花は散れども舞う風は   作:PP

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2月中にわすゆ完結とか言ってましたが、色々書き足したり先のストーリーを書いたりしてたら間に合わない気がしてきました。ヤバい。
元々は12話あたりに纏める予定だったんですけどね……。

後、今回はちょっと分量多めです。


第13話「守護者」

「それではこれより、精霊降臨の儀を執り行います」

 

1歩、また1歩、と水の中へ進んでいく。

行く先には、何本かに分かれた小さな滝がある。

この場所は男子禁制らしく、ふまにゃんだけは別の場所で儀式を行うのだとか。

 

(わっしーもミノさんも声一つ上げないね……寒くないのかな)

 

水は冷たい。

場所は日陰。

服装は滝行用の薄手の装束。

時期は気温の下がり始める9月の終わり際。

この条件で寒くない訳がないのだ。

 

(う〜早く終わってよ〜。まだ足しか浸かってないのにこの寒さ、ダメなやつだよ〜)

 

進み進み、やがて滝の流れが肩を穿つ。

 

(ひっ、冷た〜い……)

 

胸の前で合掌し、目を閉じる。

水流の勢いが背中を通じて全身に伝わってくる。

毎朝行水をしているわっしーならともかく、私にとってはただただ辛い時間が過ぎていく。

しかし、途中から何か温かい感覚を感じるようになった。

体表を巡る感覚神経は間違いなく “寒い” “冷たい” と言っているにも関わらず。

 

(これは……神樹様?)

 

今滝行をしている場所は四国の中でも指折りの奥地で、神樹様に最も近い場所だと言う人もいる。

そんな場所で神聖な儀式に臨めば、神様と接触する事もできるのかもしれない。

 

(こんな事もできるんだ……神様って凄い……)

 

と、その時。

横で水面を叩く音がした。

 

「え……おい須美!大丈夫か!」

「っ!わっしー!」

 

膝を折り、両腕を力なく垂らすわっしーの姿が見えた。

ミノさんが駆け寄ろうとする。

けれど。

 

「勇者様方は、そのまま儀式を続けて下さい」

「でも……!」

「鷲尾様の事は我々にお任せを」

 

大赦の人たちはそう言うと慣れた手つきでわっしーを担ぎ、どこかへ連れて行ってしまった。

残された私とミノさんは、言われた通りに滝行を続行する。

わっしーの事は気になるけれど、これは新たな力を得るための儀式。

ミノさんを前みたいな目に遭わせないためにも、失敗は許されない。

 

(神樹様……どうかわっしーをお護り下さい)

 

それから何分経っただろうか。

「勇者様、こちらへお戻り下さい」と声がした。

呼ばれた場所には神官たちが待機しており、初めて見るいかにも神聖な雰囲気の装束へと私たちを着替えさせる。

そしてついに、その時がやってきた。

 

「勇者様……こちらを」

「……園子」

「うん。これが勇者の、新しい力……」

 

差し出された三方に乗ったスマホは、見たところ以前のものと何も変わらない。

しかし手に取ると、違いがすぐに現れた。

 

「おぉ、ビックリした……。これが先生の言ってた精霊?」

「そうだね〜。私のは……カラスの天狗かな?」

「はい。乃木園子様には鴉天狗、三ノ輪銀様には鈴鹿御前が割り当てられております」

「へぇ〜お前、鈴鹿御前って言うのか。アタシは三ノ輪銀。よろしくな」

 

そう言って右手を軽く挙げたミノさんに対し、彼女の精霊はハイタッチで応えた。

烏帽子を被り青紫の和服を纏った、女性形のデフォルメキャラクターのようなフォルム。

大きさはヒトの子どもより小さいが、宙に浮いているので高さは問題にならないのだ。

 

(宙に浮いているんだったら……)

 

山伏を想起させる結袈裟に、広げた羽根。

そして、鳥なのになぜか履けている下駄。

鴉天狗と呼ばれた私の精霊は、羽根をパタパタと動かしながら目線と同じ高さに浮いている。

でも、ミノさんの羽根を持たない精霊も浮いている。

 

(羽根……いる?)

 

鴉天狗が頭の上にやってきて、”そんな事は良いじゃないか” と言わんばかりに頭上に着地した。

感触はあるが、重さは見た目ほどではない。

家にあるサンチョのぬいぐるみとさして変わらない重量。

 

(まぁ人智を超えた力だし、何でもアリなのかな〜?)

 

精霊は神樹様の遣い。

先生がそう言っていた。

神様なら、人間ができない事だって軽々とやってのけるだろう。

だから精霊も似たような感じでどうにかなっているものなんだ……と思う事にした。

 

「うん、そういう事でいいよね〜」

「うん、何が??」

「あ、いや、何でもないんよ〜……あはは……」

「そんな事言ってると、また須美に怒られるぞ〜」

 

ミノさんの言う通り、テキトーな結論を出してわっしーの余計なスイッチを入れてしまった事はある。

あれは3回目の襲撃の後、遠足の少し前。

入学してようやく学校に慣れてきた1年生への、オリエンテーションの内容を考えていた時だった。

 

「……って夢を見たんよ〜。衣装はここに描いてみたけど、こんな感じだったな〜」

「国防仮面……良い響きね」

「カッコイイな〜その格好。須美がこの衣装を来てるところ、アタシも見てみたいな」

「わっしーin軍服!素材も出来上がりも最高だと思うんよ〜。白馬の王子様級のカッコ良さだよ〜!」

「でしょでしょ!」

「でも、白馬に乗るという行為には西洋の(よこしま)な思想が紛れ込んでいるわ」

「うーん、言葉の綾だよ〜。気にしない気にしない〜」

「いいえそのっち、あなたは國護りの何たるかを分かっていないわ。護國思想は西洋のそれとは相容れないもので、外敵の侵略を退ける事による国体の護持を目的とした……」

 

その後、わっしー指導官による特別講演は実に30分も続いたのだった。

そして私は、彼女の前で2度と護國思想に首を突っ込むまいと固く誓った。

 

「わっしー……大丈夫かな」

 

 

 

 

スマホを受け取ったその足で、私たちは病院へ向かった。

聞くところ、容態は安定していて面会もできるらしい。

病室へ行くと、ベッドの上で上体を起こしてこちらを向く彼女の姿があった。

 

「わっしー!」

「2人とも、来てくれてありがとう。私は平気よ」

「大丈夫そうで良かったー。けど、何かあったの?」

「うん。上手く言えないのだけれど……」

 

私が滝行で感じた温かさを、彼女も感じ取っていた。

その時、とあるイメージが流れ込んできたらしい。

神樹様のはるか上方に大きな太陽があり、そこから3つの大火球を始めとした無数の炎弾が放たれる。そんな内容。

 

「そんな事が……一体何なんだろう」

「夢判断でも分かるかどうか怪しいレベルだよ〜」

「それは神託よ、鷲尾さん」

「安芸先生……!」

 

先生曰く、火の玉のイメージが流れ込んでくる感覚は神託の1つなんだとか。

近いうちに襲撃がある事の暗示。

わっしーの見た光景からは、”2週間前後のうちに敵の総攻撃が来る” と読み取れるとの事だった。

 

「鷲尾さん、巫女の素養もあるのかもしれないわね」

「須美って巫女さんにもなれるって事なのか!?よく分からないけどスゴイな!」

 

巫女というのは、神樹様のご意志——神託を受け取る事ができる存在。

私たちは会った事はないけれど、大赦にいて襲撃に関する情報を伝えてくれるのだという。

 

「でも、暗示の内容は総攻撃。浮かれている場合ではないわ。もっと訓練に精を出さないと」

「鷲尾さんは頑張り屋さんね。それはとっても良い事だわ……でも」

 

先生は念を押すようにわっしーの顔を覗き込む。

 

「頑張りすぎるのもダメだからね」

「分かってます。もう前回みたいな事は、絶対に……」

「だーかーらー」

 

ミノさんが、わっしーの肩に腕を回した。

 

「それはもういいんだって。アタシはピンピンしてるし、誰も悪くなかった。それに、もし失敗だったとしても、飽きるくらい反省したんだし次何とかすれば大丈夫。それに」

 

彼女はそう言って左手の親指を立ててみせると、今度は精霊を呼び出した。

 

「今度はこの子もいるし。な、スズカ」

「そう、この子スズカって言うのね。よろしく」

 

鈴鹿御前はベッドの上に重ねられた両手の側まで飛んでいき、ちょん、と触った。

わっしーは顔を少し赤らめながら、じっと見つめてくる精霊を慈愛の目で眺めていた。

 

「この子……家で飼えないかしら」

「さすがに精霊は飼えないと思うよ〜。お祭りの金魚さんじゃないし〜」

「そ・れ・に!スズカはアタシのだからな!須美さんには渡しませんぜ〜」

「でも、スマホを持ってるだけでずっと精霊はいるよ〜。勝手に出てくる事だってあるんだし〜」

「あら本当ね。あなたの、頭の上にいいいいいいいい!!!」

「うわああああぁぁぁぁ!!!……って、お前か。ビックリさせないでよ〜」

 

鴉天狗はいつの間に出て来たのか、ミノさんの頭の上で頬杖をついて寝そべっている。

そして、してやったりと言わんばかりの笑みを浮かべるわっしー。

 

「それにしても、こんな子たちが新戦力だなんて大丈夫かしら」

「神樹様のお遣いだからね〜。きっと凄い力を持ってるんよ〜」

「凄い力……この子たちがねぇ……」

 

わっしーが不安がるのも一理ある。

実態はともかく、見た目はイネスのゲームセンター内にあるクレーンゲームの景品と言われても違和感がないレベルの()()()なのだ。

 

「安心して」

 

安芸先生も、わっしーの肩に手を添えた。

 

「その力の強さは、大赦のお墨付きよ」

 

その時の先生の顔色は、ものすごく微妙だった。

微笑と哀しみの入り混じった、モナリザのような表情。

前に先生は、私には精霊は見えないかもしれないわね、と言っていた。

視認のできない何かと戯れる私たちは、確かに周りから見れば奇妙かもしれない。

でも私たちの事を一生懸命に理解しようとしてくれる先生が、そんな単純な事であんなにも複雑な表情を浮かべるだろうか……?

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「ふん……よっ、はあぁっ!!」

「はっ、はっ、ええいっ!!」

「……そこまで!」

 

砂時計の砂が落ちきるのを確認し、先生が()めの合図をする。

精霊付きの勇者システムを与えられてから、勇者チーム4名はいっそうの訓練に励んでいた。

ただアップデート後のシステムは火力が高すぎるため、以前と異なり変身しての訓練は制限されている。

 

「疲れた〜。勉強もして訓練もして、ってなかなかハードだよな〜」

「でもミノさんはイネスに行けば復活するもんね〜」

「あったりまえだぁ!イネスが、ジェラートが、アタシを呼んでいるっ!」

「でもその前に片付けしろよな」

「はいはーい。分かってますって」

 

銀は口で言う事は適当だがやる事はちゃんとやるヤツなのだと、最近分かってきた。

勉強以外は。

 

「これで全部かしら」

「よっし終わったぁ!皆の者、イネスへ直行!」

「お疲れ様。気をつけてね」

「はい、さようなら……って待ちなさい銀!」

「あはは、速すぎるよ〜」

 

挨拶もそこそこに駆け出した銀を、須美と園子は慌てて追う。

 

「あれはもう中毒ですね……」

「まぁそう言ってやらないであげて。熱中できるものがある事は良い事だわ」

 

(あのー安芸先生、イネスは趣味判定なんですか……?)

 

「おーい、置いてくぞー?」

「あー行く行くー」

 

彼女らとどこかへ行くのは病院での1件以来避けていたが、わざわざこう言ってくれるのを無下にするのも悪い。

今回は付いて行く事にした。

 

「ありがとうございました。さようなら」

「はい、さようなら」

 

 

 

 

目的地はハロウィン一色だった。

後2週間と少しでやってくる年に1度のイベントを前に、右でも左でも大型商戦が繰り広げられている。

 

「どこもかしこも、ハッピ〜ハロウィン〜な感じだね〜」

「やめてくれ園子。そんな変な伸ばし方したら、ヘニャヘニャ祭りみたいになっちゃうじゃん」

「え〜。ミノさん、ハロウィンはお嫌い〜?」

「いやーそういう事じゃないんだけど……頼んだ須美」

「要するに言い方の問題。銀は別にかぼちゃ祭りが嫌いな訳ではないのよ」

「いやかぼちゃ祭りって……そんな言い方もしないと思うんだけど。な、風馬」

 

(ヤバい……半分くらい聞いてなかった……!)

 

初めて使う出入口から入ったので、普段通らないエリアに何が置いてあるのかを眺めていた、その矢先の出来事だった。

 

「え……ま、まぁ人によって好みは違うもんだしいいんじゃない」

 

とりあえず適当に流す。

 

「今、絶対話聞いてなかっただろ!」

 

ダメだ。三ノ輪銀様は分かっておいでだ。

 

(でも、ここが踏ん張りどころってね……耐えろ、耐えるんだ……)

 

「そんな事ないって」

「じゃあ、アタシが須美に対して “違う” と思った事は?」

 

前で歩いていた銀が足を止め、後ろを振り返って尋ねてきた。

何だよコレ。クイズ番組か。

 

「んー、かぼちゃ祭り」

 

かろうじて耳に入っていたワードで応戦を試みる。

 

「う……それはそうなんだけど、かぼちゃ祭りの何が問題だった?」

「え、えーと……」

 

あちこちに目を泳がせながら考える。

“かぼちゃ祭り” というのは、横文字アレルギーの須美がハロウィンを言い換えた言葉だ。

だったら……。

 

「えー、国防の精神とは合致しないものだった、とか?」

「国防なんて一言も言ってないぞ〜。やっぱり聞いてなかったんじゃん」

「トホホ、参りました……」

 

事態の沈静化のために、両手を挙げて恭順の意を示しておく。

一方的に巻き込んでおいて糾弾してくる人物に謝るのも、何だか違う気はするのだが。

 

「罰として、ジェラート風馬の奢りな!」

「ええぇぇ!?聞いてないっすよそれ!!」

「やった〜!いただきますです〜!」

「そのっち、そこは “ごちそうさま” よ。後ありがとう、風馬君」

「全員分とかさぁ……ちょっとそれは無いんじゃないの……」

「しょうゆ豆〜♪ジェラ〜ト〜♪」

 

(でも、こんだけ上機嫌なのをぶち壊すのもねぇ……)

 

流石にこの雰囲気を無視するような、空気の読めない真似はしたくない。

結局折れたのはこちらだった。

 

 

 

 

罰ゲームを終えてイネスを出たのは、午後5時を回ろうかという頃だった。

日は西の縁を赤く染め、1日の終わりが近い事を告げている。

 

「訓練の後でそんなに時間が取れなかったけど、楽しかったな!」

「はいはい、俺は罰ゲーム食らっただけでしたよ、っと……」

「え〜。ふまにゃん、ジェラートはお嫌い〜?」

「いやそんな事は……ってそれさっきも聞いたような?」

 

覗き込んできた園子の質問と視線を躱す。

 

「コホン。これからは、きちんと話を聞くように」

「あーはいはい分かってます分かってますって」

「な、何という棒読み……お?」

「これは……来るわね」

 

銀と同じタイミングで他の2人も気づいた様子だった。

棒読みの応答がきっかけと言わんばかりの来襲である。

不安感を煽る奇抜なアラーム音を発しているスマホには、赤い ”樹海化警報” の文字が映し出されていた。

 

そして、世界が光に包まれる。

 

 

「はい出ました!また3体!」

「しかも奥にいるのは何だか大きいね〜。千手観音像みたいだよ〜」

 

敵は前回と同じ3体で、うち前衛が2体。

空中を飛んでくるものと、海中を泳いでくるものとがいる。

そして奥には、これまで相手にした中で最大の大きさを誇る個体が鎮座している。

ただこの巨大個体は様子見を決め込んでいるのか、こちらに向かって進行してくる気配は感じられない。

 

「須美……大丈夫か?」

「あっ……ごめんなさい、ちょっと緊張しちゃって」

 

スマホを両手で強く握りしめた彼女は、じっとその画面を見つめていた。

 

「その気持ち分かるよ、わっしー。前みたいになっちゃダメだ、って思っちゃうんだよね〜」

「えぇ……前は、2人に迷惑をかけてしまったから」

「あれはしょうがなかった。協力プレイしてくる3体相手とか初めてだったし」

「それに今回は、前回とは “違う” しな!パワーアップしたアタシたちの力、見せてやろうぜ!」

「あ、そうだ」

 

園子は何を思ったか自分の髪を結っているリボンをほどき、須美の手にぎゅっと握らせた。

 

「前から思ってたんだけど、そのリボン似合うと思うんだ〜。だから、わっしーに持っててもらおうかな〜って」

「でも……」

「それに、たとえ離れていたとしても私は……ううん、私たちは側にいるよって事」

「……ありがとう……それなら、後で付けてみるわね。それまでは」

 

そう言うと彼女は受け取ったばかりのリボンを右手に巻きつけ、最初に園子がさせたようにぎゅっと握りしめた。

 

「こうして持っているわね」

「あ、アタシはそんな気の利いた物は持ってないけど……そうだ!これが終わったら、焼きそば作ろう。前に一緒にやりたいって言ってたもんな」

「うん。約束よ、銀」

 

晴れやかになった須美の顔は、もう敵が来る方向へと向けられている。

この分なら精神面の問題はなさそうだ。

 

強化された勇者システムは地図もアップグレードされている。

互いの位置のみならず、敵がどこにいるのかも確認できる優れもの。

おまけにバーテックスの名前も分かる。

 

「手前にいるのが魚座と牡羊座、そして向こうの大型が獅子座……」

「園子、何か作戦は考えられそうか?」

「手の内が分からないと難しいかな〜。とりあえず、手前の2体から相手する感じだね〜」

 

園子は、先んじて近づいてくる2体を交互に見ながら答えた。

 

「とりあえず、武器を手にしない事には始まらないっしょ!」

 

銀がスマホを正面に構える。

 

(お前、仮○ライダーにでも変身するつもりか……?)

 

「お〜ミノさんいいねそれ〜。私も私も〜!」

「もう、2人とも何やってるの……いいからさっさとやるわよ」

 

呆れる須美を筆頭に、各々変身機能を呼び出して起動させる。

アサガオに赤ユリ、スイレン。

皆々新たな花と共に、新たな姿に身を包んでいる——はずだった。

 

「あれ?俺のだけ変わってないような……」

「武器も前のと同じだよね〜。でも精霊はいるし〜……」

 

そう、確かに精霊はいるのだ。

3人とは別に1人だけで、神社で精霊降ろしの儀式をやった時から。

名は “巴御前”。

遥か昔に源義仲のもとで仕えた、剛力強弓の女大将である。

男である敵将との一騎討ちにも負けない、一騎当千の薙刀使いであったとか。

精霊の見た目は、萌黄(もえぎ)色の甲冑を身につけた薙刀持ちの長い髪の女性、といったところ。

人型の精霊という意味では銀のスズカに近い。

目立った違いと言えば、被り物をしていない点くらいだろう。

 

「精霊がいるって事は、強化自体はされてるんでない?」

「ただそうは言っても、装束に変化が無い以上、何の手違いがあるか分からないわ。風馬君には一応、慎重に動いてもらった方が……」

「了解。様子を見ながらやりますわ」

「アタシもそれがいいと思う。下手に前に出て何かあったら元も子もないし」

「銀さん、アンタがそれを言うかい……」

「大丈夫だって。アタシを信じてほしい。この力があれば、スズカがいれば、3人がいれば……何だか絶対に負けないような気がするからさ」

 

そのコメントは、彼女が前回の一件に物怖じしていない事の裏返しでもある。

怖さが全く無いという訳ではないだろう。

だが、新しい装備が彼女を奮い立てているのだ。

それが今の彼女の原動力となっている事は、(はた)から見ていても十分すぎる程に伝わってくる。

銀色に輝くその武器は、2本の太い両刃の剣。

柄の近くには、前に使っていた斧に似た穴が開けてある。

装束も少し豪華になった。

これまでの意匠は受け継ぎつつ、時代劇に登場しそうな白い羽織物を新たに増やした衣装。

その姿は悪を断罪するお奉行様のようにも思われた。

 

「そこまで言うなら……無理はするなよ」

「おうさ!」

「して、今回はどうする?」

「向こうの大きいのは一旦放っておくしかなさそうだし、まずは前衛対決だよ〜」

「前衛対決っ!アタシ向きのお言葉、頂きましたっ!」

「うん、ただ……ウネウネ飛んでる牡羊座は槍を伸ばせばいけそうだから、一旦私がやるよ〜。泳いでくるのは接近攻撃が難しいと思うから、わっしーにお願いしたいな〜」

「分かったわ。任せて!」

「じゃあアタシは、ピスケスにトドメを刺しに行く。動きさえ止めてくれたら、ちゃちゃっと倒すから!」

「銀ったら、バーテックスの名前はきちんと覚えてたの。珍しいわね」

「いや、何かその……できる対策はしといた方がいいかな、って」

「名前を覚えるのが対策、ねぇ……お前らしいと言うか何と言うか」

 

バーテックスが12の星座をモチーフにしたものである事は、先日安芸先生が教えてくれた。

その時に、カタカナ名称も合わせて教わったのだ。

 

「で、俺はどうするのがいい?慎重とは言われたものの、どうもピンと来なくて」

「とりあえず臨機に対応する役として、私の後ろで待機しててほしいかな〜。待ちながら、戦況判断のサポートなんかもしてくれるとありがたいんだけど〜」

「分かった。善処するよ」

 

少し荷が重いような気もしたが、積極的に前線に出られないなら致し方ない。

それでも、もし何かあればすぐに1番前に出るつもりはしている。

 

「よ〜し、じゃあアレ、やってこ〜!」

 

園子は銀・須美の2人と肩組みをしながらそう言った。

 

「行こう。そして絶対に勝つ!」

「えぇ、勝つわよ銀」

「ん。仰る通り」

 

そう言って各々肩を繋ぎ、円陣を組む。

 

「ちょっとヤバそうだけど、勝って4人で帰るよ〜!」

 

 

「「「「えい!!えい!!お〜〜〜〜!!!」」」」

 

 

(とき)の声をきっかけに皆々四散する。

ここに、一大決戦の幕が切って落とされた。




銀ちゃん’s強化システムは、赤いユリをモチーフにしております。
花言葉は純粋、無垢、威厳、などなど。

後、彼女の精霊 “スズカ” もとい鈴鹿御前は、ゆゆゆいで実装されてるアレです。
微笑をたたえたスズカちゃん、絶対癒しになると思うんですよ。
ぬいぐるみとかあったら欲しいなぁ。
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