花は散れども舞う風は   作:PP

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第8話「信用」

「銀…あなただけに…重荷を背負わせる…訳にはいかないわ」

「今…今行くから…ミノさん」

 

戦場を離脱していた2人は、銀の所へ戻らんとして歩を進める。やっと歩ける程度には回復したが、戦うには程遠い。それでも少女らは、仲間への思い1つだけで1歩1歩前へと進んで行く。

 

「あっ…そのっち、あれ」

「ミノさん…嘘」

 

須美の目線の先にあったのは、仰向けになって力無く倒れている銀の姿。付近にバーテックスの姿は無い。それを見た園子が駆け出すが、バランスを失って転倒してしまう。

 

「そのっち?」

「大丈夫。それよりも」

「…うん」

 

走るのはまだ無理と分かった。

 

「早く…」

 

気ばかり焦る。だが気持ちに体が付いてこない。できるのはせいぜい足の回転を早める程度だ。

 

と、園子が歩みを止める。

 

「わっしー、ここ、飛び降りよう」

 

銀がいるのはちょうど前方下方向。バランスをとりながら走り続けるのは無理でも、短期的に力を入れるだけなら何とかなる。頷きあった2人はいた場所を同時に飛び降り、彼女の元へとたどり着いた。

 

「起きて…帰るよミノさん」

「全部1人でやったの?すごいわ」

「ねぇ目を開けてよ…ねぇ…」

 

だが目は開かない。

 

「どうして…こんな」

「嘘だよ…ねぇ嘘だと言って!」

「うん、嘘だな」

「嘘…え?」

 

橋の方から歩いてくるその人物は風馬らしかったが———黄色い勇者服に不規則に走るアメジスト色の線に、燃える薙刀。2人の記憶にあるそれとは、あまりにも雰囲気が違いすぎた。

 

「その子は死んじゃいない。まだ息がある」

 

慌てて脈を確認する須美。

 

「本当…気づかなかった」

「あなたは誰?」

 

濃色こきいろの勇者が槍を構え、問うた。

 

「俺か?京極ふ」

「そうじゃない。人格が誰なのかを聞いてるの。今も銀の事、その子って呼び方したから」

 

答えによっては力での解決も辞さないとばかり睨みつけつつ、質問を投げていく。彼を別人認定したらしい。

 

「失言だったな。まぁちょっと体を借りてるだけだ…精霊みたいなもんだよ」

「精霊?ふざけないで。名前は?」

「名は…鬼夜叉とでも呼んでくれ。これでも適切な表現をしているつもりなんだが」

「…そう。でも精霊じゃないんでしょ?」

「それは認める」

「じゃあ一体何なの?」

「いずれ分かる、それより———」

 

ヒートアップし早口になっている園子を落ち着かせる様に間を置き、続けた。

 

「そこに寝てる仲間の事を気にするのが先だろ」

「……」

 

勇者から "勇者" へと向けられていた槍先は、今や下を向いていた。

 

「勇者システムの回復力もあるんだろうが、それ以上に生命力がある。お前らが見てたか知らんが、その子は腹を大きな矢で貫かれ致命傷と言っても過言でないレベルのダメージを受けた」

「それでも生きてる…それが銀の生命力のなせる技と…」

「そういう事。刺さった矢を折ったり、一応できる事はしてみたが他人を治癒する能力は俺には無い。よっぽど強く生きたいと」

「待って、それって…」

 

園子が遮る。その声に先程までの怒気は感じられない。

 

「そのっち?」

「バーテックスの目的は勇者を倒す事ではなく、その先にある神樹へと到達する事であって、勇者を倒して終わりじゃない。ミノさんが動けない今、本来なら今頃世界が滅んでいなきゃおかしいんよ」

「え…まさか」

「もしかして…バーテックスを追い出してくれたのって」

「まぁ…ね」

「……ごめんなさい。問い詰める様な事を言ってしまって」

「疑われるのは当たり前だししょうがない。何せ状況が状況だ。それにこっちも隠そうとしたからな」

 

先に鬼夜叉と名乗った人物は、肩の力が抜けたのか大きくため息をついた。

 

「もうじき樹海化が解ける。その子は...今なら病院に行けばまだ何とかなるだろう」

「あの、風馬君は?ずっとその人格なんですか?」

「安心しろ、俺が憑依できるのは今のところ樹海の中だけだ。樹海化が終わればいつもに戻る」

「そうですか、良かった……ありがとうございました」

「ありがとうございました。ごめんなさい」

「気にするな。またすぐ会う事になる」

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「わっしー、元気〜?」

「ずいぶん良くなったわ。今日は安静にしておくように言われたんだけど」

「でも良かった〜。ちょっとホッとしたんよ〜」

 

翌日夕方、一通りの治療と検査を終えた私はわっしーの病室に来ていた。

 

「そのっちはもう大丈夫なの?」

「私も安静にって言われたんだけど、わっしーとお話したくて来ちゃった〜」

「それは嬉しいけど無理しちゃだめよ」

「さすがにこの体だと無理はできないんよ〜。大丈夫〜」

「…大丈夫よね、あの2人」

「大丈夫だよ、きっと。2人がいつ帰って来ても良いように、私たちは普段通りでいよう。それが信じるって事だと思うから〜」

 

聞くところ、2人はまだ目を覚ましていないらしい。

 

「そう言えばふまにゃんの謎人格、結局何だったんだろう」

「精霊、って言ってたわよね」

「うん。でもいくつか引っかかる所があったんよ〜」

「例えばどんな?」

「まず、『精霊みたいな』って言ってた所。明確に精霊とは言い切らなかった。精霊自体が何なのかは知らないけど、それに似て非なるものなんだろうね〜」

「これは…精霊が何なのかが分からないと難しいわね」

 

精霊、なんて言葉はこれまで小説か国語の授業でしか見聞きした事がない。そんなものが実際に存在するのか、また存在したとしてどのようなものなのか?

 

「他にはある?」

「勇者システムを知ってた事。大赦関係者しか知らないはずなんだけど……」

「確かに変ね。これも…精霊が分からないと厳しいかしら。人智を超えた何かなら機密情報を手に入れられるのかもしれないし。非科学的、非現実的だけど」

 

お役目に関する情報は大赦関係者以外には知らされず、また彼らに伝える事も禁じられている。勇者システムはその中でも最上級の機密に当たるのだが、あの ”人格” は知っていた。本人の記憶を覗く事ができるのか、あるいは記憶を共有できるのだろうか?

 

「後は、最後に『憑依』って言ってた事かな〜。もし精霊だと言ってたのが嘘で本当はただの二重人格だった場合、憑依とは言わないと思うんよ〜」

「だから単に別の人格がある訳ではなくて、その…精霊?に近い存在が風馬君に憑いている。そう言いたいのね」

「あくまで推測だけどね〜。でも筋は通ると思うんだ〜」

「確かに……。風馬君の話も聞けばもう少し分かるかもしれないんだけど」

 

わっしーの表情に影が差したのを見て、そっと抱きしめた。

 

「大丈夫だよ、わっしー。信じる、だよ〜」

 

状況が気になるのは私も同じ。彼の事だけじゃない、ミノさんの事だって。でも私は折れちゃいけない。弱さを見せてはいけない。

 

2人がいない今、彼女を支えてあげられるのは私だけだから。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「以上の内容をまとめますと、近日のアップデートで実装予定のものは大きく分けて2つです。1つは精霊、そしてもう1つは満開。これらをもって、勇者様の御身の安全を確かなものとするとともに、苛烈さを増す侵攻に対する戦力の増強を図ろうというものでございます。私からは以上です」

「なるほど。何か質問のある者はいるか」

「……」

「では、この中間報告通りに勇者システムのアップデートを行うという方向でよろしいかな」

 

老齢の男性を思わせる、少ししわがれた低い声が大広間の中に響く。手元の資料を見返す者こそあれ、異を唱える者は無い。

 

「うむ。では本件は最終調整に入ってくれ」

「かしこまりました」

「勇者様各家へのご説明はかの者にやらせよう。京極殿はこの場にいらっしゃるから構わんだろうが…これへ」

 

呼び寄せられた側近は何やら指示を受けると、うやうやしく礼をしてその場を後にした。

 

「結局、我々にはこれしか無いのだ。限られた資源・戦力をいかにして最大限利用するか」

「遠い昔から人類が背負い続けた業というものですね」

 

中年の男性神官が応じる。

 

「守るべき時に守るには、必要な犠牲を支払わねばならない。歴史がそれを証明している」

「仰る通りです。ただ———」

 

僅かな逡巡が一瞬の間を作った。

 

「時には、攻めに転じる事も必要かと」

「攻め、か……詳しく申してみよ」

 

老齢の議長は手のひらを向けて発言を促した。一呼吸置かれた後、話が始まる。

 

「人類の生存領域を拡張するのです。西暦時代の終わりに結ばれた講和以後、我々は限られた地域の維持に徹してきました。ですがバーテックスによる侵攻が再開された今、あちら側に講和の意思は無いと見て良いでしょう。それならば、こちらも攻めの姿勢で結果外への挑戦を行い、西暦時代の領域の回復を試みてはいかがでしょう」

「面白い。具体的な計画はあるか?」

「勇者システムの量産を考えております。まだ十分に検証できている訳ではありませんが、実現可能性は高いと耳にしております」

「…分かった。性能や実際の拡張地域等も含め、引き続き検討してくれ」

「ありがとうございます」

 

 

 

 

 

「京極宗徳むねのり様とお見受けします。失礼ながら、ただ今よろしいでしょうか」

 

大広間を出た中年の男を呼び止めたのは、彼より若い1人の男性神官であった。

 

「おぉ、春信はるのぶ殿か。どうなさった」

「先程の評議について、最後の会話が漏れ聞こえたのですが…どうして、システムの量産可能性についてご存知なのですか?あなたは大赦の開発部とは関わりが無かったと思いますが」

「廊下での噂話を小耳に挟んだだけですよ。もし我々評議会の者に知られてまずい事があるのなら、部屋の中で話すよう部の面々に諭されるのが賢明かと」

「いえ、決してまずい事ではございません。ただ…まだ開発部の内々の検討事項としてのみ取り扱っていたものですから」

「なるほど。ただ、その利用先の予想は大方間違っていないのではありませんか?それ以外に量産をするメリットなど……」

「えぇ、もちろんそれ以外にメリットは考えられませんが…どうかされましたか?」

 

青年は相手が言い淀んだ所に違和感を覚えたが、特段の心当たりがある訳でもなかった。

 

「いえ、何でもありません。ただちょっと、昔の事を思い出しましてね」

「そうですか。まあ計画についてはバレてしまいましたから、今後も進展があればご連絡致しますね」

「良い報告を期待しています。頑張って下さい。ではまた」

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