僕と君と(4/27~4/28)
4/27(月) 昼
「前にも言ったとは思うけれど、きみの症状にははっきりとした病名がつけられない」
病院の診察室で若い医者から告げられたその言葉に「はあ」と気の抜けた返事を返す。
薬が出されていたので何らかのはっきりとした病気かと思えばそうじゃないらしい。
それと同時に、この医師が主治医だということもなんとなく理解した。
「できるだけ激しい運動は避けてほしい…と言いたいけど前と今回やってもらったトレッドミル検査では必ずしも症状が出ていたわけではないからすぐ薬を飲めるようにしてもらえばある程度はしてもらっても構わない。もちろん、体調が悪い時は絶対に運動は避けること。いいね」
この、「いいね」は「絶対にやるなよ」な「いいね」だ。
無言で首を縦に振っておく。医者の忠告を無視して倒れましたなんてことをすれば余計な心配をかけるだけだ。
「今回は寮住まいなのが功を奏したみたいだ。深夜の寮で倒れたんだってね? 病院に連絡してくれた寮生に感謝しておくように。一応、倒れたとき用に周知くらいはさせておくべきだと主治医としての視点で思う。きみさえ良ければ、だけれど」
「言いにくいこともあるだろうから伝えるか伝えないかはきみの自由だ」とこちらの内を見透かすような、確かに医者としてはそういうこともいうだろうなというラインの言葉を吐く。その言葉にどこも疑うような要素はない。けれど、なにか違和感を感じた。
「さて、検査の結果は正常。もう症状も落ち着いているようだしこれできみは退院。1週間後にまた来てくれ。学校にはこちらからもう連絡が行っているから伝えなくても大丈夫だ」
「はい。ありがとうございます」
頭を下げ、診察室を出る。
会計をすまし、薬の処方は前回出された分が残っているのでなし。ということで晴れて自由の身だ。ちなみに、皆は学校にいる時間なので迎えは無し。できることなら日曜日である昨日退院したかった。そしたら今日から復帰できたのに。
そんなことをグチグチ考えながら一人で歩いて寮まで帰る。
美鶴さんからは金の事は気にせずタクシーを使えと言われたが申し訳ないし歩いて帰りたい気分だった。
湊か奏子のどちらか寮生のだれかが持ってきたと思われる入院セットの入った旅行用の肩掛けバッグを背負う。
そして病院から出て電車に乗り、巌戸台駅からは人気のない裏道を歩き始めた。早く帰りたいので近道しようと思ったのだ。
「ねえチミ」
「……」
歩き……
「チミだよチミ」
「……」
「そこのセクシーなカバンの青いチミ」
声に振り向く。なにもいない。
幻聴だと決めつけ歩き出す。倒れた時に頭でも打ったのかもしれない。そもそもセクシーなカバンってなんだ。これはただの旅行用のボストンのはずだ。
次回の診察時に相談すべきだろうか。
「フゥン…無視するんだ。ニンゲンの癖にナマイキだね」
はっきりと、姿の見えない何かが言葉を発した。
いやいや無視だ無視。真昼なので幽霊という線は薄い。というかこんなフランクな幽霊がいてたまるか。
足早に歩く。本当のことを言うなら小走りの方がいいのかもしれない。
荷物を前に抱えなおして道を走る。退院早々走るのは不味いかもしれないがそんなこと言ってられない。
「あっ…」
風を切って飛んできた見えない何かが、コンっ!と音を立てて足に当たる。つんのめり、傾く体。
「ぶべっ!?」
情けなく地面に身体を打ち付ける。退院早々散々だ。
ぶつけた鼻をさすりながら体を起こす。一体何が起こっているのか。
「ボクはヤサシーからネ。チミの足を止めてあげたのサ」
目の前に、ちょうど腰くらいの大きさの緑色をしたマスコット人形のような…何とも言えない存在が立っていた。そしてその謎の存在の腰には──
「ふ、ふんどし…!?」
「モコイさんのイケてるふんどしに目が行くとは。中々お目が高いネ、チミ」
「ついに幻覚が見えるようになってしまった…?」
ふふん、と自慢するようにキメポーズを決める謎の物体に頭を抱える。
幻覚・幻聴。とんでもない。ただでさえイレギュラーなことばかり起こっているのにこれ以上面倒ごとを増やしたくない。
やっぱり次の診察時には絶対相談して頭の精密検査を受けよう。そうしよう。
「ボクのことを幻覚扱いだなんてシツレイしちゃうネ、由緒正しい悪魔なモコイさんであるボクはその気になればチミのことだって簡単に殺せるんだからネ」
「??????」
「ソレをしないことにチミはむせび泣いて感謝するっスよ」
──悪魔?
悪魔ってあの悪魔か?天使と悪魔の悪魔?
よくわからない。いや、シャドウやペルソナという超常の現象とお付き合いはしているが、その次は悪魔と来たら混乱するのも仕方ないと思う。
一応、ペルソナにも悪魔のアルカナのペルソナはいる。けれどペルソナ単体がこんな饒舌に喋ったり動いたりするのだろうか。
周りに人がいないどころか人がいる気配がないから遠隔系のペルソナでない限りこんな遠くまでいけるはずもない。
相手に敵意や害意はなさそうなので無視して通り過ぎた方がいいのだろうか。いや、自分の見ている幻覚なんだから害せるはずもないか?
そう悩んでいると悪魔もといモコイさん?が通せんぼをする。
「あーっと! チミには見えないのか見えてないフリをしているのかわからないケレド、この先危険ってやつだネ」
「いや、俺は早く帰りたいんだけど…」
「ダメダメ、チミはジブンのミリョクってやつに気が付いてないんだから。どうしてもっていうんなら、一歩踏み出してみるといいサ」
「かなりデンジャー」と続けたモコイさんをちらちらと見ながら一歩前へ踏み出す。
正直、幻覚に弄ばれているだけに感じるので何も起こらないだろうなとタカをくくっていた。
瞬間、
「ゲヒャヒャゲヒャヒャ!」
「────ッ!」
甲高い叫び声が聞こえた。反射的に身体を後ろに跳び退かせる。
さっきまで居た場所を鋭利な爪が掠める。
モコイさんくらいの大きさの、紫色をした腹の膨れた古典などでみる
見た事もないこちらに殺意をむけるだけの生き物にじりじりと後ろに後退する。
ペルソナは影時間でしか出したことがないし召喚器もない今、どうすることもできない。
ついでに言えば9日に武器として渡されたナイフも病院にいたので持っていない。できることと言えば体術ぐらいしかない。それか逃げるか、だ。
「行きたいネ、イスタンブール」
必死にどうにかこの状況から抜け出す方法を頭の中でこねくり回していると、後ろからポテポテと走り寄ってきたモコイさんが自分を軽やかに飛び越えて餓鬼へととびかかり、手に持ったブーメランを放った。
「ぎゃッ!」
「ボクってとってもゴシンセツ」
バチバチとモコイさんに稲光が集まる。
「【ジオ】」
その掛け声が発された瞬間、ブーメランの一撃を食らったばかりの餓鬼に小さな稲妻が落ちる。今度は悲鳴を上げることなく餓鬼は塵となって消えた。
「バンゴハン前だ、ネ!」
ケロっとした顔でこちらを向くモコイさん。
固まる自分。
今、モコイさんは【ジオ】といった。間違いなく。そして実際にシャドウやペルソナの使う【ジオ】と同じモノがモコイさんから発せられ、餓鬼に当たった。
モコイさんはペルソナ?それともシャドウ?いやでも影時間以外に出てくることって無いよな?とさらに混乱する。
先ほど教えてもらった“悪魔”という名称も忘れて。
「──────ってカンジで。チミはボクら悪魔からするととってもデリシャス。なのに欠けまくっててとってもミステリアス。つまみ食いでもされてるんじゃないの?」
「そ、そうなんだ…?」
あの後、モコイさんから説明を受けた。
曰く、この世にはペルソナやシャドウとは違う“悪魔”という存在が陰ながら存在するらしい。
曰く、さっきのやつはそのまま正しくガキというらしい。
曰く、自分はその悪魔から見たらとてもおいしそうに見えるらしい。
曰く、モコイさんは自分を守ってくれる?らしい。
その代わり、ニンゲンの生活を体験したい、と。
「つまりチミとボクのランデブー」
よっこいしょ、と何の断りもなく肩にかけなおしたカバンに乗ってきたモコイさんに何も言えないまま歩き出す。
影時間と事故にさえ気を付けていれば死なないだろうと思っていたのにここにきて新しい死亡要因が増えたことに内心げんなりする。
(悪魔、か…)
昼でも武器を携帯するか、体術を学んだ方がいいのかもしれない。
その後は難なく寮へと帰り着くことが出来た。すれ違う人は誰もモコイさんの事が見えていないようで安心した。先ほどまで自分もモコイさんや悪魔といった存在を視ることが出来なかったので当たり前といわれればそうなのかもしれないが。
当のモコイさんは自室についたとたん、カバンから降りて散策し始めた。
「ニンゲンの部屋っていうのはオモシロいネ。ボク、気に入っちゃった」
ベッドに飛び込み、元からこの部屋の主だと言わんばかりにくつろぐモコイさん。
少し悩んだがもし他人に見えることがあってもぬいぐるみということで誤魔化せばいいか…と結論付けた。
4/28(火)
今日は特に悪魔に絡まれることもなく、何事もなく放課後を迎えた。
教室ではかなり久々の登校だったのでクラスメイトに心配されて質問攻めにされたり教師からは生暖かい目で見られた。主治医の言ったように学校には話が回っているのだろう。
夜の食事は大体友達付き合いだったりで外で食べてくるメンバーが多いので何かリクエストがない限りは残ってもいいようなものを作って一人で食べる。
急に友達に誘われて、なんてことは高校生なので少なくないだろう。
実際に自分も…と言いたいところだが残念ながらぼっちだ。ぼっち飯でも好きなものが食べられれば気にしないタイプではある。
もちろん、人と食べるに越したことは無い。
「あ…“うみうし”の牛丼が食べたくなってきた…」
「ねぇチミ、その“うみうしの牛丼”ってデリシャスなの?」
「美味しいと思うよ。モコイさんも今度持ち帰りで食べる?」
「いいネ」
当然、モコイさんは今日の登校についてきた。
授業中はどこかに行っているようだが放課後には必ず帰ってきて通学用のカバンに乗るのが定位置になった。
毎日ついてくるつもりらしい。
少々重いが筋トレになるしちょうどいいかと気にしないことにする。どうせ誰にも見えやしないし。
そんなことよりも面倒なことが起きた。
そう──
「三上君、少しいいかい?」
寮のラウンジで幾月に絡まれている。
個人的にこの人の事は苦手だ。苦手というか嫌いな部類に入る。目の奥は笑っていないしわざとなのか知らないが寒いダジャレを言うしで反応に困ることが多い。
「退院早々悪いけど、きみに正式に特別課外活動部に入ってもらえないかと思ってね」
「特別課外…ああ、美鶴さんや真田君の入ってる──」
無知を装い『あの何かよくわからない部』という印象を持っているように反応する。
「そうだね。詳しい事は美鶴君の口から後で話してもらえる筈だ。ついでにキミも有里兄妹と同じくこの寮に正式に入寮することが決まったからね──それと…」
そういうと、幾月は真剣な顔をしてメガネをくいと持ち上げた。
「1日は24時間じゃない…なんて言ったら、きみは信じるかい?」
「…えらく突拍子もないですね。自分は…到底信じられないです」
ここも知らないふりで驚いたように答える。尻尾は出せない。
ぽろっと話すこともできない。
「きみはもう、それを体験しているはずだよ」
幾月のメガネの向こうの視線が鋭くなる。ああ、めんどくさい。
「9日の夜。あの日、あの時あった出来事は夢ではない。きみは聡明だ。気が付いているだろう? あれが普通ではないことに」
「…………」
無言を貫く。下手にこたえて勘ぐられても嫌だ。
無言を貫いてさえいれば、相手は相手のいいように解釈する。
「あれは“影時間”と呼ばれているものでね。一日と一日の狭間にある隠された時間さ。
影時間は毎晩必ず、“深夜0時”にやって来るんだ。今夜も。そして、この先もね」
知ってます。とは口が裂けても言えない。この説明も何度聞いたか覚えていない。
「きみが9日に襲われたあの化け物、それらの名前を我々は便宜上“シャドウ”と呼んでいる。影時間の住人さ」
「はぁ…」
「彼らは人間の精神を食らう化け物でね。特別課外活動部は表向きは部活ってことになってるけど、実際はシャドウを倒すための選ばれた集団なんだ。そしてきみはもう、部に入るための資格はもっている」
「資格…ですか」
あくまでも、突然ファンタジーなことを言われて困惑している風に装う。
適当に流しても良かったが適当に流したらながしたで疑われるようなことになったら面倒くさい。
「“ペルソナ”。それがあの夜、きみが使ってみせた力だ……そしてシャドウはペルソナ使いにしか倒せない。この言葉の意味が、わかるね?」
ぐいぐいと迫ってくる幾月に後ずさる。
正直、先日のガキよりも怖い。
「“シャドウを倒す力を得たからには戦わないといけない”……という感じですか…ね…?」
「そういうことになるね。もちろん、きみの弟君と妹さんである有里兄妹もペルソナ能力に目覚めて入部済みだ。既にきみよりも実戦経験は多いよ」
なるほど、ここでこうして外堀を埋めてきたか。
元より断るつもりはないが、これなら素直に頷いても怪しまれないだろう。
「そういうことなら…あの、妹と弟だけで危険なこととかさせないですよね?」
ついでにこちらも釘を刺しておく。
「そうならないためにも、きみにはぜひ参加してもらわないといけなくなるね」
「なるほど」
釘を刺したつもりが刺され返してしまった。あちらの方が一枚上手だったようだ。
「それじゃあ、今夜0時まで起きていてもらってもいいかい? 美鶴君たちについていって“あるもの”を見てもらいたいんだ」
「わかりました」
「快諾してくれてありがたいよ。三年生のメンバーが……少し、ね。不安があったからね」
それじゃあよろしく頼むよ、と肩を叩いて去っていく幾月。
完全に去ったのを確認すると溜息を吐きつつ叩かれた肩を手で
これで自分も大型シャドウの討伐とタルタロスの散策ができるようになる。参加できる、のではなく散策をするのだ。一人で。
もちろん、特別課外活動部の活動があるときは一人ではいかないし活動がない日に行くときはばれないようにする。
やっとだ。
なんだか、イレギュラーなことが多すぎて、周回を始めたばかりのような気の張り方をしている気がする。
あとでモコイさんに影時間でも悪魔が出るかどうか聞かなければ。出てくるなら出てくるで同時に吹っ飛ばした方が効率もいいし戦闘経験にもなる。
──4/28(火) 0時前
月光館学園 正門前
美鶴さんに案内されて学校までやってきた。
メンバーは自分と美鶴さんのほかに真田くん、岳羽、湊、奏子、そして伊織の6人だ。
チラチラと伊織がこちらをうかがいながら近寄ってきた。
「三上センパイ…スよね? どもっす」
「よろしく、伊織くん」
「いや!伊織くんとかその、恥ずかしいんで…呼び捨てでいいっスよ!」
「そう? じゃあ伊織、よろしく」
今回では初対面となる伊織を“伊織くん”呼びしてみたけれど今回もダメだったらしい。毎回チャレンジしているが結局呼び捨てになる。
「あのー…センパイもここにいるってことは…そういうことッスよね?」
「そういうこと、がなにかはわからないけど…呼ばれてここにいることは確かかな」
「あ…そっすか…」
肩をすくめて答えれば、居心地が悪いのか離れていく伊織。少し意地の悪いことをしたかもしれないと思いつつも見送ると美鶴さんと目が合う。
「三上、もうすぐだ」
頷き返した瞬間、学園が歪で巨大な塔へとその姿を変える。
どうやら影時間に入ったらしい。
「有里や伊織にはもう説明したが…これが“タルタロス”。影時間の中だけに現れる“迷宮”だ」
「なるほど…」
「あまり驚かないのだな。まあ、影時間が明ければ元の地形に戻るから気にするほどでもないさ」
とりあえず中に入ろう、と促され、中に入る。
中は学校の雰囲気とガラリと代わり神聖ささえ感じられる。
「ここから上の階が迷宮になっていて、そこでの行動チームのリーダーがいるんだが…その、」
美鶴さんが言いよどむ。おおかた、兄という立場である自分に伝えずに湊か奏子を現場リーダーにしたのを伝えにくいのだろう。
「私は、君にやってほしいと思っている」
「えっ」
──えっ(二回目)
美鶴さんから出た言葉は予想していない言葉だった。今までは普通に自分を無視して湊か奏子がリーダーになっていた。だというのに何の風の吹き回しだろうか。
いやこれ…湊や奏子の立場や役目を食ってしまいかねないだろうか…不安になる。
リーダーになったことで得られる恩恵も、それ以外の事も奪ってしまいかねないだろうか。
「臨時のリーダーとして有里…弟の方に頼んでいたが、きみが退院したのならその方がいいと思ってな。無論、きみがあのまま眠り続けていたら…正式に有里湊にリーダーになってもらっていた」
いやそのまま行ってください、とは言えない。
確かに恩恵を奪ってしまいかねないが、湊や奏子がリーダーになることにより要らない諍いや嫉妬を体験する必要もない。それなら自分がリーダーになった方がいずれくるだろう伊織の嫉妬やその他諸々も矛先が向きにくいだろう。一人行動がしにくくなるのでとても面倒くさいが。
「わかりました。そういうことなら喜んで」
「ありがとう。二つ返事とはきみは本当に不思議なやつだ」
「そうですかね…?」
こちらからすると美鶴さんの方が不思議ちゃんなのでいまいち納得がいかない。
「それでは今日の探索は三上、有里兄妹、それとあと一人を加えて行ってもらいたい。私はサポートに徹することになるし、明彦は怪我で戦えそうにもない。岳羽か伊織のどちらかを選んで連れて行ってやってくれ。二人とも、数日とはいえきみよりかは戦闘経験を積んでいるからな」
あと一人…あと一人か。
悩むところだ。
「ハイ! ハイハイハイ! オレ! オレっち行きたいです!」
「順平…」
………。
伊織が凄まじい自己主張をしている。岳羽に呆れたようにジト目で見られているがそれでもなお、しょげない・めげない・あきらめてない。
その明るさは見習いたい。
……ので伊織をメンバーに入れることにした。
「じゃあ、伊織で…」
「っしゃあ!」
タルタロス内を探索する。
緑の光が照らす薄暗い迷宮をひたすら歩く。
「なあ湊、俺がリーダーになって良かった? もしリーダーがやりたかったら美鶴さんに相談してみるし…」
歩きながら、湊にそう聞いてみる。
実際、二つ返事で快諾したものの、湊の意見は聞いてなかったので気になっていた。
「どうでもいい。それに、僕は臨時リーダーのままだよ」
「えっ」
「優希が居ない日に探索したければ僕か奏子が臨時でリーダーになってって言われた」
「そ、そうなんだ…」
返ってきた答えは予想もしないモノだった。そうか…臨時リーダーのままか…
これなら色々と都合がつけやすいしいいかもしれない。もしぶっ倒れて入院して探索できない、なんてなれば戦力の低下が起こってしまう。
それで誰かが死んでしまえばそこで詰み、だ。しかし二人が臨時リーダーになるならそんなことは起こらないだろうから一安心だ。
(それにしても…)
先ほどから歩いているがシャドウと遭遇しない。
まさか刈り取る者が出たわけでもあるまいし…と思い始めたところで前方の曲がり角にシャドウの影を見つけた。良かった。ちゃんといたようだ。
「!」
少し距離はあるが一気に駆け出して距離を詰めて跳びかかり、大ぶりなサバイバルナイフを突き立て──た瞬間霧散して消えた。
手に残る攻撃の当たった感触が気持ち悪い。どういうことだ…?
ここら辺のシャドウであっても周回したてのこの時期の自分は一撃では倒せなかったはずだ。攻撃力の低いサバイバルナイフならなおさら。
と、言うより先ほどの一撃は先制攻撃であり、後ろの三人が戦いやすいように牽制する意味合いで放ったものなので全力でもない。
「…………」
サバイバルナイフをしまい、両手を開いたり閉じたりして確かめる。
そういえば、タルタロスに来てからやけに調子がいい。いつもなら、しんどくて仕方がないか身体が多少なりとも重くなるはずなのに。
と、ここで伊織と湊と奏子が追いついてきた。
「いやー! センパイはやすぎっスよ! そこになにかいたんすか?」
『…三上が今立っている場所にはシャドウがいた』
「えっマジすか! どこかに逃げたとかっすか!?」
驚きながらキョロキョロと周りを見回す伊織に申し訳なくなってくる。
少しして、美鶴さんのフォローが入る。
『…………いや、消えた。倒したというべきか』
「………あの一瞬で?」
ドン引きされてしまった。
いや、自分としてもドン引きなので美鶴さんと伊織の反応は至極まっとうだ。
「えーすごい! お兄ちゃん強いんだ!」
「いや、まぐれだよ。たまたま弱点か何かに当たっただけじゃないかな?」
「それでも!」
「うーん、そうかな…」
奏子にはそう言い訳したが個人的にもそうだと信じたい。
たまたま…当たり所が良かった?だけであって自分がこの時点で既に強いわけではない…はず。
強かったらおかしいのだ。これまでリセットされていた強さがリセットされていないなんて、おかしいにもほどがある。
「……」
また、まただ。
湊が何か訝しむようにこちらを見ている。
いや、もしかしたら心配しているだけかもしれないけれど。
今いる階にシャドウは居なさそうなので、上へと上がる。
上がってすぐ、シャドウが歩いている。
『前方にシャドウだ。気をつけろ』
「了解」
返事をしたかしないかくらいで湊が飛び出し手に持った剣を叩きつけた。
瞬間、シャドウが分離し4体ほどの『臆病のマーヤ』になる。
「よっしゃー! 戦闘だぜ!」
「順平、無茶しないでね」
「わかってるって!」
「私も頑張るぞー!」
「オッ、奏子っち張り切ってるねぇー!」
伊織が張り切り、湊が釘をさす。そして奏子が伊織のノリに乗るという、なんやかんやで三人の関係は良いようだ。安心する。
恐らく岳羽とも二人は仲が悪くないだろう。
「“オルフェウス”!」
奏子がペルソナを召喚する。竪琴と茶色の長髪を持つ女性の様なフォルムを持ったペルソナのオルフェウス。いつも通りだ。
「オレっちも! “ヘルメス”!」
伊織も続けて召喚する。随分景気がいい感じだ。
二人が召喚したからか、湊も溜息をついて召喚器を頭に当てる。
そして召喚するのはもちろんオルフェウスだr──
「……“タナトス”」
──あれ?(震え)
あれれ~おっかしいぞ~?何か違うね??????