君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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君、死にたまふ事なかれ(1/31~3/5)

シュブ=ニグラスの本体。さらにその上から、光が降りて来る。

それは、月の光ではなく──暖かな太陽の光だった。

太陽の光はひとつの蓮の花のようにシュブ=ニグラス()を包み──

 

気が付いたときには、一面の宇宙が広がっていた。

どこか温かく、明るいその場所は足元が水面になっている。

穏やかに寄せては引き、寄せては引く。波打ち際のようなそこは、不思議と落ち着く感覚を得る。

 

ここは、心の海。魂の始発点であり終着点。世界の奥深くにある場所。

“アートマ”である。

生と死の狭間。その水際(みぎわ)。それら双方だけの場所。

たった、それだけで構成されている場所だった。

それをここに居る面々は知る由もないが。

 

「ここは…」

 

皆が、周りを見回す。

 

「シュブ=ニグラスの…いや、“彼”の力が生み出したのか...?」

 

美鶴はそう呟く。

その言葉に、この景色に飲まれかけ、はっと明彦は忘れかけていたことを思い出す。

 

「山岸、あいつは無事か!? 戦いはどうなった!?」

「光に包まれた時、全部消えてしまって…もう…何の反応も…」

 

泣きそうな声で、風花がそう告げる。

消えてしまった。その事実に、全員に絶望感が蔓延した。

 

「まさか、この力と引き換えに…」

「なに言ってんだよっ!! そんな筈ねえっ!!」

「ええ、そうです。そんなはずはない」

 

順平とタカヤが、否定するようにかぶりを振る。

こんなにも暖かい場所だというのに、ひとりが居ないだけで不安になる。

 

「お兄ちゃんは帰って来るっていった! 絶対、居るはず…!」

「三上先輩、居るんでしょ! だから、返事して!」

「わたし達はここです!! 声を聞かせて、お願い!!」

「──居るんでしょ、“兄さん”」

 

必死の呼びかけが宇宙に木霊した。

皆、この空間をきょろきょろと見渡し、居なくなった優希を探している。

──と、その時。

 

「ああ。“ここに”いるよ」

 

声がした。

その瞬間、水面が揺れ、ひとりの人物が姿を現す。

 

「お兄ちゃん…っ!」

「優希…」

 

それは、優希()だった。

傷ひとつないその姿に、皆、安堵する。そして、奏子が抱き着こうと駆け寄った。

が、

 

「え…?」

 

それは透明な壁に阻まれ、叶うことはなかった。

一体どういうことなのか。疑問が奏子の頭を占める。

その疑問は、奏子だけでなく、他の面々にも波及していった。なぜ、触れられないのか。

嫌な予感がする。

 

「な、なんで…? お兄ちゃん…?」

「自分は、皆と一緒には帰ることはできない」

 

発された言葉に、衝撃が走る。

帰ることはできない。つまり、優希()はもう、死んでしまったということなのか。

約束を守ることはできないということなのか。

結局、ニュクスを封印することを肩代わりする、それと同じ結果になってしまったのか。

 

「な、んで…なんでや!? なんでナギサくんだけ…!」

 

ラビリスの言葉に、優希()が一瞬目を伏せる。

しかしそれは本当に一瞬の出来事で、視線を合わせ、そして微笑んだ。

 

「自分はもう、人の身じゃない。だから、行かなきゃいけない場所がある」

 

優希()は後ろを振り向く。そこには、女神であるシュブ=ニグラスやモコイ、アリスに黙示録の四騎士など、沢山の悪魔の姿があった。

それらは、優希()が話し終わるのを待っている様子でもあった。

 

「なら、わたしも行かなきゃ。ただの人の身でないというのなら、わたしも!」

 

メティスが前へ一歩出る。だが、透明な壁はメティスを通すことはなかった。

 

「どうして!? わたしも…わたしだって、ニュクスなのに!? どうして行けないの!」

「きみはあくまでカケラだ。大本の本体はまだ心の海で眠っている。そして、これから目覚めることはない。もし、目覚めたとしても、全てのモノに死をもたらすものではなく、ただの悪魔だ。だから、還る必要はない」

「まさか──書き換えた…?」

 

メティスは慄く。まさか、死の概念を書き換えたのか。

そんなこと、出来るはずがない。そんなことをすればこの世の摂理は狂ってしまうだろう。

 

「死をもたらしたという事実は変わらない。けれど()()()()()無害なものに変化させることはできる。人々の認知が、そうさせたんだ」

 

人々の認知。願い。月が滅びを齎すものではなく、ただの月だという認知を増幅させ、書き換えた。

それをなんてことはないという風に告げる優希は、もはやただの人ではないということをメティスに教えた。

なにものも、今の優希()を邪魔することはできない。一種の“概念”。ニュクスがもたらした“死”と同等の存在になったことを意味していた。

 

「帰って、来れるんだろうな? テメエだけ居ねえなんて認めねえからな…!」

「大丈夫。ちゃんと、帰ってくる。約束の日には」

 

穏やかに、ごく穏やかに、優希()は告げた。

そこに何の心配もいらない、という風に。

 

「持ちすぎた力を、置いてくるだけ。ただの人に戻るために、大事なことなんだ」

 

だから行くのだと、優希()は言う。

 

「ああ、そうだ」

 

それは忘れ物をしたかのように、発された。

 

「“俺”をよろしく」

 

渚は、なんてこともないのだという風にもうひとりの自分(優希)を切り離した。

透明な壁をすり抜け、仲間たちの前に投げ出され、尻もちをつく。

 

「え…!?」

 

困惑したのは、切り離されたウィッカーマン(優希)だ。

共に行くつもりだった。だというのに、渚はウィッカーマン(優希)を切り離し、一人で行こうとしている。

 

「待って──!」

 

手を伸ばす。置いて行かないで。ひとりで、行こうとしないで。

そんなウィッカーマン(優希)の抵抗虚しく、話は終わったと言わんばかりに渚は後ろを向いた。

 

「それじゃあ、後は頼んだ」

 

 

 

 

戦いは、終わった。

タルタロスも、影時間も、消え去った。

奇跡は起こり…世界は、滅びをまぬがれた。

死する運命だった二人も救われた。

 

そして…街にも、平穏と普通の暮らしが戻った。

もう誰も、天変地異のことなど覚えていない。

 

そして…季節は流れた。

 

 

 

 

3月3日(水)

月光館学園高等部前

 

うららかな春の日差しの中、奏子と湊、そして黒髪の少年が校門から校舎へと続く道を歩きながら話している。

黒髪の少年は、そのストレートな髪を短く切りそろえており、くあ、とあくびをした。

 

「優希お兄ちゃん、またラビリスさんと喧嘩したの?」

「優希は喧嘩するっていうより、どちらかというと尻に敷かれてるほうでしょ」

「…とほほ」

 

優希と呼ばれた少年は、肩を落とす。話題に上がるのは、恋人であるラビリスという少女とのやりとりだ。

どうしてだかは覚えていないが、同じ寮に住んでいて付き合うことになった彼女とのドタバタな毎日は充実していた。

 

「よう!」

「おはよう!」

 

そうやって登校していれば、後ろから順平と綾時が駆け寄ってくる。

 

「三上センパイおはよーございます! んで、湊と奏子っちは寒みーのに、今日もサボらずガッコ来てんね。感心、感心」

 

にかっと笑うその笑顔は陰りが無い。

 

「つか、もう1年過ぎちまったな…来年から三年だぜ? 高校もあと1年で終わりか…その先、なぁんか面白いことあんのかね?」

「あるに決まってるっしょ!」

「ウワ、三上センパイが言うと説得力あるっていうか。マジリスペクトっすわ」

 

バシン、と優希が順平の背中を叩く。

その表情は悪だくみをする時そのもので。

 

「大人になったらなんと! 大人買いができちゃうんだぞ! これ、すごくないか?」

「規模が小さい…」

 

帰国子女で金持ちの綾時は言わなかった。

大人にならなくても大人買いはできるよ、と。だが、キラキラと目を輝かせる順平と優希に対し、そう水を差すのは悪いなとなんとなく思ったため、口をつぐんだのだ。

湊は空気を読まずにドン引きしていたが。

 

「でもなんか、三上センパイ以外の三年見てるとさ、なーんか勉強してるだけっつーか…いいんかなぁ、オレたちも、こんなんで。なんか忘れてるっていうかさ…」

「俺以外ってどういうことなのさ」

「や、センパイはなにやってても人生充実してそうだなというか…エンジョイ勢、てきな?」

「ふふん、苦しゅうないぞ、伊織!」

 

話しながら歩く。すると、木陰から誰かが覗いているのを順平は見つけた。

金髪のその少女は、こちらをじっと見つめている。

 

「あれ、あの子…なんかこっち見てねえ? つか、ナニゲにカワイくねえ!? あんな子、この学校に居たっけ!?」

「何言ってんの、キミは。同じ寮の子でしょ? ほら、ラビリスさんの妹の…」

 

そこへ、ゆかりがなにいってんだこいつと言わんばかりに歩み寄り、ツッコミを入れた。

しかし、順平には覚えがない。

 

「マジ!? そうだっけ!? え…名前は?」

「そこまでは…知らないけど」

「んだよ、結局よく知らねんじゃん。センパイは?」

「えー…妹さんのことまでは…あんまり…」

 

困ったように眉を寄せる優希に、順平は肩を落とした。

 

「つーか寮さ、年度の節目でバタついてて、人の出入りとか最近分かんねーよな。三上センパイも卒業で出て行っちまうし、真田先輩ももうすぐ出てくって話だぜ」

「ふーん、そうなんだ…でも、荒垣先輩は留年で出て行かないみたいだよ」

「奏子っちの彼氏サンだっけ。留年、かあ…」

 

順平は留年、と聞いて羨ましいようなそうでないような気持になる。

だが、

 

「あの人は、ケガか何かで療養してたんでしょ。アンタは留年しちゃダメだかんね」

「わーってるっての!」

 

ゆかりにきつく言われ、叫ぶように返事をする。留年なんて、良いことはないのは明らかだ。

もう一度三年生をやり直すだなんて、考えたくもない、と順平はその思いを振り払った。

 

「てか、卒業生は出てくでしょ。桐条先輩も、もう仕度始めてるしね」

「桐条って…ああ、生徒会長サンか。ウチの寮だったんだよな」

 

そこで、話は終わる。

全員で顔を見合わせ、声をかけたのは綾時だった。

 

「ねえ君、どうしてこっちを見てるんだい? 何か用でもある?」

「! あ、いえ…なんでもないです」

 

思いつめたような表情をし、金髪の少女はそのまま去っていってしまった。

 

「なんか…ちっと思い詰めてる感じじゃなかった? …って、もしかして、オレらの誰かに気があるとか!?」

 

目を輝かせ、順平はウキウキと弾んだ。

あんな可愛い少女がこの中の誰か──彼女持ちである優希は除く──に気があるというのは一大イベントである。

 

「ハハ、あり得ないね」

「順平くんは他校のチドリちゃんといい感じなの忘れてるのかなー? 大丈夫?」

 

ゆかりが否定し、奏子が釘を刺す。

何を隠そう、順平は他校の生徒である吉野チドリという少女と夏ごろに出会い、今とても“イイカンジ”なのだ。

そんな彼女を置いて、告白されたいなどというのは言語道断、浮気なのではないかと奏子は釘を刺したのだ。

 

「うぐ。奏子っちはともかくゆかりッチ、相変わらず、そういうツッコミ、カワイくねぇーよな…」

 

そしてまた、会話は止まり歩き出す。

 

「なあ…そう言や、ゆかりッチさ…」

 

不意に、また順平が口を開いた。本当に、唐突に。しかしそれはすぐ閉じられてしまう。

 

「あ…悪ィ、やっぱいいや」

「何よ、言いかけといて。勝手に止めないでよ」

「いや、その…オレらって、なんで仲良くなったんだっけ?」

「?」

 

順平の疑問に全員がはてなマークを浮かべる。

なんで、今更そんなことを言い出すのか。わけがわからなかったからだ。

 

「いや、深い意味はねえんだけど、ふと、そんな風にさ…」

「別に、特別仲良いつもりも無いけどね。たまたまじゃない?」

「ハハ、そうだったよな…」

 

虚しく笑う順平の笑顔はどこかカラ元気のようで、ゆかりも不思議がる。

 

「でも、不思議だよね。うまく言えないけど、ちょっと…分かるかも」

「?」

「え…?」

「よく分かんないけど、何かヘンっていうかさ…」

 

ゆかりが眉をしかめる。何かを思い出せそうで、思い出せない。

 

「そういえば…さっきの子…」

 

何かを言いかけた。その時。

学校のチャイムが鳴る。

 

「っべ、遅れる!」

 

一番に駆けだしたのは優希だった。

 

「無遅刻無欠席の記録がここでパーになるなんて考えたくない!」

 

そんな叫びを残しながら、駆けていく優希の後ろ姿を見ながら、一行も校舎へと入っていくのだった。

 

先程まで話していたことを忘れて。

 

 

3月5日(金)

午前

 

卒業式の日だ。

ホールには、全校生徒が集まっている。勿論、留年予定の荒垣もそこにいた。

 

「…いよいよ、お別れの時が迫りました。最後になりますが、私たちは先輩方にお会いできたことを心から誇りに思います。皆様方のご健康とご活躍を心よりお祈りし、お別れの言葉と致します。2010年、吉日。在校生一同より」

 

在校生の祝辞が終わり、お辞儀をして、去っていく。

 

『続きまして、卒業生、答辞』

 

司会の先生が、次のプログラムを発表する。

 

『卒業生代表、D組、桐条美鶴さん』

「はい」

 

壇上に、美鶴が上がる。そして、礼をしてからマイクの前に立った。

 

「学園で過ごした最後の年は、私にとって大役を拝命しての1年となりました。生徒会長の任を果たすにあたり、私は考え、1年前のこの檀上で、皆さんに言いました。未来の時間には限りがあるという事から、目を逸らしてはいけないと」

 

さらに美鶴は言葉を続ける。

 

「思えばこれを考える機会を与えられたのは、運命だったのかもしれません。ご存じの方はいらっしゃらないかと思いますが、私は昨年、許嫁の彼を…」

 

だが、そこで言葉が止まる。

なにか、違和感を感じたのか、一瞬上を向き、そしてまた向き直る。

 

「彼を…一度病で失いかけるという、試練に…」

 

澱みながらも言葉を続けるが、頭を痛みが襲ったかのように美鶴は押さえる。

 

「一度…失う…?」

 

本当に、そうだっただろうか。許嫁の顔は、どんなだったか。思い出せない。

こんなにも愛しているのに。この気持ちは、どこから。

 

そんな風にスピーチを詰まらせる美鶴に、会場はざわつく。

 

「珍しいな。あの人がスピーチつっかえるなんてさ」

「だよね…なんか、変じゃない?」

 

そんな周りをよそに、美鶴は目を見開く。

 

「そうだ…思い出した…」

 

その言葉は、マイクに拾われることはなく。

 

「そう、私は彼の死に触れ、一度は生きる意味さえ失いかけた」

 

スピーチが続いていく。それは、先程の不安定な様子とは違い、はっきりとしたもので。

 

「あれ…私、大切なこと…」

「?」

 

何かを思い出そうとしているゆかり。その横で呆然としている順平の肩に、手がかけられた。

 

「え…? 真田…先輩?」

 

同じ寮のよく知らない先輩。それが肩を掴んできた。

そのまま立ち上がらされた順平の周りは騒然としている。

それを、風花は見つめた。一体何があったのかと。

その瞬間、思い出した。

 

「…!」

 

風花は、立ち上がる。

 

「でも、今は違う。未来から逃げない。必ず、立ち向かうのだと」

 

スピーチは続いている。

 

「覚悟にはもう一点の曇りもない。何故なら、」

「約束!」

 

通路に出て、風花と合流した順平が声を上げる。

そしてそのまま、ゆかりや荒垣と合流し、通路の真ん中に立つ。

 

「何故なら、私には大切な仲間が居て、そして、どんな未来からも目を背けないと誓いあったからだ!」

 

そう言うや否や、美鶴は壇上から降りる。

さらに騒然とする会場。しかしそれを気にも留めず、美鶴は仲間たちの元へと駆け寄った。

 

「先輩、私たち、奏子ちゃん達の事…」

「ああ、分かっている。みんな、行こう!」

 

ゆかりの声に、返事をして駆けだす。

約束を果たすために。止める声もあるがそんなものは関係ない。そんなものよりも、約束の方が大事だ。

大事な人の待つであろう、そこへ。

 

 

 

「貴方は、誰なんですか?」

 

遡る事、5分ほど。

桜の舞う月光館学園高等部の屋上。そこに、優希と湊と奏子、そしてアイギスたち三姉妹が居た。

そこにいる全員が、既に記憶を思い出している。

空気は穏やかではあるものの、優希という正体不明の人物に警戒心を露にしないわけにはいかなかった。

なにせ、湊と奏子の義理の兄の立場に居るのだ。そう、あるはずのない記憶が訴えかけてくる。

 

「俺? 俺は三上優希だよ」

「そういうことじゃなくて…」

 

飄々と、優希は笑う。

そういう意味ではないことは優希もわかっていた。フェンスに背もたれし、再び口を開く。

 

「でも、俺は三上優希だ。正真正銘のね」

「ど、どういうこと…!? なんで私たちの記憶の中には、お兄ちゃんと、優希お兄ちゃんのふたつの記憶があるの!?」

「さあ。それは渚に訊かないと。きっと渚がなんかしたんだろうし。俺はなにもしてないよ」

 

お手上げ侍、と両手を広げるその姿は、奏子と湊の血縁者には見えない。

要するに、全く似ていないのだ。だが、三上夫妻にはよく似ていた。

 

「変わってしまったけど、元は俺は渚と同一人物だ」

「ユウキくんは、ナギサくん…と同じ存在ってこと?」

「そう」

 

優希は説明する。

ずっと、三上優希としてこの一年以外を過ごしてきたのは自分でもあるのだと。

元々一つだった存在が、二つに分かれただけなのだ、と。

それを聞いても、面々の曇りは晴れなかった。それもそうだ。ずっと近しいと思っていた人物が、実は知らない人物。存在するはずのない人物だったのだから。

 

「ふたつに分けるだなんてそんなこと…」

「できるよ。だって、あの渚には不可能なんて言葉は無かったんだから」

 

宇宙(ユニバ―ス)ではない、未知の力を振るったという渚のことを優希は思い出す。

あの渚であれば、ひと一人を世界にねじ込むことなど容易に可能だろう。

それも、その名前で誰か()が存在していたという基盤があるならなおさら。

 

「そんなことして…ナギサくんもユウキくんも大丈夫なん?」

「え? 大丈夫。超元気。マジで」

 

口笛を吹いて見せるも、ラビリスの表情は明るくならない。

実際、平気なのだ。渚はもう、自分という魂を繋ぎとめるものが無くとも存在していられるし、自分も奇跡によってひと一人分の魂になった。だから、なんともない。

 

「それならいいんですけど…」

 

納得いかない、と言いたげなメティスの視線を避けるように優希は顔を逸らす。

どうも、苦手だと思ってしまう。ウィッカーマンであるということを知られているのもあるが、昔からの仲のような感じがしてムズ痒い。

 

その瞬間、勢いよく扉が開いた。

 

「みんなっ!」

 

駆け寄ってきたのは、記憶を思い出した天田やコロマルも含めた特別課外活動部の全員だった。

これで、全員揃ったことになる。ひとりを除いて。

 

「思い出したんだね…」

「うん…!」

「でも…三上せんぱ…じゃなくて、有里先輩が…」

 

風花が困惑する。それもそうだろう。記憶にある“三上先輩”はそこにいる少年ではなく、これまで共に戦ってきた青い髪の少年なのだから。

 

「まさか…戻って来れなかったんじゃ…」

「そんな…」

 

嫌な予感がした。

戻って来る、とは言っても口約束に過ぎない。あの渚のことだ。口約束だけして、去っていく、だなんてことを平気でするだろう。

折角記憶を思い出したのに、犠牲者が出てしまった。信じたくない。皆が、そう思っただろう。

 

ふと、ドアが開く。教師が追ってきたのだろうか。卒業式の途中で7人ほどの生徒が居なくなったのだから探しに来てもおかしくはない。

 

強い風が吹き、桜吹雪がその姿を一瞬隠す。

だが、それが晴れたとき、姿を現したのは。

 

 

 

「──みんな、ただいま」

 

 

 

待ち望んでいた、その姿だった。

 




これにて、完結です。
長らくご愛読してくださった皆さま、感想をくださった方々、ほんとうにありがとうございました。

P3主人公たちを救いたくて始めたこの物語、紆余曲折あり、一時は非公開(削除)を挟んでしまいましたが応援のおかげで無事完結までたどり着けました。
そのことに感謝しかありません。

色々とオリジナル要素山盛りになってしまい、ペルソナ3の小説として「これでいいのか…?」と悩むこともありましたが個人的に納得のいく形になったかと思います。
これからの更新についてはアンケート結果の短編を1話、あとは活動報告にて語りたいと思います。

再度、この物語を読んでくださった皆様に感謝を。ありがとうございました。

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