9/23(水) 夜
パンケーキ遠征の為に喫茶シャガールでバイトをしてからエスカペイドを梯子して、今日も神条さんに会いに来た。
「こんばんは、神条さん」
「今宵も良い夜だ…何か語るにはぴったりだと思わんかね」
「はは、まあ、そうですね…」
よくわからないがそういう夜なんだろう。静かな夜といいたいのかもしれないがエスカペイドは音楽ジャカジャカのライトビカビカ空間なので聴覚的にも視覚的にもまったく静かではない。薄暗いとは言っても静かとはほど遠いものだ。
「……少年」
「はい」
「最後まで諦めないことだ。私にはそれしか言うことはできんが…ささやかな助言だと思ってほしい」
「あ、はい…ありがとうございます?」
突然じっと見つめられたかと思えば頭を撫でられてそんなことを言われてしまった。というか神条さんに触れられたのは初めてなので少しびくついてしまう。バレてないだろうか。
あまり誰かに撫でられたりという経験がないのでこういうのは少しくすぐったい。と同時になぜか少し怖くなる。自分の頭より上に手を上げられるのが苦手なのかもしれない。
「怖いかね?」
「…少しだけ」
「ふむ。なら、撫でられることに慣れていない、ということか。これでも私はかつて娘が居てね。今は…ふふ、”独り立ちした”とでも言おうか。私の手を離れて行ってしまったのだよ」
まさか既婚者だとは思わなかった。
神条さんはてっきり独身だと…いや、そんなことを思うのは神条さんに失礼か。
「“家族サービス”をしたりわがままに付き合ったりしたものだ。あの子はひどく気難しくてな。ひどく苦労した」
少し疲れたような顔をしつつも懐かしむようにそう語った神条さんはまんざらでもなさそうだ。
「今となっては遠い思い出だ…そう、遠い、ね」
となると娘さんは自分よりも年上ということなのか。神条さんは30代ぐらいに見えるのに自分よりも年上の娘を持っているかもしれないという疑惑に謎が増えてしまった。
「──話題を変えよう。きみは、『この世界が誰かの見ている夢』だと言われたらどう思う?」
「え…いや、驚いて、嘘だって笑い飛ばすかもしれないです…到底信じられません」
すこしばつが悪そうな神条さんは話題を変えた。
が、いきなりそんなことを言われたら驚く以外の何物でもないし冗談だと思うだろう。
「古代中国の思想書『荘子』にはこんな説話が載っている『昔、荘子は夢に胡蝶となり、自由に楽しく飛び回っていたが、目覚めると紛れもなく荘子である。しかし荘子が夢に胡蝶となったのだろうか、胡蝶が夢に荘子となったのだろうか』、有名な『胡蝶の夢』だ…もしかしたら、自ら身体を動かしていると思っていても、きみは誰かの見ている夢で、きみじゃない誰かがきみだと思い込んできみの身体を動かしているのかもしれない」
難しい話だ。
頭がこんがらがってきた。要するに、自分という存在は自分自身ではなく、この身体に入った別の誰かの見ている夢かもしれないということなんだろうか。うーん、分からない。
この話は、結局どちらが夢で現実なのか、という問題なのかもしれない。
こういう難しい話はあまり得意じゃない。
「少し難しかったかね? では、もうひとつの例を挙げてみよう。万物の王である盲目にして白痴の神『アザトース』という存在がある。クトゥルフ神話にて語られる原初の邪悪であり万物の王だ。その話の中のひとつで『この世はアザトースが見ている夢』だといわれている。さて、ならばその愚かなアザトースが眠りから覚めるとこの世はどうなると思う?」
どうなるか。夢から覚めたら夢はそこで終わってしまう。続きはしない。
つまり、
「消える…?」
「正解だ。もし目覚めたらこの現実は消えてしまう。だからこそ、彼を崇拝する者達は必死に夢から覚めないようにあやしているのだよ。まるでそれは赤子のようではないか」
今日の神条さんの話はなんだか難しくてよくわからない。
「ぺガーナ神話に『この世はマアナ=ユウド=スウシャイの見ている夢』という説もあるが、先ほどのアザトースの話はこの説と混同された可能性もあるらしい。一部の書籍ではアザトースの化身としてマアナ=ユウド=スウシャイが挙げられている。同様の例え方をされているので勝手に結びつけられたようだ。が、それもまた人の『認知』と言えよう」
グラスを傾けてカクテルに少し口をつけた神条さんはニヤリと笑った。
「神話に語られる神や悪魔など…否。私やきみを含むこの世のすべての事象は、すべて人の『認知』によって成り立っている。そうだとすれば、この世に生きている人間──民衆そのものが白痴であり盲目な“夢見るアザトース”みたいなモノではないかね?」
「認知…」
「そうだ『認知』だ。それを認識することによって、初めてその存在を知る。それが世界に存在すると認識する。そんな経験がきみにもあるだろう」
言葉なく頷く。
悪魔もシャドウもペルソナも、知らなければこの世界にあるなどとは到底思えなかっただろう。
そして、知った瞬間にさも初めからそこにあったかのように日常に非日常を運んできて、非日常が日常になってしまう。
なるほど、『認知』とは
『そう』だと分からなければいつまでたってもわからない。
見て見ぬふりをしていると、いつまでも『真実』にはたどり着けない…?
そもそも、『真実』ってなんだ…?
そんなもの。知る必要があるのか? 知って、湊や奏子を救うための何かになるのか?
ニュクスを封印するだけでは、なにか、足りないのだろうか。いや、そんな筈は無い。原因はあれだけなはずだ。他になにかがある訳がない。
「っ…」
「大丈夫かね、少年」
頭が痛くなってきたので考えるのをやめた。
今日の自分は全くもって考えることに向いていないらしい。
「…大丈夫です」
「難しい話をしすぎたようだ。…それにもうきみが帰らねばならない時間だな」
高級そうな腕時計を覗き見た神条さんが話の終わりを告げる。
いつもと変わらず頭を下げ別れの言葉を言い、エスカペイドを出た。
9/27(日) 朝
ガタンゴトンと走る電車に揺られながら今日に至るまでのバイトの日々を思い出す。
フラワーショップ『ラフレシ屋』でバイトをしたり映画館『スクリーンショット』で売店のバイトをしたり、エトセトラエトセトラ。
日雇いばかりだったが『ラフレシ屋』からはもしよければ今度から定期的にバイトに来てくれても構わないと言われて少し悩んでいる。
もし都合が合えば週に何度か入ってもいいかもしれない。
とにかく、この急なバイトの日々でなんとか遠征費用は稼げたので良しとする。
「パンケーキ楽しみだなぁ……」
「奏子さんが楽しそうだと、わたしも嬉しいです」
蕩けるような顔で今か今かとパンケーキ屋の近くにある駅に電車が着くのを待っている奏子に、湊と自分。
──そしてアイギスが電車の座席に横並びになって座っている。
今朝になってパンケーキを食べに遠くまで行くという話を聞きつけたアイギスが「わたしも共に行くであります!」と名乗りをあげたのが発端だ。
まあアイギスは食事が取れるロボと言っても食欲お化けではないし大した出費にはならないだろうということでOKしたのだ。
「コロマルさんとモコイさんも一緒に来られないのは残念です。ですのでふたりの分までわたしはパンケーキというものを味わいたいと思います」
モコイさんはともかくコロマルは電車に乗れないし店にも入れない。こういう所で犬という種族と姿が仇になっているのをコロマルはいつもアイギス翻訳で憤っている。映画館に湊と行った時も犬はダメと断られ、自分たちと同じ学校にも行きたかったのに犬だからダメと言われ…荒垣くんがいるから寂しくはないものの、やはり疎外感を感じていたようだ。
「モコイさん?」
奏子が聞き慣れない名前に首を傾げる。
しまった。アイギスと視線がぶつかり何とかごまかせないかと伝わりはしないテレパシーを送ってみる。
「わたしとコロマルさんの友達です。ナウなヤングで緑色をしているであります」
「緑色…亀かな…?」
「黙秘します」
アイギス、それは墓穴だよ。とは言えない。
モコイさんが自分に関係あると言われなかった時点で微妙にテレパシーは通じていたことだけはほっと胸をなでおろした。
「黙秘って…ま、いっか」
自分が黙秘したときは真っ先にツッコまれそうな会話も、不思議ちゃんというイメージがついているアイギスならこのとおり。信用されているかないかの違いって大きいな…と遠い目になる。
自分の信用のなさは自業自得なので言い訳することも出来ないが。
昼
そうして電車に揺られること2時間。
今日は人身事故も何も無く、バスも乗り継いでスムーズに
今日の目的はここにある複合商業施設『シーサイドモール』に、今年の春先に出来たパンケーキ屋のスペシャルパンケーキだ。
「ついたー!」
「目的地に到着であります」
「眠い…」
湊は電車とバスの移動で少し疲れたみたいで眠そうだ。ここは休憩を促した方がいいのかもしれない。
「少し休む?」
「ん…大丈夫。パンケーキが逃げるから早く行きたい」
訂正。食欲の方が勝っているらしい。
パンケーキは逃げないと言いたいところだったが、スペシャルパンケーキは昼12時から数量限定販売だ。今は11時30分。目の前に見えているとはいえ、今からシーサイドモールまで歩いて店の前に並ぶとなったら少し急がないと行けないかもしれない時間だ。
少し歩調を早め──ようとして突然前に現れた人とぶつかってしまった。
「へぶっ…す、すみません!」
「いや…よそ見していたこっちがわりぃ。ケガはねぇか? ボウズ」
「だだだ、大丈夫です」
鼻をさすってぶつかってしまった人をまじまじと見る。
黒髪ロングの男性。金ピカなスーツにサングラス。如何にもカタギじゃなさそうなその格好に思考が停止した。この人の雰囲気は朝倉先生よりも“ヤバ”いと感じた。
「ちょっとパオ、あんたなに子供イジめてんのよ! ビビってるわよそのコ! ただでさえあんたイカツいんだから!」
そんな感じでビビっていると後ろから女性が駆け寄ってきて男性に食って掛かる。
「…まだ俺はなにもしてねえ」
「ほんとごめんねぇ、このオジサンが怖がらせちゃって!」
「おい」
「本当に大丈夫なので…こちらもぶつかってしまってすみません…」
「いーのいーの。このオジサン、ジョーブだからさ!」
ぺこりと頭を下げてそのまま湊たちの方へ寄る。男女はそのまま
「俺はオジサンなどでは…」
「あれから10年も経ってるんだからもうオジサンでしょ!」
などと言い合いを繰り広げながらこちらから離れて行った。恋人か夫婦なのだろうか。
…何だか踏み込んではいけない気がするのでやめておこう。早く忘れることにしよう。
「……」
「どうしたのアイギス?」
「…いえ、なんでもありません」
じっとふたりのことをアイギスが見つめていたので首を傾げる。
なんでもないらしいのでそのまま歩みを進めた。
「おいしかったー!」
「すごいクリームだった…うぷ…」
「1皿限定なのが勿体ないな…あと5皿はイケたかも」
「パンケーキの原料はすべて記録したのでこんど荒垣さんにコロマルさんの分も作ってもらうよう、たのんでみるであります」
パンケーキ屋に時間通りにつき、少し並んでから店内へと入って無事目当てのスペシャルパンケーキにありつくことが出来た。が、自分は想像以上に盛られた甘ったるい砂糖の塊のようなクリームに気持ち悪くなってしまい半分でダウン。湊は自分の分の半分と自分の分を完食し、奏子とアイギスは一皿丸々を綺麗に完食していた。ただ、ひと口目でアイギスがパンケーキに使われている材料を隠し味込みのパーセンテージ付きで解説しだした時には三人で慌ててアイギスの口を塞いだが。
すこし周りの視線が集まったのは言うまでもない。
「次どこ行こ―?」
「うーん…」
モール内を歩きながら悩む。湊と奏子はまだまだお腹が空いているようだ。かくいう自分もクリームでダウンしただけなので腹自体は空いているのだ。
「あ! あれどう?」
奏子が指差したのはスイーツバイキングの店だった。被っているが先ほどの店はパンケーキ専門店でこちらはケーキやアイスなどスイーツ専門のチェーン店の様だった。
「なになに…“カップル特別メニューキャンペーン中”…? ねえお兄ちゃん! 私これ食べたい!」
「えっ」
口の端が引きつる。カップル。
いやこのメンツでは無理でしょ、と後ろを振り向けばさも当然とばかりに湊に腕を回すアイギスが。
「わたしもとても興味があります。なので、湊さんとわたしが“かっぷる”ということでいきましょう」
──本当にアイギスはこの場合のカップルの意味を分かっているのだろうか。
「私も食べたいのに! じゃあお兄ちゃんとカップルになる!!!」
「いや、俺と奏子ちゃんと顔似てるしカップルは兄妹だとなれないからね…!? というかカップルって言ってなれるものなの!?」
奏子に腕を引かれてそう言われるが無理なものは無理だ。
アイギスと湊はギリギリ行けるかもしれないが自分と奏子は無理。確実に無理だ。
「それなら、変装をすればいい、と誰かが言っていました」
「変装! それだよそれ! よぉーし、そうと決まれば善は急げだよお兄ちゃん!」
「どこがどう善なのか分からないよ…」
「がんばって」
アイギスと奏子の言葉にもうツッコむのをやめた。
そして湊、自分は巻き込まれてないからってサムズアップしない。
「ぶっふぉ!?」
散々アイギスと奏子に連れまわされ、髪型を弄られ、伊達眼鏡まで買って出てきたら湊が噴出して肩を震わせて笑いだした。
髪型をオールバックにされたので印象がだいぶん変わっているとは思うがそんなに噴出して笑うほどなんだろうか、と鏡で自分を見たら見事に湊カラーの眼鏡をかけた髪の毛長めの綾時くんが出来上がっていて自分も噴いてしまった。
「ぶっ…!」
「何笑ってるのお兄ちゃん…ほら、さっき言った言葉遣いの練習!」
「あ、ああ…じゃなくて…うん…えーっと、君の瞳に乾杯…で、えーと…“僕”と一緒に食事でも行かないかい? …こんな感じ?」
「ダメであります」
ダメだった。
アイギスに手厳しく首を横に振られてダメ判定を受ける。その目はなぜか冷たい。
「ぶっくく…ぷくくくく…」
ついでにそれを見た湊の腹筋が崩壊寸前になっている。
自分の腹筋も崩壊しそうだが何とか耐える。耐えなければ特製メニューは無いし奏子の要求は満たせないしどうしようもないのだ。
「ダメかあ…」
「ダメでありますね」
「恥を捨てるべきだよ!」
「恥を…えぇ…」
捨てられそうにない。自分に綾時くんみたいな言葉遣いは無理だ。と、いうか奏子にプロデュースされて思うが奏子の好みは綾時くんみたいなタイプなんだろうか。それはそれでちょっと複雑だ。
「…さあ、僕と一緒に行こうじゃないか。きみにとっておきの体験をさせてあげるよ」
「合格でありますがダメです」
「どっちなの…」
「不穏な気配を感じるであります」
「ぶふぉっ! あはははははは! ごめ…ダメだ…ッ!」
頑張って綾時くんっぽく振る舞って奏子に手を差し出したらついに湊の腹筋が崩壊した。そしてアイギスから合格かつダメという謎の判定をいただいてしまった。
結局、綾時くんエミュ作戦(自分命名)は失敗に終わったので髪型と眼鏡だけそのままで先ほどの店に入る。
「カップル、二組であります」
堂々と名乗って湊を引きずるアイギスを先頭に、難なく店に入りカップル専用メニューを頼むことに成功した。
出てきたのはハートの散りばめられたチョコケーキ。これでもかとチョコがかかったそれはバレンタインデーかと思うほどにチョコチョコしていた。
「いっただっきまーす! ほろ苦! すっごい! 甘いのにビター!」
「使われているチョコレートのカカオは97%だと断定します」
「あ、これ美味しい」
それぞれがケーキをほおばる中、自分は付属のサラダバーから掻っ攫ってきたサラダを口に黙々と運ぶ。が、せっかくなので奏子をからかってやろうという悪戯心が芽生えた。振り回されたので多少こっちがからかっても怒られはしないだろう。
「奏子」
「なにー?」
「それ、頂戴」
「いいよー」
ケーキを指さす。
すると奏子は皿を差し出してきたのでニヤリと笑って口を開いた。
「『あ~ん』、してくれないの? 俺たち、“恋人同士”なんでしょ?」
「こ、こここここ…っ、こいっ!? あ、荒垣先輩にもまだ言われたことないのにっ!」
一瞬にして茹蛸のように真っ赤になった奏子に内心してやったりとほくそ笑んだ。
が、からかうのはここまでにして冗談だと言わないと大変なことになりそうだ。というかやかんのように真っ赤にしている奏子が初心すぎて可哀想になってきた。いつもは天田くんや荒垣くんにぐいぐい距離詰めてセクハラみたいなことしてるのに。押すのはいいが押されるのは駄目なタイプなんだろうか。というか荒垣くんと最近イイ感じになっているのはやはりそういうことなのか。
「まあ冗談なんだけ──ぐはっ!?」
冗談だ、と言おうとしたら口の中に高速でフォークに刺さったチョコケーキを突っ込まれて喉奥にダメージを受ける。情緒もへったくれもない。これは貫通つきの物理攻撃だ。
「あ、ごめん…!」
「いや…からかった俺が悪かった…ごめん…げほげほっ…甘…」
「確かに今のは優希さんが悪いと思います」
「うん。アイギスの言う通りだ」
二度と奏子をこういう方面でからかわないと決めた。
もぐもぐとケーキを咀嚼してからコップの水を飲めば、アイギスと湊の呆れたような視線が突き刺さっていたたまれない気分になる。
皿の上のサラダ(決してオヤジギャグにあらず)がなくなったので席を立って新しいものを取りに行く。千切り大根とレタスをたくさん取ってイタリアンドレッシングをかける。そのうえにポテトサラダをトッピングして意気揚々と座席に戻った。
「スイーツバイキングなのにサラダしか食べてない…」
「後で食べるよ、後でね。でも今はサラダの気分だから」
奏子の視線は皿の上に盛られた山盛りのサラダにくぎ付けだった。
こんなに好きなだけサラダを食べられる機会はあんまりないのでこういう時に食べるしかないのだ。
サラダを完食し、今度は皿を持たずに立ち上がって目指すはアイスクリームコーナーだ。
好きなだけシャーベットを取って席に戻ってほおばる。うん、爽やかでおいしい。
アイギスは様々なデザートをバランスよく一口ずつ。奏子はバナナスイーツ中心。湊はとにかく全部ドカ盛り、といった感じだが個性が現れていていいと思った。
夜
「楽しかった~」
「疲れた…」
「今日は貴重な体験として記録に残しておこうと思います」
「もう少し食べればよかった…」
駅から寮への帰り道を4人で歩きながら仲良く帰る。もちろん、伊達眼鏡を外して髪型は元に戻してある。
最後、湊が聞き捨てならない発言をしたような気がしたが聞かなかったことにしようと思う。
「大型シャドウ、全部倒したらまたああやって…今度はみんなで遊びに行きたいよね!」
「名案です。では、次回はコロマルさんとモコイさんも一緒に、であります」
「いいんじゃないかな」
大型シャドウを全て倒してすぐ、というわけには幾月がやらかすせいでいかないが、11月中…修学旅行後くらいのタイミングならばギリギリみんなのメンタルもマシになっているし綾時くんも誘ってみんなでいけるんじゃないか、と思う。その後はニュクス云々でまたみんなのメンタルがヤバイことになるのでいけそうにないし、2月以降は影時間の記憶が消えるので言わずもがな。というか自分が失敗しても成功しても2月以降は無いのでどのみち11月末以外に選択肢がなさそうだ。
「じゃあ、約束ね! 大型シャドウを倒して、影時間が消えたら、みんなで!」
「うん」
「はい」
湊だけは、なぜか頷かなかった。
そこに何か引っかかりを覚えるがどうせ聞き流しているかなにかなのだろう。適当にしれっと参加する、と後で奏子に言うだろうし放っておくことにした。
影時間
「昼のアレは反則だよね…」
ファルロスの苦笑する声が聞こえて湊は目を開けた。
昼のアレ。心当たりしかない湊は思い出してまた肩を震わせる。
「もう、笑わないでよ…! そんなに笑われると僕だって傷つくんだから。……お兄さんのアレ、そんなに
「似て…いや…似てな…でも…くく…ふふふ…」
「あーあ。こりゃダメみたいだね。はあ…綾時の時の僕って、あんな印象なのかな…そんなにプレイボーイなつもりはないんだけどなあ…」
拗ねたように肩をすくめたファルロスはぶらぶらとベッドの端に腰掛けて足を揺らした。
「──そういえば、気がついてるよね。きみのお兄さんの雰囲気がまた少し変わったこと」
「…うん。聞いたら、19日だって」
「やっぱり。僕が感じたのと同じ日だ。…明らかに、大型シャドウだけじゃなく他の物も取り込んで大きくなろうとしてる」
ファルロスは困った顔で床を見つめた。
彼自身、優希の中にいる存在がなんなのかわかりかねていた。自らによく似た存在だという事はわかる。が、自分の他に宣告者など、いなかったはずなのだ。
「……ううん、だれか、もうひとり、僕の隣にいたような…」
珍しく、ファルロスが顔を顰めて呻く。
ぼやけた記憶を思い出そうとするも、ファルロスにはその感覚がなんなのか、わからなかったので話題を変える。
「そうだ。もうすぐ満月の日だけど、気をつけてね。2回目のことを忘れたわけじゃないんでしょ?」
湊は頷いた。
湊が繰り返しているこのループの2回目、兄は天田と荒垣を庇って凶弾に倒れた。
今回はそうならないという確証がないのだ。兄の事だ。天田と荒垣先輩の関係を知り、タカヤが狙っているとわかれば身を呈して庇うに違いない、と苦い顔になる。
そんなことはさせない。兄と知り合いのようだが邪魔だと感じれば撃たないとも限らないのだ。
それが、湊のもつタカヤのイメージだった。が、2回目といえば、と何かが引っかかった。
あの後、ストレガがぱったりと出てこなくなったのはやはり兄が死んだせいなのだろうか。
となると、やはりタカヤは兄を殺せないのかもしれないと結論付けた。もちろん、違う可能性もあるので湊は警戒を怠らないようにしようと決意して。
「今回も、何が起こるかわからないから。気をつけてね」
「分かってる」
「それじゃあ、またね」
ファルロスはその言葉を最後に姿を消した。