君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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新月まで、あと3日


デジャ・ヴュの少年(6/16~6/20)

6/16(火) 放課後

 

授業が終わってもモコイさんがどこかへ行ったまま帰ってこないので、そのまま一人で帰ることに。

たまに、そう言う時があってモコイさんも一人で何かしたいときもあるんだろうと半ば慣れのようなものも感じていたので気にしてはいない。肩の重みがないことに少しさみしさを感じるときはあるが。

モコイさん曰く「サマナーの仲魔もたまに迷子になるときがあるっスよ」とのこと。

それは単独行動したいわけじゃなく…と突っ込みたかったがモコイさんが頑なに「人生の迷子ってやつだネ! け、けっして衝撃魔法で遠くに吹き飛ばされて、迷子になるトカじゃないからネ、チミ!」と主張していたのでそういうことにしておくことにした。

 

「あ! ユーキおにいちゃん!」

 

商店街を歩いていたら突然呼ばれたので振り返る。

金髪に白いカチューシャ、青いワンピースの少女がそこにいた。

ありすだ。

 

「ありすね、またおるすばんなの。だからね、今日こそ遊んでくれるよね!」

 

思案する。

時間には余裕があるし、遊ぶにしてもあまり離れ過ぎてもいけないだろう。

 

「じゃあそこの公園の遊具で遊ぼうか」

 

近くに小さな公園があったはずなのでそこで遊んでいれば親御さん(ありすはおじさんたちと言っていたが)も探しやすいだろう。

 

「わーい!」

 

喜ぶありすに微笑ましくなる。

 

「ありす、シーソー好きよ! ブランコも好き! すべり台は…高くて怖いからヤダ!」

「じゃあブランコでもする?」

「うん!」

 

人がいない公園について早々、ブランコに腰掛ける。

ありすは座りながらゆっくりと漕いでいるようで、その振れ幅は大きくない。

 

「…ありす、おるすばんきらい」

 

不意に、下を向きながらありすがそうつぶやく。

 

「おじさんたち、いっつも『おしごと』だからっておうちにありすを置いてくの。だから、ひとりでお人形さん遊びや積み木で遊んでたのよ。……でもやっぱりひとりはつまんないの! 勝手にお友達も作っちゃ駄目って言われてるし…」

 

ありすはいまにも泣いてしまいそうだった。

やはり、1人だとこの年頃の子は寂しいのだろう。それに、おじさんがいるにしても両親とは暮らしていないようだった。

この年で親の愛情を受けられない、かつ友達作りも禁止されているとはかなり厳しい状況だ。

 

「──でもね、おじさんたちはおにいちゃんと遊ぶのはいいっていってくれたの! だからありす、寂しくないのよ!」

 

ニッコリと笑うその顔は裏表のない純粋なものだった。

同年代の子供と遊ぶよりも、高校生でしかも男の自分にまかせる“おじさん”たちの気が知れないが、子供同士で遊んでけがでもしたらいけないとか、ある程度の判断が付く高校生なら安全だという考えなのだろうか。

 

しばらくブランコを漕いで遊んだ後、ありすが唐突に後ろを向いた。

 

「あ! おじさんたちが迎えに来ちゃった! ありす、今日は帰るね! ばいばいおにーちゃん」

 

ぴょん、とブランコから飛び降り、手を振りながら去っていくアリスを見送った。

 

 

 

 

6/17(水) 夜

 

今日こそはクラブ エスカペイドにいってあの黒スーツの男性と話をしたい気分だったので帰寮してすぐに荷物とモコイさんを置いて寮を出る。

モコイさんはネットゲームの“デビルバスターズ・オンライン”で遊びたいらしく部屋に残るとのこと。監視カメラの類は大丈夫なのかと思ったが、そこは悪魔の力でちょちょいのちょいらしい。…大丈夫だろうか。

 

電車に乗って、ポロニアンモールまで歩いて向かう。

途中、誰かが前を横切った気がして思わず目で追うも、そこには誰もおらず。

ただ、黄金の蝶が夜の闇に消えていっただけで。

 

(金色の…蝶…俺は…あれを…知っている…?)

 

どこか、遠い昔にどこかで見た事のあるその蝶を気のせいだと首を振って忘れる。

 

──いいや、キミは覚えているはずだ──

 

「────────っ!」

 

目を見開き、思わず膝をつく。

がたがたと身体が震える。得体のしれない恐怖が襲い、吐き気が込み上げた。

 

「はっ…はっ…はあっ…」

 

息がうまくできない。眩暈もする。

警鐘のようなものが頭の中でガンガンと鳴り、見たこともない光景が目の前で再現される。

 

槍に貫かれる自分の胸。伸ばされた手は自分に届かず、倒れ伏す身体。悲鳴。

青ざめる仲間の顔。傷口と口からとまることなくあふれる血。

 

「うっ…おえっ…おえぇっ…」

 

現実ではないはずのその光景とないはずの痛みに思わず吐瀉する。胃液だけが吐き出され、地面を汚した。

それでも幻覚はまだ続く。自分が倒れたすぐあと、何かに食いかかった湊と奏子を含む特別課外活動部の面々がぱたぱたと倒れていくのだ。

まるで『(death)』がもたらされたように。

霞む視界で、幻覚の中の息も絶え絶えな自分は手を伸ばす。

 

『いま、なら…まだ…まにあ…う』

 

そして、何かを掴んだ。

ガラスの割れるような音と共に、薄れる視界に黄金の蝶が映った。そしてやっと長いような短いような幻覚が終わる。

 

「はぁ…はぁ…はぁ…くそ、」

 

最悪だ。

胸と頭がとんでもなく痛い。

あんなこと、()()()()()()()。あんな死に方をしたことは一度もない。

それに、槍とは言っても特別課外活動部の槍使いである天田は自分の得物(もの)をもって仲間とともに青ざめた顔でこちらを見ていた。

そして自分は胸から穂先が突き出ていたことを考えると後ろから誰かに槍で刺されていることになる。

…自分が対面で仲間と向き合うことなんてあるのだろうか。あるとしたらそれは先に自分一人で敵を倒した時か万が一にでも()()()()()だけだ。

少なくとも特別課外活動部のメンバーが全員参加している時期で、湊と奏子がいたという事は過去の出来事ではなく未来視のようなものなのだろうか?今までにそんなことが出来たことがないので不安が募る。でももし、そんな未来が起こるのなら、絶対に起こしてはならない。

 

(させない。させてたまるか)

 

ふらふらと、立ち上がる。

見たアレがただの幻覚なのか何なのかわからないが尚更死ぬわけにはいかなくなった。

 

(…とにかく、頭の片隅に置いて今はクラブに行かないと…)

 

邪魔が入ったところで最初の目的を忘れたわけではない。

多少ふらついているがまあ大丈夫だろうと夜道を歩き始めた。

 

「…大丈夫かね?」

 

後ろから肩を叩かれびくりとして振り返る。

そこには目的の人物である黒スーツの男が立っていた。その姿に、安心感を感じる。

 

「──なるほど、体調が悪いのなら今日はもう帰った方がいい。私も少し仕事が長引いてね…遅れて行くところだったのだよ」

「でも…」

「会いに来てくれたのはうれしいが、私としてもきみとは万全の状態で話がしたい」

 

しばらく歩きながら軽く話をしたがこちらの体調が悪いことを悟られたのか優しく帰るよう促されてしまった。

風邪ではないが倒れて迷惑をかけるのも本意ではない。大人しく今日も帰ることにしよう。

 

「はい。すみません…」

「いや、謝らなくていい。その代わりしっかり休むんだ。…それとこれを」

 

ポケットからカードケースを出した男はぱちん、とその蓋を開いて一枚の紙を差し出した。

 

「ありがとうございます…?」

 

礼を言ってから受け取る。

 

「“神条久鷹(しんじょうひさたか)”だ。…()()()()()()()

「…三上優希です」

「三上くんか。…覚えておこう」

 

この人は神条さんというらしい。

この前言っていたように作家さんだったというのは驚いた。社長を辞めて作家になったんだろう。たぶん。

 

「それでは、駅まで送ろう。──きみに余計な『虫』でもついたら大変だからね」

「え?」

「いや、なんでもない。さあ歩こうじゃないか」

 

神条さんだってクラブに行きたいだろうからわざわざ送ってもらわなくても、と思ったが本人がずんずん駅まで歩こうとするので着いていくのに必死になって言うタイミングを逃してしまった。

 

「さて、次は『虫』の居ない日になるといいな」

「そうですね…?」

 

駅の改札で神条さんと分かれることになった。

しかし虫がいない日なんて六月のこの時期にあるのだろうか。わざわざこだわるという事は神条さんは虫がニガテなのだかもしれない。

ううん、わからない。

なぜ虫の話をしだしたのか分からないが、とにかく次も会えることになったので嬉しい限りだ。

悪く思われてなかっただけましというか。

 

結局その日はそのまま帰ってタルタロスに行ったあと寝てしまった。

 

 

 

 

6/20(土) 放課後

 

久しぶりに神社に寄ったらコロマルが階段の上に座っていた。

横に腰掛け、わしゃわしゃとコロマルの頭を撫でる。

 

「コロマル、散歩はまだ?」

「わん!」

「そっか、じゃあ一緒にいこう。俺が今住んでる寮の前も通り道だもんね」

「わんわん!」

 

元気よく返事をしたコロマルはそのままじっとこちらの肩を見つめている。

もしかして──

 

「コロマル、モコイさんが見えるの?」

「わん!」

「ガッデム。このワンコロちゃん、ボクの事見えるんスか」

「モコイさんは悪い存在じゃないから齧らないであげてね。あとモコイさん、この子はコロマルだよ」

「コロコロちゃんスね。COOL!」

「わんわん!」

 

ちゃんと返事をしてくれるコロマルは本当に賢い犬だと思う。しかもモコイさんという超常の存在を見ても襲い掛からずにいてくれる理性があるのはすごい。自分ならまず一番に様子見してから切りかかってる。

 

尻尾を横にブンブンと振るコロマルに頬がにやけながらも立ち上がって歩き始める。

モコイさんはなぜか自分の方から降りてコロマルと並んで歩き始めた。

 

「コロコロちゃん、中々の猛者なんスね」

「わん!」

「なるほど、ボクも見習っちゃおうかな」

「わんわんわん!」

 

なんだか仲良くお喋りしている様子だけで癒される。

というか歩いているだけで可愛い。清涼剤だ。

 

「コロコロちゃんもぺるそな?使いなんスね。寮に住んでるニンゲンと同じ気配を感じるネ」

「くーん…」

「モコイさんもそういうのわかるんだ…」

「ボクら悪魔は気配だけっスね。分かってても襲い掛かるオバカチャンは、もちろんいるケドネ」

「ふーん」

 

それからしばらく無言で歩くと寮が見えてきた。

玄関前でちょうど岳羽と山岸と奏子が寮に入ろうとしていたようでこちらを見つけると立ち止まる。

 

「あ、お兄ちゃん!」

「奏子…と岳羽と山岸、おかえり」

「先輩、おかえりなさい」

「三上先輩、おかえりなさい…コロちゃんが一緒なんですね」

「神社にいたから誘って一緒に散歩コースをね。俺が付き合ってもらったんだ」

「わん!」

 

コロマルを撫で、寮の玄関の扉を開ける。

 

「コロマル、喉乾いたよね? 水持ってくるよ」

 

いったん部屋までダッシュで上がり荷物とモコイさんを置いて、またダッシュで駆け下りキッチンに入って深めの皿に水を入れて零さないように玄関の外まで運ぶ。

外に出たら湊も帰ってきたようで女子に交じってコロマルを撫でていた。

 

「湊、おかえり」

「ただいま」

「ほら、コロマル、お水だよ」

「わふ」

 

皿を地面に置いて飲むように促す。

6月とはいえかなり暑くなってきている。たとえ犬でも水分補給は大事だ。飼い主が亡くなってしまった犬ならなおさら。

 

コロマルはひとしきり飲み終えると満足したかのように立ち上がると去っていた。

その後ろ姿を山岸は不思議そうに見つめている。

 

「どしたの?」

「…ううん、ごめん。気のせいだったみたい…」

 

首を横に振る山岸にそれ以上問い詰めるものはなく。

 

「あ、それより今日って、確か、理事長が来るって…」

「ああ…」

「じゃあ早く寮に入っとかないとね! ほら湊、いくよー!」

「…どうでもいい」

 

忘れてた。

どうせ「今までの大型シャドウはタロットの大アルカナの順で来てたんだー! だから残りは8体だよ!!!」「ナ、ナンダッテー!!?」なので正直サボりたい。

 

 

 

 

 

サボるのは結局無理だったので大人しく作戦室に集まっている。

 

「や、どうもどうも。調べ物に答えが出そうなんで、いち早く伝えようと思ってね」

 

入ってきた幾月は随分と上機嫌だった。

 

「例の“満月に出るシャドウ”の件だよ。ちょっと、面倒なんだか、よく聞いてほしいんだ」

 

以上割愛。

特に以前の周と変わった事を話してなかったので今度は考え事をせずに聞き流すに努めた。

 

「…面白いですね。ただ、シャドウがなんであっても、残りも、全部倒すだけのことです」

「…そうだな。ヤツらの目的が何であれ、全部潰すしか今はやれることがない」

 

美鶴さんの言葉に頷いておく。

どの道大型シャドウを倒さないと影人間が増えてBADENDだ。一度それとなく邪魔をして大型シャドウを倒させなかったことがあったがとんでもなく影人間が増えてどうしようもなくなってしまったのでこの案は凍結させてる。

 

「あと8体か…相当だな、それ…」

 

次の『法皇(ハイエロファント)』と『恋愛(ラヴァーズ)』、『戦車(チャリオット)』と『正義(ジャスティス)』、『運命(フォーチュン)』と『剛毅(ストレングス)』はそれぞれペアで二体同時に来るので実質あと5回だ。

……改めて思うと二体同時多いな!?

 

「データでは、来るたびに強くなってます。こちらも力をつけないと…」

「なんとかするさ。…時間は充分ある」

 

何とかならない場合は俺が何とかします。とは言わない。言えない。

やろうと思えば9月ごろまでの大型シャドウならパンタソスでごり押しして消しとばすことはできるけどそれでもギリギリまでは皆に足掻いてもらわないと困るのだ。

 

「…タルタロスか。なんで、あんなものがあるんだろ…」

「……」

 

岳羽の呟きに美鶴さんが暗い顔になる。

やっぱり思うところがあるのだろう。美鶴さんだって十分“被害者の立場”だというのに。

たとえそれが肉親の罪でも、それは子や孫が背負うべきではない。背負うべきではないものを、必死に背負って頑張ってすり減らしていく様を見るのは心苦しい。

 

 

 

 

「…美鶴さん、」

「三上、どうした?」

 

話し合いが終わった後、美鶴さんを呼び止める。

力にはなれないかもしれないが心配はしてるんだよ、ぐらいは伝えてもいいのではないかと思ったからだ。

 

「どうか、無理はしないで」

「分かっている。もとからそのつもりさ」

 

フ、と笑った彼女の顔はいまだ陰りがある。

違う、そうじゃなくて…と酷くもどかしくなる。どうしてうまく言葉が伝わらないのだろう。自分が言いたいのはそういう事じゃない。彼女の触れられたくない部分に踏み込む事になるかもしれないけれど、そんなうわべだけのものじゃなくて、

 

「ちがう、色々一人でしょい込むのはやめてほしいってだけで…ああもう! 相談役でも愚痴吐き先でも友だちでもなんにでもなる! 俺は口だけは堅いから…! だから…!」

 

頭を掻きながらそう言った俺に美鶴さんがぎょっと目を見開く。

そして先ほどとは違う笑みを浮かべて口を開いた。

 

「やっと敬語が抜けたな」

「は…」

「ずっと気になっていたんだ。きみのその、距離感のある対応が」

「へ」

 

ツカツカとヒールの音を立てながら、目と鼻の先に美鶴さんが迫る。

 

「だから、これから“友だち”として私に色々なことを教えてくれないか。もちろん、きみになんでもとは言わないが困ったときは相談もしよう。敬語ももちろん不要だ。友だちなのだからな」

「えっ、あ、はい…じゃなくて、うん…?」

 

なんだか思っていたよりも美鶴さんが積極的すぎて驚いてしまった。

強がりなのかそうじゃないのかいまいち判断がつかない。

 

「それでは後日、予定が空いている日に連絡するから外で友だちらしいことでもしよう。ふふ、楽しみにしているからな」

「うん…?」

 

肩に手を置かれ、首を傾げている間に美鶴さんは颯爽と去っていった。

一応、励ますことには成功しているのだろうか。そうなのだとしたら一応成功、ということになるのだろうか…?よくわからない。

 

(それにしても)

 

美鶴さんと『友だち』になるのは初めてかもしれない。

あまり特別課外活動部の面々と最低限以上の親しい付き合いはしないようにしていたことが多かったし、そもそも美鶴さんは湊に信頼を寄せているときが多かったので邪魔しないようにしていた。

だからこんなに親しい?関係になるのは初めてで驚いている。と、同時に

 

(なにすればいいんだ…?)

 

美鶴さんと何をすればいいのか、外に遊びに行く?らしいと言っていたがどこに行けばいいのかさっぱりわからなかった。

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