花は散れども舞う風は 作:PP
投稿当時、変な題名になってしまっていたのは投稿者のミスです。
ご迷惑をおかけしました。
プロローグ「孤独な三日月」
(ここは……どこ?)
設定した覚えのないアラームが鳴り始めたかと思えば、次の瞬間時が止まり、辺りが光に包まれた。
それだけで怪奇現象と形容するには十分なのだが、挙げ句の果てに巨大な樹木で作られた異空間にたった1人で飛ばされたのではたまったものではない。
その上、周りに人影もないときた。自分でどうにかするしかないのだ。
確か私は教室にいて、至っていつも通りの数学の授業を受けていた。
何も変わらない、平凡な日常。
7年を経てやっと手に入れた、他人と同じ安寧。
何だって、作り上げるのには時間を要するのに崩れるのは一瞬だ。
(こういう時、どうしたらいいんだろう)
目の前に広がる世界は完全にフィクションのそれである。
小説を読むのもSF映画を観るのも嫌いではなかった。
だが記憶を辿っても、それらで得た知識の中でこの状況を打開するのに役立ちそうなものはない。
(調べれば何かヒットする?)
そう思ってスマホを取り出すが、アプリは全て消えていた。1つを除いて。
しかもそれは、この空間に来るまで押せども押せども起動しなかったものだ。
思えばこのスマホを手にした時、デフォルトの状態からそのアプリは入っていた。
不安しかない。しかし、検索は無理。
(これ、使ってみようか……)
何せ今までロックされていたアプリだ。起動すれば予想もつかない事が起きるかもしれない。
それでも、今この時は使えるのだ。何か意味があっての事だろう。
『状況を変えるには、まず自分を変える事だ』
昔、親戚のおじさんがよく口にしていた言葉。
自分が変わらければ、状況はいつまで経っても好転しない。
自分が、変わる。
使ってみよう。
意を決してアプリのアイコンをタッチすると、”勇者システムを感知。同期完了” の文言に続いて地図のようなものが表示された。
位置情報には、私以外の名前も示されている。
結城友奈、東郷美森に犬吠埼風。
忘れもしない。あの日以来、私が追い続けてきた人たちだ。
犬吠埼樹……という名前だけは聞き覚えがないが、名字が同じだから兄弟姉妹なのかもしれない。
(あの人たちなら、あるいは……?)
マップの縮尺は分からない。
だが表示されている “壁” の位置から察するに、歩いて行けない距離ではなさそうだ。
アプリの詳細も不明だが、さすがに地図は嘘をつかないだろう。
私は、1度だけ会った事のある彼女たちの元へ行ってみる事にした。
歩き始めて5分ちょっと経った頃、最初の異変が起きた。
前方で爆発音。地図との照合から、4人がいる場所の近くで起きたものと思われる。
もし爆発が起きた場所に彼女らがいるのだとすれば、私は地図の縮尺を誤認していた事になる。
歩けば何分、あるいは何時間かかるだろうか。
体力が尽きるのが先かもしれない。
でも、あんなものは滅多な事で起きはしない。
動画サイトで事故による乗用車の爆発のシーンを見た事があるが、とても無事に済みはしないような酷さだった。
急ごう。
歩くのは止めて、走る事にした。
次の異変は、それからまたしばらくしてだった。
爆発そのものは最初の時から断続的に続いていたが、爆発の位置が少し変わったのだ。
そしてその方向に目をやった私は、樹木の間にそびえるピンクの巨大な頭を目撃した。
あれが爆発を引き起こしているのだろうか?
何かを爆発させる機能を持っているのか、それともミサイルでも扱えるのか?
そもそもあれは一体何なのか?
分からない事が多すぎる。
ただ1つ確信を持って言えるのは、彼女らが危険にさらされているであろう事。
私に何ができるとも知らない。
でも、傍観者となるよりは行った方が良いに決まっている。
やらないより、やって後悔しろ。
そうして自分を奮い立て、走ってみたのだが。
「あーあ、何なのこれ」
走れども走れども目に映る景色は変わらない。
ひょっとすると神隠しのような現象が起きていて、同じ所をぐるぐる回り続けているのではないか。
疲れが溜まる一方まるで進歩を感じられないのは、精神的に来るものがある。
そして、体力の限界が近づき走るのに辟易し始めた頃、最後の異変が起こった。
ピンクの頭が木の根の間に沈んでいき、代わって野外イベントで使われるような紫色の淡い光が視界に入った。
そして何度か金属音が響いた後、その光も消えていった。
もはや爆発音は聞こえない。
ひとまず安全にはなったと言って良いだろう。
そうして緊急モードのスイッチが切れた私は、走るのを止めてしまった。
ただただ、疲れた。
気がつくと、私はどこかの屋上に強制送還されていた。
雲一つない青空で絶大な存在感を放つ太陽が、ここが元の世界であると告げている。
……とそこへ、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「あれ、ここ……学校の屋上?」
「神樹様が戻して下さったのよ」
間違いない。
何の因果か知らないが、私は辿り着いたのだ。
「皆、ケガは無い?」
「はい……何とか」
「怖かったよぉぉお姉ちゃん……!」
「うんうん、頑張ったわね樹」
「皆無事で良かったわ。これも神樹様のご加護かしら」
「そうだね、東郷、さん……ん?」
「友奈ちゃん?……あっ」
「お姉ちゃん……この人は……?」
「あなた、確か……」
「はい、1度お会いした事があるかと思います。再開できて光栄です」
「何だか崇められてる……?」
崇めてはないけど、光栄には思ってる。
お会いできて嬉しいですよ。
「えっと……ごめんなさい、私忘れちゃった……どちら様ですか?」
「緑野麗と言います。1月のマラソン大会でご一緒させて頂いたかと」
「あーあの時の麗ちゃん!完全に思い出したよー!同い年なんだったよね!」
きっかけ1つでスイッチが入ったかのように喋り出す。
これが部員随一の明るさを誇る、結城友奈の特性。
と言うか、名前聞いただけで思い出すなら最初から覚えててほしかったなぁ。
「そうですね」
「敬語!?」
「アハハ、ボランティアの思考が絡むとどうしても敬語が出てしまうんですよ〜」
ボランティアは面識の無い人と協力して行う事がほとんどな上に、大抵の人は自分より歳上。
そのせいで、ボランティアの考えが入り込むだけで敬語で話すクセが付いてしまった。
「1月って事は、私は……入部する前ですね」
「そうですね。アナタは初めまして、かな」
「ほら樹、自己紹介」
「犬吠埼……樹です。よろしく、お願いします」
「こちらこそお願いします。あ、犬吠埼って……お2人は姉妹でいらっしゃいますか?」
「そうそう。アタシの可愛い妹に指1本でも触れたら承知しないわよ」
「お姉ちゃん、それはちょっとやりすぎだよ……」
ゴゴゴゴという音にならない音が聞こえてきそうな迫力。
犬吠埼風…… “勇者” 部の長ともなると、このくらいの威圧など造作も無いのだろう。
それにしても、気丈な姉に控えめな妹さんというのは何ともバランスが良い。
何様なんだと言われるに決まっているので口が裂けても言えないけど。
「冗談冗談。まぁ、こういう事ができるのも……いや……」
「風先輩……?」
風さんは私の方をチラと見てどもってしまった。
私に聞かれるとマズい事があるのかもしれない。
「私、いない方が話しやすいですか?」
「いいや、大丈夫。ただちょっと聞きたい事があるから、連絡先だけ交換してもいい?」
「はい、いいですけど」
「でもこれ……麗ちゃん、NARUKOのグループに既に入っていませんか?」
車椅子に座った少女がスマホの画面を見せながら言う。
常に冷静で大局観があり、分析に長けたこの人は東郷美森。
大丈夫、少なくとも前に会った3人は顔と名前が一致してる。
「えっ、本当……どういう事なの?」
「いや私に聞かれても……と言うか、そもそもNARUKOって何ですか?」
「コミュニケーションを取れるアプリよ。ほら、こんな感じの」
そう言ってトーク画面を見せられるが、悲しい程に見覚えが無い。
「えーっと……」
「麗ちゃん、ちょっと画面を見せてもらってもいい?」
「はい。んしょ」
「えっとね……これかな」
結城さんが開いてくれたアプリは、ずっとロックされていた、さっきの世界で頼りにしていた、そして怪しさ満点だった、あのアプリだった。
「はえ、このアプリにこんな機能が……」
「入れてたのに、知らなかったの?」
「はい。そもそもこのアプリが開けるようになったの自体、さっきまでいた謎の場所に飛ばされた時からなので」
「待って。あなた、樹海にいたの?」
風さんの目つきが変わった。
止めて、怖い怖い。
私、今から煮て焼いて食われてしまうんだろうか。
「じゅ、”樹海” というのがあの巨大な根っこでできた世界だと、そう仰るのなら、そういう事になるんじゃないでしょうか。いたと……思いますよ」
「樹海の事、知ってた?」
「いえ、今しがた初めて知りました。むしろ……むしろ、ご教授頂きたいくらいです」
「樹海で何か見た?」
「ピンクの頭……のようなものは見ましたけど。後は……強いて言えば、爆発音が聞こえてきました」
「はぁ……謎は深まるばかりね。ごめんなさい、ありがとう」
暗殺者の目つきが平和な風さんのものに戻る。
良かった、一命は取り留めた。
「また改めて話しましょっか。学校もある事だし」
「あっ、そう言えば授業ってどうなってるんですか?」
「樹海にいる間、こっちの時間は止まってる。だから、アタシたちはもろ授業中に突然消えた事になってるわ」
「えええぇぇぇ!!大変だよ、アラームの事で先生に怒られたばっかりなのに……」
樹海に連れていかれる前に鳴ったアラーム音は、どうも勇者部の面々も経験していたらしい。
授業中に鳴ったら困っちゃうよね。
「大丈夫。その辺は大赦にフォローしてくれるよう伝えとくから」
「授業と言えば麗ちゃん、その制服……讃州中とは違う所に通ってるの?」
「はい。東郷さんの仰る通り、私はここの生徒ではありません。荘内市の詫間中に通っています」
「荘内市って、讃州市のお隣だよね?何度か依頼で行った事あるかも」
「そうね、友奈ちゃん。でも詫間だと海沿いかしら……そっちには行ってないと思うわ」
「そうでした……ガックシ」
擬態語まで口にする結城さん。
変n……楽しい人。
変な人だなんて言っちゃあいけない。
「分かった、そっちの事も大赦に言っとく。麗は、とりあえず大赦に車を用意してもらうから、今日のところはそれで帰りなさい」
「そんな、恐縮です。歩いて帰れますから」
「アンタ、歩いてって言ったって何時間かかると思ってんの。こういうのはおとなしく甘えとくもんよ」
「すみません……じゃあお言葉に甘えて」
でも、大赦って確か四国で1番力を持ってる機関だったはず。
どうしてボランティア活動の取りまとめ役が、そんな組織と繋がっているんだろう?
ひょっとすると、風さんにも私のような事情があるのかもしれない。
* * * * * *
「ただいま」
アパートの扉を開け、玄関に荷物を降ろす。
中で私を待つのは、1鉢の観葉植物だけ。別に人がいる訳ではない。
それなのに「ただいま」と言うのは、中に人がいると誤認させて不審者に襲われにくくするため。
世間知らずの私には初耳だったが、女子中学生が1人暮らしをするというのは一般的な感性では異例の事で、犯罪の被害にも遭いやすいのだとボランティア先で聞いた事がある。
そのリスクヘッジとして、こうして1人暮らしをカモフラージュしているのだ。
「はぁ……色々ありすぎてお腹空いちゃったな」
時刻は夜6時。
色々無くても空腹になる時間帯だが、疲労のせいかいつもの数倍食への欲求が強い。
その影響もあり帰りにフラリと立ち寄ったスーパーで、タイムセールの唐揚げという何とも罪深いモノを購入してしまった。
今日の晩ご飯は作り置きの温野菜に昨日炊いた白米、そして先の唐揚げたち。
ご飯をよそった茶碗と温野菜の入ったタッパを電子レンジに入れ、加熱スタートのスイッチを押す。
温まるまでは時間がかかるので、お風呂を沸かしつつ何か連絡が来ていないかと端末をチェックすると、早速風さんからメッセージが届いていた。
『今日は大変だったわね。ご苦労さん。取り急ぎ、大赦には今日の事を伝えておいたから、明日以降は何かあってもすんなり助けてもらえるはずよ』
流石は部長さん、仕事が早い。
ありがとうございます、っと。送信。
『分からない事があったら何でも聞いて。答えられる限りの事は答えるから』
分からない事があったら——いやありがたいけど、分からない事だらけなんですよね……。
例えば、止まっていた時間の話。
私たちだけが動けて、その間他の人の時間は止まっているなんて、そんなファンタジックな事が現実に起こるものだろうか。
重力が時間を歪める、というのは聞いた事がある。
でも私は別に宇宙を旅した訳でも、ブラックホールに吸われた訳でもない。
(ん……ブラックホール?)
そういえば昔、天体に関する古書を読んでいた時に、ブラックホールについて面白い言説を見つけた。
ブラックホールは重力が強くなりすぎた天体であるため、周囲の全てを無限に引きつける。
重力によって歪んだ空間は、そこに “穴” を形作る。
しかし空間の歪みによってこのような “吸い込み穴” が発生するという事象を鑑みるに、吸い込まれたものが出てくる “吐き出し穴” という反対の存在があってもおかしくない。
そしてこれら2つの穴は、空間と空間との狭間である ”ワームホール” によって結ばれているであろう——こんな話だった。
学校に限らず、近隣にある祠は大抵 “神樹様” を祀っている。
神樹様は私たち四国の人間を外のウイルスから守って下さっている、と授業で習った。
もしこの祠が、”吐き出し穴” なのだとすれば?
さっきの謎空間が “ワームホール” で、飛ばされる前に時間が止まった現象が何らかの “吸い込み穴” 的現象なのか?
そう考えると、不自然な時間の止まり方にも納得が——できない。
こんなものは根拠薄弱なこじつけ論でしかないのだ。
もう正直に、単刀直入に聞こう。
私ごときの浅薄な知識で超常現象を理解しようとするなど、100年早かったのだ。
ただ、今日は私のせいで混乱を生んでしまったので向こうもお疲れの事と思われる。
(また、明日にでも聞いてみよう)
ピーッ、ピーッ。
機械的な高い音が、私を思考世界から現実世界へと引き戻す。
電子レンジとお風呂による加熱ダービーは、前者の圧勝で幕を閉じた。
* * * * * *
「ごめんください」
「あー麗ちゃんだー!入って入ってー!」
「あ、ありがとうございます」
「うーん、やっぱり敬語じゃなくて普通に話して欲しいかな……ダメ?」
「え、いやまぁこれはクセだから何というかその……頑張りま……頑張る」
「やったー!よろしくね♪」
結城さんはやっぱり相手にしづらい。
距離の詰め方が常人のそれとは比べものにならないし、かと言って対応に困って突き放したら突き放したで東郷さんの視線に体を貫かれるのだ。
いや、だからあなたの事を言ってるんですよ。
そうやって視線のれいとうビームを放つのはどうか止めて頂けないでしょうか。
(昨日の風さんと言い結城さん絡みの東郷さんと言い、勇者部には過保護の溺愛マシーンが多すぎるよ……)
「これで全員揃いましたね」
「そうね、東郷。じゃあ時間もない事だし、説明を始めていくわ」
樹海旅行から一夜。
今日は、樹海についての説明のために讃州中勇者部の部室にお邪魔している。
学校の6時間授業が終わってからタクシーで来たため、既に少し疲れてしまった。
「コイツは昨日現れた敵」
「その絵、バーテックスだったんだ……」
「待ってください。敵って一体?」
「麗が昨日見た、ピンクの頭の主よ。爆発が起きたのもコイツのせいだった」
黒板に描かれたアメーバのような絵は、どうも昨日現れた何者かを描いた結果らしい。
風さんは一緒にボランティアに参加した時の事を思い出したようで、私を名前呼びしてくれている。
「バーテックスは神樹様を壊そうとして壁の外から侵略してくる敵で、彼らが神樹様の元へと辿り着いたが最後、世界は滅んでしまう。それを阻止するのが、アタシたち勇者って事なのよ」
「えーと、”勇者” って……何ですか?お伽話じゃないですよねコレ?」
「うん、麗にはそこも説明しとかないとね。平たく言うと、勇者っていうのは世界の破壊を目論むバーテックスに対抗する力を持つ、神樹様に選ばれた少女の事。まぁ実際に見てもらうのが早いとは思うんだけど……」
敵?バーテックス?勇者?神樹様に選ばれる?
情報過多で脳回線がショートしてしまいそうだ。
「もしかして、私もその一団に加わって戦えと……そういう事なんでしょうか?」
「今はまだ何とも言えない。ただ、そうなる可能性があるとは思っておいてほしい」
「なるほど……」
どうしてこの世はこんなにも残酷なのだろうか。
中学生にして初めて人並みの生活が送れるようになったというのに、僅か1年しか保たなかった。
ここ3ヶ月間ずっと追い続けてきた勇者部と関わりが持てるのは喜ばしい事だが、その代償がコレとは。
「風先輩は、こんな大事な事をずっと黙っていたんですか」
(え、皆も知らなかったの?それは流石にマズいと思いますが……)
ここまで見聞きした事から考えるに、風さん以外の3人はこの情報なしにぶっつけ本番で戦闘に巻き込まれるハメになったのだろう。
心の準備をしていた私でさえ混乱状態なのに、いきなり敵が攻めてきてその上戦えだなんて言われたら怨嗟の声が上がっても不思議ではない。
「あっ、東郷先輩……」
「風先輩、私行ってきます」
「ごめん友奈、お願い」
気を悪くしてしまい部室を後にした東郷さんを、結城さんが追いかける。
唐突なシビア展開に、部外者の私はどんな顔をしていれば良いのか分からない。
「ごめんね麗。見苦しい所を見せちゃって」
「いえ……やっぱり、ああなる人もいますよね。私だって頭がもうパンク寸前ですし」
「はぁ……どうやって謝ろうかしら」
部長さんは腕組みをして考え込んでしまった。
「お姉ちゃん、私占ってみるよ。どうすれば仲直りできるか」
「占いできるんでs……だね。どんな風にやるん……の?」
「こ、この、タロットっていうカードを使うんです」
「へぇ……ちょっと見ててもいい?」
「は、はい。ただ……しんどければ、無理に敬語を外して頂かなくてもいいですよ。友奈さんはああ言いますけど、人には得意・不得意がありますから」
「あ……ありがとう。確かにそれはそうなんだけど、私はアナタたちと仲良くなりたいから……だから、もう少しだけ頑張ってみるよ」
「スミマセン、余計な事を言ってしまったみたいで」
「大丈夫、アナタは何も気にしなくていいの。これはあくまで私の問題だから」
「わ、分かりました。それでは、いざ……」
樹ちゃんのタロット捌きは神秘的だった。
ただ生きているだけでは干渉しようのない “未来”。
そこに対するヒントを得るという禁忌に触れるかのような背徳感が、彼女の占いを一層神秘的に見せたのかもしれない。
「ずっと黙っててごめんね〜!☆……ってのは明るすぎるし」
神秘の中にいる妹さんとは対照的に、現実で答えを模索するお姉さん。
「ごめん!ほんっっっとにごめんなさい……コレは堅すぎね……」
初対面、そして昨日のイメージだと、姉御肌の怖いもの無し無敵部長という印象だったんだけど。
(どんな人にも悩みは付いて回るものなんだなぁ……)
「あ〜……樹、占えた?」
「うん。今、結果出るよ」
しかし最後にめくられたカードは彼女の手を離れたにも関わらず、微妙に浮いた状態で静止した。
「っ……これって!」
次いで、鳴り始める不吉なアラーム。
端末には事態の切迫を示すかのような “樹海化警報” という赤文字が表示されている。
「これ、昨日と同じ……」
「まさかの連日!?」
部屋一帯が光に包まれていく。
何も解決しないばかりか疑問が増えた状態で、私は2度目の樹海への旅にご招待される事となってしまった。