花は散れども舞う風は   作:PP

12 / 27
年末更新とか言ってましたが全然間に合いませんでした。かなしい。。。


第10話「気合」

真っ暗とも真っ白ともつかない、灰色の中途半端な世界。気づけばアタシは1人でそこにいた。

いや、正確には浮いていた。勇者装束を着て。

 

(うーんどうしちゃったんだろアタシ……)

 

家はおろか建物、鉄道、山も川も無い。見渡す限り、果ての果てまで同じ景色が続いている。

いつからここにいるのか?そもそもここはどこなのか?何もかも分からない。ここに来る前に何があったのかさえ、よく思い出せない。

 

「おい、そこのお前」

「え?あ…えぇ!?」

 

声のした方を見ると、紫がかった人影があった。さっきまで誰もいなかったんだけどな。

 

「こんな所に来る物好きなやつなんて、お前しかおらんだろ」

「は、はぁ…」

「あーイカン、ちょっと素を出しすぎたかもな。スマンスマン」

 

そう言って人影は頭をかいた。人影は全身紫で、身体の輪郭は認識できるが顔や服までは分からない。コイツに髪ってあるんだろうか?

 

「あなたどんなキャラなんですか…ってか誰ですか!?」

「あーアレだよアレ。その…たまに風馬の体を借りて何やかんやしてるアレ。会った事あるっしょ」

「いや…無い、ですね」

「そんな訳あるか!俺はちゃんと喋ったぞお前と!」

 

心当たりは無い訳じゃない。ただ、それは須美と園子から聞いた話で知ってるだけで、アタシ自身は喋ってないと思うんだ。

 

「実は、ここに来る直前の記憶があんまり無くって。そのせいで覚えてないだけかもしれないです」

「あーそうか…ならしょうがないか…いやまぁ…こっちから勝手に喋りかけただけだしなしょうがないよね……

 

妙にテンションが高かった先程までとは一転、今度は凹んでしまった。まったく忙しい人だ。

悪い人じゃないのは分かるんだけど。

 

「それであの、聞きたいんですけど」

「ん?」

「ここって一体どこなんですか?」

「俺の家」

「は?」

「ってのは冗談だ。まぁ嘘はついてないが」

 

真剣な質問に冗談で返されると心臓に悪い。

 

「勘弁して下さいよ…」

「悪いな。ただ、これは良くない知らせになる。言えばショックを受けるかもしれない。それでも聞きたいなら、聞く覚悟がお前にあるんなら、今度こそ俺はありのままを話す」

 

人影の声が引き締まる。どうも状況はシリアスらしい。

でも、聞かない訳にはいかないっしょ。帰らなきゃだし。

須美、園子に風馬。弟たち、家族。クラスの友達に安芸先生。皆みんな、待ってるだろうし。

 

「大丈夫です、聞かせて下さい。つまりどういう事なんです?」

「手っ取り早く言えば、死に切れないやつの墓場だ」

 

墓場。亡くなった人が入る場所。そこに自分がいるというのは——

 

「それって…アタシは」

「言葉通りなら、な。大事なのはこの後だ」

 

人影は、間髪をいれず続ける。

 

「記憶が吹っ飛んでるみたいだから一応言っておくが、お前はバーテックスと戦って死にかけた。だからここに来ちまった。だがお前は死んではならんし、死に切れずこんな所を彷徨う亡霊になってもならん。だから俺もここへ来た」

 

戦闘で死にかけた。そうだ。そうだった。

 

「でもそれは…まだ…帰れるんですよね」

「そういう事さね」

 

帰れる。その事実1つで力が湧いてくる。

死にかけた、というのはまだ死んでいないという事でもある。

それに、約束したんだ。またね、って。

 

「どうしたらいいんですか」

「帰りたい、と強く願うだけでいい」

「願う…」

「ん。まぁでも今の食いつき方を見てると大丈夫だと思うけどな」

 

目を閉じれば、みんなの顔が浮かんでくる。会いたい。帰りたい。こんな所に長居はできない。

 

「強いな、お前は」

「アタシが…ですか?」

「俺はここに来た時、誰かのために戻ろうなんて思えなかった。ただ、俺を殺したやつへの復讐だけを考えてたんだな。だから帰れなくなった。でもお前はそうじゃない」

「そりゃあ、待ってくれてる人がいますから。人を待たせてるのに自分だけリタイアだなんてできませんよ」

 

ズッ友、という言葉を聞いた事がある。何でも、永遠の親友の事を言うのだとか。アタシたちの絆もまた永遠だと思ってるし、思うからこそ——帰らなければならない。

 

「良い心持ちだな。俺もそう思えてりゃどんなに……」

 

そう答えたソイツは、どこか遠くに思いを馳せている様な…そんな風に見えた。

 

話の中に少し気になった所があったので、聞いてみる事にした。

 

「あの…殺されたんですか。あなたは」

「まぁな。少しばかり調子に乗りすぎた」

「バーテックス。知ってましたよね」

「まったくどうしてこう…君のような勘のいい勇者は嫌いだよ」

 

やっぱり。

 

「俺もお前と同じで特攻型だったからな。突っ込みすぎてこの有様さ」

「あーちょっと耳が痛いですね」

「要するに気をつけろってこったな」

 

人影は穏やかな口調で続けた。

 

「もう、来るなよ」

「もちろんですよ。死ぬために生きてる訳じゃないですし。生きるためなんで!」

 

俄かに、天高くから一筋の光が差す。

 

「お迎えだな。もちろん良い方の」

「そうですね、何だか帰れそうな気がします……あの」

「言い残した事でもあったか?」

「その、一緒に…帰りませんか?」

 

人影は乾いた笑いの後に、こう答えた。

 

「気持ちはありがたいけど、残念ながら叶わない。受け皿が無いからな」

「受け皿、ですか」

「トドのつまり、俺は死んでいてお前は死んでない。それだけの違いさ」

「あ、そっか…」

 

余計な事を聞いてしまった気がする。

 

「そう気を落とすな。勇者は…生きなきゃならん。俺みたくなっちゃイカンのだよ」

「はい。生きますよ、アタシは」

「その意気だの。まぁ頑張りなされ」

「...何かまたキャラ変してません?」

「うるせぇ帰れ!今すぐ!可及的速やかに!」

「ひぇーごめんなさーい!!」

「っはは、そのまま真っ直ぐ帰るんだぜ」

「はい!ありがとうございました!」

 

体が光にどんどん近づいていく。

 

お役目を必ずやり遂げる。そしてアタシは、何があっても生き延びる!

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

2人だけの戦いから1週間。ふまにゃんが目を覚ましたと聞いて、私たちは病室へすっ飛んで行った。

 

「お邪魔しま〜す」

「おーこんちは」

 

ベッドで横になった彼は、機械に繋がれていた。まだ全開とはいかないのだろう。

心なしか、少し声が枯れている気がする。

 

「その…元気?」

「まぁね。さすがにまだ本調子じゃないけど」

「はぁ、良かった〜」

「とにかく起きてくれて良かったわ」

「心配かけてごめんな」

 

そして、改まった口調でこう続けた。

 

「聞きたい事がいくつかあるんだ。分かる範囲でいいから教えてくれないか?」

「うん。私たちも聞きたい話があるし、情報交換といこ〜」

 

最初の質問はミノさんの事だった。私たちは知る限りの事を話した。

人の変わったふまにゃんが銀を助けてくれた事。彼がそのままバーテックスを追い払ってくれた事。ミノさんはまだ目を覚ましていないけど、容態は安定している事。

 

「大丈夫だよな…アイツの事だし」

「うん。信じて待ってよ〜」

 

もう1つ彼が尋ねてきたのは、鬼夜叉と名乗った謎の人格についてだった。どうも聞くところ、あれは “人格” ではなく別の何からしい。となると、”精霊” の説が有力だろうか。

 

「精霊、なぁ。2人は何か知ってる?」

「あの…人?が言ってた他には聞いていないわ」

「うん。これはまだよく分からないね〜」

「でもあの人、勇者システムを知っていた…ひょっとして関係が?」

「あるかもな。あるいは記憶を覗き見できるのか」

「考えたんだけど、それは無いかな〜。私たちの名前を知らない風だったし」

「うーん……」

 

結局この日も、謎の人格の正体に関する結論は出なかった。

 

「調べてみるしか無さそうね」

「うん〜。乃木家の総力を挙げて調べ尽くすんよ〜!」

「いや大丈夫かこれ。大赦に消されるとか無いよな?」

「勇者を消せる訳ないんよ。大丈夫大丈夫〜」

「これは…将来大物になるな」

「まさか何も考えてない、なんて事は無いわよねそのっち」

「あ、あれれ〜?バレてた〜」

「はぁ、まったくもう……あっ」

 

わっしーがスマホを取り出す。マナーモードだから音は鳴らないけど、多分メールか何かが届いたんだろう。

 

「ねぇ銀が……銀が目を覚ましたって」

「え、わっしー本当?」

「本当よそのっち」

「俺も行…っちゃダメだよなさすがに」

 

そう言って彼は、体に繋がったチューブを引っ張りながら少しおどけてみせた。

 

「頼むわ」

「うん。行ってくるね」

 

病室を出て、ミノさんのいる部屋へと向かう。部屋が近づくにつれて、周りの様子もだんだん慌ただしくなっていく。

 

お医者さん?看護師さん?誰も彼も聞いた事の無い単語を口にしながら、そこらを忙しく歩き回っている。それにつられて、私たちの足もどんどん速くなる。ミノさんの所へ着いた頃には「廊下を走るな」と怒られそうな速度になっていたけど、多分そんな事は誰も気にしていない。

 

「!…鷲尾さん、乃木さん」

「先生、銀は」

「この向こう側よ」

 

そう言って、先生はガラス窓で隔たれた部屋の中へと目をやった。

広い部屋だ。私たちがいた2人部屋を1人で使っている様な状態。

中央で寝ている銀に、お医者さんが何か話しかけているのが見える。

 

「ついさっき目が覚めたのよ。お医者様は奇跡だ、って」

「奇跡……」

「中、入れるんですか?」

「まだダメ。意識が戻ったばかりで安定してないから、検査をした後ならって事みたい」

「…また、前みたいに戻れるんでしょうか?」

「今はまだ、何とも言えないわね」

「そう…ですよね」

「でも、三ノ輪さんは奇跡を起こしてみせた。彼女の生命力はずば抜けていると思う」

 

ミノさんがたくましい人なのは、私もよく知っている。

明るくて真っ直ぐで。弟思いで優しくて。仲間のためなら多少の無茶も厭わない、強い人。

その剛健さ無くしては、ここまでやってくる事はできなかった。

 

「三ノ輪さんなら……」

 

それきり、先生が言葉を発する事は無かった。

 

精霊の事を聞くのは、また今度にしよう。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。