君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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第三の騎士(8/17~8/20)

8/17(月) 昼

 

絶賛夏休み継続中だが、今日から駅前の映画館で『映画祭り』が始まった。

モコイさんと『怪傑! 悪魔探偵キョージー』なる、10年前にやっていたドラマのリメイク映画を見に行った。

売店で買ったポップコーンをかじりながら、悪魔使い兼名探偵のキョージーがさまざまな試練を乗り越え謎を解決するオカルト痛快アクション作品を食い入るようにみた。

特に、クライマックスでのライバルであり黒幕でもある黒人系筋肉モリモリマッチョマン神父なシドー・デビースとの一騎打ちは熱かった。

膝の上に座っていたモコイさんも心なしか目をキラキラさせて画面を見つめていたし、映画館から出ても興奮冷めやらぬと言った様子で、シドー・デビースの肉体言語(と言う名の格闘技)を真似して「ホアチャー!」と素早いパンチとキックを繰り出していた。

その短い手足でそれをやるものだから、ただただ微笑ましいものでしかなかったが。

 

 

 

 

8/18(火) 昼

 

今日も映画祭りだがモコイさんが家で留守番(ネトゲ)をしていると言ったのでひとりで映画館に入ろうとした。そのとき、チケット売り場で困ったようにうろうろと彷徨っている少女を見つけた。

──ありすだ。

ひとりで居るという事は、おじさん達とは一緒じゃないのか。

 

「どうしたの?」

「ユーキおにーちゃん!」

 

そう声をかければ顔を明るくしたありすが振り向いてこちらを見る。

留守番と言うには番をしていない彼女ではあるが、おじさん達公認らしいなので気にしないことにしよう。

 

「あのね、ありすね、またひとりなの…それでね、」

 

もじもじとしながらありすが視線を寄越すのは『不思議の国のアナタ』と書いてあるファンシーな女児向けっぽいアニメ映画のポスターだ。なるほど、これが見たかったがおこずかいが足りないのかないのかでチケットを買えなくて困っていたと。

 

「一緒に見る? 俺もちょうどなにか映画を見ようと思っていたんだ」

「いいの? わーい! おにーちゃんありがとう!」

 

ここは空気を読むことにしようと思う。

ありすの分のチケットを一緒に買って、売店でジュースを手に入れ映画に臨んだ。

ただ、ポスターはファンシーだったが内容はファンシーじゃなかったことを記載しておこう。

 

「たのしかったー! ありすもウサギさんでカワハギしたーい!」

 

…おおよそ小学生低学年の幼女が映画館から出た後でスキップしながら言う台詞ではない。

いや、映画の内容が内容だったので仕方ないが年齢区分仕事しろとしか言えなかった。

見た目ほのぼのを装った、とんでもない映画だったとはいえ子供の入りが結構多かったので途中からは「こわいー!」「マ゛マ゛ァ゛ー゛!゛」など聞くに堪えないような、いたいけな子供の悲鳴が飛び交っていたのはいうまでもない。もう阿鼻叫喚である。

ありすはその中でもずっとニコニコしていたしキラキラとした目を向けて映画を見ていたので、もう本人が楽しかったのならいいやと諦めることにした。

ただ、二度と見ない。絶対にだ。

 

「あ! おじさん達が迎えに来たみたい! じゃあね、ユーキおにーちゃん! バイバイ!」

「バイバイ」

 

いつも通り駆けだして行くありすに手を振って別れる。

そういえば、ありすの言う”おじさん達”に会ったことがないんだが本当に存在するんだろうか。

…いや、彼女がいるというんだからいるんだろう。そうじゃなければ、あの身ぎれいなありすの説明がつかない。

小学校低学年の幼児が、誰からの庇護も受けずに過ごすなどと言うのは不可能に近いからだ。

心配するだけ杞憂か、と思いながら帰路についた。

 

 

 

 

8/19(水) 昼

 

「おや、奇遇だな少年」

「こんにちは、神条さん」

 

今日もまた、映画館に入ろうとしたら神条さんとばったり出くわした。

昼間に神条さんに会うのは初めてかもしれない。そんなことを思っていたら神条さんも同じことを思っていたようで、

 

「きみと昼に会うのは初めてかな?」

 

と言われてしまった。

それに頷くと神条さんから一緒に映画を見ないかと誘われたので、一緒に映画を見ることに。チケット代も中で食べるホットドッグ代も全て神条さん持ちになってしまって頭を下げたが大人の余裕で「なに、きみほどの年齢の子供は何も言わず大人の財布に頼っていればいいのだよ」と言われてしまった。これがブルジョアか。

 

見たのはSFアクション映画『-(sin)-』だった。

映画の主人公が頑張って頑張って、一度は失った仲間との絆を取り戻して真の黒幕を倒すも、黒幕はもう一段階奥の手を隠しておりヒロインが殺されて世界も破滅してしまうというバッドエンドのそれは酷く胸にくるものがある。

最後は主人公ひとりだけの「俺たちの戦いはこれからも続く~」みたいな終わり方で些か不完全燃焼だったが横の神条さんはなぜか笑っていて驚いた。

とくにラスト、主人公を手助けしていた謎の肩幅広めな仮面の男が主人公にブン殴られるシーンで大爆笑。とまではいかないが、こらえきれないといった風に肩を震わせて口角を上げていたのが隣に座っていてよく分かった。

たまに、「くっ…くくっ…」と笑い声がこぼれていたのは言うまでもない。

ただ、ツッコミたかったのは真っ暗な上映中でも神条さんがサングラスを外さなかったことだ。どのタイミングで神条さんが外すんだろうとすごく気になって映画に集中できなかったのをよく覚えている。

 

「これは私の知り合いが作った映画でね。チケットをあらかじめもらっていたのだよ」

 

と言うのは映画館を出てすぐの神条さんの談。

なるほど、だから神条さんのイメージとは違うSFアクション映画だったのか、と思った。

どちらかと言うと神条さんは静かな映画を好みそうな感じがするのだ。勝手にそう思っているだけなのだが。

その後は晩御飯までご馳走になってしまって申し訳ない気持ちとありがたい気持ちで板挟みになりながら、頭を下げてついでに寮の近くまで送ってもらった。

なんというか、至れり尽くせりである。

 

そういえば、ラストでヒロインが槍に刺されて死ぬシーンにどこか既視感があったのはなぜだろうか。

 

 

 

 

8/20(木) 昼

 

「「あ」」

 

これまた映画館前で人とばったり。

学ランに学帽姿の全身黒ずくめの美丈夫はどこをどう見てもライドウくんだ。肩にはゴウトも乗っている。

 

「…えと、ライドウくんも映画?」

「…はい。たまにはこういう息抜きもした方がいいとゴウトに言われまして」

 

気まずい。

夏祭りの日の会話で微妙な空気になっていたのをすっかりと忘れていた。

しかしそれでもめげないしょげないここであったが百年目。何とか会話を紡ごうと口を開く。

 

「…ライドウくんは何を見るか決まってる?」

「あれを、と。少しでも乙女心が分かるようになれと鳴海さ…下宿先のお世話になっている人に言われまして」

 

指をさしたのは小豆色のセーラー服の少女とモミアゲの鋭い学ランのイケメンが写る恋愛映画『大学芋とセヱラア服』のポスターだ。

2人でそれぞれチケットを買い、ライドウくんはアイスクリームを、自分はジュースを買って中に入った。

なお、ゴウトについてだが受付の人に「ネコは一緒に入れません」と言われてショックを受けた顔をしたライドウくんが無理やり学ランの中に詰めていこうとしたが「我を窒息させるつもりか!」と怒られてしょげていた。

ゴウトは近くの日陰で待っているとライドウくんに告げ、そのまま姿を消した。

 

アイスを片手に意気消沈するライドウくんを隣に、無慈悲にも映画は始まってしまった。

時は大正2X年。主人公の女子学生がモミアゲの鋭いモダンボーイ略してモボな学園一のイケメンとひょんなことからお近づきになり距離が大接近するというものだ。

 

途中の「大学芋が頭についている」というイケメンの台詞は衝撃的だった。なぜ大学芋が、頭に。

さらに主人公である女子学生が途中でバッサリその長い髪を切って男装を始めたりその状態で刀をぶん回したりと(これ、恋愛映画か…?)と言いたくなるような展開が続くが、一緒に風呂屋に入ったり(なお男女別なので混浴ではない)、突然軍の重役の陰謀に巻き込まれたり、果てにデカい戦艦ロボが出てきてヒロインがその上で高笑いしてゲスな悪役顔になるわ、イケメンがその戦艦を刀ひとつでぶった斬ったりともうムチャクチャなとんでもねぇ映画だった。

最後は幸せなキスをして終了。

なんだこれ。

 

もう一度言う。なんだこれ。

 

「恋愛と言うのはかくも大変なこと…自分をもっと戒めなくては」

 

映画館を出たライドウくんが謎の決心をしている。いや、あの映画絶対まともな恋愛映画じゃないから気にしないでいいよ、と言おうとしたがそれを言う気力もない。

恋愛映画の皮を被ったアクション映画だあれ。初日にモコイさんと見た『怪傑! 悪魔探偵キョージー』に近いアレだ。アレ。

 

「ライドウよ、恋愛の機微について学ぶことはできたか?」

「ゴウト…はい。自分も刀一本でいつか巨大ロボを粉砕できるようになりたいです」

「????? うぬら、なにを見てきたのだ?」

 

まあそうなるよね、と思った。

ゴウトはライドウくんの返答に目を白黒させている。そりゃ「恋愛映画観てきます!」といって別れ、ポスターも完璧に恋愛映画っぽいイケメンと主人公であるヒロインが手を取り合って見つめ合うそれをみたらそんな内容だとは思わないだろう。

ありすと見たファンシー女児向けアニメ詐欺激鬱映画よりかはマシかもしれないがこれもこれで相当詐欺だと思う。クレーム来ないのかな。

 

「…なに、と問われれば恋愛映画、ですが」

「もうよい…聞いた我が愚かであった」

 

溜息をついてライドウくんの肩に乗ったゴウトは気疲れしているようだった。

慣れっこのようなそれは普段からライドウくんがそういう天然発言を繰り返しているという証拠であり。

そんな二人の微笑ましい会話を眺めていると、不意に、ポケットが熱くなった。

ポケットに入れているものと言えば、メノラーぐらいしかない。

取り出してみると、その炎がゆらゆらと揺れている。

まさか、今日か。

全く準備も何もしていない。すっかり忘れていた。

 

「うぬ、それは…!」

 

掌に出した炎の燃え上がるメノラーを見たゴウトが目を見開いてこちらを見つめる。

瞬間、寒気が襲った。

 

誰かに見られている感覚と、とてつもなく恐ろしい何かの気配がする。

 

>ここに、とどまりますか?

 

誰かにそう問われている気がする。

いや、ちょっと待って今ここでは無理、と言おうとするもこれは拒否権がない『Yes』or『はい』の選択肢なんだった、と汗をかく。

 

>本当に、とどまりますか?

 

いやいやいや、ホントに待って、心の準備もなにもクソもないし、ここにライドウくんとゴウトがいてガッツリ見られてる前で穴に落ちたら何事かと言われてしまうじゃないかと心の中で抗議するも、無慈悲に足元に穴が開く。

ついでに、隣に立っていたライドウくんを巻き込むようにして。

 

「は?」

「え?」

 

──そして、落ちた。

 

目を開ける。

いつもの荒れ果てた草ひとつない荒野。三度目となるともう見慣れたものだ。

違うのは、隣に外套を着て刀を持ったライドウくんがいることだ。

 

「ここは…」

「気をつけよ、ライドウ。ここは魔人の領域…気を抜けば死ぬぞ」

 

そんなライドウくんとゴウトの会話が終わるか終わらないかくらいでレッドライダーと同じく地面から湧き出るように、しかし馬の嘶きはない静かな登場で黒い馬に乗った天秤を持つ骸骨が現れた。

 

「……」

 

その虚ろな眼窩と見つめ合う。

今持っているものはタルタロスにいつも持っていくナイフと召喚器しかない。今回は特殊な条件とかはなさそうで安心した。

 

「…我らは……ただ死を与えるもの……汝が…死を欲する限り…我らは汝に試練を与えねばならぬ…」

「?」

 

口を開いた黒の騎士は、ホワイトライダーやレッドライダーに比べて静かで言葉少なだ。ただその分、あの二人以上によくわからない感じがする。

 

「四騎士が(いち)……ブラックライダーが…汝が裁き…執り行おう……」

 

その言葉に、ライドウくんが身構える。

 

「いざ…罪人よ…参られい……」

 

黒の騎士──ブラックライダーは静かに、天秤を揺らして顎を開いた。

 

「ライドウ、相手は魔人に属する高位の悪魔だ。ゆめゆめ油断するでないぞ!」

「はい」

 

刀を抜いて構えるライドウくんだったが、ブラックライダーは自分しか眼中にないのか、ライドウくんに視線をむけることはない。

 

「…汝の魂の軽重が…我に計られる時…死は…その身の上に現れよう…」【死霊召喚】

「幽鬼 レギオンか…! 厄介な…」

 

気味の悪い声をあげて、ブラックライダーは肉でできた顔の集合体のような塊に触手がついた悪魔──レギオンを呼び出す。

それに悪態を吐いたゴウトが、こちらを見つめた。

 

「ミカミよ、うぬは戦えるのか。はっきり言うとこのライドウだけではうぬを守りながらあ奴に勝つことなどできぬ」

「ああ、えっと、そこは大丈夫です。自分の身は自分で…というかブラックライダーは俺の敵なので俺にやらせてください」

「できるのか?」

「やらなきゃ、死ぬだけです」

 

召喚器を構えて息を吐く。

これは、ライドウくんの仕事じゃない。自分の、戦いだ。

ライドウくんはそれに巻き込まれただけであって何ら関係ない。むしろ、ライドウくんを守らなくてはいけないのはこちらの方だというのに。

 

「な、うぬ、自殺するつもりか!」

 

銃の見た目をした召喚器をこめかみにあてた自分に、ゴウトが叫ぶ。

しかしこれは自殺するためじゃない。生きる為にすることだ。最初はこの召喚器の見た目で驚かれるがすぐに慣れる。

 

「“パンタソス”!」【ラスタキャンディ】

 

引金を引いてパンタソスを召喚する。彼女が虹色の光を落とし、それにライドウくんと自分がつつまれ力が湧いてくる。

以前は覚えていなかったこの魔法、レッドライダー戦以降いつのまにか覚えており、クリシュナの【戦いのターラ】とほぼ同じ効果を持っているので非常に重宝しているのだ。

 

「これは…!」

 

相手の手がわからない以上、まずは様子見をしなくてはいけない。

こういう時は補助魔法をかけるに限る。

 

「…笑止…」【デカジャ】

 

しかしそれもすぐにブラックライダーの魔法によってうち消されてしまう。

レッドライダー戦で行った手は対策済みということか。これでは補助魔法をかけても一瞬で水の泡だ。

 

【テトラカーン】

 

【マカカジャ】

 

ブラックライダーの召喚した両脇のレギオンがそれぞれこちらと同じように補助魔法をかける。テトラカーンは物理攻撃を反射するバリアを1度だけ貼る魔法だ。

そしてマカカジャは魔法攻撃力を高める補助魔法だ。導き出される予測としては、ブラックライダーはレッドライダーとは違い、魔法攻撃を主体として使ってくるかもしれないという事だ。

もしかしたらホワイトライダーと同じように高威力の魔法をバンバン使ってくる系の可能性もある。

 

「自分も…!」

 

ライドウくんが胸元にとめてあった管を引き抜く。そして、緑の光と共にそれは現れた。

 

──召喚

 

「キャハハ! ねぇライドウ! サツリク、しちゃう?」

 

凶鳥 モー・ショボー

 

全体的にピンク色の配色の、羽の生えた可憐な少女がライドウくんの頭上に現れる。

モー・ショボー、モンゴルに伝わる悪魔で、愛を知ることなく死んだ少女が変化する存在。「悪しき鳥」を意味する名の通り、旅人を誘惑して口で頭に穴を開け、直接脳みそを啜るというかなりバイオレンスな悪魔だ。

 

そんな彼女はこちらとブラックライダーを一瞥すると、ライドウくんへと向き直った。

 

「ねーねーライドウ! あのニンゲンの脳ミソ食べてもいーい?」

「ダメだ」

「ケチね! でもいいわよ。アタシはアナタの事好きだし、仕事してあげる!」 【デカジャ】

 

ブラックライダーがこちらにやったように、モー・ショボーが相手の強化効果を打ち消した。そしてさらに、残忍な笑みを浮かべると、その髪の毛と一体化した羽で羽ばたきを起こした。

 

【マハザンダイン】

 

マハガルダインに似たそれは、名前こそ違えど見た目も威力もほとんど同じだった。緑の風がブラックライダーごとレギオンを切りつける。

 

「成程……サマナー…悪魔の力を使うか……厄介……なればこそ…」

 

そこでようやくライドウくんを見たブラックライダーは、その手に持つ天秤を振り上げる。

 

【ソウルバランス】

 

周りを、【ムド】を使った時のような黒い炎が囲んで身体の力を奪っていくので思わず膝をつく。体力を半分ほど削られた感覚がある。

 

「これ、は…!」

「ヤダ、これじゃ魔法使えないじゃない! ムキー!」

 

モー・ショボーの叫びに、こちらも自分の状態を確認する。召喚器を当てて引き金を引いてもペルソナが出てこない。封魔状態にされてしまったようだ、と舌打ちする。これではどう足掻いても物理攻撃しか手段はない。しかし相手は先程テトラカーンを貼っている。迂闊に攻撃すればその分のダメージが自分に帰ってくる。

 

「まだ…終わりでは……ない……」【龍の眼光】

 

虚ろな眼窩が光った気がして身が竦む。それを好機ととったのか、両脇のレギオンが再び魔法を発動させた。

 

【マカカジャ】

 

【マカカジャ】

 

【龍の眼光】

 

もう一度、眼窩が光る。

……嫌な予感がする。

 

【マカカジャ】

 

【マカカジャ】

 

【コンセントレイト】

 

まずい、と思った時にはもう遅い。相手は補助魔法を限界までかけ終わっている。そして、ブラックライダーが最後に使った【コンセントレイト】という技は集中力を高め、魔法の威力を2倍にする技だ。そして今、自分たちは先程の謎の技で封魔状態かつ体力を半分にさせられている。道具で回復している暇はない。つまり、どういうことかと言うと、詰んだ。

 

──死ぬ。

 

「! 戻れ、モー・ショボー!」

 

紫色の光が上空に集まる。

その様子に、危険を察知したライドウくんがモー・ショボーを管の中に仕舞う。

足掻けるような手段が何も無い。せめて、ライドウくんだけは守らなければ、と別の管に持ち替えたらしいライドウくんの首根っこを引っ掴んであらん限り遠くへと投げ飛ばした。瞬間、紫の爆発。

 

【メギドラオン】

 

痛みとか息が出来ないとか、そんな事を考えられるものでは無かった。ただ、肌を焼く感覚。それと、頭を打ち付けるような衝撃と共に、意識が落ちる。

ああ、ダメだった。ついに、死んだ。

隔絶された意識の中で、そう感じた。

 

 

 

 

「……死の…安らぎは…等しく…何者にも……訪れよう……人に非ずとも……悪魔に非ずとも……大いなる…意思の…導きにて…」

 

ブラックライダーは、ボロボロになり倒れ伏して口の端からただ血を流すだけとなった優希を見つめる。

その目に生気は無い。命の火が、今にも消えようとしていた。

その事実に試練は終わりだと、その魂を回収して天秤に乗せようとしてそれを直視したブラックライダーはその違和感に気がついた。

 

「疑問……何故、魂が……2つ……? 否、これは…」

 

ぶくぶくと、倒れる優希の下からどす黒い泥が湧き出る。そして、そのまま躯を静かに飲み込んだ。

 

時間にして約数秒。瞬きの間に泥は盛り上がり、人型をとる。

パラパラと、乾いた泥が落ちるようにまとわりついたものは剥がれていく。

 

そうして、その男は現れた。

背の高い美丈夫。伏せられている目の端は切れ長で短い黒髪の男。

スーツの上着のボタンは止められておらず、ネクタイも閉めていない出で立ちのその男は、伏せられていた目を開いた。

 

金色の目。その鋭い視線と飲み込まれた優希とは違う気配にブラックライダーはたじろいだ。

 

「何者…」

「……葛葉。1()7()()()()()()()()()だ」

 

そう名乗る男に、ブラックライダーは首を横に振る。目の前のそれは、葛葉ライドウと名乗るが()()()()()()()()()

生きている存在かと言われると、それもまた違う。

 

「笑止…汝は葛葉ライドウに…非ず」

「……そうか」

「なにゆえ…汝…ヒトの姿を……真似るか…」

 

ブラックライダーの疑問に、男は顎に手を当てた。何故。何故と言われれば答えはひとつ。

 

「──そうあるように、望まれたからだ」

「……」

「葛葉ライドウたれ、と。誉れ高き17代目たれ、と。ヒトの世を守護するものであれ、と。そう望まれたから、こうしている」

 

男の答えに淀みはない。

それがそうなのだと、信じきっている目だ。

だが、男は少し黙った後に、もう一度口を開いた。

 

「いや、そう“認知”されているためでもある。目覚めはまだ遠く、自らは抑圧され、大衆の認知がわかりやすいカタチを当てはめたものでしかない。【契約】はまだなされていない」

 

男はそこで初めて、逸らすように視線を横にやった。

 

「質問は、以上か?」

「是…試練を…続行する…」

「そうか」

 

気配も姿も変わったが、()()()()()()()()()()()()()()ので広義の意味での『ペルソナ』だと解釈し、彼自身であることには変わりはない。ブラックライダーはそう結論づけた。

そしてその身にある魂も、変わらずにそこにある。

ならば、多少反則じみた存在だろうが大して変わりは無いだろう、と判断した訳だ。

このようなことがこの場で起こるという事は、これはこの試練を四騎士へ行うよう言ってきた存在が織り込み済みなのだと。

たとえ目の前に立つ存在が、得体の知れない、()()()()()()()()()()()()

 

男は、ちらりと背後で倒れる18代目葛葉ライドウと1匹の黒猫──ゴウトを見る。そして、足元に落ちているライドウの刀──”赤口葛葉”を拾い上げた。

 

「目覚めよ」

 

短く呼びかける。

青い光と力の奔流と共に、青い肌の魔神が現れる。

否、それは魔神ではなく、破壊神だった。

 

「……」

 

破壊神 シヴァ

ヒンドゥー教における主神のひとり。

強力な悪魔であるそれを、男は難なく召喚してみせた。

しかしシヴァに対する目は、酷く無機質でなんの感情もない。ただ振るうべき己の力だと認識しているだけだ。

男は刀を構え、駆け出した。

 

 

 

 

目を開ける。

否、目を開けたような感覚がしただけだ。

見渡す限り、1面の黒。

光も何も無いこの場所に、見覚えなどあるはずもなく。

自分は死んだはずじゃないのか、とかそもそも死んだのなら4月6日のベッドの上からじゃないのかとか、戸惑いがぐるぐると回る。

身体の感覚はほとんどなく、上を向いているのか下を向いているのか、起きているのか寝ているのか、それすらも分からない。

不意に、声が聞こえたような気がした。何を言っているのか分からないが、いいものではなさそうな、そんな声。

 

「さない……さな、い……どうして……どうして…どうして、どうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうして」

「もういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだもういやだ死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい」

「死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくないどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてどうしてお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前だけお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前もお前も死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね」

 

 

今度ははっきりと聞こえたまとわりつく声。それは自分のものでは無い。ただ、他の誰でもなかった。

多くの声が合わさったようなそれは、不特定多数の何かの声だった。

それが、耳元でずっと呪詛を吐いている。

そう理解した時、言いようのない恐怖が襲った。ここにいてはいけない。このまま寝ようとしたら、このままこの声を聴いていたら、駄目になってしまう気がした。

とにかくそれを聞かないようにして、感覚のない手足をバタバタと動かすように意識する。

暗闇の中を、もがくように。

目印になるような光なんてない。けれど、自分が動かなければ溶けて消えてしまう気がした。

 

そうして、もがいていると、唐突に水から、引き上げられるような感覚がする。

ばしゃり、と水音がして、大きく息を吸い込んだ。

 

「…はっ…!」

 

目を開ける。視界いっぱいに、青色が広がった。

ぜえぜえと、めいっぱい息を吸う。

耳に入るのは、呪詛めいた言葉ではなく、ピアノの旋律とヴァイオリンが奏でる『月の光』。

 

──ベルベットルームだ。

だがそこに部屋の主も住人も居ない。

 

自分の目が覚めた場所はいつもの椅子の上ではなく床の上だ。しかも、びしょ濡れで倒れていると来た。

とりあえず起き上がろうとして、全身に力が入らないことに気がついた。

かろうじてのろのろと首を動かして周りは見れるが、とても動けそうにない。

それでも、起きなければならない。

まだ自分が死んでいないのなら、生きているのなら、動けるのなら、目を覚まして戦わなくてはならない。抗わなければならない。

 

──生きなくては、ならない。

 

 

 

 

「む……ぅ……」

 

ゴウトは、ライドウよりも先に意識を取り戻した。ライドウに庇われ、そのライドウを優希が投げ飛ばしたために直撃を避けたとはいえ、即死レベルの攻撃だったそれを受けて気絶しないはずも無く。

 

「ライドウよ、起きよ…!」

「…ぅ…」

 

起き上がってぺしぺしと、その手でライドウの頬を叩くも、ライドウは呻くだけで起きる気配がない。

ヒトではないゴウトが庇われてこのダメージだったのだ。ならばライドウはもっと深くても仕方ない、死を回避しただけでもマシだ。とため息を吐く。

そういえば、ライドウを放り投げたミカミはどうしたのか。無事なのか、と視線を動かす。

その時、ゴウトはそこに喪ったはずの姿を見たのだ。

 

レギオンを2体とも物理反射によるダメージフィードバックをものともせず一刀両断の元に切り伏せ、シヴァと共に襲いかかってきた男にブラックライダーは苦戦していた。

何を隠そうこの男、()()()()()()()()()をさも当然と言った風に使ってくるのだ。いや、男はブラックライダーから見て人間では無いのでそういう類の力を持っていても何らおかしくはない。おかしくは無いのだが見た目が現代の人間に寄りすぎているために、ブラックライダーの認識にどうもズレが生じてしまう。

道具も何も使わない生身でその動きをするというのは、些か反則者だと。

さらにシヴァとの連携もまるで己自身だと言わんばかりのタイミングで併せてくるのでシヴァを2人相手取っているような感覚に陥っていた。

そして男には、人間が普通は持つだろう恐れや怯えという感情はなかった。

ただただ、機械的にその場で最適な判断を下し、それを行えるだけの力も有していた。

問題は、自らのダメージは無視といわんばかりの動きだ。相手がブラックライダーではなくレッドライダーであれば男は腕の1本でももがれていたことだろう。

この男なら四肢をもがれても何食わぬ顔で戦闘を続行するかくっつけそうだが。

 

だが、そんなブラックライダーに対し、猛攻を加えていた男の動きが止まったのは不意にだった。

糸が切れたかのように、がくんと身体から力が抜けて傾いた男の姿が、ブレた。

ブラックライダーを見る男の無機質な目の金色が、ちかちかと灰混じりになる。

その横で、ブラックライダーに拳を振り下ろそうとしていたシヴァが霧散する。

それでも足をふんばった男に、ブラックライダーは隙ありと見て愛馬の蹄を振り下ろした。

 

刹那、力の奔流と青い光が視界を埋めつくし、くるくると回転しながら目の前に枕を抱えた漠──ポベートールが現れその攻撃を吸収して宿主の生命力へと変換した。

隙が出来たのは、ブラックライダーの方だった。

そこへ、赤口葛葉の切っ先が突き出される。

 

「──ッ!」

 

荒れ狂う力の奔流。そこから姿を現したのは男ではなく優希だった。

姿は依然ボロボロだったが、その目にはしっかりと生気と闘争の意思が宿っている。

 

「“レッドライダー”ッッ!!!」

 

召喚器を構えずに、叫びのままにペルソナを召喚する。

それを迎え撃とうとしたブラックライダーは天秤を掲げた。

 

「小手先の…手は…通用せん…」【絶対零度】

 

巨大な氷の塊と、冷気が優希を襲う。レッドライダーは消え失せ、守るものはなにもない。

ヒトひとり、凍らせることなど余裕であるそれを喰らってまともに動けるとは思えない。

 

だが、

 

【プロミネンス】

 

天から降り注いだ太陽の炎の如き灼熱が冷気を吹き飛ばし氷を溶かし水蒸気を発生させる。横を見れば、ホワイトライダーのペルソナが矢をつがえた状態で浮いていたがその姿を消す。

 

「…まだだ。まだ、やれる」【メディアラハン】

 

そうつぶやきながらポベートールを召喚して体力と傷を回復した優希は、血をぺっと吐き出し口の端をぬぐった。まさか、氷漬けにされたあの状態からペルソナを召喚したというのか、とブラックライダーはそこで初めて優希という存在に対し驚いた。

ギラギラと闘志を燃やす目は、先ほどとは大違いだった。例えるなら──そう、何度瀕死にさせても、「まだだ」というその言葉と共に食いしばり、いくらでも立ち上がりそうな感じであった。

 

厄介な、とブラックライダーは思った。あの男の力量も厄介だったが、本体(優希)自身もなにか覚悟を決めたのか不屈の闘志を持ち合わせるようになってしまった。

否、ブラックライダー自身がそこまで追い詰めてしまった。仕留めるのなら、一撃で仕留めなければならなかったのだ。

 

ちろり、と優希の足元と目元で燻る様に小さく青い炎が駆け抜ける。

その背後に、ブラックライダーは朧気になった先ほどの男を幻視した。計算通りだとばかりに得意げな笑みを浮かべたその男の青い幻は、一瞬にして空に溶けて見えなくなる。

 

そんな事が起きていたなど露知らず、ゆっくりと赤口葛葉を鞘に戻した優希は、それを丁寧に地面に置き、ダガーナイフ構えた。

そして跳躍。

 

「……!」【死霊召喚】

 

明確に狩る意思を感じて壁を作る様にレギオンを召喚し、ブラックライダー自身は後ろへと後退する。

レギオンの急所に深く突き刺さるナイフ。優希は着地しながら『ニヤリ』と嗤って召喚器を片手で構え引金をひいた。現れる赤の騎士。それは何かをするように身構える。

 

「……させ…ぬ…!」【龍の眼光】

 

行動に移させないため威圧する。

しかし、それは無意味なものとなった。

 

【威圧】

 

現れたレッドライダーのペルソナがブラックライダーの行動を真似するように眼窩を光らせた。

身がすくむ。

おかしい、どういうことだ、とブラックライダーが戸惑いを見せたその一瞬は優希が行動するのに十分な時間で。

 

跳躍し、首元にそのダガーナイフが振るわれる。

何度も抉る様に振るわれたそれはしかし、ブラックライダーの首を跳ね飛ばすにはほど遠い。

 

「…無意味…」

 

そう、ブラックライダーは呟いた。

()()()()()

 

「…!」

 

驚きに骨の口を開ける。

首が、取れた。だが、ブラックライダーはその理由がわからない。

地面に落ちた骸骨の頭がコロコロと転がる。消滅までのその一瞬、ブラックライダーはそこにいるものの存在を見て、合点がいった。

 

「成…程……」

 

──そこに立っていたのは、妖獣・ヌエと18代目葛葉ライドウだった。

気絶していたはずの彼は肩にゴウトを乗せ、手に持った赤口葛葉を振るった姿勢で止まっている。

 

陽動。

 

優希という存在に気を取られ、気絶したままだと思っていたライドウがヌエに乗って近づくのを察知できなかったのだ。

なぜ、立っているのは1人だけであるはずなのに回復魔法を全体化させていたのか。なぜ、リーチが長い刀を地面に置いたのか。

ホワイトライダーと同じ手でやられたことは癪だが、全てはこのためだったのか、とブラックライダーは勝手に納得した。そして、賛辞の言葉を吐く間もなく消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

「し、死んだかと思った…いや、多分棺桶に片足突っ込んだ…絶対…」

 

消えたブラックライダーを見て息を吐く。

ライドウくんの刀をパクったのか、持ったまま無意識に戦っていたらしいのは我が身ながら戦闘狂過ぎて怖すぎるが、何とかなってよかったと思う。

なんというかまあズタボロで、今度こそダメかと思ったレベルだ。まさかあんなにひどい補助魔法重ねがけからのコンセントレイトメギドラオン・オンステージを喰らうとは思っていなかった。たぶんあんな体験は二度とないと思う。ない事を祈る。アーメン。

いや、フリではないので本当にやめてください。食いしばればいいってもんじゃないんだぞ!

 

「ライドウくん、巻き込んでごめん…大丈夫?」

「……」

「へ?」

 

申し訳ない気持ちで声を掛けたら、無言でむんずと胸倉をつかまれた。

頭を後ろにそらしたライドウくんは、そのまま勢いよくこちらに頭を振ってきた。

そして──

 

ゴチーン!

 

「~~~~~~~~っ!!!」

 

頭突き。

それはもう鋼鉄のデコから繰り出される、必殺の一撃だった。もしかしたらさっきのメギドラオンより痛いかもしれない。ちょっとだけさっきのベルベットルームが見えた。イゴールとマーガレットが笑ってる気がする。

 

「バッッッカなんですか貴方はッ!!!!」

「ひぃ、」

 

ライドウくんのあまりの剣幕に身を引こうとするも胸倉をガッツリ掴まれていて逃れることが出来ない。

 

「誰が逃がせと頼んだんです! 自分なら、新しい仲魔を出して防御壁を張ることだって不可能ではなかった! どうして! 貴方は!!! あんなことしたんですか!!!」

 

怒っている。

確かに、ライドウくんの言う通りライドウくんに仲魔を召喚してもらって防御を固めて貰えばワンチャンあったかもしれない。ただ、自分はサマナーではないのでその意識がすっぽり抜けていた。知らなかったともいう。

でもそれより、なにより、

 

「間に合わないならライドウくんだけでも…と思って…」

 

目を逸らす。ライドウくんの顔を直視できない。

 

「そこがバカなんです!!!!」

 

ゴチーン!

 

もう一度頭突きを喰らう。痛い。涙目になる。絶対にこれは腫れる。

 

「うわぁ! デコ、タンコブになるよ!」

「もうなってます!!!!」

「酷い」

「ひどいのは貴方のほうです! 善きデビルサマナーは…ライドウは人を守らなければいけないんです! なのに、貴方と来たらひとりで突っ走って…! 気絶している間説教部屋送りにされて『本来守るべき人間に守られるだなんて、ライドウとして情けないこと極まりない!』と歴代のライドウに説教されたんですよ! そんなに自分は信頼できない存在ですか!」

 

いや、そんなことはないけれど。

というかあの気絶していたタイミングでそんな幻聴を聞いていたのかと思うと余計に申し訳ない気持ちになって来る。

夢であってもそんな怒られるような幻聴を聞くというのはライドウくんは相当厳しい環境にいたに違いないと同情した。というかライドウくん、怒るのはいいけどゆさゆさしてくるのやめて吐きそう。

 

「ライドウ、そこまでにしておけよ。ミカミはモコイと共に行動しているとはいえあくまで異能使い──否、アサクラと同じ“ペルソナ使い”である。サマナーとしてのイロハを知らずとも仕方ないであろう。信頼以前の問題だ」

「……ですが!」

「くどい! ミカミが心配なのはわかるが、それ以上揺さぶるとこやつが吐くぞ」

「あっ…」

 

ライドウくんがやっと手を放してくれるも視界が回って気持ち悪い。おえー

 

「すみません…熱くなってしまって。ですが、先ほど言った思いに偽りはありません」

 

信頼していないわけじゃない。信頼していたからこそ、回復魔法を広範囲でかけてライドウくんの目が覚めることに賭けたし、ライドウくんが一瞬のスキをついてくれることを願ったのだ。

たくさん、たくさんきっかけは撒いた。それでダメなら成功するまで繰り返せばいい。

自分はただ、戦いにおいて他人が出来ないのなら自分でやればいいと思って動いているだけだ。

それが独りよがりに見えるのなら、それはそれで仕方ないと思う。些か、ひとりで戦ってきた時間が長すぎた。

まともに自分の頭で考えて連携を取るようになったのはモコイさんと一緒になってからだと思う。それまでは湊か奏子という現場リーダーの指示に一任していたし、自分も指示を出す側ではなかった。

そもそも、特別課外活動部と関わり合いがなくずっとひとりだった周もあるのだ。

ほんとうに、今更過ぎる。

 

「こちらこそごめん。自分の悪い癖だって他の人からも言われるけど染みついちゃって抜けないんだ」

「…そうですか」

「こやつのそれは筋金いりか…死んでも直らんな…」

 

なぜか呆れたような1人と1匹の溜息と視線が向けられる。

が、すぐにその目は驚きの目に変わった。どうしたのだろうか。

 

「……汝…」

「?」

 

ちょんちょん、と肩を誰かに突かれる。

そして、振り向いた視界いっぱいに骸骨のドアップ。

 

「うわああああああああああああ!!!!!!」

 

思わず叫んで腰を抜かす。

情けないけどそれくらい驚いた。

ここはお化け屋敷だったのか。

 

「驚嘆…そこまでのこととは…これは…謝罪する…」

 

申し訳なさそうに静かに距離を取った骸骨ことブラックライダーはまた指をさす。とても律儀な性格なのかもしれない。驚いてゴメン。

 

「汝…試練たる我に打ち勝ち…勝利を手にした……よって勝者には…報酬を与えねば…ならない……それが…定め…」

 

いつもの分霊の降魔らしい。腰を抜かしたままという情けない格好だしまた降ろされた実感はないが、満足そうにうなずいたブラックライダーを見るにたぶんできているのだろう。

 

「…汝…黙示録の四騎士たる我の…黒き騎士の力…活用すると…良い……だが無理は…しなくとも…よい…」

 

なんて謙虚なんだろうか。前の2騎がそれはもう押し売りというか押し付けるような感じだったのでとても謙虚に感じる。謙虚な騎士はというのはそれだけで好感が持てるものだ。

…心の中で「自分たちも謙虚だ」と言いたげな抗議の声が2つあがった気がした。

 

視界が白み始める。

次に目を開けたとき、映画館の前で穴に落ちる直前の姿のままそこに突っ立っていた。

ライドウくんも穴に落ちる前と寸分たがわない姿で同じ場所に立っている。

 

「…さて、ミカミよ。このことについての詳細を聞かせて貰おうか?」

「アッハイ」

 

貫くようなゴウトの目線と低い声に、自分は大人しく従うしかなかった。

 

 

 

 

「──なるほど、うぬはうぬ自身の意思であやつら魔人と相対しているわけではなく、誰かに仕組まれて戦っている、と」

「そうなります」

 

頷く。

あのあと、どうして降魔されている騎士の数が増えたのかや何故戦っているのかの説明をした。すると、ゴウトが何かを理解したようにひとり納得する。

 

「…かの人修羅と同じであったか」

「?」

「いや、なんでもない」

 

だれかこのめんどくさい試練と似たことを強制されている人がほかにもいるんだろうか。

それはご愁傷さまとしか言えない。

 

「正直ペルソナがこうして増えて戦略に幅ができるのはいいんですけど、毎回毎回ほぼほぼ死にかけてるんで勘弁してほしいというか割に合わないというか…いやこれ絶対死んでるだろって言うか…とにかくもうやめたいけど拒否権ないし毎回強制連行だしまじでコレ仕組んだやつと会うことになったら一度心行くまでボコボコにしたいっていうか…劇物を口にぶち込んでやりたいっていうか…そんな感情しかない」

「三上さん…」

 

死んだような目をしてそう話しているとライドウくんが憐れみの目を向けてくる。

思いやりと生暖かい目が心にしみる。

 

「でも、あと一回って言われてるしもういいかなって…」

 

正直な話あんなめんどくさい相手とあと一回と言えども戦いたくないのが本音だ。今回なんか死にかけたというかたぶん棺桶に片足突っ込んでたと思うし、なんで無意識で動いていたのかも謎だ。意識失っても戦い続けるとか正気の沙汰ではない。そんなものを湊と奏子に見られた日にはベッドに雁字搦めにされた後にドルミナーで強制的に眠らされかねない。

 

「それはそうだが…もし終えたとてうぬが一般人と同じ日常に戻れるとは限らぬ。一度魅入られたものは悪魔と一生付き合っていかねばならないのだからな」

「それは…困るなあ…」

 

本当に困る。

これ以上忙しくなったら身が持ちそうにない。

確かに強くはなりたいがさすがになんでもOK! というわけではない。物事は正しい順序を踏むべきなのだ。こんな突然やってきて突然去るようなものは要らない。ノーサンキューである。

結局、頭を抱えている自分でも、ライドウくんでも手掛かりなしの現状にどうすることもできないしもうあと一回だけと何故か決まっているのでこの話は一旦不問という事になり、その日は解散した。

 

ただ、その日の夜からとても腹が空いてしまって仕方なくて、“はがくれ”でラーメンを三杯食べてしまったのは秘密だ。

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