前話の『一度それとなく邪魔をして大型シャドウを倒させなかったことがあったがとんでもなく影人間が増えてどうしようもなくなってしまった』周の出来事。
ひたすら被害者が出まくって鬱&主人公の独白のみの会話ほぼなし&バッドエンドになります。
本筋にほぼ関係ないのでこれらの表現がダメな場合は飛ばしていただいて構いません。
おーっす! 俺、三上優希!
というふざけた自己紹介は置いておいて、もう何周目か忘れたがまた死んだらしい自分は4月6日の今日、見知らぬ天井で目が覚めた。
どうやら少し探索してみたところ、一人暮らし用のアパートらしい。近くに巌戸台駅前商店街の店が見えることから、そこの近くに住んでいるようだった。
携帯電話の電話帳を確認しても三上家の養父母以外の電話番号が登録されておらず、とても殺風景だ。湊の名前も奏子の名前もない。手紙もなければ写真もない。どうやら知り合いでは無さそうだ。
さて、事前確認を終えたところで自分はこの繰り返しの中で気がついたことがある。
12の大型シャドウを倒すことによって散らばっていたそれらが元のひとつとなり“死の宣告者”が目覚めるとするのなら、例えば全て倒させないように邪魔をしてしまえばニュクスは目覚めず、滅びは来ないのではないか、と。
だから、寮からの始まりではなく巌戸台駅近くのアパート住まいだった『今回』は邪魔をすることにした。
4月9日 影時間
『今回』転校してきたのが弟である湊だという確認をしたところで今日は始まりの大型シャドウである、
大まかなプランは特別課外活動部の戦力を削りつつ、満月の日をやり過ごさせるパターンだ。
大型シャドウは満月の日の影時間でしか顕在化できない。
後になればなるほど特別課外活動部のリスクや何も関係のない人の被害は増えるだろうが、少しでも世界の寿命が先延ばしになるなら。湊が死ななくて済むのなら。
それで構わないと思った。それくらい、この繰り返しに行き詰まっていた。
準備をする。
顔がバレないように渋谷のセントラル街にある怪しいお店で買っておいたサバイバルゲーム用の丈夫なメカメカしい髑髏のマスクをかぶり、その上にパーカーのフードを被れば顔を隠す分には完璧だ。
見た目は完全に不審者だが、これも仕方ないと諦める。どうせつけておくのは影時間だけなのだ。
3日しか猶予期間がなかったが、まだ今の特別課外活動部はタルタロスの探索をメインで行っていないはずなので影時間にタルタロスに直行し、現状で出来る限りの戦闘能力の底上げを行った。
ペルソナはまだ召喚器を持っていないので召喚できなかったがペルソナによる能力の補正はちゃんと効いていたので一安心。
武器はマスクと同じく怪しいお店ことミリタリーショップで買った特殊警棒──のレプリカだ。後は己の脚。
特殊警棒は畳んで懐に仕舞ってしまえば持ち歩いていることがばれにくいし家の中でも隠しやすい。とはいえ一人暮らしなのでそんな心配をするのはこちらのやっていることがばれた場合もしくは怪しんだ特別課外活動部のだれかがこの家まで来たとき用なのだけれど。
さて、今日の目標として、まず狙うは真田くんからだ。
影時間になったばかりの今なら真田くんは
怪我をしても逃げられるのなら、召喚器を奪われたところでどうということはないのだろう。もしかすると、骨折していない方の腕で召喚器を使って逃げていたとするなら、自分が召喚器を奪うことで最悪逃げきれないかもしれないがそれは
なら、真田くんの代わりに適当に引き付けて寮まで連れていき首尾よく岳羽の召喚器をどさくさに紛れて壊して
そうすれば来月まではタルタロスに近づいたりイレギュラーシャドウに会うことさえ無ければ安全に影時間を過ごすことができる。奴らは満月の日までは人を誘い影人間にすることはできても動けはしないのだから。
──結果的に、真田くんの召喚器を奪うことに成功した。
「待てっ! 貴様は何者だ!? 何が目的だ!」と聞かれたけれど答える訳にはいかなかったので無言で寮までダッシュ。喋ったらボロが出てしまいそうでヒヤヒヤした。
でも相手が腕を折られた直後だったおかげか走って追われることはなかったので一安心。流石に腕折られて猛ダッシュしてきたらビビり散らかすところだった。
次に、タイミングを見計らって寮の壁を排水管伝いに登り屋上まで行ってから静かに待つ。これは寮の部屋から抜け出してタルタロスに一人で行っていた『これまで』の周の経験が活きている。
流石に屋上まで登ったのは初めてけれど。
真田くんに接触し、寮まで来た以上美鶴さんに気取られているだろうが仕方ない。これはどうしても避けられないことなのだ。
探知に長けたペルソナをもつ山岸が後々加入することを考えると探知に対して阻害するような手を考えないといけないな、と悩みつつ隠れて息を潜めた。
そこからは予定調和のように毎度毎度同じように進む恒例のイベントだ。
岳羽が
そうして吹き飛ばされた召喚器はぼんやりと突っ立っている湊の方へと向かうわけだ。が、それを割り込んで足で踏んで止める。
立ち位置的にちょうど
丁度いい。
先端の尖ったロッドに近い特殊警棒を伸ばし、
ちょっとした属性剣のようなものだ。■■■■ならよくやるだろう。刀に■■の力を纏わせる疾風剣とかそういうものを。
(……?)
少し、思考が逸れた気がする。
とにかく、真田くんから奪った召喚器を使い道すがらの雑魚シャドウで初召喚を終えた“モルペウス”の能力を一時的に付与してなんやかんやして召喚器の耐久をぶち破って砕いたというわけだ。
これで条件のひとつは果たされた。
湊と伊織の配属時にさっくりと召喚器が用意されていたところを見るに2週間もあれば追加の召喚器が用意できるのかもしれないしスペアが元々あるのかもしれないが、少しの邪魔はできただろう。
本音を言うのなら幾月の所業を全部ゲロってしまって活動をやめて欲しいが、そういうことをすれば1発アウトのレッドカードからの自分か湊の死に繋がるし、記憶を消すとか出来る訳でもないのでこういった直接的な手段に出るしかないのが難点だ。後々敵対するかもしれないのが怖い。
「…誰?」
訝しげな声の湊が問いかけてくる。
真田くんの問いかけと同様にそれには答えず踵を返して屋上から飛び降りる──フリをして壁伝いに降りる。
少々危ないが地面まであと3m位のところで飛び降り、スタートダッシュを決める。よーい、ドン!
あちらの方が降りるスピードが早いため、目と鼻の先まで迫ってきていた
そうして地獄の鬼ごっこを30分ほど続けていれば景色が影時間のものから普通の夜の景色に戻る。
やっと、最初の大型シャドウを倒させずにやり過ごすことが出来た、と安堵の息を吐いた。
疲れた上に課題が山盛りなのでまずは持久力を付けるために体力と速度の底上げを重点的にしないとな、と頭にメモをしておいた。
問題は次の
通学に使うモノレールという高校生活に密着している場所であるし、こいつのせいで大事故が起きかねないからだ。
その他のシャドウの対処としては絶対に討伐を阻止できるものは
そして、逆に絶対倒すべきなのは
近くに病院もあるしそこらの電気をチューチューされると色々支障をきたすだろうから殺すべきなのだ。
ついでに巌戸台駅前に出てくる
そんな計画を練って次に来たる
その逆なのだ。
明らかに特別課外活動部がタルタロスに出入りする頻度が低い。今はもう五月に入っているというのにまだ1度もタルタロスで彼らの姿を見ていない。
遭遇覚悟でロビーでのんびり休憩している時にすら居ないことを考えるに、入れ違いになっているということもなさそうだった。出会っていたらちょっとだけ憧れてたカッコイイ匂わせ悪役ムーブをしてみたかったのに残念だ。
真田くんの召喚器を奪い、湊の覚醒を邪魔し、岳羽の召喚器を壊したことが響いているのだろうか。
学校に湊が来ていないという事は無かったし伊織も岳羽も美鶴さんも腕にギプスをはめたままの真田くんも普通に来ていた。
誰かが大怪我したとか居ないからという訳では無さそうだ。ちょっとそこは一安心。
そんなことを考えながら昼ごはんの焼きそばパンを買いに購買へと歩いていれば目の前の生徒がズボンのケツにあるポケットからぽろりと財布を落とした。
気づかずスタスタと歩き去ろうとするので拾って追いかける。
「ねえきみ。財布、落としたよ」
「…どうも」
素知らぬ顔で初対面を装ってその生徒──湊に落とした財布を渡す。
別に、他意があった訳では無い。大飯喰らいな湊が財布を落として食いっぱぐれたら可哀想だなと思っただけで。ただ、この興味無さそうな反応を見るにこちらの事を覚えてなさそうだ。下手に知られているより他人同士という認識の方がやりやすくていい。
サクッと財布を返したあとはそのまま会話があるわけでもなく購買へと向かって目当ての品物を手に入れることに成功した。
やっぱり焼きそばパンは美味しい。
5月10日
大変なことが起こった。
なんと、昨日出てくるはずだった
そもそもどこにも気配がなく、いたのは元気いっぱいの
影時間になってアパートの玄関から出たら屋根の上から「やっほ^^」と言わんばかりにこちらを覗きこんでいた時はびっくりした。驚きすぎて2度見したし心臓止まるかと思った。
というかお前もしかして実体化出来ないだけで満月の日じゃなくても移動しててずっとこっちみてたのか? と言わんばかりの出待ち具合にちょっとだけうすら寒いものを感じた。執念深すぎるのかそれとも気に入られてしまったのか。
よく分からないが昨夜も昨夜で
結局、
と、ここである仮説を自分は考えついた。
もしかして、一体でも大型シャドウを倒せなければそれ以降のナンバリングの大型シャドウが出てくることは無いのでは? という仮説だ。
実際昨日は本来なら
けれど蓋を返してみればそうではなく、
来月も同じかどうか分からないが、これは確かめてみると同時にもっと速さを鍛えなければという決意に満ち溢れたのだった。
6月12日
今回も
特に変わったことはありませんでした。
相も変わらず
嘘だよ変わったことありまくりだよ。
山岸を探しにくるであろう特別課外活動部に見つかるとまずいので警戒しつつロビーに陣取っていたが
だが、そんな件の山岸が無気力症になって見つかった。助けようとしていなかった訳では無いが、さすがに大型シャドウが出てくる日くらいは特別課外活動部が捜索に出ているだろうとたかを括ったのがダメだったらしい。
満月の日が終わったあと、タルタロスを探索していると倒れた山岸を発見したので助けて影時間が終わり次第、即警察と病院に通報。
「物陰で倒れていた」と見つけた時の状況をでっち上げ、事情聴取までされ、病院へと連れていかれる山岸を見送ったがどうやら無気力症になってしまっていたらしい。
おそらく、ペルソナに目覚める前にどうしようもなくなってシャドウに襲われてしまったのだろう。ペルソナに目覚める前から探知能力の片鱗はあったらしいが完全では無いため、消耗し疲れたところに不意打ちされて防御も何も出来ずにそのまま──と言ったところだろうか。
もう少し気を配っていれば、という後悔はあるがこれ以上うじうじしていても仕方ないと気を取り直す。
予測通り
7月8日
特筆すべきことは特に無かった。
と言えればいいがそんなことはなく。
相も変わらず影人間は増えている。降り積もるように。そして様々な場所で。
まだ7月だと言うのにチラホラ街中の施設や道端で虚ろな目をした無気力症に陥っている人達が出てきた。
それもこれも超移動型の大型シャドウである
白河通りのホテルに居るはずの
器用に一緒にホテルまで来た
あとペット可のアパートだったので世話をしに来ていたコロマルの飼い主さんの遺族の方(事情があってコロマルを引き取れないらしい)に理由を説明してコロマルを引き取ることにした。
特別課外活動部の戦力としては強力だが、今回は危ないことが多いのでアパートで待ってもらった方が良いだろう。
今月もまた、特別課外活動部の姿は見えない。
8月7日
昨夜は命をかけたいつもの鬼ごっこのついでに念には念を入れて地下施設の埋め立てを
なんであいつノリノリなんだよ。お前はシャドウかつ敵だろおかしいだろ。あとなんかお前小さくなってない?
結局、来るはずのストレガも特別課外活動部もこなかった。
ついでに神社に来ていたイレギュラーシャドウは叩き潰しておいた。神社が壊されてコロマルが悲しむのは良くない。
山岸を助けることが間に合わなかったぶん、これくらいはやりたかった。
9月8日
満月の日はいつもの通り鬼ごっこだった。
タルタロスにいるシャドウの数が少ないような気がする。
異変についてだが、いつもなら転校してくるはずのアイギスが居ないどころかまだ天田くんが巌戸台分寮に入っていなかった。荒垣くんもいない。
荒垣くんは1週間ほど前に溜まり場で見たきり。天田くんは普通に男子寮から初等部に通っているところを確認している。
それどころか、美鶴さんが倒れたらしい。
無気力症だとか。そうじゃないとか。
どういう事なのかは分からないが、今は入院していると聞いた。心配だが原因に心当たりがない。
………。
自分のせいではあるのだけれど、特別課外活動部の戦力がどんどん減っている気がする。
10月15日
満月の日の事は以下略。
影人間をそこらじゅうで見かけるようになった。テレビでも無気力症患者の増大で医療崩壊が起きているとかこのまま増え続ければインフラが停止する可能性がでるとか騒がれている。
じわじわと追い詰められているような、そんな気がする。
タルタロスにいるシャドウの数が明らかに減っている。気のせいじゃなかった。
コロマルが目を覚まさなくなった。
ある日突然、朝起きなくなったのだ。
動物病院に連れて行っても分からないと言われ、このままでは死んでしまうためどうするのかと問われて何も答えられなかった。
自分は、どうすべきなのだろうか。
11月4日
以下略。
コロマルが死んだ。病院で点滴やら延命の為の治療をバイト代を捻出してやってもらっていたが目を覚ますことは無かった。
そのまま逝ってしまった。何も出来なかった。
自分のせいなのだろうか。こんな選択肢を選んだから?
停滞は悪だと突きつけられている気分だ。
12月2日
かわったことは なにもない。
1月×日
世界が止まった。
否、終わりかけている。
養父母も、湊も、真田くんも岳羽も伊織も天田くんも荒垣くんも、幾月でさえもみんな、みーんな無気力症になってしまった。もう大勢死んでいるし、あとは残った僅かな人間が緩やかに死んでいくのを待つのみ。
そしてこんな世界でまともに動けているのは自分だけのようにも感じる。
生きるために必要なシステムのなにもかもが止まっているのでこのまま何もしなければあとはほかの人たちと同じように餓死するのを待つしかないんだけれども。
さて、自分はここまで手遅れになってようやく
……初めに見た時よりも小さくなったそれを殺すのはとても簡単だった。
ずっと、ずっと一緒にいたようなもので、不思議と命懸けだったにも関わらず『この』
でも、こんなことになるだなんて思わなかった。大丈夫だって思っていた。集めさえしなければ。倒しさえしなければ大丈夫なんだって。
そんなことは無かった。
自分の考えは間違いで、ズルなんかしちゃダメで、他人を不幸にしただけだった。
大型シャドウを全て倒してニュクスを目覚めさせ、それを阻止するために湊なり奏子なり誰かの犠牲を出さなければ世界は救われないらしい。
ほんとうに、嫌になる。
兎にも角にも失敗したことは確かなので完全に世界が終わってしまうその前に、やり直さなくてはいけない。無かったことにしなければならない。
この時ばかりは影時間の月が綺麗に思えた。
いま、世界でいちばん月に近いのはタルタロスの頂上にいる自分だろう。何故かタルタロス内部の門は全て開いていたため、シャドウがほとんど居ないいま各階にある転送装置も駆使すれば登るのは簡単だった。
ここは高いお陰かビュウビュウと風が吹いて見晴らしがいい。死ぬには絶好のポイントだ。
お腹がくうくうと鳴っている。空腹を訴えている。
大丈夫。次からはひとつで我慢しないから。ちゃんと全部残さず食べるから。
「……そろそろ、行かなきゃ」
──そしてそこから身を投げた。
・
今回のメインヒロイン。言わずもがな最初にタナトスにパックンチョされる大型シャドウ。
朝登校してたら突然曲がり角で
得意なこと:アギダインと手に持った剣でめった刺しにすること
穏やかに、しかし急速に滅びゆく定めとなってしまった世界の一年を