花は散れども舞う風は 作:PP
リアルが落ち着いてきたので、またぼちぼち更新していきます。
もしかしてモテ期というやつなんだろうか。
風さんに続いて、初対面の人にも “2人で話がしたい” なんて言われてしまった。
今日のお相手は、茶色がかった髪を後ろで短く纏めた元気娘だ。
これで男子だったら言う事無かったんだけど。
話を聞けば、どうやら同い年らしい。
「それで、勇者部に突然増えた変人の事を探りに来た……と」
「ちょっと!そんな事言ってないって!」
「冗談ですよ。にしても、ほんと元気ですよね。学校でもクラスの中心になってたりするんじゃないですか?」
「うーんどうだろ。半分当たってるかな」
明後日の方向を向きながらはぐらかす彼女。
威勢の良かった眼差しが一瞬弱まる。
「ちょっと前まではそんな感じだったんだけどね。色々あって」
「そうなんですか……」
「あーいや、そんな大層な事じゃないんだ。ちょっと引っ越しただけ」
「引っ越しですか。今はどこに?」
「大橋市ってとこ。瀬戸大橋の近くだよ。緑野さんは、さっきこの辺りだって言ってたっけ?」
「そうですね。1人暮らしですけど」
「ヘぇ〜1人暮らしなんだ。アタシも似たようなもんだし感覚分かるかも」
「料理がめんどくさくて。何作るか考えるのが特に」
「そういう時は焼きそば!美味しい焼きそば作れば全て解決!」
言うが早いか、相手は焼きそばの魅力について語り始めた。
麺はどこのメーカーのが良いとか、ニンジンは地元の直売所のが最高に美味しい、とか。
目を輝かせて熱弁を振るう彼女には、リスのような愛らしさがある。
リスがどんぐりなら、彼女には焼きそばといったところか。
焼きそばを食べるリスなんているのだろうか、なんて想像をしていたら思わず笑みがこぼれた。
「何だよ〜。何かおかしい事言った?」
「ふふ……いや、大丈夫ふっ……」
「全く、失礼しちゃうなぁ。でも、初めてちゃんと笑ってくれた」
「え……?」
「今までは何だか浮ついたような感じがしててさ。気のせいだったらゴメンね」
確かに彼女の言う通りではある。
これまでは気を遣ってあまり素で関われていなかった。
目の前の彼女は、左腕を力なさげにぷらんとぶら下げている。
普通こういう時はギプスやら包帯やらで固定するのだろうが、そんな事はしていない。
どうも不自然なのだ。
それが気になって、どこか上の空になっていた自分がいた。
しかしそれを、初対面にも関わらずきちんと指摘してくるのだ。
尊敬と畏怖の念が心の中に渦を巻き始めた。
「緑野さんと話してると、何だか昔の親友を思い出すな」
「親友……どんな人だったんですか?」
「よくぞ聞いてくれた。とにかくお堅いんだよ。君に似てるかも」
「私に?」
「生真面目な委員長キャラで、一切の妥協ナシって感じ。でも変なところにこだわりがあったり、女の子な所があったり。何だかんだ可愛いやつだったよ、須美は」
「スミ、というのがその人のお名前なんですか?」
「そう。また会えるといいな」
言う気が無くとも、その名前が口を突いて出てくる。
そんな素晴らしい関係に私が恵まれる事は生涯無いだろう。
* * * * * *
「またこれだけの戦力で……攻撃の手が止みませんね」
「まぁ数が減っただけ先週よりかマシよ」
「でも、前の時か今日に纏めて一気に来た方が、向こうとしては良かったと思うんだけど。何か狙いがあるのか、あるいは制限があるのか……」
「確かに、何だか気になりますね」
「ごちゃごちゃ言ってても仕方ないわ。これで12体のバーテックスはコンプリートするんでしょ?だったら殲滅あるのみ!」
言うが早いか、夏凜が勇者服を身に纏う。
それに釣られて、他のメンバーも次々に変身していく。
今回の敵は “水瓶座” “蟹座” “獅子座” の3体。
部員たちは若干の不安がある一方で、前回の4体襲撃よりは簡単だろう、という空気感で臨んでいるように見える。
1人を除いて。
「麗」
「はい」
「今回は東郷と一緒にいて。銃で遠距離サポートを頼みたいの」
「はい」
麗は前の発作を気にしているのか、神妙に話を聞いている。
「大丈夫。”アレ” が迷惑だなんて誰も思ってないわよ。アタシはただ、麗がやりやすいようにやってくれればいいって思ってる」
「はい」
「今回は剣を使うのはナシで。最悪、先っちょだけ刺して牽制するくらいにしといて」
「分かりました……善処します」
麗が戦えなくなるのは何かを “切った” 後なんじゃないか、と友奈が言っていた。
だとすれば、近接戦闘を行わなければ問題は無いという事になる。
彼女の気が沈んでいるように見えるのが気がかりだけど。
「麗ちゃん、あなたがそばにいてくれると心強いわ。頼むわね」
「うん、まぁ……頑張るよ」
「何かあったら言って。その時は私があなたを守るから……友奈ちゃんの方が優先だけど」
「えっ?」
「いやだわ。ほんの冗談よ」
東郷が声をかけてくれたおかげで、少し麗の表情が明るくなった。
しかし、東郷の冗談が冗談に聞こえないのはなぜだろうか。
「皆、いい?戦いは今日で終わり。最後だし、アレやっとこ!」
「お、いいですね!」
「アレって何よ」
各々、横のメンバーの肩に腕を預け、円陣を形作る。
麗も察しよく輪に加わった。
困ったように立ちつくしたのは夏凛。
1人、できかけの円を見つめている。
「ほら、夏凛ちゃん」
「え?どうするのよコレ……こんなの知らないわ」
「いいから、こっち!」
「えっ、ちょっ!?」
友奈が強引めに夏凛をねじ込み、綺麗な(?)一円が完成した。
「もう、何なのよ……」
「夏凛ちゃん、覚えておいて。これが勇者部の気合の入れ方よ」
一言補足を入れてくれた東郷が、自分の方を見つめてくる。
宝石をはめ込んだ様なその目には、燃えるような闘志が宿っている。
東郷は、最初からすると考えられないくらい成長した。
友奈も負けじと、勇者部の先頭に立って皆を引っ張ってくれた。
樹は、ずっと側にいてアタシの支えになってくれた。
夏凛は曲者だったけど、少しずつ順応し立派な戦力として活躍してくれている。
その期待にアタシが応えないで、一体他に誰が?
アタシは勇者部の部長なんだ。
「皆、聞いて。今日出てきた3体で、12体の敵はコンプリートになるわ。さっさと終わらせて、パーッとやるわよ!」
「あ、それ私知ってます!パーッと、ってお父さん時々言ってます!」
「それは中学生が言って大丈夫なの……?」
ジト目を向ける樹を、友奈は全く気にしていない。
全く、天真爛漫というか何というか。
「とにかく倒せばいいんでしょ?私に任せて、アンタは後ろで休んでなさい」
「夏凛ちゃんはそう言って前に行きすぎなのよ。後ろから見てる私の身にもなって」
「かく言う東郷は心配性すぎるわ。もっと仲間を信頼しなさいよ」
「ん〜?三好の夏凛さん、今、何て仰いました〜?ちょっと、よく、聞こえなくて〜」
「うるさい!さっさとやる事やって出撃する!早くしろ犬部長!」
待ちきれずに円陣を抜けようとする夏凛。
おかげで早口で締めの言葉を言うハメになってしまった。
まぁグダグダしちゃった分、悪いのはアタシなんだけど。
「誰が犬か!まぁ要するに、早く帰るわよ!でもくれぐれも気をつけて」
「「「はい!!」」」
「それじゃ、勇者部……」
「「「ファイトおぉ!!」」」
掛け声と共に離散。
各々、連携の取りやすい位置どりに陣を構える。
最前線は夏凛が担当し、サポートに友奈。
樹のサポートでアタシが真ん中で中継し、最後方に東郷という配置だ。
「敵に動きあり。2体のみ進撃してきます。獅子座はじっと動きません」
対するバーテックスは、前衛2体に後衛1体の構成らしい。
まだ攻撃を撃ってこないので確証は持てない。
とは言えこれまでの経験からすると、およそ見当違いではなさそうだ。
手前2体は、蟹座と水瓶座。
まずはこれをどう攻略するかを考えなければならない。
しかし一方で、手前に気を取られると前回の二の轍を踏む可能性もある。
「皆、まずは手前2体からいくわ。集中放火で短期決戦に持ち込む。夏凛と友奈は水瓶座をお願い。蟹座はアタシと樹でやる。いい?」
『『『はい!』』』
「それから東郷、あと麗」
『はい』
「2人は視野を広く持って、戦況を考えながらサポートして。得意分野じゃない?」
『もちろんです。ただ、前回は後衛の私を狙った攻撃がありました。今回も相手は似た布陣ですし、可能性としては十分あるかと思うのですが』
「そこは、移動しながらのサポートでカバーして。狙撃は難しいかもしれないけど」
『そういう事なら。実は私、両手銃以外にも使える武器があるんです。小回りも利くので、今回はそちらを使っておきますね』
「了解。じゃあ、頼んだわよ!」
* * * * * *
バーテックスが1-2の態勢なのに対し、勇者側は2-4。
風は、陣形が崩れて前衛バーテックスを取り逃がす事を警戒していた。
また前回のジェミニの様な敵が現れないとも限らない。
もし何かあった時には、麗に対処を任せる気でいた。
しかし彼女とて前科がある。
その本領が発揮される事があれば、最後の切り札としてのみだ。
序盤、戦闘はまず順調に推移していた。
友奈・夏凜ペアは水球の猛攻を受けつつも、躱しながら1発1発、確実にダメージを与えてゆく。
夏凜が刃を投げて気を引き、その間に友奈が一気に間合いを詰めるという芸当はまさしく息ぴったりである。
もう一方、部長シスターズも負けてはいない。
樹がワイヤーを敵に絡ませ、動きを封じたところに一撃を叩き込む風。
その高い攻撃力は、樹の小技で最大の効果を発揮する。
戦況は勇者有利と言って差し支えない。
そんな中、最後尾から俯瞰する東郷は胸騒ぎを感じていた。
「あいつ、いつまであそこに居座るつもりなのかしら」
視線の先には、獅子座バーテックスが悠然と浮かんでいる。
動きもしなければ攻撃するでもない。
ただ、壁と神樹の端との間を静かに漂っている。
その風貌は、何かを待っているかの様にも見えた。
しかしいかに神の先鋒と言えど、待つだけで勝利を掴む事はできない。
キャンサー、アクエリアスの前衛2体は、早くも封印の祝詞に捕縛されていた。
「よし、アレを潰すわよ!」
「はい!もうすぐこっちも終わります!」
そこへ、麗の悲痛な叫びが聞こえてきた。
「皆、逃げて!」
キョロキョロする4人の目に、太陽の如き大火球が映る。
刹那、火球が発射される。
それと同じタイミングで、4人とも後退を試みた。
だが無傷とはいかない。
「皆、大丈夫?」
「うん、麗ちゃんのおかげで何とか!」
「ほんとよね。通話繋ぎっぱなしじゃなかったらどうなってたか」
「アレは直撃したらヤバそうね……」
「あ、でも見てください!」
前衛バーテックス2体は爆風で押し戻されたらしい。
レオの付近に2体が固まり、陣形を立て直している。
「バーテックスが壁の方に!これってチャンスじゃ?」
「次が来る前に畳み掛けるわよ!」
樹の気づきに風が呼応し、一気に間合いを詰める。
だが、敵も考えなしに後退した訳ではなかった。
中央に座すレオが他2体を変形させ、自身に合体させた。
ただでさえ大きいその身体は一層巨大となり、全貌を目に収めるのもやっとである。
「な、何なんですかアレ」
「大きすぎるでしょ……」
ひるむ勇者に対し、すかさず攻撃が入る。
水と炎の弾が乱射され、そこかしこに大小の穴ができる。
前に詰めていた4人は根の陰に隠れた。
一帯に無数の爆発音がこだまする。
そうして1分が経っただろうか、爆発が止んだ。
しかし、なかなか煙が晴れない。
「この湿気……分かった、蒸気よ!外側に出れば、バーテックスが見えるはず!」
「オッケー、それじゃあ……」
夏凜の言葉を受け、風はその場で思い切りジャンプをした。
高度が上がり、霧を抜け、彼女の目に映ったものは。
「下がって!!今すぐに!!」
風は叫んだ。
目の前に浮かぶ太陽は、風とは逆に降下を始めていた。
その動きは、とてつもなくゆっくりに見えた。
わずか数秒の滞空時間さえ、悠久の時の様に感じられた。
されど数秒。太陽が接地する。
恐ろしいまでの強い光と爆風が、風の身体に襲いかかった。
思わず目を閉じた彼女が再び目を開けたその時、バーテックスは自らの頭上を越え、神樹側へと侵攻していた。
麗、東郷の2人が銃撃を加えているが、効いている様子は微塵も無い。
振り返って前方を見やれば、そこには力無く倒れた3人の姿。
後ろも前も気にしなければならない。
しかれど身体は1つ。
風の頭はショート寸前だった。
「もう一発逆転を狙うしか無いわね……部長の責任を取るには!」
腿のゲージに手を当てる。
力が溜まっているのが感じられた。
それを一気に解放するよう念じる。
「アタシの本気……満、開!」
辺りから糸を引くように光が集まる。
その光球の中から、大剣を持った天女の様な出で立ちの風が現れる。
まずは最優先、ゴールに近づくバーテックスに突撃を仕掛ける。
剣の柄を構えての突進は、相手の体勢を大きく崩した。
麗と東郷は一瞬、何が起きたかと混乱した。
だが光の中を浮かぶ風の姿を見つけ、すぐに事を理解する。
「風先輩!」
「心配かけたわね!これならいけるわ!」
風は再度攻撃を加えようと、突進の構えを見せる。
だが敵も同じ手は食うまいと、体勢を戻しつつ巨大な水球を放つ。
刹那、歯ぎしりをした風の目の前で水球はぱっくりと2つに割れた。
旧約聖書のモーセの如く、風の左右を水球の片割れが通過する。
演出担当はいつから起きていたか、満開状態の樹であった。
「樹!アンタ……!」
「お姉ちゃんと一緒なら、どんな事だって怖くないよ。……行って、お姉ちゃん!」
「うん、分かったわ!」
後顧の憂いを絶った風は、大弾を放って隙のできた敵に渾身の攻撃を見舞う。
振りかぶった大剣は鈍い音を散らし、巨体を吹っ飛ばした。
その先には、これまたいつの間にか夏凜が待ち構えていた。
4本の剣を以って1人で陣を描き、御霊を引き摺り出そうと試みる。
「夏凜さん、私も手伝います!」
「ありがと、樹!」
満開状態で繰り出されるワイヤーは、通常の時と桁違いの威力を誇る。
バーテックスの身体をこじ開け、御霊を引っ張り出す……はずだった。
「え、御霊が無い?」
「樹、アレ!」
「どこですかって、ええぇ!?」
夏凜の指差す先は、天上であった。
すなわち宇宙。
風と樹の満開は先に使用している関係上、そう長くは保たない。
天を仰いで迷う風に、東郷の声が聞こえてくる。
「私が行きます!」
「頼むわよー!東郷ー!」
東郷も満開の力を使っており、その背には多数の銃口が搭載されている。
ただ夏凜は心もとなく思ったらしく、
「アンタも行くのよ!いつまで寝てる!」
「ふえぇぇ!?起きてる、起きてます起きてるよ〜!」
「本当?まったく、しょうがないわね」
まだ倒れていた友奈に剣を飛ばし、叩き起こす。
あわや同士討ちかというところだったが、友奈も野生の勘があったか寸前で飛び起きた。
そこへ東郷が手招きする。
「乗って!友奈ちゃん!」
友奈は力強く頷き、東郷の満開船に飛び移る。
そのまま船は、宇宙に向かって加速してゆく。
強烈なGがかかるが、徐々に弱くなる。
だが宇宙空間に出ても無重力にはならず、息もできた。
宇宙について見識のあった東郷は違和感を感じたが、友奈は全く気にしていない様子である。
御霊に近づくにつれ、東郷の満開も限度が近づいていた。
「友奈ちゃん。私が残る全力で1発撃つから、そこにありったけの力を込めてパンチ。これでいける?」
「もちろん。東郷さんがここまで運んでくれたんだもん。私の全力、ぶつけてくるよ!」
「行ってらっしゃい。またね」
「うん、行ってくる!」
友奈は台座を蹴り、御霊へと跳躍する。
東郷もそれを見届けると、残る力を振り絞り大きな弾を生成。
「目標、獅子座が御霊。砲撃用意……撃てっ!」
目標物に向けて放つ。
青白い光弾は友奈を追い越し、御霊に直撃した。
表層の攻殻が壊れ、中の砂がこぼれ落ちていく。
しかし敵もこれが最後と分かってか、瞬時に修復を試みる。
「させるかぁー!満、開!!」
友奈の解放せし力は、左右1対の巨大な拳。
普段の戦闘から拳を使う彼女には、相性抜群の力である。
右腕を引き、思い切り前へと繰り出す。
先の攻撃で生じた穴の中心部は、修復が間に合っていない。
中へ、もっと中へ。
友奈は左の拳も繰り出した。
脆く崩れ始めている部分が増え始める。
いける、と友奈が感じた次の瞬間、彼女の身体は全く動かなくなってしまった。
視界も真っ暗、星の灯りすら見えない。
結城友奈は閉じ込められてしまった。
「……!友奈ちゃん!!」
「大丈夫、東郷さん!私がいる!」
祈るように東郷が見つめる先には、ジェットブースターを装備し飛んできた麗の姿。
銃剣の銃口を正面に構え、前に突き出している。
先端が御霊にぶつかり、ガッ、と硬い音がした。
その音と同時に、麗は引き金を引く。
御霊の一角が岩石のように崩れ落ち、友奈の脚が見えた。
東郷同様に下から飛んできた麗の力は既に限界だったが、
「これに賭ける!」
もう1突きおかわりし、また撃った。
砂が大きく崩れ、今度は友奈の全身が自由となる。
「ありがとう!」
「行けぇ!行っちゃえ!」
「うん!これで……!」
友奈は両足を攻殻部分に引っ掛けて踏ん張り、全体重を乗せた一撃を打ち出した。
「おおおおおおぉぉぉぉ!!!!」
なおも2発、3発と殴る、殴る。
その振動が核に届いたのか、御霊は自壊を始めた。
「はぁ、はぁ……やった、よ……東郷、さん……」
壊れゆく天の魂の様に、友奈の身体もまた力が抜けていた。
自由落下が始まる。
重力が段々と強くなる。
満開状態の解除とともに、彼女の意識は途切れた。
* * * * * *
「というのが、今日あった事の顛末です」
『うん、分かったよ。ありがとう』
クーラーのよく効いた涼しい部屋にあって、鋼鉄のごとき冷たい声。
その冷たさは、形こそ違えど両者ともに携えているものだった。
「では、私はこれで。もうすぐ彼女も帰ってくる頃でしょう」
そう言うと仮面を被り女性の声で話している人物は、薄暗い部屋の入り口の方を向いた。
『そうなの?』
もう1人の女声を発する人物も、つられて入り口に視線をやる。
そこには満身創痍といった様子で帰ってきた、中学生くらいの少女が神官に囲まれて立っていた。
「あはは、捕まっちゃった……あはは……」
『おぉ〜、なかなかの逃避行だったようですなぁ。話は聞いておるぞ、ふぉっふぉっ』
「んな事言ってないで、助けてくれよ〜」
『うむ。ヘイ、その者を解放せよ』
電子音の混じった声がそう言うと、呼ばれた面を被った男たちは帰還者を部屋へと押し込んだ。
これでは解放と言うより捕獲である。
そして役目を終えた追跡者たちは、すごすごと部屋を後にする。
重い金属音が、部屋を固くかたく閉ざした。
「はー、疲れちゃった。やっぱ隠れてコソコソやるのは向いてないや」
『お疲れ様。いつも無理強いしちゃってごめん』
「いいよそんなの。お前は見張り厳しいからな。まだ動けるアタシが頑張らなきゃ、って感じだろ」
『……それで、どうだった?』
堅くなった2人の表情をろうそくが照らす。
少し間が空き、
「会えたよ。今回は」
ノートパソコンを持った少女は、暗く赤い天井を仰いだ。
『そっか……長かったよ、ここまで』
「うん。長かった。でもこれで、アタシたちは1つ前に進む事ができたんだ」
もう1人の少女はグッと握りこぶしを作った。
手にも声にも力が入る。
『でも、仮面の人たちと帰ってきたって事はそういう事だよね〜』
「そうなんだよ園子さん!この三ノ輪銀、一生の不覚!」
入れた力は、だるま落としの如く一瞬にして抜け落ちた。
銀は、後1歩で勝利を逃したスポーツ選手かの様に悔しそうだ。
『しょうがないんよ。いつかはこうなるって分かってたしね』
「初めからそう言ってたもんな、園子は。想定通りって感じ?」
『モチのロンなんよ。でも正直、接触までできるとは思ってなかったかな。ミノさんの捕まる方が先だと思ってたんよ』
「おいおい、人を泥棒みたいに言うなよ。あんまり言うと捕まえちゃうぞ?」
銀はわざといかがわしい手つきをしてみせたが、
『ミノさんになら捕まってもいいんよ。ずっと一緒にいよ?』
「あっ……いやそっちじゃないんだけど」
嬉々として両腕を広げた園子を前に、あえなく撃沈した。
『えー、私たちズッ友じゃなかったの?悲しい、悲しいよぉ〜、よよよ……』
「だーもう、拡大解釈ダメ絶対!ズッ友だよズッ友!間違いない!」
『うん!ズッ友だね〜』
テンションの振り幅の激しい園子を前に銀は、自分では彼女に勝てないな、と思っていた。
しかし同時に、言い知れぬ居心地の良さも感じていた。
真っ白な2年間を経て、再び色づいた園子が帰ってきたかの様な気がするのだった。
「……ズッ友と言えば、須美ももうすぐなのか?」
園子が帰ってきても、須美がいなければ意味が無い。
その思いが銀の頑張りの源泉であり、行動原理なのである。
『今のところはね。ミノさんのお陰でピースも揃ってきたし、およそ予定通りにいけそうかな。そろそろ会えてもいい頃だと思うんよ〜』
「そっか。じゃあ、ぼちぼちアタシもお役御免かな?」
『ううん、まだだよ。もう1人、会わなくちゃいけない人がいる』
園子はまっすぐに前を見つめた。
その目は既に、銀の向こう側にあるゴールを捉えているのだろうか。
『ちょっとした物知りさんにね』