダイン】と美鶴の"アルテミシア"の【ブフダイン】によって急速に作り出された氷壁が邪魔する。

 

「く…あ…! 小癪な…!」

 

上に乗るシュブ=ニグラスが歯噛みする。優希を食らったところまでは余裕たっぷりだった彼女が、焦っている。

その余裕の無さに、追い詰めていることを感じつつも気は抜けない。

エレボスの四つの目がこちらをぎょろりとにらむ。そして、天高く吼えた。

 

目の前に、闇を凝縮したかのような球体が生まれ、そして滞空する。

 

「何? あの光は…何かとてつもなく嫌な予感がします…」

「あれは…早く破壊しないと不味いことになります。全力で阻止して!」

 

風花の言葉にかぶせるように、メティスがそう告げる。

その言葉を聞いた瞬間、奏子と湊は顔を見合わせた。

そして、手をつなぐ。

 

「いくよ、湊」

「うん、奏子」

 

空いている方の手で、召喚器を持ち、自らのこめかみに突きつける。

 

「「ペルソナ!」」

 

現れたのは、黒の破壊神(シヴァ・マハーデーヴァ)白の魔神(ヴィシュヌ・マドゥースダナ)だ。

その二柱は光となって天高く昇ると、上空でひとつの光となって舞い降りた。

それは、シヴァとヴィシュヌの合体神。破壊と創造を司るもの。

 

「「──“ハリ・ハラ”!」」

 

白黒のその姿のペルソナが、その手に光を集める。そしてそれを、静かに闇へと向ける。

刹那、爆発。白い光の柱がエレボスごと闇を焼き、霧散させた。

 

「すごい…力の拡散を確認! 攻撃、何とか阻止されました…!」

 

風花が感嘆の声を上げる。

それと同時にエレボスが悲鳴を上げ、再び地に伏せ、闇へと溶けていく。

残ったのは、倒れ伏したシュブ=ニグラスと優希だった。

 

「…やったか!?」

「お兄ちゃん!」

「優希!」

 

湊と奏子が駆け寄り、抱き起こす。

幸い、まだ息はあるようだった。

 

「う…」

 

目が開く。どうやら意識が戻ったらしい。

 

「俺は…、っ!」

 

ぼんやりと視線を彷徨わせていた優希だったが、慌てて飛び起きる。

 

「いや、まだだ。まだ、終わりじゃない」

「ふ…ふふ…ふふふ…」

 

シュブ=ニグラスが嗤う。

そう、まだ、終わりではない。湊達が倒したのは、あくまでもエレボスだけ。

そして優希が倒したのは、シュブ=ニグラスの"端末"だ。

本体には何らダメージは入っていない。

 

「認めましょう。貴方達の力を。けれど、もう、“終わり”です」

 

ぐ、と上半身を起こしたシュブ=ニグラスの身体が浮かび上がる。

 

「男神たるわたくしの力は既に取り戻しました。あとは、この世界を"壊し"、全てをひとつにするだけです」

「させるか!」

「逃がさへん!」

 

そう言い残し、月へと吸い込まれていくシュブ=ニグラス。

そんな彼女に対し、皆が全力の攻撃を放つがすべてすり抜けていく。既に、その身体は虚像となり、攻撃を受け付けるものでは無くなってしまったのだ。

 

完全にその姿が消えた瞬間、地面が揺れる。

 

「月が…!」

「まもなく…間もなく落ちてきます。…この場所へ」

 

月面が割れ、中から醜悪な触手が何本も飛び出してくる。

それは、真っ白だった月を侵食し、黒い混沌の塊となってタルタロスの頂上へ向け、“落ちて”くる。

 

その瞬間、象徴化していた人間たちが一気にその姿を取り戻した。

異様な空気にタルタロスの塔。

天から舞い降りる、直視するのも耐えがたい身の毛もよだつ謎の物体。混乱する民衆の中で、ニュクス教の信徒が声を上げた。

 

「は、ははは…預言の通りだ! ひゃははっ! あが…っ!?」

 

だが、その言葉は最後まで発されることはなかった。

シャドウ化し、ばちゃりと地面に落ちたからだ。

 

「きゃあああ──!!!!」

 

悲鳴が木霊する。

各地で人間のシャドウ化が起こり、街は騒然となった。

まさに、終末。大パニックだった。

そんな中、はるか遠く、タルタロスの塔がある場所を、三上夫妻は家の外に出て見つめていた。

家の中で寝ていたのだが、異様な雰囲気を感じ、起きてきたのだ。

そんな二人に、シャドウが襲い掛かる。

 

「やらせねえよ!」【狐火のアプト】

 

チロンヌプが三上夫妻を守るように、炎を飛ばす。

 

各地で現れたシャドウと戦うのは、なにもペルソナ使いだけではなかった。

 

「ヒホ! ヒーロー見参だホ! みんな、ニンゲンを守るホー!」【復讐の氷拳】

「えーいっ! 食らいなさい!」【ザン】

 

ジャックフロストだった悪魔──エースフロストが氷を纏った拳を1体のシャドウにたたきつけて霧散させ、その隙を補うようにピクシーが衝撃波を放つ。

魔界で、優希たちに助けられた弱小悪魔がシュブ=ニグラス降臨の影響で異界に近くなった人間界に現れ、この数週間で力をつけ──または協力を募り、シャドウへと立ち向かっているのである。

そして、ライドウも。東京を守るために必死に戦っているのだ。

 

「ヨシツネ! コウリュウ!」

「なんだ、こいつら…味方…か?」

 

朝倉は突然の野良悪魔の出現に困惑した。だが、襲ってこないのならそれでいい。

朝倉は仲間と共に、事態の鎮圧にあたるのだった。

 

 

一方、タルタロスの頂上。

 

「これは…」

「どうなってんねや!」

「順平!」

「乾君! ナギサ! 大丈夫か!?」

 

ストレガの4人はボロボロになりながらも頂上へとたどり着いた。

神取と幾月の両名を退けたのだ。だが、正確に退けたのは神取一人だけで、幾月は倒したと同時に溶けるように消えてしまったのだが。

 

「大丈夫です! でも…」

「こんなのどうすれば…!」

 

ニュクスの正体は月だと知らされていた面々だったが、余りの規格外の大きさとその異様さに困惑する。

衛星を破壊するなど、そんなパワーを持つペルソナも兵器もない。

もっとも、破壊したらしたで落ちて来る破片のことなども考えると破壊するのは得策ではない。

 

「! ...何か来る!」

 

風花がそう言った瞬間、重圧が全員に襲い掛かる。

重力波にも等しいそれは、あっという間に消耗していた全員の膝をつかせようとする。

しかし、

 

「負けられっかよ…!」

「そうだよ…こんなところで…」

「せや…ウチら...まだ負けられん…!」

 

皆が、重圧に負けずに踏ん張る。

だが、二度、三度とくる重圧に耐えられるわけもなく。

最初に倒れたのは一番小柄な天田だった。

 

「天田! ぐっ…」

「くそ…こんなところで…!」

 

バキン、とアイギスたちの関節が嫌な音を立てて軋む。

次々に倒れていく仲間たち。それを見つめながら、優希はただ一人最後まで立っていた。

 

 

 

──Rank UP!

 

XⅪ “原型(アーキタイプ)

 

三上優希 Rank9→Rank MAX

 

“原型”のペルソナを生み出す力が増幅された!

"??????"の合体が解禁された!

 

 

目を開く。視界いっぱいに広がるのは一面の青。

かすかにピアノで奏でられる『月の光』が聞こえる。

水槽が一面を取り囲み、水面が月光を反射する。まるで水族館のようなそこは、湊や奏子のベルベットルームとは大きく違っていた。

 

その長椅子に、自分と奏子、そして湊が並んで座っていた。

机を挟んだ向こう側にはイゴールとマーガレット、エリザベス、テオドアの姿が。

 

「約束を、果たす時でございます」

 

約束。

はて、約束など、した覚えがあっただろうか。

そんな疑問を口に出す間もなく、イゴールは笑う。

 

「ええ、ありますとも。私どもは貴方と──貴方がたと"とある"約束をしました」

 

そう言って両手をもみもみと揉んだイゴールは、目を伏せた。

 

「さて、話はほどほどに、本題に参りましょう…私共の役割。それは、“お客人の力をひとつに束ねること”、にございます」

 

ひとつに、というのはどういうことなのだろうか。

そんな疑問が浮かんでくるが、イゴールは答えようとせずに耳を澄ませた。

 

「聞こえますかな…数多の声が。ひとつひとつはごく小さな力…しかし確かに貴方がたに向けられている…届いておりますかな?」

 

わからない。その声は直接聞こえているわけではない。だが、

 

「目を閉じ、耳をお澄ましなさい…微かですが、感じるでしょう?」

「…ああ。感じる」

 

言葉はない。それでも、胸の中にしっかりと温かいものを感じる。

 

「これらは全て、絆を胸に、貴方がたの力にならんとする願いの声…それぞれは微かな力でも、その集まりが大きな変化をもたらすのです」

 

光がだんだんと大きくなっていく。

 

「──今こそ、"絆の力"の真価をお目にかける時です!!」

 

光がはじけ、一枚のカードが現れる。それは、いやというほど見た、宇宙(ユニバース)のカードだった。

 

「これは、全ての始まりの力であり、そして、全てを終える力でもあります。それでは、私共の仕事と参りましょう」

 

そのまま奏子と湊に渡すわけではないらしい。そんなことをしようものなら横から奪い去ってやるところだったのだが、まだ何かあるらしい。

 

「さあ、始めましょうぞ…」

 

自分の頭上に一枚のカードが浮かぶ。左右を見れば、奏子と湊の頭上にもカードが浮かんでいる。

その絵柄は、姿違いのシヴァとヴィシュヌだった。

それらが、イゴールの手の動きに合わせ、シャッフルされていく。

そして、“宇宙(ユニバ―ス)”のカードと合体し、光となって自分の胸に吸い込まれた。

力が、みなぎってくる。

 

「…もはや何事の実現も、貴方にとっては奇跡ではない」

「この部屋も、ようやく真の姿を取り戻せる」

「貴方がここにこうしていること。人として生まれたこと。それが運命なら、この力を得たのもまた運命…ですが、貴方は抗った。避けようのない死を。その、運命の全てを」

 

イゴールは、ほう、と息を吐いた。

 

「契約はついに果たされました…私の役目は、ひとまずこれで終わりです」

 

そうして、微笑む。

 

「──…貴方がたは、最高の客人だった」

 

一面を覆っていたガラスに、ひびが入る。そのひびはどんどん大きくなり、やがて亀裂となり、ガラスをぶち破った。

流れ込む海水。不思議とその中でも息ができる。それでも、上から差し込む太陽の温かい光に視界が焼かれ、意識を手放した。

 

 

意識を取り戻す。

驚くほどに体が軽い。立ち上がる。

 

「そんな…」

「行かないで!」

「なんで立てねえ…! オレたち…何もできねえってのかよ!?」

 

そんな声が聞こえ、振り返る。

 

「お兄ちゃん…信じてるから!」

「死んだりなんかしたら、赦さない」

「行くな優希っ! 一人で、ひとりで行かせてなるものか! くそ、動け…っ!」

 

笑いかける。いつもと同じように、穏やかに。

恐れるものは何もない。全て、上手くいくのだから。だって、そうじゃなくちゃおかしいだろう。

これだけ揃っていて、駄目だなんてこと、許されない。

 

「行ってきます」

 

そうして、混沌の塊()の内部へと吸い込まれていった。

 

 

 

混沌の塊()の内部

そこには、何もない。一面の闇が広がっていた。

しかし明確に、こちらへと漆黒の炎が降りて来る。

 

【DEATH】

 

それを、身に受ける。

身体が焼ける。痛くない。

 

『くっ…このまま僕たち...何にも出来ないなんて!』

『諦めるな! どんな時でも、アイツと俺達はひとつだ!』

『どうか…彼に力を!! 共に生きれる未来を!』

 

仲間の想い(ねがい)が、力を呼ぶ。

胸に、温かいものが広がった。

 

『先輩が帰ってこなかったら、奏子ちゃんと有里くんはどうするの!? だから…絶対帰ってきて!』

『すごい…世界を滅ぼす力と、たった1人で…!!』

『ひとりなんかじゃねえ! オレが…オレらが絶対死なせねえ!!』

 

仲間の想い(ねがい)が、力を呼ぶ。

胸に、さらに温かいものが広がった。

 

『ワンワンッ!』

『あなたを生んだこの世界が滅びるなんて絶対ダメ…!』

『そうです、絶対に生きて戻ってきてください…! じゃないと…じゃないと…!』

『ウチも…待ってるから…! だからナギサくん…帰ってきて…!』

『そうよ、くたばったらタダじゃおかないんだから!』

 

仲間の想い(ねがい)が、力を呼ぶ。

胸に、さらに温かいものが広がった。

 

『ナギサ。ここまで来て死ぬだなんて私は許しはしない。それだけです』

『タカヤは素直やないなぁ…まあ、それが貴方のええとこでもある。負けるなや、ナギサ』

『わたしからは、何もないわ。ただ、順平のことは…感謝してる。だから死なないで』

『死ぬなよ、ナギサ。俺はまだ、恩を返し切ってないんだから』

 

仲間の想い(ねがい)が、力を呼ぶ。

胸に、さらに温かいものが広がった。

 

『ナギサ、負けないで…!』

『僕らは、信じてる。お兄さんが運命に打ち勝つことを!』

 

朔間くん──モルフェと綾時くんの想い(ねがい)が、力を呼ぶ。

胸に、さらに温かいものが広がった。

 

『ぜってー死ぬんじゃねー! 死んだら殺す! 以上!』

『あの子らが戦ってるんだ、アタシらももうひと踏ん張りと行こうじゃないか、ライドウ!』

『ええ。三上さん…貴方が戦っているのがわかります。だからどうか、負けないで』

『優希…負けないで…!』

『負けるんじゃないぞ…!』

 

朝倉先生、アザミさん、ライドウくん、養父母の──否、生きとし生ける全ての存在の想い(ねがい)が、力を呼ぶ。

今ならば、やれそうな気がする。

全てを解決する、たった一つの冴えたやり方を。

 

手に、光が集まる。

それはひとつの銃の形を成し、手に収まった。

それを、闇の一点に向ける。

 

「これが、俺達の“答え”だ」

 

銃弾が発射される。

それは、ただの銃弾じゃない。皆の願いが詰まった、たったひとつの弾だ。

だが、傷つけるためじゃない。この弾には殺傷能力はない。ただの“祈り”。

こちらの願いが強いのだと、()()()()貰うためのものだ。

 

「【トリムルティ・サンサーラ】」

 

天に、光が差す。それは徐々に強くなっていき、闇を晴らした。

 




次回、最終話 『君、死にたまふ事なかれ』
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