花は散れども舞う風は   作:PP

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週1投稿くらいのペースを維持したいお年頃なのですが、最近風邪気味でペースが落ちてます。
申し訳ありませんが、悪しからず。


第4話「凜として麗しく」

「揃いも揃ってボケッとした顔してんのね」

「はい……?」

「あなた、誰ですか?」

「何よ、チンチクリン」

「ちん……?」

「私は三好夏凜。大赦から派遣された、正真正銘の完成型勇者よ。アンタらみたいなトーシローとは違う。つまり、アンタたちはもう用済みって事。はい、お疲れ様でした〜」

 

単なる増援イベントかと思ったが、その増援が問題だった。

実力はそれなりにあるらしいが、自身に満ちた目つきにこの言い方。

ちょっと、ちょっとだけ、イラッとくるものがある。

 

「ふふ……すっごい早口。あなたそのセリフ、家で考えてきたのかしら」

「何よ。私とやるっての?」

「負ける気はしないわね。少なくとも」

「随分と余裕なのね。言っとくけど私、強いわよ」

「あああ風先輩、麗ちゃんと三好さんが何だか険悪な雰囲気に……」

「大丈夫だよ、ゆっちゃん。私本当に、勝つ気しかしないから」

「まぁまぁ、一旦落ち着こうよ!!ね!?」

「友奈ちゃんの言う通りよ。仮に麗ちゃんが勝ったとしても、何も得なんかしないわ」

「全く、どうしてこうなったかなぁ……」

 

頭を抱える風さん。

そう、どうしてこうなったのかと言うと——

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「晴れて讃州中に転校してきました!改めてよろしくお願いします!」

「よろしくお願いします!でもまた先輩が1人増えちゃった……」

「樹ちゃん、別にタメで話してくれても良いよ?私は気にしないし」

「あっ、まぁそこは何と言うかその……」

「それにしても、このよろしくお願いする流れ何回目かしら?もう随分と慣れてしまったわ」

 

遂に叶った、夢にまで見た念願。

讃州中に転校し、勇者部に入る!

感謝感激の気持ちが湯水のごとく溢れてくる。

 

「私、結城友奈でーす!よろしくねー!」

「もう分かってるから大丈夫だよ、ゆっちゃん」

「ゆっ、ゆゆ……ゆっちゃん?私の事?」

「うん、考えてみたの。どう?」

「すっごく良いよー!ありがとう!」

 

良かった、喜んでもらえたみたいだ。

でも何だか、その笑顔に違和感があるような無いような。

明るい彼女の事だから何とかなるようには思うけど……。

 

「麗にはもう、改めての自己紹介はいらないわね。とにかく、よろしく!」

「お姉ちゃん、何もこんな時にタジャレ言わなくても……」

「樹ちゃん、これは駄洒落とはちょっと違うんじゃないかしら。これは “韻を踏む” というものに近い気がするのだけれど」

「え、違うんですか?」

「えぇ。”韻を踏む” というのは、文学作品でしばしば用いられてきた表現技法で、作者のセンスを表すものだったのよ。上手く韻を踏めている作品は良い評価になる事が多く、それは神世紀でも受け継がれていてね……」

「あ……風さん、今日の依頼はどうなってますか?」

「それが、今日は何にも来てないのよ。いつでもOKの依頼も、昨日全部消化しちゃったし。だから、安心して東郷の話を聞いてて良いわよ」

「えぇ。安心して、私の話を聞いてね」

 

あ、これダメなやつだ。

風先輩、諦めちゃった。

 

「例えば、神世紀になっても続いている風習の1つに “連歌” というものがあるの。休憩時のおやつにぼたもちが振舞われる事もあるわ」

「ん……ぼたもち?」

「あ、ぼたもちが食べたかったかしら?」

 

キタキタキター!釣れた、釣れたぞ!

いくらオタク語りモードの東郷さんでも、ぼたもちというワードが出たら流石に止まるはず……!

 

「ぼたもち?やったー!食べたい食べたい!」

 

ゆっちゃんも乗ってきた!

これは期待できる。

 

「ちょっと待ってね……友奈ちゃん、そこの鞄から重箱を取ってくれないかしら」

「えーと……これかな?」

「合ってるわ。流石友奈ちゃん、よく分かってるわね♪」

 

重箱には12個のぼたもち。

しかし部員は5名、割り切れない。

 

「あ、私2つで大丈夫なんで。皆さんどうぞ」

「だーめ」

 

間髪を容れず、東郷さんが否定する。

 

「麗ちゃんはまだぼたもちの美味しさを十分に分かってないと思うから、3つ食べて。いや、食べなさい」

 

えぇ……布教ガチ勢じゃん。

 

「作った私は美味しさを1番に分かってるから、1つだけで大丈夫よ」

「それなら東郷さん、私と半分こしよー!いいでしょ?」

「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう、友奈ちゃん」

「どういたしまして、東郷さん」

 

ただ、雰囲気は非常に良い。

まさしく計画通りだ。

 

「いつもながら美味しいわね〜東郷のぼたもちは」

「今度、私も作ってみたいです。いつも作ってもらってばかりだし、お姉ちゃんにも食べてもらいたいし」

 

刹那、部長氏の表情が暗転する。

 

「い、樹はまだ……いや、東郷が教えれば大丈夫、か……?」

「私は良いわよ。今は依頼も少ないし、今週末あたり1度練習してみる?」

「はい、お願いします!」

「どうしてそんなに不安そうな顔されてるんですか?」

「樹の料理は色んな意味で怖いのよ。また説明してあげるから」

 

風さんの顔はもはや半分青ざめている。

怖い料理って何だろう。

まさか、トカゲの入った魔女のスープでも作るんじゃ……?

 

「じゃあ、ぼたもちが行き渡ったところで話の続きに入るわね。その “連歌” から派生した形式の1つとしt」

 

空気が静まり返り、代わりにうざったらしい音が全員のスマホから流れ出す。

東郷さんの講話はまたしても妨害されてしまった。

めんどくさい話が終わって嬉しいような、また樹海に飛ばされるのが悲しいような……。

 

「しょうがないわね。また帰ってきてから続きをやりましょう」

「って、まだやる気だったの!?」

 

唯一の中3のツッコミとともに、勇者部部室は光に包まれた。

そして、目前に現るはまたもこの光景である。

 

「あ〜また樹海だよ〜。いつも突然すぎるんだよね〜」

 

ゆっちゃんは珍しくグチを吐いている。

 

「敵の名は、牡羊座と山羊座……」

「前と同じ、2体。油断は禁物ね」

 

遠方より飛来する2体のバーテックス。

牡羊座と思わしき紫色の個体が、もう1体の前方を斥候のように飛んでくる。

ゆらりゆらりと、トリッキーな飛び方だ。

 

「それじゃあ勇者部一同、変身!」

「あ、あの!」

「ん、どうしたの?」

「今回は私も行かせてください。もう覚悟は決めました」

「無理しなくても良いわよ、麗。気なんて遣わなくて良いから」

「そんなんじゃありません!」

 

少し大きな声を出してしまった。

びっくりしたのか、風さん以外のメンバーもこちらを振り向いた。

 

「あっすみません。でも私は、仲間として迎えてもらったここで、できる事をしたいんです。私にもこれがあります」

 

そう言いながら勇者アプリを起動させ、風さんに見せた。

画面中央に表示されている種から芽が出る。

そしてそれは、稲穂の出来損ないのような緑の粒へと変化していった。

 

「これは……花?なの?」

「うーん、お米みたいに見えるけど」

「友奈ちゃん、半分正解よ。これは多分、稲の花ね」

「花、か……」

 

風さんの顔が少し曇る。

そこまで信用されていないのか。

勇者に変身しても、私じゃ力不足だという懸念?

やはり認めてもらうには実績が必要なのかもしれない。

 

「これで、私でもできるって事を証明します!」

「ちょっ、待ちなさい!」

「麗、ちゃん……!」

 

風さんの諌め声とゆっちゃんの戸惑うような声が聞こえたけど、構わずに稲の花をタップ。

白く細いものが画面から飛び散り、私の周りを覆い尽くしていく。

ごめんなさい、今だけ、今だけは無視させてほしい。

今度こそ完全に、部に貢献できる人材としての部員になる。

前の時はちょっと悪い想像がよぎっただけ。

気合いさえあれば、私でも何とかなるはずだ。

それに、できるとかできないとかの話じゃない。

私にとって、これはやるかやらないかの話なのだ。

 

「これで……やれます!」

「麗、一旦落ち着きなさい」

「問題ありません。私はいたって落ち着いてますよ」

 

真っ白な下地に翠色(すいしょく)の線が縦に規則正しく配置された勇者装束。

それが私の割り当てだったらしい。

武器は銃剣、近接も遠距離もいける中間職だ。

 

「見ててください!はぁっ!」

 

言うが早いか、壁側へ向かって大きく跳躍。

先に接敵するのは、手前にいる牡羊座バーテックスだろう。

相変わらず読みづらい飛び方を続けている。

 

「手始めに」

 

まずは1発、威嚇射撃の意味も込めて適当に撃ってみる。

跳び上がりながら空中で両手に銃剣を固定し、ドン。

 

「あ、うわわっ!?」

 

しかしダメージを食らったのは私の方だった。

空中で撃った反動でバランスを崩し、背中から地面に真っ逆さま。

まあ地面と言っても、どこまでも木の根っこなので表現がアヤシイけど。

 

「あっととと……」

 

意外にも、背中から落ちた割にはあまり痛みはない。

ふと横を見ると、黒い鳥が1匹。

デフォルメキャラのような、くりんとしたつぶらな瞳を持ったカラスだ。

しかし、1つだけ問題があった。

 

「脚が3本……?」

 

目は2つ。

翼は1対。

クチバシが1つ。

全身真っ黒。

ほとんど、普通のカラスをデフォルメしたそのまんまなのだ。

そのまんまなのだが、そのまんまではなかった。

 

「……ま、いっか!今はあっちだよね!」

 

体勢を立て直し、再びアリエスに向かって跳躍。

随分近づいてきた。

もう1跳びすれば、近接戦闘にも持ち込めそうだ。

 

「ただあんまり近いのは怖いから……」

 

着地し、足の踏ん張りが効く状態で1発、2発、3発。

敵の身体に爆発が起こり、煙が上がる。

 

「よしっ!効いてるっ!」

 

と思ったのだが、そこはウイルスの中から生まれた敵、そう甘くはない。

今度は煙の中から、迎撃とばかり雷撃が飛んできた。

 

「ぐぅっ!」

 

こちらも攻撃をまともに食らってしまった。

だがやはり、特筆するほどのダメージはない。

 

「これが、ゆっちゃんを守ったバリア……」

 

先ほどの3本脚のカラスが、目の前で私を守るかのようにホバリングしている。

普通、鳥類はホバリングなんてできるはずがないのだが、神樹様のお力で何とでもなるのだろう。

そのもう1つ前に展開されているのは、白い淡い光を放つ円形のバリア。

これが、私が奴らと違うところだ。

 

「じゃ、こっちも反撃といきますか!」

 

一気に距離を詰め、今度は剣として武器を使っていく。

居合にも似たような要領で、すれ違いざまに斬る。

一応、傷が付いたような感覚はあった。

 

(あれ?この感覚、どこかで……)

 

何かの感覚を思い出しかけたが、よく分からない。

まぁ、おおかた包丁で何かを切った時の感覚とか、そんなところだろう。

 

「どう?」

 

しかし着地して振り返った時には、せっかく付けた傷が赤い光とともに治っていくのが見えた。

 

「ダメかぁ……」

 

これでは苦戦。大苦戦だ。

大見得切って来た癖して、二進(にっち)三進(さっち)もいかない。

 

「うーん、1つ1つでダメなら……」

 

今度は、もう1つ押し込む作戦だ。

もう1度大地ならぬ根を蹴り、アリエスの懐へ向かう。

 

「まずは斬って」

 

跳び上がりながら銃剣を振りかぶり、一振り。

それが敵の身体を突き抜けないうちに……。

 

「発射!」

 

ズゥゥゥン……。

 

先の射撃とは異なる、重い音が響いた。

これは流石に効いたらしい。

紫の腹部に大穴が空き、敵は横に傾きながら墜落した。

 

「このままトドメ!終わらせる!」

 

そうして牡羊を葬り去ろうとした瞬間、今度は第2の刺客がやって来た。

山羊座が、角笛のようなものを頭上から突き刺したのだ。

命中こそしなかったものの、当たればどうなっていたかしれない。

 

「なるほど、だから2体で……カバーできるようにしてるのね」

「麗、大丈夫?」

 

と、そこに風さん。

東郷さん以外3人のメンバーが来てくれたのだ。

 

「いきなり前に出てったから大急ぎで来たんだよ!」

「風さん、ゆっちゃん……それに樹ちゃんも。さっきはごめんなさい」

「それは後で聞くわ。でも今はコイツらを叩くのが先!」

「でも麗先輩、お1人でここまでされるの凄いですね……」

「たまたまだよ、樹ちゃん。さて、もう1頑張りしますか!」

「邪魔邪魔ッ!!」

「!!??」

 

第2の刺客カプリコーンに加え、第3の刺客まで来たらしい。

いやでも敵は2体のはず……ってか、バーテックスって言葉喋れるの!?

 

「ちょろいッ!!」

 

辺りに剣が降り注ぐ。

今日の天気は晴れと聞いたけど、嘘だ。

雨ならぬ “剣” が今日の天気だろう。

そのくらいの量が降っているのだ。

そしてそれを扱うのは、紅の勇者?のような誰かだった。

 

「はっ!封印開始!」

 

大量の剣の高速投擲により一瞬で弱らせた山羊座を、一瞬で封印してしまった。

恐るべし、その実力。

続いて瀕死の牡羊座バーテックスも1人で封印してしまったけど、何だか手柄を横取りされたような気がする。

 

「はぁ……余裕だわ」

「あの……」

「揃いも揃ってボケッとした顔してんのね」

「はい……?」

「あなた、誰ですか?」

「何よ、チンチクリン」

「ちん……?」

「私は三好夏凜。大赦から派遣された、正真正銘の完成型勇者よ」

 

やっぱり彼女は勇者だった。ただ……

 

「アンタらみたいなトーシローとは違う。だから、アンタたちはもう用済み。はい、お疲れ様でした〜」

 

戦隊モノみたいに味方が増えたかと思ったが、彼女はとんでもない逸材だった。

実力はそれなりにあるらしいが、自身に満ちた目つきにこの言い方。

ちょっと、ちょっとだけ、イラッとくるものがある。

 

「ふふ……すっごい早口。あなたそのセリフ、家で考えてきたのかしら」

「何よ。私とやるっての?」

「負ける気はしないわね。少なくとも」

「随分と余裕なのね。言っとくけど私、強いわよ」

「あああ風先輩、麗ちゃんと三好さんが何だか険悪な雰囲気に……」

「大丈夫だよ、ゆっちゃん。私本当に、勝つ気しかしないから」

「まぁまぁ、一旦落ち着こうよ!!ね!?」

「友奈ちゃんの言う通りよ。ここで仮に勝ったとしても、何も得なんかしないわ」

「全く、どうしてこうなったかなぁ……」

 

ゆっちゃんだけでなく、東郷さんまでもが止めに入る。

そんな状況で好戦的な態度を取り続けても、後味が悪くなるだけだ。

 

「スゥ……ハァ……また今度にしましょう、三好さん」

「英断だわ。黒星が付かなくて良かったと、精々安心して眠る事ね」

「……」

 

何だ?煽りの天才かな?

 

「麗ちゃん、抑えて抑えて。あの子もきっと本当は悪い子じゃないんだよ。ね?」

「ん」

 

結局その日はそれ以上三好さんと喋る事はなかった。

喋りたくもなかった。

けど、運命の糸は全くもって複雑怪奇。

彼女とはまたすぐに会う事になるのだった。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

始まってしまった。

私は止める事ができなかった。

でも彼女は、他の勇者部員に対して危害を加えようという素振りは微塵もなかった。

 

「本日、緑野麗が勇者システムを使用しバーテックスと交戦。出現した2体のうち1体を、単独で瀕死にまで追い込む活躍を見せました、っと」

 

報告を大赦に上げるにしても、別に悪い事は何も起きていない。

大赦は何をそんなに目の敵にしているのだろうか。

彼女を危険な目に遭わせたくない?

いや、大赦はそんな考えはしない。

世界を守るためだから、と言って私たちに半ば一方的にお役目を押し付けるのだ。

それに大赦のメールを見る限り、“彼女に勇者システムを使わせたくない” の方がしっくりくる。

麗の過去の事、後は念のため家系の事も。

1度ちゃんと聞いておいた方が良いかもしれない。

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