花は散れども舞う風は   作:PP

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ご無沙汰しております。
忙しかったり構成を考え直してたりで、しばらく雲隠れしてました。


第9話「1/4」

「まだ目覚めないらしい。もう3日だ」

『でも、命に別状はないと言われたのでは?』

「あぁ、後は目を覚ますのを待つばかりだと。ただ…どうしてもあの時の事がフラッシュバックしてな」

『お父様…ですか』

 

宗徳が先代当主だった父を癌でを亡くしたのは神世紀294年、4年前である。終末期にも関わらず病状は安定していたが、ある日急変し、それから2時間足らずで呆気なく逝ってしまったのだ。

 

『水を差すようで申し訳ありませんが』

 

電話の相手が大きく息をつき、続ける。

 

『ご子息…風馬くんの事は、私などよりあなたの方が余程分かっていらっしゃる。ならば、信じるしか道は無いのではありませんか』

「むぅ……」

『何もできないもどかしさは痛い程分かります。私も経験した事がありますから』

「そうだな、頭では…頭では分かっているのだが」

『正論ばかりぶつけて申し訳ありません』

「いや、いいんだ。分かりきった現実から逃げようとしていたのは私だからな。すまない」

 

宗徳とて、あてもなく泣き付こうとした訳ではない。

 

『あ、そう。お伝えしなけらばならない事が』

「ん?」

 

ちょっとお待ち下さいね、の声の後にガサゴソと何かを取り出す音がした。

 

『もしもし』

「はい」

『風馬くんの記憶が無い原因ですが、お送り頂いたデータから調べてみました。ひょっとすると以前お話ししていた “切り札” と似たものかもしれません』

「と言うと?」

 

彼の仮説はこうである。まず風馬の症状は、記憶の欠落と一時的な人格の変異。また西暦時代の切り札の代償は、精神面への悪影響。記憶の抹消は精神的な負荷によって起こる事がある、という点を考えれば、この2つは繋がる。つまり、勇者としての戦闘によって記憶の欠落が起きたなら、それは “切り札” かそれに準ずるものの使用による精神的な負荷が原因なのではないか。

 

「なるほど、筋は通っている。しかし一体どうやって、 “切り札” か何かその…手段を習得した?」

『そこは分かりません。何らかの方法で精霊を使った、というのは状況からして大いに考えられますが、現時点では……』

「経過観察」

 

重い重い4文字は、またしても何もできないという現実を突きつける。

 

『としか申し上げられません。申し訳ありませんが』

「ありがとう。毎度すまないな」

『いえいえ、こちらとしても宗家にはお世話になっていますから』

「あぁ、こちらからも1つ。今の話のとは恐らく異なる、以前話した方の擬似 “切り札” システムだが、最終調整段階に入るらしい」

『もうですか…随分と早い。勇者システムの調整はそんなに簡単なものではなかったと記憶していますが』

「幸か不幸か」

 

空を仰ぐ。一面を覆った厚雲は、午前11時という時刻には似合わない暗さを生み出している。

 

「大赦の開発部は優秀だ」

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

追い討ち。

 

「何?」

 

現実は甘くない。

 

「何よ」

 

わずか2日。など無かった。

 

「そんなに…そんなに私たちを……したいの

 

声が震える。最後の方は聞き取れなかった。

 

「絶対に、許さない」

 

一転、今度ははっきりした声だ。

 

「行こう」

 

わっしーに声をかけ、槍を構えて地を蹴る。味方は自分を入れて2人。あくまで、冷静に。そう自分に言い聞かせる。

 

「私が前に出る。援護をお願い」

「分かったわ」

 

今はただ、目の前の事を終わらせる。

 

(敵は1体)

 

毎度の事ながら、奇妙なシルエットだ。出来損ないの粘土細工に古ぼけた布を巻きつけた様な格好。流石にウイルスの中から生まれてくるだけはある。特にあの尻尾なんか気持ち悪くてとても———

 

(来る!)

 

その尻尾と思しき箇所から1個、また1個と光弾が放たれる。だがかわし躱し、さらに距離を詰めていく。

 

(動きがよく見える…)

 

2桁を優に超える数の弾がほぼ同時に発射されるが、それぞれがどう飛んでくるのか分かる。不思議だ。集中できている。こんな状況なのに。後方からは爆発音が聞こえる。後ろに行った分はわっしーが撃ち落としてくれているのだろう。

 

(ん…?)

 

わずかな違和感は、当たりだった。

 

「ぐっ……!」

 

刹那、布状の部分が素早く動く。予備動作は無い。気が付けば身体が宙に浮いていた。だが。

 

「こんなの、ミノさんなら!」

 

槍の石突きを使って体制を整え、今度はスピードを上げて一直線に突進。弓矢の援護が布の動きを封じてくれている。

 

「いっけぇぇぇぇ!!」

 

速度の乗った渾身の一撃が炸裂。傷を受けた箇所が爆発した敵は、鳴き声とも何ともつかぬ音を出しながら墜落した。

 

「「ここで決める!!」」

 

槍を構え、動かない相手に突進を繰り返す。上空からは絶え間無く矢が放たれる。しかし敵はなかなか退かない。

 

(勢いが足りない?やっぱり勇者が半分だから?)

 

半分だから足りないのか。元の水準に戻せばいける?だったら。

 

「わっしー!頭を狙って!」

「どういう事?」

「いいから!お願い!」

 

バーテックスの頭部に、溜めて強化された矢が向かう。そのすぐ後ろにぴたりと付き、1つの巨大な矢となって飛んで行く。1人ずつ別に攻撃してダメなら、同じ所へ同時攻撃。倍の威力を乗せればいけるのではないか。

 

「これならどう!!」

 

超音波と勘違いする様な音を発しながら後退を始めるバーテックス。流石にこれは効いた。いつもならここで打ち止めして様子を見ていたのだが、今回は違う。

 

「銀の…分っ!!」

 

一筋の青い光がそれを追撃した。一際ひときわ大きな爆発が起こる。

 

(終わった……?)

 

煙が少しずつ、少しずつ晴れる。そして晴れきり、大橋の全てが視界に入ったその時。

 

 

 

 

バーテックスの姿は跡形も無く消えていた。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

見慣れない白い天井、冷たい光を放つ蛍光灯。目が覚めて最初に見えたのはその2つだった。規則正しくピッピッ…と鳴り続ける機械音も聞こえる。

 

(病院…?)

 

重い上体を起こして部屋を見渡す。どうやら1人部屋らしい。窓の外は真っ暗であり、闇に浮かぶ木のシルエットが不気味な存在感を醸し出している。

 

「だれ、か」

 

いませんか、とまでは言えなかった。喉が乾きすぎているあまり上手く声が出ないのである。飲料水でもあれば良いが、部屋の中には見当たらない。ただ部屋を出ようにも、液体の入った袋から伸びたチューブが腕に繋がっており、自由に出歩いてしまって良い状態なのか分からない。多少時間が経っても死にはしないだろうとの判断から、ひとまず誰かが来るのを待つ事にする。

 

(んで、あの戦いはどうなったんだろ。俺がこうして生きてる以上、負けたなんて事は流石に…)

 

そこまで考えて、思い出した。

 

「そう銀だ、銀!」

 

思わず叫んだ。戦闘中の記憶はほとんど無いに等しいが、あれだけはハッキリと脳裏に焼き付いている。遠目に見た、神々しい矢に貫かれたあの姿。

 

「どうなった!!アイツは生きてるのか!?どうなんだ!!」

「あーあの、病室ではお静かに」

「あ…すみま..せん」

「起きられたんですね。体調はどうですか?」

「あ…水を…ください」

「お水ですね。分かりました」

「お願い…します」

 

巡回の看護師さんの注意を受けてしまったものの、何とか水は手に入りそうだ。無理して心のままに叫んだ甲斐もあり、図らずも少し声が出るようになってきた。

 

(一旦、状況を整理しよう)

 

先の戦いの後、俺はまた気を失っていた。で、起きたら病院と。

 

(整理も何もねぇ。何も分からないじゃねぇかよ)

 

誰に聞けば分かる?須美か園子か。看護師さんか。あるいは、例の謎の声に聞けば?

 

「お水をお持ちしました」

「ありがとう...ございます」

 

一口飲む。ひんやりとした冷たい感覚が口から喉へ、そして胸の奥へと伝っていく。

 

「意識ははっきりされている様ですね」

「まぁ、はい。あー、あの」

「はい、何でしょう?」

「俺がなぜ病院にいるのかご存知ですか?」

「いえ…気を失われていたからだとは思いますけれど」

「ですよね…」

「寧ろ何か特別な事情があるのですか?」

「あ、そういう訳では無かったんです。ただ分からないので聞いてみようと思っただけで」

「そうだったんですね。うーん…また分かりそうならお伝えしますね」

「あ、ありがとうございます」

 

看護師さんは知らない様子だ。まぁ当たり前と言えば当たり前だが。

 

(あの訳の分からない声?とは、簡単には喋れないよな…。となると)

 

2人に会わない事には始まらない。そう考えた俺は、一先ず寝て朝を迎える事にした。




リアルが忙しいのでまた雲隠れしてしまう事になるのではないかと思います。
年末までに何話か更新したい......。
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