君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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ちょっとした蛇足です。


小話
有里渚調査報告書


 

※鳴海不在により、ゴウト再々々々代筆

 

別件にて港区へ遠征。

調査を行っていたところ、有里渚(以下 甲)なる人物と遭遇。

甲、魔人の分霊の何柱かをその身に宿す。また甲、人修羅と類似案件たる“魔人との殺し合い”なる騒動()渦中にあり。

()くして17代目の失踪事件と並行して(これ)を調査。

一方、17代目の仲魔たるモコイ(以下 乙)と接触するも、乙、逃亡。

行方暗に知れず。

 

本件之大なる収穫、17代目の行方知れる処也(ところなり)

港区にて繰り広げられし無気力症なるものに関する一連の事件。

シュブ=ニグラスなる邪神降臨すも、甲とその仲間の尽力にて解決。

影時間なる我等の感知外の領域があった模様。

また、16代目葛葉ライドウと乙に対する聞き取りの結果、17代目は甲に転生していたことが判明。

是を以て調査を終了とする。

 

※特記事項:

幾度やれど猫の手にキーボードは矢張り不当也。

 

 

ある探偵事務所に、キーボードの音が鳴り響いていた。

それは一定の間隔で鳴り──そして止まる。それは、文字を打ち終わったことを意味している。

 

「ゴウト、報告書の代筆ありがとうございます」

 

ひょい、と目の前に猫用の液体タイプの菓子が差し出される。が、猫──ゴウトはそう言ったものを好まない──わけでもなかった。

 

「ええい、ライドウ。毎度毎度我にねぎらいかは知らんがこのようなものを…」

 

文句を言いつつ、ちゃむちゃむと食べるその姿はただの黒猫だ。

しばらく舐め、満足したゴウトは毛づくろいをはじめる。

菓子を持ったまま、画面に映る報告書を覗き込んでいたライドウが、困ったような表情をして口を開いた。

 

「まさか、有里さんが先代だっただなんて…思いもよりませんでしたね」

「うむ、灯台下暗し、というべきか」

 

ぺろり、と前足を舐める。

まさか、ひょんなことからであった有里渚という少年が、居なくなった先代の転生体だとは思いもよらなかったからだ。

このことは一時、渚を保護した16代目葛葉ライドウ──アザミとモコイの証言により確定した。

どうやって気が付いたのか、本当に渚が17代目の転生体なのか。詳しく聞いていたところ、一度死に、復活したモコイがその詳細を語った。

曰く、ニャルラトホテプとの戦いに勝ったは良いものの、そのニャルラトホテプはあくまでも化身だったため、本体を名乗る存在に魂を奪われてしまったのだという。

そして、その魂を有里渚という子供に押し込まれた──のだとか。

全てを語り終えたモコイは、そのまま「じゃ、モコイさんは帰るネ。バイビー」と帰ってしまい、それ以上のことを語ることはなかったが。

 

また、シュブ=ニグラスやニュクス、影時間といったことも全て報告書にある。

にわかには信じがたかったが、桐条グループが行った実験により、滅びであるというニュクスの招来が予見され、そしてその通りになろうとしたところをシュブ=ニグラスが乗っ取り、降臨。

『コドクノマレビト事件』のベヒモスを乗っ取り出現したクラリオンと同じ現象がまた起きたというわけだ。

もっとも、シュブ=ニグラス自身は元から何らかの理由により、ニュクス()に封印されていたという。

 

「きっと、有里さん達が居なければ今回のことは──…」

「皆まで言うな。分かっている」

 

ライドウは、己の力不足を実感していた。

たとえ、自分に適性は無くとも、そう言ったことに関わった以上、なにか解決の力になれたと思っていたのだ。

だが、そうではなかった。解決したのは有里渚とその仲間だというし、ライドウ自身は民間人をシャドウなる怪物から守っただけだ。それでも、手を抜いてはいないし全力を出し切った。

数々の事件を解決してこの数カ月で成長し、ヨシツネやコウリュウと言った名だたる悪魔を召喚できるようになったのだ。その分、直接力になれなかったのが悔しい。

きっと、大コウリュウならば。あの重圧の中、飛んで行けただろう。だが、それは己の弱さが故にできなかった。

怖気づいてしまったのだ。東京を──人々を守ると誓ったのに、あのシュブ=ニグラスの重圧に。

 

「自分は──もっと力をつけなくてはなりません。皆を、有里さん達を守れるように」

「そうだな。うぬは強くなった。だが、まだ14代目の域には届いてはおらぬ」

 

しかしな、とゴウトは続ける。

 

「何度も言うが、命の全てを使おうなどとはするでないぞ。有里とて、そんなことをしなかったからこそ、帰ってこれたのだ」

「はい…」

 

そう、結末は、奇跡が起きたから成ったのであって、最初から捨てる気でいればこうはならなかっただろう。

ライドウは、そのことを胸に深く刻んで書類整理に励むのだった。

 

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