花は散れども舞う風は   作:PP

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第14話「2つのリベンジ」

先制攻撃は敵さんだった。

牡羊座が、テレビで見たUFOのような動きをしながら雷を撃ち込む。

予備動作は無きに等しい上、秒速200kmとも言われる速度で飛んでくる雷撃の使用。

初見で避けるのははっきり言って無理だ。

 

「きゃっ!」

「園子、大丈夫か!」

 

しかし真正面から攻撃を受けたはずの園子は無傷であり、元いた位置で槍を構えていた。

 

「全然〜!このバリア、思った以上に使えるよ〜!」

 

槍を伸ばし、棒高跳びの要領で天高く舞い上がる。

 

「くらえ〜!」

 

伸縮自在のそれを、今度は紫色のバーテックスへと伸ばす。

だが相手はひらりと躱すと、カウンターとばかり彼女の横で電気玉を構えた。

 

(マズい!)

 

咄嗟に跳躍して攻撃を試みるが、間に合わない。

爆発が起こり、煙の中から園子が吹っ飛ばされるのが見えた。

 

「こんのおおぉぉ!」

 

牡羊座はこちらに気が向いていなかったのか、薙刀の斬撃をもろに受けた。

刹那怯んだ様子を見せたソイツは、傷を修復しながら体勢を立て直そうとしている。

 

(今度も大丈夫か……?)

 

バリアの強度は先程目の当たりにしたばかりだが、弱点が無いとも限らない。

万が一の事があれば……。

 

「ヘイヘ〜イやったな〜!」

 

でもその心配は必要なかったようだ。

強化前の戦闘スタイルを彷彿とさせるロケット突撃が敵を貫く。

スピードにはスピードを。

躱されるなら、躱す前に当ててしまえば良い。

ある意味脳筋とも言えるこの戦法を、まさか園子が考えるとは思わなかった。

胴体の筋を破壊され、真っ二つになるバーテックス。

 

「ナイス園子!」

「イエス!でも、世の中そんなに甘くないみたい〜」

 

2つに分離したはずの胴体はそれぞれが足りない部分を再生し、2体のバーテックスとして復活を遂げていた。

前に理科の教科書で見た “プラナリア” が、確かこんな性質を持っていたはず。

 

「あらー増えちゃったか……じゃあ右のをやる、左のは頼んだ!」

「待って!アレ、切れば切るほど増えるタイプな気がするんよ〜。薙刀だと対処は難しいと思うんだ〜」

「あ、そうか……どうすれば?」

「範囲攻撃で叩くか、一撃必殺で消し飛ばすか……っておわわ〜!」

「おい……うおおぉ!?」

 

次の攻撃は、どこからか流れてきた黒い霧だった。

巴御前が現れ出て、バリアを発動させてくれる。

 

(バリアは正常。ひとまず死ぬ事はなさそうだ)

 

しかし煙幕のせいで周りが見えない。

そこに撃ち込まれるのは先の2倍の雷撃。

痛みはなくとも、衝撃が体に伝わってくる。

もし、須美の言った通り手違いでバリアが発動しなかったならば、大きなダメージを負っていたに違いない。

とは言え、守るばかりでは何ともならないのも事実。

 

「これじゃあジリ貧だ!何か手は……」

「私に任せて〜!いくよ……」

 

それは、此度の強化の大目玉。

 

「「満・開!!!!」」

 

バリアの発動や敵の撃破といった、勇者としての力を振るう事で溜まるゲージを解放し、人の領域を超越した力を手にする大技だ。

今しがたバリアを使った時はゲージが溜まった感触はなかったが、まぁ溜まれば分かるとかそういうものなんだろう。

大橋に咲いたスイレンの花は黒い霧を吹き飛ばした。

中から現れたのは、神々しささえなければバーテックスかと勘違いするような、巨大な空飛ぶ舟。

 

「この舟は明日を、希望を開く舟。私たちの邪魔はさせないよ〜!」

 

カラスの意匠が施された舟の周りには、左右何対もの槍がふわふわと浮かんでいる。

威厳の中にある、つかみ所のなさ。

いかにも彼女らしい装備と言えるだろう。

 

「それじゃあ、こうして……」

 

園子の合図で、槍が増殖した2体の牡羊座を囲むように配置される。

 

「こうだ!」

 

彼女が合掌すると、2体は全身を余す所なく貫かれた。

敵は残る部分もなく、そのまま砂のように崩れ落ちていく。

その衝撃からか、辺り一帯は軽い地震に襲われた。

 

「おっとと、うっ……これが満開の力……!」

 

俺は牡羊座が放出した、無数の虹色に光る玉を見つめながらポツリと呟いた。

天に昇っていくその光玉は、2体のうち片方からしか出ていない。

玉を出した方が本体で、もう一方は操作部品のようなものだったのかもしれない。

 

「ほんと、凄いね〜。自分でも驚いちゃうよ〜」

 

舟の主はえへへ、と笑ってみせた。

 

須美の一撃を皮切りに前衛が攻勢に出る、というのがこれまでのセオリーだった。

しかしこの方法だと複数の敵がいる場合に対応しづらく、前回のように後手に回り劣勢となってしまうリスクがある。

だから今回は新機能をフル活用して積極的に前線を上げ、手早く前衛2体を倒してしまおうと考えたのだろう。

そのうち片方を処理できた今、まず初動は上手くいったと言って良い。

 

「あっ……」

 

花は散り、勇者装束が元に戻る。

 

「何ともないか?」

「大丈夫だよ〜。でも長くは保たないみたいだね〜」

「文字通り一撃必殺って事か」

「うん。でもこっちは倒したし、向こうは終わりそう、だし……あれ?」

 

園子は右目に手をやった。

何かに気づいたのか、目を瞬かせている。

 

「右目が……見えない……?」

「ひょっとしてさっきの霧が?」

「分からない……あっ!」

 

園子が見上げた先を、特大の火球が通過していった。

 

「分からなくても今は……お役目に集中しないと!」

 

そう言って銀の所へと向かう彼女。

追う俺の中には、微かな不安が渦巻いていた。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

自動防御を得たそのっちが高速突撃を見舞うさまは無敵同然。

その姿は、架空の題材にしばしば登場する “勇者” そのものだった。

安心感とともに闘志が湧き上がるのを感じる。

 

「凄い、敵の攻撃をものともしない……この防御機能があれば!」

「だな。だから、アタシが前に出ても問題ないよな?」

「そうね。でもそれには……私が動きを止めないとね」

 

魚座は烏賊(いか)のような見た目のくせに、海豚(いるか)のごとく水面から上に出てきたりまた潜ったりを繰り返している。

 

「銀は先に前に行ってて。着く頃にはあいつを止めるから」

「オッケー須美、頼んだぜ!」

 

紅白の羽織をはためかせて去っていく仲間を見送りながら、狙撃銃を構える。

前に使っていた弓よりも射程距離・威力ともに向上しているこの真白い銃なら、相手に打撃を与えるのも易いだろう。

うつ伏せになって右脇に銃床を差し込み、照門を通して標的の位置を確認。

 

(上に出てきたところを撃ち抜く……!)

 

たった今、敵は潜った。

暫く潜行の後、浮かび上がった所で仕留めたい。

 

(吸気……呼気……)

 

周りの音が聞こえなくなる。

全神経が一本釣りに注がれる。

砂煙が上がる。

そして、目標の白い頭が持ち上がった。

 

「そこっ!」

 

動かすは右手の人差し指。

青白いバーテックスの頭と思わしき部分を真正面から撃ち抜いた。

侵攻の勢いが失われる。

 

「よし、じゃあ今のうちに!」

 

ちょうど敵の元へと辿り着いた銀が、双刃を前後に構えて突っ込む。

相手の攻撃を止めて主導権を握るやり方。

これまで幾度も、この方法で私たちは勝ってきた。

彼女の武器は2本の両刃剣。

以前のものよりも攻撃力・機動力が上昇する代わりに、本来なら斬撃を加える際に自身にも危険が降りかかる。

しかし、精霊の実装で勇者が攻撃をその身に直接受ける事は無くなったため、欠点を排して利点だけを一方的に享受できるようになっている。

 

「くらえええぇぇぇ!!!」

 

跳躍し、回転しながら相手を切り刻む伝家の宝刀を繰り出す。

だが向こうとて、そう易々とやられてはくれない。

近づいた銀を払いのけるが如く、烏賊の出す墨のような気体を噴き出した。

一帯に黒い風が吹き、視界を妨害しにかかる。

 

(見えない……どこ?)

 

高所への陣取りが幸いし直接の影響は受けていないものの、前に出ている3人と魚座は煙幕の中に隠れてしまっている。

地図にも魚座の位置は示されず、”探知不能” との情報だけしかない。

かと言って無闇に撃つのも、敵にこちらの場所を教える結果に繋がってしまう。

そうなると狙撃手としては不利な状況だ。

 

(私のゲージはまだ溜まりきってない……どうすれば!)

 

『大丈夫、こういう時のためだよな……』

 

それは、勇者たちの新たな力。

 

「「満・開!!!!」」

 

紫、赤の2輪の花が大橋に咲き、再び目の前に樹海の景色が現れ出た。

前方左に見ゆるは、空を治める大船。

そして正面には、地を駆ける獣機(じゅうき)

 

「もう前みたいにはいかない。アタシが須美を守る!」

 

橙と白を基調とした四つ脚の獣は、斧のような爪を樹海に突き刺して地震を起こす。

煙幕を盾に潜行していた魚座は堪らずその身を陸上に晒した。

 

「銀様の一撃、受けてみなあああぁぁぁっ!!!」

 

獣の爪が、今度はバーテックスの身体にめり込んでいく。

爪は敵の体表を引き裂く。

爪は敵の身体を突き刺し、振動を起こす。

勇者の庭へと引きずり出された魚はもはや抵抗する事もできず、そのまま前衛の戦いは決するかに思われた。

 

「っ、まずい!」

 

それを最も的確に表す言葉があるとすれば、”太陽” だろう。

大火球を構えた獅子座が私の目に映った。

前の3人は手前の敵に集中していて、獅子座の動向を把握できていない。

 

(満開まで後1段。溜められれば何とかなるかもしれない!)

 

武士道精神に反する “手柄の横取り” という表現が脳裏をよぎったが、そうも言っていられない。

銀の攻撃を受けずに辛うじて残っている部分を目がけて、撃つ、撃つ、撃つ。

 

『危なっ!どうした須美?』

「ごめん銀、今だけ!獅子座が!」

 

端末から聞こえてくる銀の声に答えながら、溜まった力を解放する。

 

「満・開!!」

 

天女のようにも見える装束と大砲のごとき銃口が現れた。

火球は敵の袂を離れ、まっすぐにこちらへ向かってくる。

 

(お願い、溜まって!)

 

だが太陽と互角の光弾を溜めるには時間が無さすぎた。

そしてそれは勇者の頭上を越えて。

 

「ダメ、それだけは!」

 

火球は神樹様の方へと飛んでいった。

しかし何も起こらない。

球が距離減衰で霧消したのだ。

向こうは最初から狙っていたのだろう。

神樹様の所へ到達していれば、世界は終わっていたかもしれない。

 

「次は無い……次が来る前に終わらせる!」

 

そのっちと銀は、それぞれ前衛を倒し終えたらしい。

2人の満開は既に解け、風馬君と3人で合流していた。

3人には言うだけ言っておこう。

 

「銀、さっきはごめんね」

「いやぁちょっと怖かったけど……焦ってるみたいだったし、何とか上手くやったよ」

「そうなの、獅子座が来てる。残るはあいつだけ。私の一撃で終わらせてくる」

「待ってわっしー、私も行くよ」

 

そのっちが食い気味に反応した。

 

「俺も行く。バリアは機能してたから死にはしないだろうし」

「皆で行こう、須美。水臭い事言わないでさ」

「……まぁ、そう言うわよね。行くわよ、乗って!」

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

一行を乗せた須美の満開は、エネルギーを船体正面に集めながらレオ・バーテックスへと近づいていく。

向こうも気づいているようで、次なる球をこれまた正面で溜めている。

 

「先撃ち!」

 

早く撃ったのは須美の方だった。

レオもすかさず反応する。

力と力のぶつかり合い。

行き場を失くしたエネルギーによる大爆発が起こり、瀬戸大橋の大半を消しとばす。

その衝撃は精霊バリアが発動する程のレベルだった。

 

「くっ、充填速度が敵と変わらない……!」

「だったら……行くよ、ミノさん!」

 

苦い表情をした須美の満開が解除されると同時に園子と銀が跳び上がり、再び満開の力を使った。

俺は、様子を見るため少し後ろに着地した。

どうもおかしい。

 

「「満・開!!!!」」

 

獅子座は日輪のような背後の物体を使って異次元の扉をこじ開けた。

地獄のように赤いその世界から、炎を纏った小型の敵が多数飛んでくる。

 

「数が多すぎるよ〜!」

「くっそぉ、どけどけえええぇぇぇ!!!!」

 

銀の満開は四つ脚のため陸戦特化型とばかりと思っていたが、そうでもないらしい。

後部のジェット噴射機構を起動し、広げた爪で小型を粉砕しながら一直線に飛んでいく。

園子も負けじとオールを展開し、獅子座の懐へと向かう。

 

(……)

 

やっぱりおかしい。

 

「「おおおおおぉぉぉぉ!!!!」」

 

2人が雄叫びを上げて獅子に突っ込む。

勢いそのままに押される敵は樹海を取り囲んでいる壁に激突し、巨体を大きく傾ける。

そこで満開は解けた。

レオの放った小型の残党を処理しながら壁の方に目を凝らすが、2人がどうなったのかはよく見えない。

 

「向こうはどうなってる……!」

「2人とも、その場を離れて!」

『分かった!』

 

小型相手にゲージを溜め再び満開した須美は、端末に向かって叫ぶと大きなエネルギー弾を射出した。

蒼い光がレオを包み込む。

ますますおかしい。

やっぱりそうだ。

 

(3人とも、もう2回目の満開を使っている。なのに俺ときたら、まだゲージが溜まる様子すら無い)

 

そこから導き出される事は。

 

(満開できないのは、自分だけ。”無理やり” というのはそういう事だったのか……)

 

だが、()()は光爆に耐えたのだ。

身体は致命傷を負って消えつつあるものの、中から宝石のような欠片が飛び出てきた。

 

「っ、逃さない!」

 

全速力で欠片を追うが、欠片は壁の上で忽然と姿を消した。

そして壁の手前まで来た所で、彼女の満開は解けてしまった。

自分の位置からはそこまでしか見えなかった。

 

(とりあえず行こう……!)

 

辛うじて残っている神樹の根を伝って壁の下まで辿り着くと、屈んだ銀が制服姿でへたりと座り込んだ須美の肩を揺すっていた。

 

「須美!!!!須美!!お前……!」

「その “すみ” というのは何なのでしょう……?」

 

一瞬、その言葉の意味が分からなかった。

 

「何が、どうなってる……」

「……分かった。分かったよ……」

 

天を仰いで呟いた銀は須美を再び見つめると、哀しい笑顔でこう言った。

 

「アタシは三ノ輪銀。鷲尾須美、乃木園子、京極風馬とお役目を頑張る勇者だよ」

「……」

「大変だよ大変だよ!壁の外が……わっしー?」

「園子」

 

銀は壁の上から降りてきた園子の手を握り、目を閉じてゆっくりと首を振る。

 

「……うぅっ……」

「……」

「……聞いて」

「うん」

「壁の外はね、火の海だった。バーテックスの勢力圏。それに、倒したはずの敵がいくつも再生して形作られていた……は、は、は……」

「そっか……そうだったんだ……」

 

かける言葉も無い。

だが言葉を持たぬ者たちは、行動でその意思を示す。

 

「あ……あれ、は……」

「っ……大丈夫。アタシたちが何とかするから。2人とも、一旦退こう」

 

優しい声で話す銀は、数分前まで須美だった人を抱え大橋の残骸付近まで後退した。

俺と園子もそれに続く。

来た方向を振り返ると、赤とも黄ともつかぬ色に輝く大量のバーテックスが壁の上を超えて侵攻してくるのが見えた。

その数、19体。

 

「キミはここにいて。後で迎えに来るから」

「このリボンも大切に持っていてね〜。これがあればきっと大丈夫だから〜」

 

彼女が右手に固く握った水色のリボンを撫でながら、園子が言った。

 

「じゃあ……」

 

銀は左手を軽く上げる。

 

「またね」

 

そして彼女はすっくと立ち上がった。

 

「園子、風馬、行ける?」

「……うん」

「……」

「風馬……?」

 

今回、俺はクソの役にも立っていない。

精霊が付いたのに、その力を出しきれない。

こんなのは出来損ないでしかない。

満開を使ってようやく互角以上の戦いをできる状況に加勢する事は、むしろ邪魔になりはしないか。

 

(それに……)

 

「銀……体のどこかがおかしくなっているんじゃないか?」

「え、何で……」

「園子と須美の異常からして、銀にも何か起きたんじゃないかと思って」

「そっか……うん、そうだよ。匂いがしないのと、内臓がどうにかなってる。さっき突撃した後、一瞬スゴい腹痛を感じたんだ」

「私も似たような事が起きたよ。これは言わないでおこうと思ったんだけど、心臓が止まってる」

「なっ……」

「でも、私はこうして生きてる。いや、生かされている、と言った方がいいかも。今までだったら、心臓が止まる前に物理的にやられてただろうしね」

 

満開。

咲いた花はいつまでもそのままではいられない。

しかしシステム上、ゲージさえ溜めれば満開は何度でも使用できる。

ならば失われた機能は、このサイクルを回すエネルギーとなるべき “代償” なのか。

 

「アタシはやる。須美の繋いだこの世界を、須美が想った2人を守りきるために。自分がどうなっても、やらなきゃいけない事ってのがある」

「私もやるよ。もう2度と、ミノさん1人だけに背負わせるなんて事はしない」

「俺は……できるのか?」

 

誰に放った問いでもない。

2人はともかく、自分に向けたものであるかどうかすら怪しい。

だがそんな問いを拾う者がいた。

 

『おそらくできる』

「あ、アンタは……」

「風馬?」

「多分、()()()だよ」

『遅くなってすまない。新しいシステムに介入するのに時間がかかった』

「どうすりゃいいんだ」

『俺のやり方を試す。強化された今のシステムなら、かなりの火力は出せるだろう』

「俺のやり方……?強化された今の……?」

『とにかく、やってみなきゃ分からん。後で代わってくれ』

「……それでできるのか?」

『……できる』

「分かった。2人にこれ以上負担をかけないために、アンタに託す」

「……それで」

 

銀がタイミングを見計らっていたかのように口を挟んだ。

例の人格と俺との会話は、俺が直接発した言葉以外周りに聞こえていないのだ。

 

「大丈夫。やる。もう出来損ないとは言わせない」

「誰もそんな事思ってないって。まぁまぁ……じゃあ」

 

真剣な、鬼気迫る表情に変わる。

 

「行こうっ!!」

 

一斉に飛び出して迎撃態勢に入る。

飛んでくる数多の飛び道具を弾き、ゲージが溜まっていく。

 

「「満・開!!!!」」

 

2人は満開を発動させ、中央と右手にそれぞれ向かった。

 

「それじゃあ頼む」

『分かった』

 

身体の主導権を自分ではない何かに譲る。

 

「行くぞ……」

 

(……?見えてる?)

 

いつもならここで意識がフェードアウトするのだが、今回はそうはならなかった。

()は敵の右翼を目指しながら、精霊を呼び出して語りかける。

 

「またお会いできましたね……もう1度、私に力をお貸し頂けませんか?」

 

そう言いながら手を精霊にかざすと、向こうも応じて手に触れた。

そして、それが自分の体内に入ってくる。

 

「顕現せよ、巴御前!!」

 

簡易型の草色の甲冑に身が包まれ、薙刀には緑の線が入った。

身体の底から力が湧き上がってくる。

 

「うぉっ……やっぱり負担は大きいか。終わる前に片付ける!」

 

(終わる前……?いつにも増して意味不明な言葉が多いな……)

 

そんな俺の思いをよそに()は加速し、一気に間合いを詰める。

まずは挨拶代わりとばかり、左端のライブラ・バーテックスに十文字の斬撃を浴びせて撃墜。

そのまま片っ端から、縦に切り、横に薙ぎ、立て続けに3体を葬った。

 

「ぐうぅぅ、まだまだァァァッ!!」

 

全身の関節が軋んでいるのが分かる。

だが痛い、という感覚とは少し違う。

客観的に、自分の体の限界が近い事を悟っているような、そんな感覚。

今はアドレナリンが出ていて痛覚を感じにくいだけなのかもしれないが。

 

「まだ……もっと、もっとだァァァ!!」

 

いつか見たサジタリアスとキャンサーのコンビも、一刀の下に切り捨てた。

徐々に体を痛みが蝕んでくる。

次なる標的は、銀が相手取っているレオ。

視界の右端にほのかに映る敵陣左翼は、園子の攻撃で瓦解したらしい。

舟が見えない事を考えると、満開は解けているのだろう。

銀も獅子座に大ダメージを与えながら、もう1歩というところで満開が解けてしまった様子だった。

 

「どおぉぉいいぃぃてえぇぇろおおおおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

もはや声は枯れている。

痛みはアドレナリンを透過し、脳に危険信号を送りつける。

だが止まらない。ここまで来て止まれない。

 

「ええええぇぇぇぇああああぁぁぁぁ!!!!」

 

薙刀の刃を左側に構え、接近と同時に居合の要領で一閃する。

元より打撃を食って脆くなっていた敵は、2つに折れて崩壊を始めた。

 

「おおおおぉぉぉぉ!!!!」

 

だが()の追撃は止む所を知らない。

切って薙いで突き刺して、憎悪の対象かのごとく攻撃を続ける。

既に核らしき部分は破壊され、全身が崩れ始めているのにも関わらず。

 

『おいもう止めろ!終わっただろ!』

「……」

『聞け!終わった!終わったんだ!』

「……」

『聞いてんのかテメェ!その耳かっぽじって聞けやァ!!』

「は?はぁ……そうか終わったのか……?」

 

何度か呼びかけてようやく反応があった。

 

『終わった。ありがとう。アンタのおかげだ』

「そうか……お前ら、見てたか……?今回こそ、立派に、リベ、ンジを……」




わすゆ編、残すはエピローグ。
前回更新で2月完結は無理かも……とか言ってましたが一転、いけるかもです。
しばしお待ち下さいませm(_ _)m
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