花は散れども舞う風は   作:PP

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ご無沙汰しております。
多忙のあまり、しばらくお休みしてました。
また飽き足らずちまちまと上げていきますのでよろしくです。


第1話「入部希望者」

私、緑野麗はボランティア活動が好きだ。

いや、生きがいと言っても良いかもしれない。

 

『ありがとう』

『悪いね』

『助かったよ』

 

感謝。ボランティアをしているともらえる言葉。

多くの人は、感謝の言葉をもらうためにはボランティアをしないだろう。

ボランティアは本来、見返りを求めて行うものではないのだから。

だけど私は違う。感謝の言葉をもらうためにボランティアをしている。

感謝される事で、ここにいて良いのだという安心感を得ているのだ。

言うなれば、人のためでなく、自分のためにやっているのである。

 

かつてクラスメイトに、そんなのただの承認欲求オバケだ、ボランティアなんかじゃない、と非難された事がある。

彼らの言う事は分からなくもない。

でも、他人の承認を求める事だって人間の欲求の1つなはずだ。

親が遺した心理学か何かの本に、確かそんな事が書いてあった。

 

大赦の職員だったという両親は、私の5歳の誕生日を境に忽然と姿を消した。

警察では ”失踪” という扱いになっているらしい。

詳しい事はよく知らないし、何があったのか覚えてもいない。

それから12歳までの期間を児童養護施設で過ごし、中学校進学を機にアパートでの1人暮らしを始めた。

1人暮らしと言っても、大赦の援助と親戚のおじさんからの仕送りをもらえているおかげで、とりあえず人並みの生活はできている。

だから、生活自体に支障はない……と思う。

 

ただ、料理だけはどうも好きになれない。

包丁も使えるし、やたらと焦がすような事もしないし、味付けだって基本的なものなら間違わずにできる。

問題なのは、メニューを考える事。これが本当に大きな障壁なのだ。

 

他の事をしながら考えると気が散って進まない。

かと言って、わざわざ時間を潰してメニューを考えるのは時間の浪費に思えてしまう。

だから自力で作るのは、野菜炒め、スクランブルエッグ、お鍋(1度に大量に作り、腐らない程度の期間で分けて食べる)くらいのものに留めている。

後はスーパーやコンビニの惣菜で回しているのだ。

学校に持って行くお昼も、パンやおにぎりを買って持参する事が大半。

世間の人間様はいつ、どうやってメニューを考えているのだろうか……?

 

とまぁこんな生活をしてきたから、”私の周りの人” と言われてパッと思い当たるのは施設の人か、先の親戚くらいしかいない。

もうすぐ中学2年に上がろうかという13歳の少女が思い出せる幼少期の記憶なんて限界がある訳で、両親との思い出など無きに等しい。

共有できる話題が少ないから、級友ともあまり話をしない。

どこにいても孤独。

 

だから私は愛情を、承認を、そして感謝を求めてボランティア活動に出向くのだ。

そんな私に、ある人は蔑みの目を、また別の人は哀れみの目を向ける。

周りの状況に敏感な私は、そうした視線から逃げるようにして生きてきた。

でも逃げ続けるのはしんどい。

何か隠れ蓑が欲しかった。

 

そんな矢先、運命の歯車は突如として回り始めた。

中学1年の、年が明けてすぐ。

あのマラソン大会で、私は人生を変える出会いを果たしたのだ。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

肌を刺すような寒さと人混みの熱気が入り混じる、午前7時。

まだ正月ムードも冷めやらぬ休日の朝だというのに、駅前は人の波でごった返している。

 

「すみませーん!出場者ってどこにいてればいいんでしょうか?」

「うちの子はもうスタンバイしとるのかえ……?」

「そのダンボール、車に積んどいて下さい!給水地点に持って行くやつです!」

「テレビ中継車、もう少し東に寄れませんか?スタートラインの映りが良くないので」

 

選手に観客、運営スタッフに報道陣。

見渡す限り、人、ひと、ヒトである。

精力的なボランティア活動で名高い彼女たちの姿も、その中にあった。

 

「おはようございまーす!」

「おはよ。友奈、東郷」

「風先輩、もういらしてたんですね。私たちも早く出たつもりだったのですが」

「大丈夫よ。まだ集合時刻まで30分もあるし」

「にしても先輩、早すぎですよ〜」

「マラソン大会の手伝いなんて初めてだしね。楽しみで早く来ちゃったの」

「友奈ちゃん、会場に勇者部の中で一番乗りするって言って、気合い入れてたんですよ」

「あら、それは悪い事しちゃったわね。でも早出しようとするのは良い心がけだわ。早起きは三文の徳って言うし……」

 

そう言いつつ、風は周囲をキョロキョロと見渡して何かを探している。

 

「風先輩、何かお探しですか?」

「依頼主の、市役所の担当の人をね。これだけの人が既にいるんだし、ひょっとしたらいるかもって」

「でも、担当の人から聞いた時間って7時半だったんですよね?」

「そう。やっぱり、早く来すぎちゃったかしらね」

 

だがそうは言っても、3人とも辺りを見れば見るほどあたかも遅刻してしまったかのような感覚に襲われていた。

なんせこの人混みである。

準備などとうに済んでいる、と言われても納得してしまいそうだ。

しかしそれだけ人がいるとやはりトラブルというものは起こってしまうもので。

 

「おい、何だテメーはよォ!」

 

3人は一斉に声のした方を振り返った。

人々の視線の先ではガタイの良い30〜40代と思しき男性が、勇者部一同と同年代の少女に何やら因縁をつけている様子。

 

「ちょっと行ってくるわ。東郷と友奈はここにいて」

「はい!」

「もし担当の人が来たら、ちょっと入り用だって言っといて。頼んだわよ!」

「分かりました!じゃあちょっと端っこの方に行って待ってようか、東郷さ、ん……?」

「東郷友奈……東郷友奈……友奈ちゃんと同じ苗字それってつまりけこ、けっこ……はああぁぁぁぁ……」

「と、東郷さーん……?」

 

後で風が聞いたところによると、その後しばらく東郷の頭から白い蒸気が立ち上っていたらしい。

 

 

 

 

所変わって、こちらは騒ぎの中心に辿り着いた風。

彼女の目の前には、意外な光景が広がっていた。

 

「当たってきたのはテメーだっつってんだろうが!」

「だから、感情的にならずに状況の話をしましょうよ。そちらがその気なら、こちらにも考えがあります」

「うるせぇ、オラァァ!」

 

激昂した男の拳を避けると、少女は言った。

自分の右耳辺りを指差しながら。

 

「これ。何だと思います?」

「何でもいい」

「良くないですよ。あなたにとっては」

「ハァ?」

「これは小型カメラです。私の視界に映るのとほぼ同じ映像が記録されています……どういう事か、お分かりですね?」

「チッ……ふざけんなよ」

 

男は捨て台詞を残し、スタスタと歩き去っていった。

どこからともなく沸き起こる拍手。

だが彼女は舞い上がるでも気を楽にするでもなく、淡々と言うのみだった。

 

「お騒がせしてしまい申し訳ありません」

 

中学生が、大の大人を冷静に言いくるめてしまった。

見るからに面倒な性格の人を。

風はあっけにとられていた。

 

「すごいわ、あの子。さすがのアタシも女子力負けるわ……」

「あの」

「は、はひぃッ!」

 

焦った風は変に叫んでしまった。

少女の対応に舌を巻いていた上、よもや当の本人に声をかけられるとは思ってもいなかったのだ。

 

「もしかして、犬吠埼風さんですか?讃州中勇者部の」

「えぇ……」

「やっぱりそうでしたか!一目で分かりましたよ!今日はマラソン大会のボランティアで?」

「まぁそんな所だす、けど……」

 

風に向けられたその目には輝きが宿っていた。

やや茶色がかった髪をポニーテールにしている彼女の。

しかしその輝きが、声のトーンに続いて滑舌までもを狂わせる。

風は一旦深呼吸を挟むと、今度は尋ねる側に回る。

 

「あなた、お名前は?」

「あっすみません、つい感激が先走ってしまって。緑野麗、って言います。後、私の方が年下なので敬語でなくても大丈夫ですよ」

「え、そうだったの!?じゃあ一応お言葉に甘えておくけど……」

 

身長こそ高くないが精神は大人よりも大人に近い少女が、中2の自分よりも年下だなんて事があるのだろうか?

焦燥が治まってきたところに、今度は混乱が顔を出す。

 

「さっきの、凄かったわね。アタシには真似できないかも」

「いえ、大した事ないですよ。親戚のおじさんに教えてもらった事をそのまま実行に移しただけですし」

「でも、あのいかにもヤバそうな人と正面切って議論できるのは……うん」

 

その時、辛うじて威厳を保っていた風の所へ友奈が人混みの中を駆けてきた。

 

「風先輩、市役所の人が!」

「あぁ友奈、ありがと。で、ちょっと助けて……」

「風先輩!?」

 

いきなりもたれかかった風を受け止めた友奈に、麗は驚きの声をあげた。

 

「あぁっ!!あなたは!!」

「えっ、私の事知ってるの?」

「もちろん!結城友奈さん、ですよね?」

「ええええぇぇぇぇっっ!!??私そんなに有名人じゃないよぉ!!」

「私からすれば、勇者部の皆さんは有名人であり憧れの人なんですよ」

「憧れ?」

「はい。ずっと、皆さんと一緒にボランティアがしたいと思っていたんです」

「一緒にって……アンタもマラソン大会のために?」

「そうなんですよ!」

 

どうにか復活した風の問いかけに再び目を輝かせた麗。

彼女の興奮は、その後も収まる所を知らなかった。

風の計らいで勇者部の仮メンバーとしてボランティアに参加した彼女は、給水所の準備にゴール時の処理、沿道での観客誘導など、多彩な場面で怒涛の働きを見せた。

その働きっぷりは、市役所の担当者をして “全ボランティアのMVP” と言わしめるほどであった。

 

 

 

 

「ん〜、おいし〜!」

「友奈ちゃん、お口に汁が飛んでいるわ。拭いてあげる」

「あ、ありがとう東郷さん!気づかなかったよ〜」

 

仮部員1名を加え一時的に4名となった勇者部の面々は、活動の打ち上げとして行きつけのうどん店である “かめや” にやってきた。

 

「やっぱり疲れた時はここが1番よね。女子力補充にはもってこいだわ!」

「でもそんなに食べたら補充って言うか、貯蔵になりませんか?それ3杯目ですよね?」

「勇者部部長ともなると、いくら食べても全部消費されるのよ」

「ほえ、部長さんって大変なんですね……」

「そうよ。だからこうして女子力をつけとかなきゃ、ね」

「女子力ってうどんで上がるもんなんですk」

「上がるの」

はい

 

疑念の吐露を遮って即答した風のオーラが、麗を萎縮させた。

朝とは真逆の構図である。

そんな麗を気遣い声をかけようとした友奈は、ある事に気づいた。

 

「あれ?麗ちゃん、お腹空いてないの?」

「本当、うどんがほとんど減ってないわ。どこか調子悪くないかしら?」

 

心配の眼差しを向ける2人。

 

「ま、まぁお腹が空いてないってのもあるんですけど、お腹はそれなりに空いてるというか……」

 

しどろもどろに回答する麗は、誰の目にも怪しかった。

何かを隠しているのがもはや自明である。

 

「勇者部五箇条、1つ!悩んだら相談、だよ」

「ゆうしゃぶ……ごかじょう……?」

「勇者部の決め事。部員が守るべき信条みたいなものよ」

「そう!だから、何でも言ってみて。どんな事でも受け止めるから」

 

慈愛に満ちた目に、麗の視線が固定化された。

それは全てを赦し、相手を安心させる。

 

「あ……実は、ちょっと……」

「ちょっと……?」

「ちょっと、おうどんに飽きちゃったところがあっt」

「それは大変だわ!香川県民の魂とも言えるうどんに飽きてしまったなんて!」

 

完全に言い切る前に、今度は東郷が食いついた。

3杯目をちょうど食べ終えた部長も続く。

 

「これは一大事ね。勇者部の総力を挙げて解決するわよ!」

「あ、あの、お2人とも……?」

 

突然の事態に困惑した麗は、オロオロしながら向かいに座る友奈に助けを求める。

 

「ゆ、結城さん、これ……」

 

しかし、一度(たきぎ)についた炎は収まるところを知らない。

 

「あ、あああ……勇者部五箇条、1つ!なるべく諦めない!」

「それ諦めてますって!さっきの安心感、返して下さいよ!!」

「勇者部一同、麗のうどん飽き症候群を克服するわよ!!」

「はい!香川県民の、ひいては日本国民としての大和魂を取り戻すために!!」

「あーもうめちゃくちゃだよ……」

 

その後麗が連れて行かれた “勇者部謹製うどん屋巡りツアー” は、勇者部に関する唯一の負の記憶として彼女の心に深く深く刻まれた。

そして彼女は誓った。

次 “かめや” に来る事があったら、下手に心配されないようにおでんでも頂いておこう、と。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

ボランティアが部活として機能している。なんという素晴らしさ!

部員もみんな優しくて、初対面なのにすぐ打ち解ける事ができた。

東郷さんは「これだけボランティアに精が出るのなら、護国思想もすぐに習得できるに違いないわ」なんて訳の分からない事を言っていたけど。

 

これがボランティアの究極形なんだろう。

興奮冷めやらぬあの時の気分を何と形容すれば良かったのか、未だにとんと思いつかない。

 

でもそうして出会い、追いかけてきた人たちと共に、今度は異世界で異形と対峙している。

“事実は小説よりも奇なり” なんて言うが、ここまで奇なる現実を一体誰が想像できただろうか。

 

私の憧れであり、存在を許された居場所。

それが私にとっての勇者部なのだ。

だから今はできる事をやるだけ。

もう2度と、自分の居場所を失わなくて済むように。

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