君、死にたまふ事なかれ【本編完結】   作:月瓜里

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迫られた選択(11/30~12/2)

11月30日(月) 夜

 

一週間なんてあっという間だ。

修学旅行の時にアザミさんに買ってもらった羽織が届いたり、二年生が体験学習にいったり、ちょっとした用事を済ませたくらいであったことと言えばその程度。

羽織は大事に畳んで、届いたときに入っていた桐の箱に入れ、引き出しに保管してある。

袖を通すことはきっとないだろうけど、雑に扱いたくなかった。

 

ヒュプノス(モルフェ)から提示された選択の答えを決めるために、夕食後ラウンジに集まることになった。

自分は12月2日にヒュプノスと会うつもりはないのでこの話し合いも最低限言うことだけ言って静観に留めるのみだ。

この話し合いも意味の無いものになるだろうけど、ここで止めたり、関わりが無いから参加しないと言ってしまえば怪しまれる。まだ全てが終わった訳では無いし、ペルソナもモルぺウス達が使えなくなっただけで関わりが無くなった訳では無い。

 

ソファーに座らず壁に背をもたれさせて腕を組む。

 

「結局。どうすんだよ。ヒネポン? だっけ、あのバケモンに言われたこと。もう決めなきゃだろ」

「“ヒュプノス”だってば。悪いけど、私は答えもう決めてるからね」

 

ヒュプノスの名前を間違える伊織は仕方ないとして、答えを決めていると言った岳羽の顔はしっかりとしたものだった。そこにヒステリックさや不安定さは欠片もない。

 

「…俺もだ」

「私もだな」

「アキも桐条も決めてんだな。…聞く必要なんかねぇくらいのことだけどよ。決めなきゃ、なんねえんだもんな」

 

真田くんと美鶴さんの返事を聞いて、荒垣くんは大きく息を吐いた。

仕方ないな、と言わんばかりに奏子と天田くんを見つめながら。

 

「ぼ、僕だってちゃんと決めてますよ。もちろん!」

「わっ、私も…!」

「ワンワン!」

 

天田くんが焦ったように早口になり、それにつられるように山岸とコロマルも声を上げる。

ちゃんとみんな決めてきたようだ。

それが誘導でも何でもなく、己の意志なら自分はいうことはない。

 

「……私も、ちゃんとって言えるかどうかは言えないけど、決めてるよ」

 

妙に硬い表情の奏子がいつもとは違う真剣な声色で静かに告げる。

その視線はわずかにぐらぐらと揺れていて、何かを戸惑っているようにも見えた。

 

「……ねえ、お兄ちゃん」

「なに?」

 

戸惑い、不安げな表情のまま奏子がこちらに呼びかけてくる。

 

「お兄ちゃんは私たちのどんな選択も受け入れるって言ってたよね? そのこと、嘘じゃないよね?」

「受け入れる、じゃなくて“従う”んだけどね…まあ、嘘じゃないよ。どっちでもいいんだ。俺は」

 

以前と同じ返答を返す。

どちらでもいい。どのみち、自分一人で終わる。この選択は最後の意思確認のようなものだ。

 

「本当に? 素直にしたがうの」

 

湊がこちらをじっと見つめて訊いてくる。その目が何を思ってこちらを見つめてくるのか、自分には読み取れない。ただ、今初めて湊のその目が少し苦手なのだと、自分がまっすぐ目を合わせられるのが苦手なのだと自覚した。だから、自分は目を逸らしがちなのだ。

自分からは覗き見る癖に、相手から見られることを嫌う。あまり好ましいとは言えないだろうなあ、と頭の端でぼんやりと考えた。

けど、本当に彼らがどんな選択をしようが構わない。

 

「……本当だよ。何度も言うようにその言葉は嘘じゃない」

 

大事なのはそこじゃないから、こんな口約束くらいなんてこともないし平気だ。

 

「そう、ならいい」

 

納得しているのかしていないのか。どちらかわからない声色で湊はその話を終わらせた。

奏子は依然、少し不安げな顔をしていたがもうこれ以上は何も言うつもりはないようだった。

 

「後は…アイギスだけだな。どうだ?」

「わたし…ですか?」

(……?)

 

真田くんに返事を問われたアイギスが挙動不審になりさっと視線を下に落とした。

まるで、「決めかねている」と言いたげな表情はアイギスらしくない。

 

「わたしは……」

 

また、言い淀む。

 

「…わたしに、“いのち”はありません。機械なので破損しても、パーツを交換すればいくらでも修復できます。そんなわたしが…この選択を…決めていいこと…なのでしょうか」

「アイギス…」

 

そんなことはない、アイギスにだってこの選択を選ぶ権利はあると叫ぶ者は居なかった。実際、アイギスは機械と生物の中間のような存在だ。心はある。だけど身体は無機物。

アイギスの言っていることは間違いではない。だからこそ、皆は突発的に出されたアイギスの問いに答えられなかったんだろう。

否、湊は何か言えただろうが悩むように口をつぐんでいる。

 

「わかりません…わたしは確かに皆さんの仲間です。もちろん、可能性がゼロではないのなら、滅びに立ち向かうべきだとわたしも思います。でも、皆さんがこれ以上危険な思いをするくらいなら…辛い思いをするくらいなら…! わたしは…わたしは……」

 

アイギスは決めきっていないようだったが多数決で決まるならアイギスの意見は却下されるだろう。恐らく。ただ、何かが変だ。

なにか、酷く葛藤しているようにみえる。

 

「オイオイ、どうしたんだよアイギス? なんかヘンじゃね?」

「皆さんは機械のわたしと違って生きているんです。ヒトの…いいえ、生きているものの命は、ひとつしかないんですよ!? なのに、死にに行くようなことにわたしは、賛成…できかねます……」

 

最後は消え入るような声で自らの意見を告げたアイギスは、恐らく皆が決めきっているであろう「滅びへと立ち向かう」という選択肢に反対することとなったようだ。

それでもいい。自分はアイギスが最期まで気づきさえしなければそれでいいんだ。

 

「…そっか。わかった。でも僕も奏子も、みんなも“滅びに立ち向かう”事に決めてるから」

「……っ!」

 

アイギスの答えに対し、切り捨てているのかと思えるほど冷静を装った湊の言葉は覚悟が決まっていた。たとえ反対していたのが自分や、他の人間──アイギスでなくとも容赦なくこういわれていただろう。それくらい、湊の言葉も視線も強情さを孕んでいた。

こうなるのならなぜ訊いたと言わんばかりだが、アイギスの不安(それ)は実際とても正しい。しかし所詮この話し合いは意見の確認と多数決であり、最終的に決めるのはリーダーである湊と奏子だということを除けば。ここでアイギスの他にあと3人程度、記憶を消す派の意見を持ったメンツが居れば何か変わったのだろうがそうもいかない。

 

目を見開いてふるふると震えるアイギスを無視して「そうだよね?」と問うような視線を湊が送れば、アイギスと自分以外の皆が頷く。

アイギスには残念だが、決まりだ。

 

「明後日の影時間。ムーンライトブリッジでヒュプノスに返事をする。優希も、これでいい?」

「ああ。大丈夫」

 

先に出れば間に合うだろうか。大事な時だが、朝倉先生に呼ばれていると言えば何とかごまかせるだろう。

 

「...あ、でもごめん。明後日の話し合いには俺いけないから」

「え、どうしてですか…?」

「病院に行かなくちゃいけなくて。また、検査とかで泊まりだろうから。後から合流するにしてもいま1人で影時間に出歩くのはちょっとね…体調が悪いとかじゃないよ。こんどのは定期健診ってやつ」

 

でっちあげる。

さも、「病院で大人しく待ってますよ」と言うかのように。これなら影時間前から寮に居なくても不審がられない。

 

「それなら仕方ないか…先輩、気をつけてくださいよ?」

「わかってる。この前もタカヤから釘刺されたとこだしね」

 

岳羽が納得したようにうなずいたのを見て、こちらも苦笑いで答えておく。適当にでっち上げた理由だが、特に怪しまれていないことから湊や奏子を含めた皆を納得させることができたようだ。

 

「それでは、方針が決まったところで解散だな。…アイギス、大丈夫だ。私たちはこれまでもやってこれたんだ。きっと乗り越えられるさ」

「ですが……」

 

美鶴さんに励まされたアイギスだったが結局思いつめたような表情から回復することはなかった。

 

「わたしは、死なない。なら、わたしがみなさんのために…やるしか……」

 

 

 

 

 

 

「奏子、湊。ちょっといいかな」

 

それぞれの部屋に帰ろうとしたふたりを二階の踊り場の前で呼び止める。

 

「なに?」

「どうしたの? お兄ちゃん」

 

呼び止めればほぼ同時にふたりともが立ち止まった。

ここで立ち話をするのもなんだし、近くの椅子に誘導する。

 

「や、大したことじゃないよ。でも滅びに立ち向かうって決めたんだろ。だから俺から餞別をしないとって思ってね」

 

得意げな顔をしつつ勿体ぶって懐から“あるもの”をふたつ取り出して掌を広げた。

小さな、金色の金具に親指の先程度の大きさの青く輝く石がついているだけのストラップ。

ちょうど、この石の色のような青をブルームーンというらしい。なんというか、皮肉にもほどがあるだろうと思うけれど奏子はそうじゃなかったらしくこちらが手渡したそれを食い入るように見つめている。

 

「きれい…」

 

これは、“保険”だ。

建前的には「戦力的に自分が役に立てないから、せめて物だけでも」という理由になるけれど。

 

俺が失敗した時やニャルラトホテプや『あれ』にちょっかいをかけられてなにかあった時のための、保険。

一見ただのストラップのように見えるそれは、この一週間で急造したものだ。

自分は神様のようにモノづくりに慣れているということはないので、無から有を生み出すことに苦労した。もちろん、この言い方は八つ当たりと皮肉だ。

 

たとえば、『自分から一部を切り出して云々』、などならなんとか自分(聖杯)でもできる。

だからといって別に肉体を切り取ったわけじゃない。流石にそんな趣味はないし。

ほんの少し、核たる部分の情報を少し切り取って結晶化させただけだ。少し削ったくらいでは今更変わりはしないし、ひび割れ砕けてゆくものを摘まみ上げて再利用しただけの何が悪いのか。これが他人のものなら躊躇してそんなことをすることはなかったかもしれないが、自分のものなら別にどう扱ったっていいだろう。

 

お守りと称してニャルラトホテプや『あれ』といった脅威になりそうな相手にとって最悪の反撃手段(カウンター)を用意したわけだ。

たとえば、北欧神話で語られる何物をも傷つけられないバルドルを害した唯一であるヤドリギのように。

これさえ使えばやつらを害することができる。やつらに、及ぶことができる。ヒト(こちら)の世界にひきずりだし、繋ぎ止めることができる。倒せるもの(のりこえられるもの)としてみんなに『認知』させることができる。自分がいなくても、これさえあればなんとかなる。あとは、人の手でなんとかなるようにと作り上げたものだから。

要は、自分という存在自体が“敵”に食い込んでいるためにそれらに干渉できる触媒の様なもの──に近いのかもしれない。

 

「これ、どうしたの?」

「あー…その、いまはみんなといっしょに戦えないからなにか俺にもできないかなって思って。お守り、作ってみたんだ。もちろん、クーリングオフ制度はないからね!」

「なんだか、売り物みたいだ」

 

茶化して言えばそんな反応が返って来る。

色々と“ズル”をしたのでハンドメイド初心者が作るような不格好なものではなく、既製品のように綺麗なのは当たり前だ。ちょっとアクセサリー雑誌を見たり“Be blue V(アクセサリーショップ)”(ヒーリングショップでもある)でオシャレなアクセサリーのデザインを見てきたけど。

知識を仕入れずに自分の感性MAXで作ったら参考資料がお土産屋に売ってる剣のキーホルダーくらいしかなく、それ並みにギラギラですんごいものが出来そうだったので勉強にすることにした結果シンプルなデザインに決めた自分を褒めたい。

 

「とにかく! ペルソナは想いの力でもあるんだ。…きっと、なにかあったときにふたりの力になるから。できれば肌身離さず、持っていてほしい…かなぁ…って…」

 

なんだか恥ずかしくなってきて尻すぼみになってしまう。

今更になってめちゃくちゃ気持ちが重いんじゃないかとか、これってメンヘラじゃないのかとか、不格好じゃないかとか、やっぱデザインダサくね? とか…手放したせいかストラップを作っていた時のはっちゃけ具合が抜けて冷静さが戻って来るにつれていたたまれなくなってくる。

 

「あー…うー…なんか、急に恥ずかしくなってきた。帰る! じゃあ、おやすみ!!!」

「待って!」

 

自分から呼び止めたことなのに、そそくさと逃げ出すように奏子と湊を見ずに部屋へと急ぎ足で戻ろうとすれば奏子に手を掴まれて止められる。

 

「そ、の…お兄ちゃん、ありがと! 大事にするね! ぜったい、大事にする!」

「…うん。そうしてくれると俺も嬉しい」

 

たぶん。いや、絶対自分は不格好な笑みを浮かべているだろう。

それくらい、気恥ずかしさと色々な感情がないまぜになって襲ってきていた。

ほんとうは、これが役に立つことなんてなくて、誰から貰ったものか分からなくなるくらい平和なのがちょうどいいのだけれど。念には念を、だ。

 

満月まで、あと二日。

覚悟はもう、出来ている。

 

 

 

 

ぱちり。

湊と奏子は揃ってふたりで目を開いた。

流れるのはピアノの旋律。目の前にはイゴールとエリザベス、それにテオドアが居た。

いつも通りの湊と奏子がよく知るベルベットルームだ。だが、ふたりはそこへ行こうと思ってきた訳では無い。寝ていて突然呼ばれたのだ。

 

「突然のお呼び立て、申し訳ありません」

「この度、お客様は重大な決断をし、特異な縁を結ばれた事でしょう。それによって得、新たにお目覚めになられた力についてお伝えしたくこちらへとお呼びいたしました」

 

テオドアとエリザベスがそれぞれ謝罪と説明をする。

重大な決断とは滅びに立ち向かうかどうか、のことだろう。しかし“特異な縁”には心当たりがない。

 

「貴方がたが新たに目覚めた力。それは原初の雛形。本来存在するはずのないイレギュラーナンバー。“原型(アーキタイプ)”に分類されるアルカナのペルソナ、でございます」

 

エリザベスが一枚のカードを掌に浮かび上がらせる。

そのカードは絵柄がなく、白紙のようにも思えた。が、くるりと湊と奏子の正面へと絵柄があるはずの面がきた瞬間、青い炎と共にカードが燃え上がった。

 

そしてその白紙に絵柄が浮かび上がる。

白かった面は黒く塗りつぶされ、その上からさらに青と白で彩られた波打ち際。

満天の星空を背景にした海の波打ち際がそこには描かれている。

 

「海…?」

「左様。これは普遍的無意識である心の海と貴方がた生きとし生けるものの狭間を示すもの。生と死の(みぎわ)愚者(ワイルド)世界(WORLD)と同等であり、しかしまだ目覚めてはおりませぬ。意志の力の根源を司るアルカナでもありますゆえ、祈りや意志の強さによってこれは力を増すのです」

 

イゴールが説明する。

宇宙でも世界でも愚者でもないそれは、ポテンシャルこそあるものの、まだ強い力を持ってはいないと言う。

何に使うのか。どんなペルソナが目覚めたのか。イゴールが教えるつもりは無いようで、僅かに微笑むばかり。

そんなイゴールの様子に奏子は少しだけ不安になる。言葉が分かりずらいのはいつもの事だが、なぜ何も言ってくれないのか。

 

「ほほ。そう心配なさらずとも。悪いものではありませぬ。ご安心くだされよ。お客人の求めしものは彼の者と向き合う時、自ずと見えましょう」

 

奏子の不安を払拭するかのように、イゴールが言い聞かせた。

大丈夫だと。

イゴールからは何も言えないが、来るべき時が来たら分かるはずだ、と。

 

「──善悪を問わず、人の心に雛形を残した人間達は、皆優れたペルソナ使いでもありました。無論、貴方がたも…」

 

イゴールが目を伏せる。

 

「どうか、後悔なき選択を…」

 

 

 

 

12月2日(水) 霧 影時間

ムーンライトブリッジ

 

決断の日だ。

何が起こるかわからないということで武装をした状態で濃霧が周りを覆う異常な様子のムーンライトブリッジへと向かった特別課外活動部を待ち受けていたのは──

 

「…こんばんは」

「お前は……朔間!? なぜきみがここに居る!?」

 

美鶴や優希のクラスメイトである朔間だった。彼は影時間だと言うのに平然とそこに立っている。

いまは影時間などではなく、ただの夜中なのではないかと錯覚するほどに。

それを異常だと感じた美鶴のもっともな質問に朔間はすこし目を逸らしたあと、口を開く。

 

「──待ってたよ。どうするか、決めて、来たんだよね」

 

“待っていた”。“どうするのか決めてきたのか”。

このふたつの言葉だけで十分、朔間がどういう存在なのか理解することが出来た。

 

「朔間…まさかお前は…!」

 

狼狽える明彦に対し、朔間は静かに頷く。

 

「そうだよ。僕が、ヒュプノスだ。優希から別れて、みんなをずっと見ていた。優希以外の人間がどういう生活をして、何を思うのか、とても気になっていたからね」

 

その自嘲気味な言葉とともに黒い旋風が巻き起こる。漆黒の羽根が舞い、暴風が朔間を覆い尽くすように荒れ狂う。

 

「きゃっ!」

「わああ!」

 

これは攻撃ではない。が、あまりの風圧に皆が受身をとる。

それは一瞬だったが、風が収まった頃には朔間は人の姿ではなく、以前も見たヒュプノスへと姿を変えていた。

 

「さあ、どうするんだい? “記憶を消して穏やかに滅びを迎える”か“奇跡を信じて立ち向かう”か。答えを聞かせてほしい」

 

大きく黒い翼を広げたヒュプノスは以前の狂気を見せずに静かに訊いてくる。

アイギスは震え、今にも飛びかかりそうだったがまだ抑えているのかそれとも機を伺っているだけか、その手の銃を撃とうとはしなかった。

 

「私たちの、答えは──」

 

問われた湊と奏子が代表で前に出る。

 

「「“奇跡を信じて立ち向かう”」」

「……そう」

 

静かに納得したように頷いたヒュプノスが微かに笑った気がした。

 

「きみたちの考えはよく分かったよ。辛い選択だったと思う。突然、こんなことを言われて、半信半疑だと思う。けれどありがとうと言わせて欲しい。僕としても──」

「────っ!!!」

 

ヒュプノスの言葉は最後まで続かなかった。突然、飛び出したアイギスがヒュプノスへとその身を踊らせ、己の腕と一体化した銃を乱射したのだ。ヒュプノスは咄嗟に自らの翼で守り、無傷のようだったが。

 

「どうしたんだアイギス! 彼は戦う意志を見せてはいないだろう!?」

 

突然のアイギスの強行に、皆戸惑いを隠せない。

 

「ペルソナ、レイズアップ!」【デッドエンド】

 

アイギスと共にパラディオンがヒュプノスへと突撃していく。

が、攻撃は全て黒い翼で無効化され、鎌の1振りで吹き飛ばされてしまう。

 

「くぅ……! わ、たしは…わたしの役目は……! 皆さんを……湊さんと奏子さんを守ることで……、…っ!?」

 

ごろごろと地面を転がり、起き上がりながらそう吠えるように言ったアイギスはしかし、途中で何かに気がついたように目を見開く。

 

「いえ…違う。わたしの、やくめは…」

「アイギス、大丈夫!?」

 

よろよろと立ち上がる。

そしてアイギスは目を伏せるように視線を下げた。

 

「思い出した…ぜんぶ、わたしの…せいだったんですね。わたしが、奏子さんと湊さんに、デスを…封印したから」

「!?」

「は、え!? ど、どういう事だよそれ!? 湊と奏子っちにって…デスってやつが封印されてたのは、三上センパイじゃねーのかよ!?」

 

アイギスの言葉に衝撃が走る。

幾月が話していたことと、アイギスが言ったことはまるで違う。

どういうことなのかと皆が狼狽える中、戦意を喪失したらしいアイギスが語り出した。

 

「10年前の事故のあった日。わたしは爆発により解放されてしまったデスを止める為に戦っていました。その最中、事故に巻き込まれ、影時間だと言うのに象徴化せずにここにいたのが、幼かった奏子さんと湊さんでした。……、わたしは今と同じように全く歯が立たず、やむを得ず、ふたりに──分割したデスを封印しました。優希さんという器に入っていたのだから、同じ人間という存在を器にすれば成功する確率はきっと、あるはずだと。でもまさか、おふたりが優希さんの家族だなんて思わなくて…わたし…!」

「そう。だから12の大型シャドウは彼らがここへ再び来た時点で目覚め、活動を再開した。彼らの中のデスと再びひとつになろうと呼応したんだ」

 

泣けないためか、顔を両手で覆ってしまったアイギスの言葉を引き継ぐ様にヒュプノスが補足をつける。

 

「それって…有里くんと奏子ちゃんが来たせいで……ってこと!? ふざけないでよ! ふたりはなんにも悪くないじゃないの! 事故に巻き込まれて…お父さんとお母さんをいっぺんに失って…その上こんなの封印されて…それで滅びに立ち向かわせるって言うの!? 冗談、大概にしてよね!」

「……ふたりの…三上も含めて有里家の兄妹の転校には幾月が主導で手を出していたらしいが…おかしいと思っていた。なぜ、三上だけではなく二人も呼んだのかと。しかし、そういう事だったのか…! 幾月は最初からこの事を知っていて、彼らを──!」

 

理不尽さに激昴するゆかりに、歯ぎしりする美鶴。

美鶴はなぜ、養父母との関係が良好であり、金に不自由はなく、聖エルミンというちゃんとした場所に通っていたというのに無理やり取り上げるように三人を転校させたのか疑問に思っていたのだ。

もし、三人のうちでも誰かひとりが酷い生活環境だったというのなら分からなくもない。だが、三上家に引き取られた三人はそこで満ち足りていたのだ。

だと言うのに無理やりこちらへと連れてこられ、戦いに巻き込まれ、挙句の果てに滅びの原因となってしまうなど、あんまりではないかと思うと同時に幾月への怒りが芽生えた。

 

「わ、わたしが……私たちが…? こっちに来たせいで、お兄ちゃんが……」

「ううん。奏子ちゃんのせいじゃないよ」

「山岸の言う通りだぜ。お前のせいじゃねぇ。悪いのは幾月だろうが」

「風花…あらがき、せんぱい…」

 

不安定に瞳を揺らし、今にも泣きそうな奏子を風花が慰め、荒垣が安心させるように頭に手を置いた。

その暖かさに奏子のゆらゆらと揺れていた瞳は少しだけ落ち着きを取り戻す。

 

「すみません…わたしが、弱かったせいで…守れなかったせいで…ふたりを……優希さんをも…、…みなさんを…不幸にしてしまった……!」

「それも、違うんじゃねーの?」

 

アイギスの震える声に順平が真剣な顔付きで否定する。

 

「なんてっか、オレはショージキこんなことあってさ、辛いこととか、痛てぇ事とか沢山あったけどさ。でも不幸だとか思わねーぜ! なんてったってチドリだけじゃなくてゆかりっちや風花や奏子っちっていう可愛いコと仲良くなれたんだからさ!」

「僕も、デスが産まれなければ母さんは死ななくて、今も生きていけたのかなって思うこともありました。けど、その分きっと僕が皆さんと…荒垣さんとも会うことがなかったと思うと僕はこの出会いを否定なんてできません。それに楽しいことは沢山あったし、この出会いを不幸だって思ったことは1度もないから!」

「アイギス、お前は考えすぎだ。俺もだが、ここに居ない三上もお前のことを恨んじゃいないし不幸だとは思ったことがないだろうな」

 

明彦の言葉に奏子が「あー…」と独りごちる。

 

「お兄ちゃんはアイギスに対してさっぱりだけど、カダスで見たお兄ちゃんのシャドウはアイギスに凄く懐いてたもんね。シャドウがナギサちゃんの言うようにその人の隠されてた本心なら、もしかして……お兄ちゃんはアイギスのこと大好きってこと!?」

 

「アイギスが取られちゃう〜! どうしよ!」とふざけた調子で慌てる奏子には先程までの不安さはない。

空元気のようなその1連は周りを和やかにするには十分で。

 

「──アイギス」

「みなと、さん…」

 

それでもと頭を振るアイギスに湊が近づく。そして向き合うような形で見つめ合う。

 

「僕は、アイギスと出会えてよかったよ」

「──っ!!!」

 

アイギスは耐えきれなかった。地面に崩れ落ちる。

微笑むように、湊にそう言われてしまい、アイギスはどうすればいいのかわからなくなったのだ。

 

「アイギスは自分を許すべきだと僕は思う。アイギスが僕らにデスを封印しなきゃ、世界はその時に終わってた。みんなに出会うことも、僕らがまた優希と会えることも無かったんだ。だから、あの時の選択を後悔しないで」

 

そんなアイギスを抱きしめ、慰めるようにぽんぽんと背中を優しく叩きながら湊は語りかける。

悪いことばかりだったとは到底思わない。実験がなければそもそも兄が誘拐されることは無かっただろうが、アイギスが止めてくれていなければこの再会も無かったのだ。

兄には通じないであろうその言葉も、アイギスにならきっと。

 

「わた、し…わたし……良いんですか…? わたしには、そんなこと、言ってもらう資格なんて、どこにも……!」

「良いんだ」

 

その言葉だけで十分だった。

 

「アイギスは僕の、“大切”だから」

「───、──!」

 

不意に、湊の肩が濡れるような感覚がしてアイギスの顔を見れば──

 

彼女は泣いていた。

機械であり、涙を流せないはずのアイギスが、ぽろぽろと涙を零している。

その事に、今度は周りが息を飲む番だった。

 

「これが…“涙”……? わたし、機械なのに…いま、泣いて、いるんですか…? なら、いまのわたしのココロは…悲しい…? でも、なんだか、こんなことを…思う、のは変だとは思いますが…満たされている感じで……」

「ちがうよ。それはきっと、“嬉し涙”だ」

「嬉し…涙…」

 

戸惑うアイギスに湊は優しく教える。

感情に対し、赤子よりも未熟なアイギスは嬉しいことも楽しいこともこれからたくさん知っていけば良いと湊は思っている。

その為に、滅びに対し犠牲を出さずに立ち向かい、勝たなければならないというとんでもない状況に置かれているが。

 

(……?)

 

また。まただ。青い蝶が飛んでいる。

それはアイギスの周りをふわふわと飛び、そして頭に止まった。

瞬間、ばきん、とガラスの割れるような音がする。

 

青い光と力の奔流が巻き起こり、アイギスのペルソナであるパラディオンが現れた。

 

「どうして…? わたしは召喚なんて…!」

 

戸惑うアイギスを他所にパラディオンの姿が一瞬で塗り替えられ、別のものに変わる。

戦女神の形をした鉄の置物だったその見た目が、似通ったデザインの別の(ヴィジョン)へと変わる。

それは全体のカラーはそのままに、内蔵されていた槍を手に携え、周囲を回転するようなリングに盾が付属しペルソナ本体を守るような形になっていた。

 

「“アテナ”……これが、わたしの新しいペルソナ…」

 

ぼんやりと、アイギスが己のペルソナが消える瞬間まで眺めていると、ヒュプノスがクスリと笑ったような気配がした。

 

「なるほど。よりヒトらしい精神の目覚めがきみに良い作用をもたらしたのかもね。良かったんじゃないかな」

 

さほど興味もなさそうに、しかし祝うような口振りでヒュプノスはアイギスの新たな力の目覚めを祝福した。

かたやアイギスは先程までの攻撃性が嘘のように、ヒュプノスを見つめている。

 

「わたし…勘違いしていたんですね。ずっと、あなただと思っていた。だから、“ダメ”なんだって」

 

全てを思い出したアイギスは目を伏せた。

 

「でも、あなたは……違う。死の宣告者(デス)はあなたじゃない」

「何を言ってるんだい。僕が死の宣告者(デス)だよ」

 

不機嫌そうにヒュプノスは翼を広げる。

湊も、他のメンバーもアイギスが何を言っているのか分からなかったのだ。

目の前のヒュプノスが“死の宣告者(デス)”では無いというのはどういうことなのか。

 

「おかしいと思ったんです。あなたからは確かに死の宣告者(デス)の反応がします。でも、それはとても小さくて、わたしがかつて見たそれとは違っていて。あなたが湊さんや奏子さんに近づいても違和感があまり大きなものではありませんでしたから」

 

きゅ、と口を結んだアイギスは、何かを決意するように息を吸った。

そして、核心を突く言葉を発した。

 

 

 

 

 

 

 

「本当の死の宣告者(デス)は──優希さんです」

 

 

 

 

 

 

 

「…ふ、あはは! あはははは! そんなわけないだろ! 優希が! 死の宣告者(デス)だなんて! 死の宣告者(デス)は僕だ! 僕なんだ…! だって、僕が何もかもを喰らって、やっと死の宣告者(完成品)になれたのに…! 僕が偽物だって言いたいの!?」

「こいつの言う通りだ、アイギス。三上が死の宣告者(デス)なはずがないだろう! あいつは俺たちと同じ人間だ!」

 

アイギスの言葉を受け、ヒュプノスは笑い出す。

湊たちも「優希こそが死の宣告者(デス)なのだ」とアイギスから言われてもにわかには信じ難かった。

 

「…いいえ、違います。わたしがどうして優希さんを手遅れだと思ったのか…優希さんを殺そうと思ったのか。それは、優希さん自身が死の宣告者(デス)だからに他なりません。あなたが離れていったあの日から、優希さんへの違和感は屋久島で再会した時よりも膨れ上がっていました。ペルソナを使えなくなったのも、心が砕けたのではなく人でなくなってしまったせいだとするのなら…っ!」

 

アイギスが言葉に詰まる。得たばかりの涙がまた、ぽろぽろと零れていた。

 

「……教えてください。優希さんはたった1人でいったい何をしようとしているんですか!? どうして、あなたの後ろから、もっと大きな死の宣告者(デス)の気配がするんですか! 答えて!!!」

「………」

 

ヒュプノスは黙り込んでしまった。

しかし、霧の向こうにある後ろをちらりと見て、そこを覆い隠すように翼を広げた。

 

「ここから先は行かせない。優希の邪魔はさせない! 僕が…死の宣告者(デス)なんだ…! 優希じゃない!!!!」

 

暗に優希が死の宣告者(それ)なのだと認めているようなヒュプノスの言動に、交戦すら辞さないという先程とは違うはっきりとした敵意を出し始めたことに皆が確信を持ってしまう。

そして、病院を抜け出してきたのかそもそも最初から病院に行くこと自体が嘘だったのか、湊たちには分からなかったがなにかよからぬ事が起きてしまうのではないかという不安も浮かんできた。

 

「優希が言ってたんだ…“今日さえ乗り切れればなんとかなる”って…! だから、僕の役目は…ここで…お前たちの足止めをすることなんだ…! ああもう、帰れ! 帰ってよ! 帰れ! これ以上優希の邪魔をしないでよ!!!!」

 

半狂乱になり、頭を抱え出したヒュプノスの様子がおかしい。

先程までの冷静な姿とは違い、駄々っ子のようなその様子に全員が身構える。

しかし、

 

「ヒュプノス、もう良い。…もういいんだ」

 

声が、響いた。

静かで落ち着いていて、しかし聞き慣れた声。

霧の向こうから、人影がこちらへと歩み寄ってくるのがわかる。

ピタリ、とヒュプノスが動きを止める。そして、油の切れたブリキのおもちゃのようにゆっくりと後ろを振り向く。

 

「どう、して…戻ってきちゃったの…?」

 

ヒュプノスの声は震え、今にも泣きそうな声だった。

 

「……別の方法に変えるのも良いかな、と思っただけだよ」

「お兄ちゃん…」

「優希…っ!」

 

そうして霧の中から姿を現したのは、そこにいないはずの優希だった。その手には、見慣れない細長い槍がある。

 

「さて、アイギスの言う通り、俺が本当の死の宣告者(デス)だよ。俺はね、皆をだましてたんだ。だって、ちゃんと滅びは迎えなきゃいけないだろ? けど皆はいずれ知って邪魔しに来るだろうし隠してたんだよ。ここでヒュプノスに足止めをしてもらっている間に、俺がニュクスを目覚めさせる。そうすれば全部終わるし俺はお役御免だというわけだ。やっと、解放される」

「な、なにを…そんな…」

 

つらつらと述べられた言葉が耳に入ってこない。

優希は一体何を言っているんだ、と全員が理解を拒む。

湊は湊で混乱していた。あれだけ救うだのなんだの言っていた兄が、ここにきてそれらが全てブラフだと言い始めたのだ。

ここに来て全てを捨てるような発言をする意味が分からない。契約云々の話も、カダスで見た事も嘘だったというのか。すべて、演技だったというのか。

 

「ああ、なんだか信じられないって顔してるね。湊や奏子を救うなんて嘘だよ。だって、俺は()()()()()()()()()()んだから」

 

ぞわ、と全員の肌が粟立つ。

黒い靄が集まり、優希の身体を覆う。そして、霧散した後にいたのは。

 

「お前は…っ!」

 

暗い色のローブを着た、ニュクス教の教主だった。

 

「驚いた? ぜんぶ、俺だったんだよ。この前だっけ? 伊織が新しいペルソナに目覚めたとき、ストレガとみんなを一度殺したのは俺。あの倉橋とか言う邪魔なじいさんを悪魔にさせてみんなを殺そうとしたけど、まったく役に立たなかったから殺したのも俺。集団自殺未遂を起こさせてるのも、俺だよ。だって、みんな邪魔だし」

 

ニュクス教の教主の姿のまま、優希は嗤う。

 

「そ、そんなの…嘘だよね…嘘だって言ってよお兄ちゃん!」

「──くどいなあ。信じたくないなら信じなくてもいいけどさあ、そんなヤワな思考してると死ぬよ」

 

優希は奏子の言葉を一蹴した。つまらない、と言いたげなその冷たい声はこれまで決して奏子に向けられることはなかったもので、到底家族に向けるようなものではないということだけが全員が理解できることだった。

 

「…させません!」

 

アイギスが飛びかかる。

しかし優希は身動きひとつとる事すらしない。

 

「……相変わらずだよねアイギスってさ。お前みたいに一人で突っ走る、学習しないガラクタに誰かを守れるワケなんてないだろ。ヒュプノス(残りカス)にすら敵わなかったのに死の宣告者(本物)に敵うとでも思うわけ?」

 

影が泡立ち、そこから触手が伸びてアイギスを切りつける。

切れ味の良いらしいそれがアイギスの鋼の身体を傷つけるのは容易なことだった。

何の声も発することなくアイギスは吹き飛ばされ、再び優希やヒュプノスとの距離を離される。

 

「センパイ、どうしてこんなことするんスか!? アイギスもオレたちも、仲間じゃなかったのかよ!!!」

 

容赦なくアイギスを傷つけた優希に順平が思わず叫ぶも、その言葉がなにも響いていないのか、はあ、という溜息とともに優希の姿がローブ姿から元の制服に戻る。そしてガシガシと己の頭を乱暴に掻いた。

 

「あーほんと、バカみたいじゃん。みんな仲間だの絆だのぐちぐちぐちぐち言うんだからさあ! 聞き飽きたんだけどそういうの。なんかもっと別の言葉を持ってきてくんない? ああ、ここで今すぐ死んでくれるってんなら歓迎するけど。俺はやさしいからねー、なるべく痛くない方法で殺してやるよ」

 

ヒマそうに優希が槍を片手でくるくると回す。

その目は、月のように黄金に輝いていた。

 

「三上! 戦うしかないのか…? きみは…私のことを好きだと言ってくれていたのも嘘だったというのか!?」

「俺はみんなの──生きとし生けるもの全ての敵だ。会話とか必要ある? 相互理解なんて、する必要なくない? 俺はみんなを殺すし、みんなは死にたくない。それでいいじゃん。それとも、悲しい過去があるからどうしよもなく~とか和解とかそういうのを望んでる?」

 

「無理無理」と一同を嘲笑った優希の表情はカダスで見たニャルラトホテプの笑みそのものだ。

話がかみ合っていない。話の流れを完全に優希に持っていかれている。

 

「埒が明かない。面倒だからみんなこっちにひきずりこめば少しは危機感出るかな? はは、俺がヒトじゃないってこと、分かってもらわなきゃだしね」

 

周りが黒い泥で覆われ、景色が塗り替わる。

濃霧のムーンライトブリッジ上にいたはずが、一瞬で別の場所へと移動させられていた。

一面真っ暗な水面に、大きく光る満月。この光景に皆は見覚えがあった。

 

「ここは…」

「“カダス”へようこそ。それと、改めて自己紹介をしよう。俺の名は、()()()()()()()()。貴様ら人類が望んだ滅びの先触れだ」

「!!?」

 

優希は自らのことをニャルラトホテプと名乗った。これはどういうことなのか。

カダスで幾月だと名乗ったニャルラトホテプと優希は違うのではないか、と誰もがそう思った瞬間、不機嫌そうに優希は顔をしかめた。

 

「いま別のやつのことを思い浮かべただろ。幾月だったアレもニャルラトホテプ()さ。そして俺もまた、ニャルラトホテプだ。千の貌を持つ、ヒトのネガティブマインドという点では何ら変わりない。ヒトが持つ負の感情の、数多の一側面だというだけ。ま、ヒトじゃない事だけは確かだよ」

 

また、くるりと優希は槍を回した。酷く楽しそうに。唄うように。

そして歯をむき出しにして笑う。

 

「ほら、ここから出て、生きたければ俺を殺すしかないんだよ。世界を救うんだろ? 生きたいんだろ? なら、やれよ。やって見せろよペルソナ使いどもッ!!!! お前らの言う、絆の力っていう反吐が出るほどくだらない、役に立たないもので滅びを克服できるのか見せつけてみろ!!!」

 

最終的には目を見開き、吠えるように優希は笑みを消して叫んだ。

その鬼気迫る表情は本気で特別課外活動部と戦うつもりなのだと突きつけるようで。

 

「っ、僕は…僕らは…!」

 

選択を迫られる。殺すか、殺さないか。

湊と奏子はただ下を向いて、武器を構えることが出来なかった。

 

 

 

 

 

 

[優希(あに)を殺す]

[優希(あに)を殺さない]

 

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