花は散れども舞う風は   作:PP

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第1話「初陣」

「あ、あれがバーテックス……」

「大きすぎるんよ〜。きっと夢か何かなんょ……zzz」

「乃木さん寝ない!そんな事言ってる場合じゃないでしょう」

「大丈夫。3人、あーいや4人になったんだっけ。4人もいれば何とかなるって」

 

今、私たち3人は樹海と呼ばれる空間にいる。樹海とは、人類を滅ぼさんとする強大な敵である「バーテックス」から人類を守るため、神樹様が彼らの攻撃に合わせて一時的に発生させる特殊な空間だ。

 

そのはるか向こう、大橋の方へ目を凝らすと、2つの水球を携えた1体のバーテックスが静かにこちらへ侵攻しているのが見えた。あれを撃退する事が私たち勇者の「お役目」であり、勇者は私たちを含めて4人いる———と担任の安芸先生から聞いていたのだけれど。

 

「でも風馬のやつどこにいるんだ?あいつがいなきゃ結局3人じゃんか」

「多分誰かさんに似て時間ギリギリに来るタイプなんよ〜」

「うっせぇ!!言っとくけどアタシ毎日遅刻してる訳じゃないからな!!」

「ちょっと落ち着いて。お役目なんだからもうちょっと真剣に」

「分かってる分かってる!」

「ほらわっしー、そんな難しい顔しないで。リラックス〜」

 

乃木さんが両手で頬を伸ばしてくれると、確かにちょっと身体に力が入っていたような気がしてくる。自覚は無かったが、初のお役目という事で多少緊張していたのだろう。

 

「ありがとう乃木さん。私はもう大丈夫よ」

「えへへー。よかったー」

「おーい」

「お?この声は」

「すまん。遅れた」

 

声の主は3日前に初めて話した京極風馬君。学校は同じ神樹館で、学年も同じ小学6年生。話した事が無かったのはクラスが違ったから。

 

「俺だけ離れた場所に飛ばされたみたいで、来るのに時間がかかった。悪い」

「ううん、謝る事じゃないわ。樹海化の影響だもの、仕方がないわよ」

「よし、これでちゃんと4人揃ったな!いっちょやりますか!」

 

スマホを取り出し、4人だけに配信されたアプリを起動する。辺り一面に花びらが舞った後、私は青を基調とした勇者服に包まれた。三ノ輪さんは赤、乃木さんは紫、そして京極君は黄色の服を纏っている。

 

「じゃあ、まずは大橋の所まで行かなきゃな」

「そうだね〜。よいしょ〜!」

 

勇者の身体能力は尋常ではなく、ひとっ飛びで2桁メートル飛ぶのは簡単にできる。これなら大橋まで1分とかからないだろう。

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

大橋の端に到着した4人はそれぞれの武器を呼び出した。近接戦闘特化の双斧は三ノ輪銀、遠距離型の弓矢は「わっしー」こと鷲尾須美。乃木園子の槍がその間をカバーし、薙刀を持つ京極風馬は臨機応変に立ち回る。得意距離のバランスが取れた構成である。

 

「先手必勝ぉおおおお!!!」

 

銀が威勢の良い声を上げながら突っ込んでいく。その姿に一瞬見とれた園子と風馬も後に続く。

 

「早いな……赤い彗星じゃん」

 

風馬の言葉をよそに、銀は目にも留まらぬ速度でバーテックスの下へ辿り着き、勢いそのままに敵を切り刻む。

 

「ミノさんすっご〜い!」

「み、ミノさんって何だよ!?」

「乃木の声には反応すんのかよ……」

「!? 三ノ輪さん、前!」

「ん…元に戻ってる!?」

 

一瞬園子の方を向いた銀が前に視線を戻すと、そこには再生して元通りの形となった敵がいた。一瞬の動揺を見逃さず、至近距離から水流が放たれる。

 

「うおっ!?」

「ここは私が……!」

 

間一髪でかわした銀。間合いを取る時間を稼ぐために須美が矢を放つが、銀を追撃すべく移動しながら水流を放つバーテックスには当たらない。

 

「速っ...間に合わない!」

 

カバーを諦めかけたその時。

 

「止まりな」

 

風馬の薙刀がバーテックスを一閃する。一筋の傷が入ったようにしか見えなかったが、敵は少し後退した。どうやら見た目以上に効いているらしい。

 

「大丈夫か?」

「助かった!サンキュー風馬」

「ああ…来るぞ」

 

ちまちま攻撃していては埒が明かないと悟ったのか、今度は水球を前に構えた様な格好で急加速して間合いを詰めてきた。

 

「わわわ〜!えっと...これは...こう!!」

 

園子は機転を利かし、盾状に変化させた槍で水球を受け流す。だが。

 

「!!おぁごご......」

「三ノ輪!お前......」

 

銀が、避けきれなかった風馬を庇ったのだ。水球に囚われた銀の口から泡が漏れている。

 

「ミノさん大丈夫!?」

「クッソ…野郎……」

 

水球を押し当てたバーテックスは、目的達成とばかりに再び後退した。風馬がそこに先程の銀に劣らない速さで迫る。

 

「……」

 

薙刀を1振り、2振り。下を切ったかと思えば、上に切り上げながら跳躍してもう1振り。そのまま敵の身体を登りながら、無言で武器を振るい続ける。敵も負けじと再生を繰り返すが、手数の多さに徐々に再生が追い付かなくなる。

 

「何あれ...さっきと雰囲気が違うような」

 

須美と園子は、一心に攻撃を続ける風馬の姿にそら恐ろしさすら感じていた。だが押している今がチャンス。加勢しない手は無い。

 

「…乃木さん、前で攻撃に回って!援護するから!」

「っ、分かった!」

 

園子たち中衛組がいた所まで前に出た須美は、園子に前衛で加勢するよう依頼した。園子もチャンスを逃すまいと前に詰める。

 

「こことここと…ここ!」

 

薙刀ラッシュで再生が追い付かない所に槍の追撃が入る。脆くなった箇所は矢の衝撃で崩れ落ちる。完全に勇者側のペースではあったが、彼らの体力とて無限ではない。疲れが溜まり、限界を感じ始めたその時———。

 

「これで終わりだぁああああああああああ!!!!!!!」

「え!?銀!?」

 

唐突に戦線に復帰した銀の1振りで勝負あり。バーテックスは傷を再生しつつも向きを変え、壁の向こう側へと去っていった。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

「終わった……?」

「やった〜!わっしー、ミノさん、勝ったよ〜!!」

「イェーイ!まあ追い返しただけだけど」

 

そう、追い返しただけ。倒したわけではない。だがそれでも、私たちにとって大きな、大きな1歩である事には違いなかった。

 

「でもミノさん、あの水どうしたの?」

「あーあれね…飲んじゃった」

「全部飲んだの!?やっぱりミノさんすごーい!!」

 

2人が感想戦を続ける中、ある異変に気付く。

 

(京極君…倒れたまま動いてない!)

 

「ねぇ2人とも、京極君が!」

「?風馬がどうしたって…っ!」

 

彼は神樹様の根に突っ伏していて表情は分からない。まさか怪我でもしている......?

 

「京極君…大丈夫?」

「……」

 

息はある。だが反応が無い。

 

「ねぇ…ねぇってば!」

「お、落ち着けって須美」

「落ち着いてなんかいられない!」

「ん…何なんだよ……」

「あ、目が覚めたんよ〜」

「京極君!大丈夫なの!?」

「あー…そんなに叫ばないで。大丈夫だから」

「あっ…ごめんなさい」

「いいって。それより戦いは…終わったのか?」

「終わったんよ〜。私たちの勝ちなんよ〜!イェーイ!」

「まあ勝ちって言っても…ってもうそれはいいか。そういう事」

「そっか。ありがと」

 

こうして、初めてのお役目は成功のうちに幕を閉じた。京極君の事は、途中の変わり様もあって心配で取り乱してしまった。本人は大丈夫と言っていたから少し安心したのだけれど。

 

(本当に大丈夫なら倒れたりしないだろうし…何か理由が?)

 

その日、水を取り込んだ三ノ輪さんと倒れていた京極君は検査の対象になった。京極君が倒れた理由は検査でも分からなかったけど、異常は無かったと安芸先生から伝えられた。




オリ主の勇者装束の色を「黄色」としましたが、原作の風さんカラーより少し濃い黄色だと考えて頂ければいいかなと。ヒマワリの様な、ややオレンジに近い色を想定しています。
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