君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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第二の騎士(7/22)

7/22(水)昼

 

昨日は結局あの後好きなだけ惰眠を貪り、夜の食事に出たエビとカニに大興奮して終わった。(なおこれも幾月ではなく桐条の別荘が用意してくれたものである。ごちそうさまでした)

終始、アイギスがじっとこちらを見るにとどまらず、ぴったりとくっついてきたことには驚いたが湊や奏子にしていることの延長だと思えば特別おかしなことではない。

ちなみにアイギスが添い寝したことは誰にもバレていない。とんでもねぇあらぬ誤解を受けることは無かった。

 

そうして朝はぐだぐだとカラオケをしたり広い浴場で朝風呂をしたりトレーニングの為に走り込みに行ったりなどそれぞれ楽しんでいたようで、自分も軽く海辺を散歩しに歩いたりした。

 

(…あれ…?)

 

その途中、海で3m以上はありそうな大きな亀を見たような気がしたが、瞬きをした瞬間に見えなくなっていたので蜃気楼か幻かなにかだったんだろうと思う。現実にあんな大きな亀いるわけがないし、そもそも顔は亀と言うよりサルっぽいような獣っぽいような感じで尻尾も蛇のように長かった。

もしかして悪魔かと思ったが悪魔ならまず襲ってくるだろうし暑さで見た幻だろうと結論付けた。

 

昼になってから皆でまたビーチに行こう、という事になったので荷物を持って浜に出た。

アイギスが海水に濡れても大丈夫なのかとか遊ぶことは大事だとかいろいろな話をした気がするけれどひたすら浮き輪で浮いてくるくると回って酔ってしまっていたのであまり覚えてない。楽しいからって調子に乗りすぎた。

ただ、沖に流されそうになった時になにかに下から押し上げられて浜まで運んでもらったのは不思議な感じがした。その何かの姿は見えなかったが、押し上げられたときにごつごつとした岩のような感触がしたのを覚えている。

まさか、朝に見た亀…なわけはないかとその予想を振り切る。たぶん、波がたまたま自分を押し上げて、岩か何かに足が触れただけ、だと思いたい。

 

少しだけとはいえやはり暑さと海に浸かったことで体が疲れたので、先に帰ると言い残して別荘へ帰った。

 

シャワーを浴びて、服を着替える。

もうすぐマーガレットが言っていた試練の日になるのだが、メノラーの炎は依然揺れもせずに穏やかに燃えていた。

今日じゃないのなら明日来るのだろうか? と思いながらテーブルの上にメノラーを置いて眺めるも動きは無い。

部屋のテレビでも見ようかとリモコンに手を伸ばしたとき、テーブルの上のメノラーの炎が揺れた。

 

「っ!!」

 

きた。

誰かに見られている感覚と、とてつもなく恐ろしい何かの気配がする。

 

>ここに、とどまりますか?

 

誰かにそう問われている気がする。

頷く。心の準備はできている。いつでも来い。

 

>本当に、とどまりますか?

 

再度頷く。

頷いた瞬間、足元に穴が開いて落ちる。

 

目を開けば、そこは以前見たものと同じ荒廃した風景が広がっていた。

が、今回はモコイさんがどこにもいない。

それどころか自分の服装もボタンとネクタイは絞めていないようだが黒いスーツになっていてとても戦うような服装ではない。

腰には刀と拳銃とベルト。

そのベルトにはライドウくんが持っていたものと同じ管のようなものが何本か装着されている。

 

「…?」

 

なぜこんな格好にする必要があるのかよくわからないがこれも必要なことなのだろうと気に留めるだけにして、魔人がやって来るのを待つ。

 

ヒヒィイン!

 

嘶きと共に、地の底から這い出るようにして現れたそれは、血のように赤い馬だった。

その上には、ホワイトライダーと似たような黒いローブを纏った姿の長剣を持った骸骨が跨っており、その虚ろな眼窩でこちらを見つめてきた。

 

「ほぉー、まだ生きておるとはのぉー。我ら四騎士、世に聞こえた死の担い手を一騎といえど退けるとはー…見事、見事。しかし、このレッドライダーは戦闘きょ…白の騎士ほど甘くはないぞ」

「いまホワイトライダーのこと戦闘狂っていいかけませんでしたか」

「ほっほ! 気のせいぢゃよ!」

 

ホワイトライダーに続きレッドライダーまでもがこんな感じでなんだか締まらないのは黙示録の騎士特有のものなのだろうか。

黙示録の騎士は意外とアットホームで和気あいあいとした集団だった…?

 

「闇より出でた鮮血の騎士であるワシが、おまえの息の根を……

 

止めてやろうぞっ!!」

 

クワッ!と口を開いて殺気を迸らせたレッドライダーに、警戒を高め、刀に手をかける。

 

「おまえの乱心が我が喜びよ。…では、はじめるとするかのー」【死兵召喚】

 

笑い声を上げながら、レッドライダーは天使 パワーを呼び出す。

いつ襲い掛かられてもいいように、こちらも刀を抜いた。が、

 

「なんじゃ、はようおまえも仲魔を召喚せぬか。今日(こんにち)の死合い、ペルソナとやらは禁止なのじゃからのう。ぼさっとしとると死ぬぞー」

「は?」

 

レッドライダーのその言葉に、ぽかん、と気の抜けたような顔で聞き返す。

ペルソナが使用禁止だなんて聞いてないし仲魔の召喚なんてしたことがない。そもそも、仕方がわからない。仲魔なんてモコイさんしかいないしモコイさんも召喚とかそういうことをするタイプの悪魔じゃない。

常に一緒にいるのだからいきなり召喚しろと言われてもどうすればいいのかわからない。

 

「おまえ、その様子だとなにも知らされておらんのだな? 乱心は乱心でもそのような乱心は望んでおらぬわ! はー…あの詐欺(ペテン)師も我らにかのようなことを言いつけておきながら実態すら把握していないとは、心底呆れてモノが言えんわ…悪魔王の方がちゃんとしておったぞ…」

 

レッドライダーが頭を抱えたように唸る。

なにやら、レッドライダーたちに何かを頼んだ存在に対して呆れているらしい。なんというか、さながらバイト先の店長から何も伝えられていないバイトのようだ。

 

「まあよいわ。腰につけている管を持て。さすればどうすればよいか本能的にわかるじゃろう」

 

言われた通り、ベルトについている管を二本手に取り手に持つ。

その瞬間、身体からペルソナの物理スキルを使ったときに近い感覚で何かが吸い取られていくのを感じた。きゅる、とひとりでに管が開く。

 

──召喚。

 

「やあ、ボクを呼んだかい? サマナー」

「おいライドウ! オレっちの活躍時か!? ってまたクリシュナと一緒かよ~」

「なんだいカルキ、キミは随分とまた喧しいね」

「んだとう!? 昔は救世主(カルキ)救世主(カルキ)~って煩かったのによー」

「サマナーの召喚した分霊のキミが想像以上にアホで脳筋でボクの理想とかけ離れていた。ただそれだけだよ」

 

何だこれ。

とても悪魔とは思えない褐色肌の少年2人(片方は笛をもってふよふよと浮いてるしもう片方は槍を持って白馬に乗ってる)が出てきた。

なんだか2人で言い合いをしているしレッドライダーの事はかなりアウトオブ眼中だしマジで何が起こっているのかよくわからない。

 

「…少し見ない間にあのキョウジとかいう人間の真似をして、カロンにでも頼んで身体を替えてもらったのかい? おや、魂が違う…?」

「なあおいクリシュナ、こいつさーオレっち達のライドウに似てっけど、()()()()()()()だぜ」

「カルキの言う通り、キミはよく似ているけれど、ボクのサマナーではないね。甘美だけれど酷く不快なあの混沌の臭いがする混じり物のようだ…ただの人間にしては歪だね…()()()()()()()()()?」

「え…? いや、わからない、です…」

 

クリシュナ(笛を吹いている少年)とカルキ(槍を持っている少年)に警戒された目で見られるも、言われていることがよくわからないから答えようがない。

 

「あの、さ。2人は今のところ俺の仲魔って事でいいん…だよね?」

 

確認する。これで人違いなので仲魔じゃありませんと言われたらチェンジを要求したいところだ。

 

「まあいいよ。どうせこの夢のような邂逅は一時的なものだろう? なら、彼によく似た輝きを持つキミの手助けくらいはしてあげるよ。これもまた、救済への一歩だからね」

「オレっちは戦えるなら誰でもいいぜ! あっでもオレっち達のライドウは甘いもんもたくさんくれたしなあ…やっぱライドウだな! 困ってるやつを助けてやってくれって言われてるしオレっちもお前と一緒に戦ってやるよ!」

 

勝手に納得されて共に戦えることになったようでホッと胸をなでおろす。

さっきからライドウくんの名前が出てきているが彼らはライドウくんの仲魔なのだろうか。もしそうなら、ライドウくんの仲魔を勝手に使っていることにならないかと少し心配になった。今度会ったとき謝ろう。

 

「ほっほ、これで場は整ったようじゃな。これでこそ殺しがいがあると言うものよ!」

 

律儀に待っていてくれたレッドライダーは酷く上機嫌だ。

まるで料理の下ごしらえを終えたと言わんばかりに歯を鳴らすレッドライダーは剣を振り上げた。

 

「なんとまあ気の早い魔人だ。こういうのは事を急くものではないよ」『戦いのターラ』

 

そこへ、クリシュナが割り込んでリズムを奏でる。

そのリズムを聞いていると、なんだか力が湧いてくるような感覚がした。まるで、心を奮い立たせてくれるような、不思議なリズムだ。

 

「なるほど、能力をかさ上げしおったか。まあよいわ。小手調べにわしの一撃、受けてみよ!」

 

【タルカジャ】

 

【タルカジャ】

 

脇のパワーたちが両方とも攻撃力を上げる魔法を使う。こちらには【強化を打ち消す魔法(デカジャ)】がない。ペルソナが使えたらパンタソスが覚えているデカジャでなんとかできるのに、と歯嚙みする。

レッドライダーの振り上げた剣に光が集まる。

その瞬間、ぞわ、と背筋が粟立った。まるでホワイトライダーのゴッドアローが放たれる寸前のような感覚を覚えて身構える。

 

【テラーソード】

 

それは、純粋な横凪ぎだった。しかしただの斬撃ではない。

熱風のような衝撃波が付随した強力なものだ。

 

「ぐぅうっ!」

 

刀で防御するがあまりの衝撃で頭がぐわりと揺れる。とんでもなく痛い。

 

「サマナー! 大丈夫か!」【ジャベリンレイン】

 

カルキがパワーを蹴散らし、声をかけてくるが頭がくらくらしてそれどころではない。

いま、何をすべきだったのかわからなくなってくる。誰が敵で、誰が味方だったか。

 

「だああ! クリシュナ! なんか回復できねーの? アイツ混乱してるぜ!」

「ボクが『ニヤリ』ともしてないのに混乱を回復できる魔法を持ってるとでも? ああ、これなら山のようにあるから使いなよサマナー」

 

ぽん、と肩に手を置かれ、見せられたのは傷薬。

 

「あ、ああ、ありがとう」

 

礼を言ってからそれを受け取る。そして大きく振りかぶって──

 

「って、傷薬で混乱が治るかーーーーーッ!!!!」

 

バチコーン!

 

──受け取った傷薬を地面にたたきつけた。

そしてすぐにホルスターから銃を抜いて乱射する。

ヤケクソで乱射したそれは運よくレッドライダーに何発か当たって弾切れになった。

 

「はー…はー…」

 

弾が無くなってもなおカチカチと音を鳴らしながら引金を引くも、乱射したら少し冷静になったのか、頭の中がクリアになった。

いや、銃を乱射して冷静になるとか我ながらイカレてるなとは思うけど実際冷静になれたので無問題だ。

 

「緊縛弾を仕込んでカツアゲ…緊縛弾を仕込んでカツアゲ…」

 

なぜか空になった銃に弾を補充していると頭の中で別の思考が渦巻くのでぶつぶつと口に出して精神の安定を図る。こんなことを考えてしまうなんてモコイさんにカツアゲの仕方を教わったせいかもしれない。

 

「大丈夫かこのサマナー…金欠ん(カネがない)時のライドウみてーなこと言ってんぜ…目もイッちまってるしよー、まだ混乱してるんじゃねーの…?」

「ボクのサマナーもあれはあれで正常だったんだから彼も大丈夫なんじゃないかい? ああ、ボクのサマナーも緊縛にしたいのなら『百麻痺針』を覚えた仲魔じゃなくて、ボクの『毒龍のラーガ』を使ってくれればよかったのに…」

「いや、お前のアレ使い勝手わりーじゃん」

「は?」

「怒んなって~! お前のその顔こえーんだよ~!」

 

横で2人がなにやら言い争っているがよくわからないのでスルーして、先ほど地面にたたきつけた傷薬を拾ってレッドライダーから距離を取る。ちょっとへこんでいるけれど使えないことは無いだろう。

とりあえず自分に使うことにして、2人の様子を確認する。

こういうことになれているのか、それとも見た目に反して強力な悪魔なのか、クリシュナもカルキも【テラーソード】の直撃を受けたにしてはあまり傷がないように見えた。

 

「おっと、ワシから目を離してよいのか?」

「!?」

 

真横から聞こえてきた声に、反射的に刀で受け身を取る。

金属がぶつかり合う鈍い音がして腕が痺れるような感覚と相応の重さがかかった。

レッドライダーが瞬時にこちらへと距離をつめ、その長剣を振るったのだ。

 

「受け止めたか。なるほど、ホワイトライダーに勝ったのはまぐれではないらしいのう」

 

いや、まぐれです。と言いたい気持ちを抑えてこちらもお返しと言わんばかりに刀を振るう。

しかしひらりと避けられた。

 

「ほっほ、剣のキレは粗削り。まだまだといったところだのー。じゃが、その構え…ふむ。あの詐欺(ペテン)師が我らに頼むだけのことはある。確かに、磨けば光るやもしれんな…ほれ」 【真空刃】

「がっ!!」

 

「サマナー!」

 

至近距離から、まるで子供に駄賃をあげるような気軽さで強烈な風の刃が飛んできた。

殺気も前振りもなにもなく突然飛んできたソレを避けられるはずもなく、直撃して吹っ飛んだ。

ゴロゴロと地面を転がり、痛みに呻きながらも刀を支えにして立ち上がる。

 

「げほっ…」

 

血を吐く。ボタボタと垂れるそれは先日咳き込んだ時に吐いた血の比ではない。

強い。ホワイトライダーも強かったが、アレは単純な力比べといった感じだった。対してレッドライダーは攻撃時にある殺気を感じさせない、まるで自分の危機予知に対しメタを張るような戦法を取ってきている。

──勘に頼るのではなく、実力で戦えという事か?

 

「サマナー、大丈夫かい」

「だい、じょうぶ…」

 

横へと瞬間移動してきたクリシュナに返事をする。

自分の着ている服の腹の部分は裂け、血に塗れているが関係ない。動けるのなら上々だ。

 

「はー!? ダイジョブじゃねーだろ! おいクリシュナ! 【メシアライザー】でもつかってやれよ!」

「やだよ。ボクがあれを使うのが嫌いなのは知っているだろう? 僕は救世主(メシア)だなんてガラじゃない。どうしてカルキ(キミ)が覚えないんだか…」

 

苦々しい顔で顔を顰めるクリシュナはなにやら事情があってこちらを回復することが出来ないようだ。それならそれで仕方がない。手持ちで何とかするしかない。

 

「ぐ…おれは、大丈夫だから…」

「だ、そうだぞ。おまえ達もよそ見をしていてよいのかのう?」

「!!」

 

横に立っていたクリシュナとカルキが吹っ飛ばされる。

殺気も何もあったものじゃない。目を離しはしていなかったはずだ。冷や汗が流れる。

このままでは、死ぬ。

 

「はあ…はぁ…!」

「おまえの仲魔もこれでは近づけまい。素質は感じるが、それまでよ。これで終いにするかのー。まあまあ楽しめたぞい」

 

レッドライダーが再び剣を振り上げる。

 

──死にたくない。

 

──死ぬわけには、いかない。

 

黒い何かが、足元から湧き出る。

レッドライダーの手が止まり、こちらをじっとみつめてきた。

 

「これは…まさか、濃度の濃いマグネタイト…!? こんなものを放出するなど本当におまえはタダのニンゲンか…!?」

「…知るか」

 

自分が人間かどうかなんてどうでもいい。

管を一本手に取る。呼ぶのは1人。

決まっているしこの管の中に誰がいるかも()()()()()

 

「来い」

 

──召喚

 

ヒヒィイーン!

 

「ハッハー! ペルソナとしてだけではなく、こちらでも()ばれるとは思わなかったぞニンゲンよ!」

 

──魔人 ホワイトライダー

 

「俺は、お前を()んで、お前は俺を選んだ。それが答えだ」

「ああそうだな! 俺を()ぶだなんて相当オマエはラッキーボーイなようだ! 分霊とはいえオマエと並んで戦えること、光栄に思うぞ!」

「…さて、仕切り直しさせてもらう。俺と、“俺の仲魔たち”で」

 

馬の嘶きと共に現れたホワイトライダーが横に並ぶ。

レッドライダーに刀を突きつけた。

 

「カッカ! なるほど、ホワイトライダーを呼び出したか。だがお前が満身創痍だという事に変わりはないぞい? さあ、どう切り抜ける?」

「どうもこうもない。ご り 押 し だ」

「なんじゃと?」

「だから、ええと、ごり押し…だけど」

「……」

 

レッドライダーがこちらの答えに口をあんぐりとあける。

ごり押しはそんなにダメだっただろうか。自分的には最適解だと思うのだ。

 

「ぐちぐちぐちぐちと考えるのがダメだったんだ。脳みそ空っぽにして、身体に動くのを任せた方が、よっぽど俺は動ける。だろ──クリシュナ」

「──まあ、そんなこともあるかもしれないね」【戦いのターラ】

 

クリシュナの奏でる戦意を上げるリズムが響く。それで能力を底上げして、駆ける。

レッドライダーの剣戟を、ホワイトライダーが矢で相殺することによって護ってくれているのが分かったのでそのまま走り続ける。

 

「レッドライダー! 今は俺と死合ってもらうぞ! たまにはこういうこともいいだろう!!!」【プロミネンス】

 

ホワイトライダーが作り上げた火球が爆発し、膨大な熱を発生させる。自分の頬を熱が撫でるがそれでもレッドライダーに近づくことをやめない。

 

「ええい、分霊とはいえホワイトライダーよ! きさま、ちょこざいな!」【龍の眼光】

 

【チャージ】

 

「暑苦しいおまえはこれでもくらうがよいわ!」

 

レッドライダーは一瞬で力を溜め、ホワイトライダーに向けて剣を振り下ろした。

 

【ベノンザッパー】

「ぐおお!? フ、フハハ! この痛み! “イイ”な!」

「ウワ、キショ…ワシ、永らくおまえと共に騎士をやってきていたが…今になっておまえのことかなり気持ち悪いと思うぞい…」

 

威力が倍増されたそれが直撃したホワイトライダー──の馬が膝をつく。何とか、上のホワイトライダー本体は馬から落ちていないようだがふらふらとよろめいていた。だが、()()()()()()

 

「うおおおおおおお!! 突撃突撃突撃ィーーー!!!! オレッちってばいまッ最っ高に英雄(ヒーロー)してるぜーーーーーー!!!!! オラッ! 【天罰】てきめんだーーーーー!!!!!!!」

 

カルキがそのガラ空きの背中に向かって白馬と共に突撃する。その槍の切っ先が放った光は、レッドライダーを捉えた。

 

「じゃあボクはまた奏でていようかな?」 【戦いのターラ】

 

クリシュナがトドメと言わんばかりにもう一度リズムを刻む。レッドライダーの距離はもう目と鼻の先。

”準備”はこれで終わりだ。これならば、レッドライダーに止めを刺せる。自分は、その方法を知っている。

 

地を蹴り、レッドライダーの上を取って刀を振り上げ力を溜める。

そして、

 

「魔を祓え──」

 

──それを、振り下ろす。

 

「──“赤口葛葉(しゃっこうくずのは)”」

 

刀が、レッドライダーを袈裟斬りにする。

レッドライダーはそのままぐらりと傾き、落馬してその愛馬と共に消え去った。

 

「イエーーーイ! オレっち達大勝利~~~~~~~~!?!?!? ところでホワイトライダーオマエさ、そんな性格だったっけ」

「ハッハー! いい質問だな! 今の俺はオマエ達の同僚のホワイトライダーの身体を借りているだけだ! じきに還る! 心配するな!」

「へ~~~~~よくわかんね!」

「そうか! ハッハッハッ!」

 

「まったく、脳筋が2人いると喧しいね。…まあ、キミも脳筋だったから3人かな?」

 

レッドライダーに勝った喜びから、カルキとホワイトライダーが会話している。その横で、クリシュナが寄って来た。

 

「ほら、傷を見せなよ。ボクがこの手で癒してあげようじゃないか」

「あ、傷薬? ありがと──」

【メシアライザー】

「!?」

 

傷薬を塗ってくれるのかと傷口を見せた途端、癒しの光が自分を包む。これは、先ほどクリシュナが使うのを嫌がっていた【メシアライザー】という魔法ではないのだろうか。

一体、何の風の吹き回しでそれを使ってくれたのだろう。首を傾げる。

 

「──きっとボクらはなにかがあってキミと離れ離れになって2度と会えなくなってしまったんだね」

「…?」

 

どういうことだろう。

クリシュナもカルキもホワイトライダーも、目の前にいるのに離れ離れになったというのは意味が分からない。もしかして、クリシュナは不思議ちゃんなのかもしれない。こう、ポエミーな感じで。

 

「ボクからすればキミをそんなにしたヤツをくびり殺してやりたいところなんだけど」

「なんて物騒な悪魔なんです!?」

「おや、ボクは昔から物騒だよ? キミの仲魔になったのも世界を(ボクの都合のいいように)救済しようとしたボクをキミが血まみれの殺し合いをしながら調伏したからだったじゃないか。あの時の赤口葛葉(カタナ)の切っ先の痛みは今でも思い出せるよ」

「すっごいバイオレンス! というか出会いを捏造しないでくれないかな!? 俺とキミたちはさっき会ったばっかだよ!?」

「なにを言うんだい。純度100%実話だよ。誉れ高き17代目葛葉ライドウ。ボクの認めた“ボクのサマナー”」

「ひぃぃ……絶対ウソだ…勘違いしてる…」

 

この(あくま)、俺の事ライドウくんと勘違いしてるよ…コワ…今度伝えとこ。なんて思いながら、ケロッとした顔で冗談を言うクリシュナにビビって距離を取る。なんだかその目に幾月と似たようなほの暗いものを感じて怖くなったからだ。

 

ヒヒーン!

 

ぶえっくし! とんだ脳筋どもじゃわい! ワシがおまえ達のような脳みそにコロッケでも詰まってそうなやつらに負けるとは思わなんだわ…じゃが、これも実力のうちといえようぞ」

 

馬の嘶きと共にレッドライダーが復活して帰って(リカームして)来る。

なんというか、酷い言いようだ。なんで頭にコロッケなのかよくわからないけれど、なんだか馬鹿にされてるのはわかる。

 

「おや、ボクは一緒にされちゃ困るんだけれどね?」

 

クリシュナの笑みが怖い。

その気迫にレッドライダーが少しビビって後ずさる。うん、わかるよその気持ち。

クリシュナは怒らせると怖い。さっき分かった。

 

「う、うむ…そうじゃな。して、ニンゲンよ。勝利の報酬としてホワイトライダーのやつめがしたように、ワシもおまえにワシの分霊を降ろそうぞ」

「ありがとうございます…?」

 

正直、これに何の意味があるかよくわからない。

確かに今回の屋久島旅行ではホワイトライダーのペルソナが居なければあの大量のシャドウへ時間稼ぎをして切り抜けることはできなかっただろうし、この縁がなければ今回管からホワイトライダーが出てきてくれることもなかっただろう。

それでも、本当に何のためにこんなことをしているんだろうかと疑問に思う。だれもそれに答えてくれる人がいないというのが答えなのかもしれないけど。

 

「血と内乱を司る終末の赤き騎士の力、頑張ってうまくつかうんじゃぞ! ワシとの約束ぢゃ! カカカ!」

 

チャーミングに顎を鳴らしたレッドライダーに頷いた瞬間、視界が白に染まる。

クリシュナやカルキに「一緒に戦ってくれてありがとう」と言わないと、と口を開いたがもう遅い。

気が付けば、別荘の自室のテーブルの前に元の格好で立ちすくんでいた。

 

「あれ…」

 

つつ、と頬を濡らす水滴を手で拭う。

涙だ。

どうして自分が泣いているのかよくわからない。だって、彼らとの出会いはあのひと時だけだった。そんなある意味少しの付き合いしかないような悪魔に対し、泣くようなことだったのだろうかと思う。

それにライドウくんに会えばいつでも彼らに会えるのだから、泣く必要なんてないじゃないか、と考えた。

 

(旅行から帰ったら、また彼らに会えるといいな…)

 

今から帰るのが少し楽しみになってくる。

 

メノラーの火は、何事もなかったかのように穏やかに燃えていた。

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