君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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お出かけ(6/26~6/28)

6/26(金) 昼休み

 

教室の自分の机に座り購買で買ったクリームパンを口に運びつつ参考書を読んでいると、不意にそこに影が差したので顔を上げる。

 

「三上、少しいいか」

 

美鶴さんが机の前に立っていた。

周りのクラスメイトの反応をちらりと盗み見ると自分が美鶴さんに話しかけられるのは珍しくないのか、こちらにわずかに視線が向くが「ああ、三上くんね、はいはいいつものいつもの」みたいなさほど興味もなさそうな慣れた目でこちらを見るような反応を一瞬だけしてみんな食事や歓談に戻っていく。中には興味本位でちらちらとこちらを探るような気配もあるけど。

気にしていても仕方ないので食べかけのクリームパンを袋に戻し、参考書に付箋を挟んで閉じて立ち上がった。

 

「どこかに移動したほうがいい?」

「いや、この場でいい。大事なことだが重大ではないからな」

「わかった」

「それでだな──単刀直入に聞く。三上、日曜の予定は空いているだろうか?」

 

真剣な目で聞いてきた美鶴さんに今週の予定を思い出す。

日曜日は特に…なにも予定をいれていない。モコイさんとの食べ歩きの予定も今週はない。

 

「空いてるよ」

「そうか。では、日曜日に私と出かけないか? この前言っていた“友達らしいこと”をしよう」

 

なるほど、そうきたか。

 

「じゃあ当日待ち合わせってことで…ざっくりとした予定は俺が立てても?」

「ああ。…恥ずかしながら私はまだ友人付き合いすらまだだからな…“友だち”となると更にわからない…きみに任せよう」

 

顔を赤らめながら恥ずかしそうに美鶴さんはそう告げた。

しかし、友人と友だちという言い方を言い分けているところを見るにそれぞれ別のものだと考えているのではないのだろうか。確かに、“友人”だと改まった言い方で少し硬い感じがする。つまり気軽な友だちとしての付き合いを求められているということなので──

 

(ゲーセンとかカラオケとかに誘う…? とか)

 

いや、それだと距離が些か近すぎないだろうか。

そんなにいきなりカラオケやゲーセンという普段美鶴さんが利用し無さそうな場所に連れて行っても困るだろう。

友だちとして付き合うなら2人とも楽しめる場所の方がきっといい。

 

「了解。考えとく」

 

そのまま立ち去った美鶴さんを見送り、姿が見えなくなったところで再びクリームパンを袋から出して考える。

正直、当日合流した時に適当に「どこにいく?」と聞いてアドリブで決めてもいい。その方が友達らしい気はする。が、今と美鶴さんと自分は友達とは名ばかりの関係だ。それはそれで困ると思う。

 

(いや…難しく考えるからダメなのか?)

 

とりあえず財布の中身を見てから考えよう、とカバンから財布を取り出して中身を確認する。

 

(……あ)

 

放課後

 

「と、言うわけで…食べ歩きとその他諸々でついにお金が少なくなってきたのでアルバイトしようと思うんだモコイさん」

「悪魔を麻痺させ(シバブっ)てカツアゲすればスグッすよスグ。チミなら上手くカツアゲできそうな気がするし」

「そういうのはちょっと…」

 

食う食われるの関係でも可哀想だしそう言う手段で手に入れたお金を交友に使ってもいいのだろうかという気持ちになる。

なんだか倫理的にアウトな気がするのだ。

ならタルタロスで手に入れたお金で武器や防具を買っていいのか?という話になるがそれは経費として落とされているのだろう。たぶん。

 

「イケるイケる。投資(ファンド)という名目で悪魔からカツアゲ、デビルサマナーみんなそんなかんじで稼いでるカラ。ヤタガラスからの依頼料だけだと、厳しいんスよ…経費と天引きが…ネ…」

 

遠い目をするモコイさんは以前サマナーのところにいたりしたのだろうか。

前々から妙にそういうことに詳しい。

モコイさんの過去をわざわざ訊こうとは思わないがただのお人よしの悪魔というわけでもなさそうだ。

 

「カツアゲはやめておいて、今は放課後入れるバイトを探すよ」

「じゃあモコイさんはチミがセコセコおバイトしてる間、お散歩にでもいってくるカナ」

 

 

 

 

喫茶シャガール

 

ポロニアンモールにあるその喫茶店で丁度臨時アルバイトを募集していたので日雇いとして入ることにした。ここのコーヒーを飲むと魅力が上がるとかなんとか噂されている。もちろん、そういう事は抜きでコーヒーがおいしいので客足が絶えることは無い。

 

「ご注文はお決まりですか?」

「フェロモンコーヒーひとつ」

「かしこまりました」

 

注文を取ってコーヒーを入れてから席まで運ぶ。もしくはデザートと一緒に。

バイト内容自体はそれプラスレジと店内清掃の繰り返しだったが、厨房で黒い虫を見つけたので客席があるスペースに逃げられないうちに始末して捨てておく。

こんなのが客席を歩いていたら大騒ぎになる。衛生的にも悪い。

シャガールの厨房自体は綺麗だがやはり入っているポロニアンモールが複合商業施設なのでどこかで湧いた個体が入ってきてしまうのだろう。

なるべく触れたくないしこんなのが入ってくること自体嫌だが、我が物顔で床や壁を這われている現実もそれはそれで嫌だ。

部屋に一人で居るときに出たら間違いなく情けない悲鳴を上げるがここは店だ。

ゲ○ゲジだろうがGだろうがネズミだろうがなんでも駆除してやる、という心意気で気合いを入れなおした。

 

…度胸がそれなりにあがった気がする。

 

「いらっしゃいませ」

「あ、お兄ちゃん!?」

 

何人目の客を席に案内したか忘れた頃にドアを開けて入ってきたのは奏子と湊。

転校してきてからは珍しい組み合わせだな、と思いつつも営業スマイルで対応する。

 

「お客様、こちらの席にどうぞ」

「うわ…すっごい営業スマイル」

「どうでもいい…ほら、早く座るよ」

 

うわ、はどういう意味の「うわ」なんだろうか。

悪い意味の「うわ」だったら落ち込む自信がある。やっぱり営業スマイルは不自然なんだろうか。不安だ。

 

「注文がお決まりになりましたらまたお呼びください」

「店員さん対応のお兄ちゃんスゴク新鮮だけど違和感ある…うぬぬ」

「確かに。というかなんでバイト?」

 

奏子が唸り湊が首を傾げる。

単純に小遣いとして自由に使えるお金が少なくなったから。なんて今は言えない。バイト中だから。

それに今日は自分のような臨時バイトを募集するほどだからなのか結構客が多く、忙しいので喋ってる暇はなさそうだ。

すぐに呼ばれて別の席に走るのだった。

 

「助かったよ、機会があればまた次もよろしく」

「いえ、こちらこそ」

 

店長から給料の入った封筒を手渡しで貰い、店を後にする。

もう夜も遅いし寮に帰らないと条例に引っかかるし影時間ギリギリになるのは心配されてしまう。

足早に帰る道の途中でモコイさんと合流して寮へと帰る。

 

「モコイさん、もしかしてずっと待っててくれた?」

「ノン。モコイさんもチミと合流するまでは野暮用をしてたのネ」

「なるほど」

 

チラチラと後ろを気にするモコイさんが若干気になるが特に視線も悪魔の気配も感じないのでそのまま歩みを進めた。

 

 

 

 

6/27(土) 放課後

 

もう少し手持ちを潤しておきたいので今日はラフレシ屋でバイトすることになった。

勤務は短い時間だったがさすがここは花屋という事もあり一定の色でまとめた花や季節の花、冠婚葬祭用、花言葉でまとめた花束を作ることがあり、花に対する知識が増えた気がする。

 

…今日は少しだけ誰かからずっと見られているような視線を感じた。

悪魔ではないと思うので放っておこうかと思う。

 

6/28(日) 昼

 

「それじゃあモコイさん、行ってくるね」

「留守は任されたっスよ!」

 

今日は美鶴さんと出かけるのでモコイさんには留守番を頼んで部屋を出る。

モコイさんはその気になれば窓からでも出られるので部屋の鍵はちゃんと閉めてから出ることにした。

 

「ごめん、待たせた?」

「いや、時間丁度だ。いこうか」

 

私服の美鶴さんと寮の玄関で落ち合い連れ添って歩く。

 

「予定は一応軽く考えてきたけど美鶴さんが興味なければ飛ばしてもいいし、土壇場で変更してもいい。ゆるく適当に行こう」

「ああ…だが、少し緊張するな…」

「難しく考えないで時間までに帰ってくれば何してもいいんだよ。だって今日は友達同士の遊びなんだし」

 

軽くそういえば美鶴さんは少し微笑んで「そうだな」と頷いた。

これで美鶴さんの緊張をほぐせたのなら上々だろう。

 

しばらく歩いて巌戸台駅前商店街にある古本屋『本の虫』に来た。

美鶴さんが読書が好きかどうかはわからないが、伊織のようにはしゃぐタイプでもないしな…と考えた結果がこれだ。苦肉の策すぎる。

 

「まずはこの本屋に行って、飽きたら他のとこにでも行こう。行きたいところとかある?」

「いや、今日は実の所何も考えてなくてだな…すまない、任せきりになる」

「いいよ、謝らなくて。予定立てるって言ったのは俺だし。その代わり今日は俺に付き合ってもらうからね」

 

扉を開けてこんにちは、と挨拶しながら入る。

古本屋の中は薄暗く、クーラーが効いているのか涼しかった。その上で、店の奥ではカラカラと古い扇風機が回っている。

 

「おお、湊ちゃんかい? 今日も取っかえ引っ変えべっぴんさんを連れとるんだなぁ」

「違いますよ。俺は湊じゃないです」

「なんの、わしも負けとらんぞ! 若い頃はぷれいぼぉいでなあ」

 

店主の文吉おじいさんは自分の事を湊と勘違いしているようで微笑ましく笑われてしまった。少々ボケてきているらしく、訂正しても聞こえてるのか聞こえてないのかよく分からない。こればっかりは仕方ない。

 

「そうじゃ、湊ちゃん、彼女さんとこれをお食べ。この前美味しいっていっとったじゃろ? メロンパンじゃ」

 

袋入りのメロンパンをふたつ差し出され、断るのも悪いので受け取っておく。

 

「ありがとうございます」

「湊ちゃんは礼儀正しいのう…うちの息子にもあわせてやりたいくらいじゃ…おーいばあさん!」

 

そのままぶつぶつと何かを呟きながら裏へ引っ込んでしまったおじいさんを見送り、美鶴さんの方を向く。

 

「メロンパン、貰っちゃったしあとでおやつに食べようか」

「ああ。…だが有里弟が女を取っかえ引っ変え……? 処刑か…?」

「いや、文吉おじいさんの…店主の勘違いだと思うよ。あの人、少し痴呆が入ってるみたいなんだ…だから、」

 

物騒な単語が聞こえた気がしたので訂正しておく。

すると納得したようで「そうか」と短く呟いた美鶴さんは山のように積まれた本と本棚を眺めた。

 

「すごいでしょ、ここ。殆ど漫画の古本なんだ。俺はあんまりそういうの見ないから漫画以外の本を探しに来るんだけどね、たまに漫画以外でも古い料理の本とか面白い本が見つかることがあるんだよ。なんだか、それって宝探しみたいじゃない?」

「確かにな」

「俺のおすすめはこの“悪魔事典”。9年前くらいの本なんだけど…実はもう持ってて今日は2冊目を…」

 

1時間ほど古本屋で語り明かし、色々2人で見てから本を買って店を出た。個人的にずっとスペアとして買おうとしていた本の二冊目を買えたことにほくほくしている。

 

「あんなに饒舌に喋るきみは初めて見たよ…ふふ、これも友だちにならなければ知らなかった事なんだな」

 

大事に噛み締めるように、はにかみながらそう言った美鶴さんに目を奪われる。

なんだか、今まで意識していなかったがとてもきれいだとおもった。

まるで、触れられない花のように。

その気持ちを振り払い、話題を変える。

 

「つぎ、どこ行く? 美鶴さんは行きたいところ特にないって言ってたけど、“行ってみたい所”なら俺は着いてくよ」

 

どうしてもないって時はプランBだけどね、と続けるとおずおず、と言った様子で美鶴さんは小さく告げた。

 

「なら、先程から言われて再度考えてはいたんだが…有里兄妹や伊織のよく行くという……ゲーセン…というものに行ってみたい」

「了解。エスコート致しますよお姫様、なんて」

 

手を差し出して(うやうや)しく格好をつけて告げると、美鶴さんは急に目を見開いて顔を真っ赤にさせた。少しクサかっただろうか。

 

「お、おおおお姫様!?」

「あ、お嬢様の方が良かった? 実際お嬢様だし…って感じで気の許しあえる友だちなら冗談言い合ったりするね。コツは掴めそう?」

「あ、ああ、冗談か…まったく、心臓に悪い…」

 

ほっと胸をなでおろした美鶴さんは盛大にため息を吐いた。まだこういうギャグは早かったかもしれない。

 

「三上、きみはなんというかこう…いつも突拍子も無いことをするな…」

「えっそう? ……そうかなあ…」

 

いつも自分は変わりなく自分なので突拍子も無いことをしているという感覚はない。

ただ、美鶴さんが言う「突拍子も無いことをする」というのはよく言われる。湊と奏子にも指摘された。

個人的に突拍子も無いことをするのは俺より湊の方だと思うんだけどなあと思うもこの周では特にまだそんなことをしていなかったので出せる手札がなかった。くそう。なんか悔しい。

むしろ今回の自分が『イレギュラー要素が入りすぎて突拍子すぎるぞボーイ』になってるのが問題だ。不可抗力なので本当にどうにかして欲しい。神社でお祓いをして貰うべきなんだろうか。

 

「三上、そんなに考え込まなくても…」

「いや、なんか突拍子もないことをしなきゃいけない原因の殆どが、運が悪い以外に思い浮かばないからお祓い行った方がいいかな…って……最近なんかトラブル続きだし…厄病神とかついてそう」

「そ、そうか…」

 

憑いてるのは厄病神とかじゃなくて死神なんですけど、とは言わない。

直接貰ったから憑いてるのとはまた違うかもしれないがこの前の湊の話からするとそんな感じに見えてしまうらしいので似たようなものだと思う事にする。

 

(あ…!)

 

厄病神と似たようなものだとしたらお祓いに行ったらホワイトライダー(ペルソナのほう)が消えてしまうのではないだろうか。日本の悪霊や厄病神と片やイスラムとキリスト教の存在が同じ祓い方で祓えるかどうかはさておき、厄祓いはやめておくかな…と、決めた。

毒を食らわば皿までというのでもうこの際はブッチぎって栄光の不運ロードを突き抜けてもいいかもしれない。立ち塞がる悪魔や神は物理で解決すればいいし、出来ない時は死ぬだけなので。

 

 

 

 

モノレールで移動し、ポロニアンモールのゲームセンターまで来た。

入り口にあるクレーンゲームの中ではヒーホーくんことジャックフロストのぬいぐるみがつぶらな目でお持ち帰りして欲しそうに訴えている。でも今日は我慢だ我慢。それにモコイさんが居るしジャックフロスト(のぬいぐるみ)まで部屋に連れ込めば「ハレンチ! 浮気者!」とテレビで見たらしい昼ドラの真似をまたされるに違いない。観葉植物を貰って帰った時にそうなったのでモコイさん的には植物も浮気に入るんだろうか。なぞだ。

 

「前を通った事は何度もあるんだが、いざ入るとなると、緊張するな…」

「初めは入りにくいのわかるよ。独特の空気感があるよね」

 

薄暗いし、うるさいし。

でも遊ぶとたのしくて時間を忘れちゃうんだよなあ。ついでに財布の中身の残りも。

 

「ここでは基本的に100円玉か500円玉でゲームやったりするからこの両替機で両替しとくといいよ」

 

手本を見せるように千円札を両替機に入れ、ボタンを押して百円玉10枚に交換する。

美鶴さんはそれを真剣な目で見て、必死に覚えようとしていた。

 

「もう覚えたかもしれないけど分からなかったら俺に聞いてね」

「ああ。分かった」

 

そう言いながら綺麗な黒い革財布から美鶴さんが取り出したのは──1万円札。

 

「ちょ、ちょっと待った!!!……あ」

 

慌ててとめたが遅かった。

1万円札は見事に吸い込まれ、声をかけたせいで驚いた美鶴さんの手が「100円に両替」のボタンを押してしまい、ジャラジャラという音と共に大量の百円玉が機械の受け皿に落ちていく。

 

「み、みみみ、三上…っ! これはどうすればいいんだ…!? 止まらないぞ…!」

「とりあえず、1万円分の百円玉を出したら止まるだろうから止まるまで待って……あとはどうしよう…美鶴さんの財布…はそんなに小銭入らないだろうしポケットもダメだし…」

 

半泣きになりそうな美鶴さんの困窮した叫びに考える。

大量の百円玉を入れる場所がない。いや、あるにはあるが自分のバッグとかだし美鶴さんもいい気はしないだろう。

そういえば、バッグの中に手ぬぐいが入っていた気がする。

洗ったばっかりだし程よい大きさもあるし小銭をまとめて入れて風呂敷みたいに包めばちょうどいいのではないだろうか。よし、それで行こう。とさっそくバッグから手ぬぐいを取り出す。ちなみに柄はヒーホーくんだ。この前ここのクレーンゲームでモコイさんと格闘しながら取ったものでもある。手ぬぐいは浮気判定にならずOKだったので本当に基準がわからない。

 

「美鶴さん、財布に入れられるだけ入れてあとはこれで包んでこっちから使おう」

「すまない…」

「俺もごめん。こういうのは、初めては千円札でやるってこと教えるの忘れてたから…まあ1万なんて使い切れない額では無いし意外とすぐ消えるけど…」

「?」

 

そう言いながら遠い目をすれば、美鶴さんが不思議そうにする。

 

「遊んで見ればわかるよ…遊んでみれば、ね…」

 

濁しておく。

一万円なんてここではあっという間に溶けてしまうのだという現実を身をもって体験してもらおうというわけだ。いや、まあさせるにしても三千円分くらいで止めておいた方がいいとは思うので本当に一万円分すべて使い切らせるわけではないが。

 

「美鶴さん、このなかで気になるものはある?」

「そうだな…あれがいい」

 

店内を少し歩いたところにバイクの車体のようなものと画面が付いているゲームが置いてあり、美鶴さんはそれを指さしていた。

どうやら体感型のゲームらしいそれは画面に表示された景色をそのバイクにまたがって擬似的に走るもののようだ。

1プレイ200円と書いてあるので何回かできそうだ。

 

「じゃあ俺は見てるから、行っておいで。説明は画面に出るし大体お金をここに入れたら始まると思うよ」

 

自分はバイクとかには乗れないのでコインの投入口などを説明しながら遠慮しておく。

そうしてバイクそっくりの機械に跨った美鶴さんは────────すごかった。

ゲーム内ではあるけど遠慮なくスピードを出してぶっ飛ばしていた。初めてなのにミスもない。

 

「…ふぅ、」

 

何回か連続でプレイした後にそう息を吐きながら降りてきた美鶴さんは心底楽しかったと言いたげでどこか満足したような顔だった。

 

「…現実ではああいったスピードを出すことはなかなかないから楽しかったよ。走るときの風がなかったり謎のブーストがあったりとリアリティには欠けるが素晴らしいゲームだった」

「楽しかったのなら良かった」

「ああ、では次は──」

 

ん…?中々ない…?無いとは言ってない…?時速200㎞オーバーを?

後でそう気づいたが追及するのは野暮だと思ったので水に流すことにした。

そうして店内をぐるぐる回りながらクレーンゲームをしたりまたバイクのゲームに戻ったりパンチングマシーンで遊んだりと美鶴さんと二人で様々なゲームを遊んだ。

 

「ほら、美鶴さん、これはこうやって写真を撮った後に写真に文字や絵を描けるんだって。書いてみる?」

「だが何を書けばいいんだ…?」

「うーん…」

 

プリクラの脇で二人してうんうん唸る。

半ばヤケ、半ばハイテンションで調子に乗ってプリクラを撮ったはいいが正直自分も美鶴さんもこういうのは疎い。

男だけでプリクラに来たのなら「テレッテー」やヒーホーくんをふざけて書いてもいいがそんなわけにもいかず。

 

「……ハートとか…うさぎさん、とか…?」

「そうか」

 

苦し紛れにそう提案してみる。

凄まじく苦し紛れだが美鶴さんはそれに頷いてペンを持った。

 

「…できた」

「おお…」

 

印刷されたプリクラを美鶴さんが掲げ、自分がそれを覗き込むようにしてみる。

写真には妙に美白されてお目めぱっちりの自分たち二人とかわいらしいうさぎさんのイラストが写っていた。プリクラすごい。

奏子はこれで何度も撮ってキメ顔などを練習しているらしいし、話に聞けば湊も似たようなことをやっているらしいのでもしかするとプリクラにはなんだかそう言う効果でもあるのかもしれない。

小心者なのでプリクラではやらないし、自分にはそこまで研究することができないけれど、2人の度胸のありすぎる行動は素直にすごいと感じる。特に湊は山岸のお弁当(ぶったいX)を少し前にチャレンジしたらしい。漢だ。

 

「えっと、付属のはさみで半分に切って分けて持って帰る、のかな」

「では切ろう」

 

ちょきん、と綺麗に半分に分かれたプリクラの片方を貰う。

それを財布に入れて、バッグにしまう。…美鶴さんの百円玉は使い切れなかったがそろそろ夕方を過ぎて夜だ。

 

「晩御飯はどこかで食べる? あ、もちろん高級料理店とかじゃないところだけど。良くてファミレスとか“はがくれ”かなあ。大丈夫そう? 駄目そうなら寮で何か作ってもいいし」

「私は“はがくれ”のラーメンと“うみうし”の牛丼は明彦や荒垣と体験済みだ。だから安心してくれ。どこだろうと行って見せるさ」

 

ふふん、と自信たっぷりに告げた美鶴さんの前に出て歩き出す。

 

「じゃあ、俺がたまに行くとこで良ければ」

 

 

 

 

ファミレス ビックリぼーい 巌戸台駅前店

 

ウエスタンな雰囲気の店内のファミリーレストランである“ビックリぼーい”に来た。

今年の春に開店したらしいそこは、デザートを食べたりドリンクバーを飲みにモコイさんとたまに来る場所になっている。

店内にバイクのレプリカが飾ってあるし、まあまあ好きなものを選べてお値段が安いこともあって美鶴さんと来るには悪くない場所なんではないかと思ったのだ。

 

「このドリンクバーって言うのが飲み放題でスープバーがスープお代わりし放題なんだ。料理とセットで頼めば割引も入る」

「なるほど。お得だな…だがこれでは店の経営が…」

「そういうのは大丈夫なようになってるんだと思うよ」

 

メニューを見ながら説明する。

他の料理については説明しなくても大丈夫だろう。ここで問題なのはドリンクバーでもスープバーでもなく、自分の胃の要領だ。

今日は調子がいいが、モコイさんと一緒じゃないので普通の量は食べきれるかわからない。

 

(軽めでいこう)

 

メニューを眺めながら考える。コラーゲンたっぷりのぷるるんフルーツティーやグランドマザーバーグがおススメと書いてあるがここはサンドイッチにすべきだろう。

びっくりサンドと書いてあるが大丈夫だろうか…と少し不安になるもサンドイッチに決め、注文をする。

 

「──ごちそうさまでした」

「ごちそうさま」

 

料理とデザート(は美鶴さんだけだったが)を食べ終え携帯で時間を見る。

20時を少し過ぎていた。外で食べてくるという事と、遅くなるかもしれないという連絡は入れておいたので大丈夫だろうとは思うがあまり遅くなるのもよくない。

 

「そろそろ帰ろうか」

「そうだな」

 

帰りはお互いたわいのない話をして終わった。

「楽しかったね」とか「また行こう」とかその程度だ。でも、それでいい。

だって別にこれは特別なことではないのだから。

またいつでも時間が合えば適当に待ち合わせして適当にぶらついて楽しんで、それで終わり。別に高尚なものでもなんでもない関係。

それが友だちと言うモノなんじゃないかと自分は思う。

 

ただ──

 

(なんていうか今日のはデートっぽくないか…?)

 

他の人から見たら完全にこれは友だち同士と言うよりデートしてる男女じゃないんだろうかという不安が鎌首をもたげる。

美鶴さんには許嫁がいるだろうし変な噂がたってもただの友人だ、で貫き通すつもりだが些か不安だ。

それに自分には、そんな気持ちもなければ責任も取れないので手を出そうなんてことも頭にない。仲間や友達としては大事なんだろうけれど、『好きになって恋愛して』というのは向いていない。いや、向いていないというより()()()()()()()んだと思う。

どうせ死ぬから、だろうか。…理由はよくわからない。

 

「それじゃあ美鶴さん、また明日」

「ああ、また明日」

 

寮二階の踊り場で別れ、部屋に戻る。結局、おやつに食べようとしていた文吉おじいさんから貰ったメロンパンを食べ損ねてしまったのでモコイさんにあげようと思う。

メロンパンはまだ食べたことないはず、と思いながら鍵を回しドアを開ける。

 

「ただいま、モコイさんいる?」

 

…………。

 

返事は無い。

部屋はもぬけの殻だった。

窓が開いているのでまた散歩だろうと窓を開けたままにしておく。

朝には帰ってくるだろうし、メロンパンは机の上に置いておいて風呂に入って先に寝てしまおう、と立ち上がった。

 

 

 

 

モコイは走っていた。

否、“逃げて”いた。暗い夜道をそれはもう必死に。

 

「ダァ~~~~~! いい加減しつこい男は嫌われるよ、チミたち!」

「待て! モコイ! “先代”の仲魔だったお前だけが手がかりなのだ!」

 

黒猫と学ランの男に追われているモコイはその言葉にぴたりと足を止める。

 

「ハァ…ハァ…“先代”っスか…ボクの話すことはなにもねえ!ダネ。先代のお目付役でもあったチミの方がよく知ってるんじゃない? ね、ゴウト」

「……」

 

モコイがゴウト、と呼んだのは男ではなく黒猫の方だ。

黒猫──ゴウトはその言葉に押し黙る。

 

「だんまりっスか。そうだろうね。だってチミは置いてかれたんスから…あの人に」

 

怒ったような声でモコイは吐き出す。そしてその言葉に男が反応した。

 

「どういうことですか。先代は、事故死だと…!」

「どうもこうも事故なんかじゃナイナイさんだよ。ライドウくん。ボクはチミたちの言う先代に逃がされてここにいるんスから。だからといってチミに協力しろとは言われてナイからネ。だからボクはボクで探すと決めたんスよ…たとえその魂が混沌に喰われていたとしても、ニンゲンじゃなくなっても、ボクは」

「だからと言ってどうやってその身体を維持しているのです! マグネタイトやマガツヒがなければ貴方たち悪魔は姿を保てないはず! まさか人を…!?」

 

男──ライドウが怒鳴るように問い詰める。

しかし、モコイは更に怒気を強めて言い返した。

 

「は? チミ、あの人のことを、あの人の仲魔であるボクを舐めてるの? そんなナンセンスさんなコト、するわけないネ」

「ではどうやって…!」

 

方法がわからない、といった様子のライドウに、モコイは溜息をついた。

 

「野良悪魔とニンゲンの食事ダヨ、チミ。それで十分」

「……」

「まあチミには理解できないかもしれないケド、天才なモコイさんはもう協力者を見つけてんスよ。だから、教えない。言わない。ボロボロで元気ナイナイなあの人を無理やり生贄にしたチミたち“ヤタガラス”には」

「それは…!」

 

沈黙していたゴウトが口を開く。

先ほどとは違い悲痛な面持ちで一歩前へ出たゴウトに、モコイの視線は揺らぎもしない。

 

「それは…仕方のないことだった…! いや、今のお前に何を言っても伝わらないかもしれないが……あの時、あの強大なものを相手に動けるのはあやつしか居なかったのだ…! あやつが居なければ、今頃世界は滅んでいただろう…!」

「あの人、最期までチミたちを恨みはしてなかったみたいっスけど、そういうキレイゴト嫌いなんだよね、ボク。だって、身体も魂も()()()()()()()()()じゃないスか」

「……ああ」

「だからこんなとこまで来て、ボクなんか追っかけまわして調べてるんスよね。人気者でヤになっちゃうナ~~~~」

 

わざとらしく手を広げながらよたよたと回る。

そして、

 

「ボク、ネムネムちゃんだし。もう話す気しないね、キャントーク。…じゃあネ」

 

くるりと一回転して強い風と共にその姿を消して、モコイはライドウとゴウトの前から居なくなった。

 

「ゴウト、あのモコイの話は…本当ですか」

「…ああ。お前に隠し事をしていてすまなかった。ライドウ。この件について調べろと通達されたときに話しておくべきだった…」

「いえ…」

「お前はそういうところも本当に十四代目に似ている…だが、そうだな…生まれ変わりなど…ないのだったな」

 

夜空を見上げながらゴウトは己の入ることのできない“説教部屋(へや)”を思い出し、何かを懐かしむように呟いた。

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