君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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あり得た周の話。
※アンケートのやつです。

注意!
女主人公(奏子)が兄であるオリ主(優希)に恋愛感情を向ける描写があります。
また、バッドエンド前提なので後味の悪いものとなっています。ご注意ください。


☆幕間:三上先輩と私。

三上先輩が歩道に倒れている。ぐったりと、血の気のない顔で。

 

寒い。冬だからかな。なんで先輩が倒れているんだろうと思い出そうと震える指先をその血塗れの手に添えた。

固く、お腹にぐっさり刺さったナイフを押さえつけるようにして握りしめている先輩の手は、力強く握りしめすぎて真っ白で。なのに道路に流れるたくさんの血は鮮やかなくらいに真っ赤だった。

 

そうだ。私は、有里奏子で、先輩とデートをしていて、歩いてて、突然、ニュクス教の人らしいおじさんが叫んでナイフを持って突進してきて。

 

通り魔だった。もう世の中が終わってしまうから救済してやるんだって叫んでた。

そんな人から私を先輩が守ってくれた。でも、その代わり先輩は、

 

「ぁ……りさと、だい、じょうぶ…だから…」

 

息をするのも辛いのに、今にも死んでしまうかもしれないのに、先輩は私を心配している。泣きそうな私を元気づけようとしている。

私は、無傷で、無事で。なんともないのに。なにもできないのに。

 

ペルソナが使えたら、こんな傷、どうって事ない。治してあげられる。

なのに、影時間じゃないから治せない。そして時間が経ちすぎててもう間に合わない。

10月に死んじゃった荒垣先輩みたいに、三上先輩も死んじゃう。そんなの、そんなの、

 

「嫌だよ…なんで……みかみ、せんぱ…ううん…お兄ちゃん…!」

 

私は、知ってたよ。ずっと前から知ってた。

先輩が小さい頃に誘拐されていなくなっちゃった私のお兄ちゃんだってこと。

 

知ってて、少しでも一緒にいたくて、でも妹だよって言い出せなくて。お兄ちゃんって呼べなくて。

だから…“妹”に戻れないのなら、“彼女”になっちゃえって。

 

先輩は私のことを支えてくれた。間違っていることはきちんと正してくれたし、指摘もしてくれた。

リーダーについて悩んでたりしていたら積極的に相談に乗ってくれたし、順平にいろいろと当たられたときは先輩にも矛先が行くのに構わずしっかり守ってくれた。

面倒みがいいという先輩の評判から、私にしたようなことは誰にでもしているのかもしれない。けど関係なかった。

 

こんなの、好きにならない方がおかしいよ。例えそれが家族だった人間に対して持つものじゃないとしても。

特別な関係なら、私、何でも良かったんだ。先輩が私を見てくれるなら妹じゃなくてもいい。

 

けど先輩は…お兄ちゃんは優しかった。

まるで私の事、覚えてないはずなのに妹を見てるみたいに扱った。

私が告白した時も迷惑だったと思うのに受け入れてくれた。代わりに「恋人らしいことは出来ない」って言われたけどそんなのどうでもよかった。

お兄ちゃんの傍にいれるような特別になれるなら、なんだって。

そう思ってたのに。

 

「──、……」

 

なにか、小さく口を動かした先輩はそのまま動かなくなっちゃった。

どんどんその目は私を写さなくなる。

救急車が来たけどもう手遅れなのは分かってた。分からざるを得なかった。

 

 

 

先輩が死んでしまったその日から、私は何もする気力が無くなってしまった。

なんだか、ぽっかりと胸に穴が空いてしまったみたいで、何も考えられなくなってしまった。

毎日、なんとなく学校に通ってボーッと授業を受けて、そして帰る。

そこからはご飯も食べずに部屋にずっといる。タルタロスの探索にも行かない。行けない。

あんなに美味しかったご飯も最近はもう味がしない。

ゆかりや風花から心配されてるけど私にはもうどうしようも出来ない。

 

10年前に事故で双子の片割れだった湊と、お父さんとお母さんを…家族をみんな失ってからずっと頑張ってきた。

行方不明になっていたお兄ちゃん──三上先輩と出会えて、もっともっと頑張って、やっと前向きに生きていこうって思えたのに、今回のことで全部めちゃくちゃになってしまった。

 

だって、私は好きな人と家族を同時に失ってしまったんだから。

 

家族の中で私だけ生きてる意味が分からなくなってしまった。

 

綾時くんから、綾時くんを殺すかどうするか決めてねって言われているけど私はたぶん、もう立ち上がれない。立ち向かえない。ごめんなさい。

私がもっと強ければ。きっと遺された命を無駄にはしないと綾時くんを殺さずに滅びに立ち向かったのかもしれない。けど、もう駄目だよ。辛いよ。ずっと、ずっと限界だったんだよ。

わたしは湊やお兄ちゃんが居なきゃ、なんにも出来ない。

リーダーなんかになれるはずが無かった。明るくて、強くなんてなれなかった。

 

「これまで辛かったね。……お兄さんが殺されてしまった記憶は消えないけど、終わりまでこの戦いの記憶を封じてしまえばきっとキミの傷はもう少し浅くなるはずだよ」

 

綾時くんがそう、心配したように告げてくる。

あともう少しで綾時くんを殺さなきゃいけない。私のする選択は、世界を滅びに導くもの。すごく、すごく相談を重ねた上でみんなも私の選択を許してくれた。最近、おかしかったせいかもしれない。

だけど、もうこれしか残っていない。

より楽な方を選びたい。

もう頑張ったんだから、十分だよね?

 

「十分さ。キミは十分頑張ったんだ。ほんとうに、キミがここに来るまでに置かれていた環境は酷すぎた。その原因となってしまった僕が言うのもなんだけど……もう諦めてもいいと思う。優しい夢の中で微睡んで、それで終わりにしても僕はその選択を否定しないよ」

「ありが、と……う…自分可愛さに…あなたの命を奪うことになって…ごめんなさい…ごめんなさい…!」

「謝らなくていいんだ。言っただろう? どちらの選択をしてもヒトとしての僕は消えてしまうと」

 

優しく綾時くんが慰めてくれるも嗚咽が止まらない。

綾時くんは死んでしまった湊が大きくなったらこうなるのかもしれないなというような見た目をしてた。だからなおのこと、綾時くんを殺すことは私の中に残ってる湊のイメージを殺すことと同義になるんじゃないかってずっと怖かった。

でも、綾時くんは綾時くんで、他の何者でもなくて、だから。

 

「綾時くん、こんな選択をした私を許さないでね…おねがい」

 

──震える指で召喚器の引き金を引いた。

 

 

 

 

卒業式の日。

卒業する真田先輩たちを送り出した後、いつもの3人で集まって校門からでる。

満開の桜の並木の下で金髪の女の子に声をかけられたけど、私には面識がなくて首を傾げて黙っていたらどこかへ行ってしまった。

 

「人違いだったのかな?」などと話しながらゆかりちゃんや順平とこれからカラオケに行く約束をしていた時、不意にぐるりと世界がから回るような感覚になる。すんごくきもちわるい。ぐるぐるとする。

 

「オイオイ奏子っち大丈夫かよ? カゼとか? やっぱカラオケやめにしとくか?」

「ちょ、奏子ちゃん大丈夫?」

「だ、だいじょ…うぶ」

 

心配する順平とゆかりちゃんに何とか返事をしたものの、頭が痛い。何かを忘れている気がする。何かに引っ張られるような感覚がする。

数秒としないうちに何もかもが真っ暗になって見えなくなって、ぶつんって音が『この1年』の終わりを告げた。

 

 

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