花は散れども舞う風は 作:PP
投稿の期間が空いた理由はリアルが忙しかったからですが、そのうち半分くらいがゆゆゆいで占められてます。反省。
以下、本文です。
(雨、か……)
TVアプリを開いた手元の端末には、日曜日の夕方5時に流れるお天気週間予報が映し出されている。どうやら今週はずっと雨らしく、降水確率はどの日も50%から80%の間の数値をとっている。
(この分だと、十中八九延期だろうな)
今週金曜日には、神樹館の6年生の遠足が予定されている。ただ自由散策の時間以外は屋外を動く行程のため、雨が降れば確実に予備日にずれ込むだろう。
(楽しみにしてたんだけどな。しょうがない)
気を紛らわすため、傍らに放置してあった"遠足のしおり"なるものを手に取る。先週渡された須美の力作で、ページ数は60を越えようかというボリュームである。見た目の威圧感から読むのが億劫になり放置していたが、いざ読んでみるとこれがなかなか面白い。
(アイツ、将来は旅行会社にでも勤める気か……?)
目次に始まり、全体のスケジュールや行く予定の施設の写真付き紹介、人気グルメにオススメ度まで。観光客が欲しいと感じる情報全てがそこにはあった。歴史的背景まで抜かりなく記載してあるのはいかにも彼女らしい。
「風馬様、お母様がお呼びです」
「分かりました。ありがとうございます」
恐らく夕食だろう。ふと時計を見ると、7時を既に過ぎている。
(2時間か...随分長く読んでたんだな)
読み進めていた46ページに学校のプリントの切れ端を挟み、しおりを閉じる。夕食後にまた続きを読もうと思いつつ、呼ばれた部屋へと向かった。
* * * * * *
「須美先生、学校の勉強も少しはした方がいいかなって思うんだけど」
「何言ってるの、銀。これも大切な学校のお勉強じゃない」
「いやこれはその...やらなくても成績には影響しないっていうか、テストに出ないっていうか」
「でも遠足は校外学習とも言うわ。遠足に行きたいなら、ちゃんとやっておかないと損よ」
損、という言葉を聞いてミノさんが一瞬固まった。今やってるのは、わっしー先生の遠足予習授業。本当は今日が遠足の日の予定だったんだけど、雨で来週に延期になっちゃって。それで3人で遠足楽しみだねーって話してたら、ミノさんがしおりを全く読んでなかった事がバレて......。先生張り切っちゃった。
「もう1時間半もやってるじゃんかー!そろそろ集中が切れてきたよー先生」
「もう...しょうがないわね。ここまでの頑張りに免じて、今日は終わりましょう」
「やった!イネス行くぞイネス!」
(ミノさんは事あるごとにイネスに行きたがるんよね。よっぽどイネスの事が好きなんだろうなぁ......これって愛?)
「愛!これは愛だよ園子」
「あれれ〜聞こえてた?」
「聞こえたぜ。確かに今『これって愛?』って」
(心の中に留めるつもりが口に出ちゃったみたい。でも別に誰かが困る訳じゃないし……)
「銀の好き度は他の人の比じゃないものね。愛と言われても違和感は感じないわ」
「そうだね、そういう形の愛もあるよね〜」
「おい園子、また変な妄想してる訳じゃないだろうな」
「妄想じゃないよ〜。創作活動と言ってほしいんよ〜」
「う、嫌な予感がする」
「大丈夫よ。流石のそのっちも銀とイネスの恋模様なんて考えないはず…そのっち?」
「う〜んどうだろうね〜」
ミノさんとわっしーの驚愕に満ちた瞳が見つめてくる。
(そうは言っても、流石にこの設定は無理があるんよ〜。久しぶりの突拍子もない設定だったから、ちょっと残念かも〜)
「こやつ…なかなかの手練れだな」
「今後は安易に『愛』なんて口にしない方がいいかもしれないわね」
2人の「愛」というワードに対する警戒心が高まってしまったらしい。しばらく2人から恋愛小説のネタを得るのは難しいかもしれない。
場所は変わってイネス。
「さぁ〜やって参りました!イネス!イネスのお時間でございます!」
「ミノさんハイテンション〜」
「ハイテンションにもなるって!あんなに勉強させられた後だし」
「ぎ〜ん〜?」
「っ!?い、いやぁ〜タメになるお時間でした。えへへ…」
「まあまあ〜。ジェラート屋さんでゆっくりするんよ〜」
3人連れ立ってモール内を歩いて行く。金曜日の夕方とあって、買い物客は比較的多い。ただ休日レベルの混雑という訳ではないため、3人で近くにいる分には互いを見失う事は無いだろう。
「混んでるね〜ミノさん」
「ちょっと目を離したらはぐれちゃいそうだな」
「そうね、気をつけましょう……ん?」
「言ったそばからわっしーがよそ見してるんよ〜。何かあった?」
「……」
「須美?どこ見てるんだよ…って風馬いるじゃん!」
「え?ふまにゃんいるの?どこどこ〜?」
わっしーの視線の先には書店から出てきた彼がいた。傍の男の子と何やら話しつつ、買った本が入っているであろう袋を渡している。本選びに付き合っていた、というところだろうか。
「おーい風馬!何してたんだ?」
「ん?銀じゃん。それに須美に園子まで。ちょっと本をね」
「へー。選んであげてたのか?」
「俺が選んだ訳じゃない。多少アドバイスしただけ」
「ふま兄、この人たちは?」
「あ、例の仲間だよ。前にちょっと話したろ」
「おー、そうなのか。あ、自己紹介。鏡光安って言うんだ。ふま兄とは小さい頃からの付き合い。よろしくっす」
「幼馴染なのか!アタシは三ノ輪銀。よろしく」
「乃木園子だよ〜。光安なら…みっつん、って呼ぼうかな〜。こっちはわっしー」
「ちょっとそのっち、初対面なのにわっしーじゃ分からないでしょう」
「そっか〜ごめんね〜」
「もう…鷲尾須美よ。よろしくね」
「よろしくっすー」
(わっしーはちょっと困った顔をしているけど、たまにしか見られないこの顔もいいんだよね〜。それにしても…)
ふまにゃんの幼馴染という彼は、私たちに全く物怖じする様子は無い。明るく元気で、陽気なムードメーカーという印象だ。
「なぁなぁところでさ、ふま兄何か悪い事してない?痛ぇっ!!」
「お前いきなり何て事聞くんだ。ふざけんじゃねぇぞ」
「大丈夫よ光安君。風馬君には私たちの方が助けてもらっているくらいだから」
「そうだね〜。ふまにゃんがいなかったら上手くいってなかった時もあったしね〜」
「ふま…ふま兄そんな呼ばれ方してんのか痛ァァァァ!!!!」
「光安、お前イネス出禁にするぞ」
「お、落ち着けって。そうジェラート!ジェラート食べに行こう」
ヒートアップ気味の約1名を落ち着かせるには悪くないアイデアだ。人数を5人に増やした一行はフードコートへと向かった。
* * * * * *
イネスを後にし、3人組と別れた俺は光安と共に家路に就いていた。彼とは家が近いがために、幼い頃から関わりがあったという側面がある。
「何もあそこまで言うことないだろ」
「別にいいじゃんね?言ったからって減るもんじゃないし」
「そういう事を言ってるんじゃねぇよ」
それにしても、光安が須美たちにある事無い事を吹き込んだのにはもう少し警戒を強めておくべきだった。始めのうちは「トマトが嫌い」「水たまりで滑ってびしょ濡れになった事がある」といった可愛いものだったのでスルーしていたが、「好きな子を目で追っている」などというありもしない事を言い出した時は流石に締め上げた。普通の友達ならまだ良いが、今回の相手は個性派揃い。中でも園子は要注意人物だ。
(ネタにされると後々困るんだよな......)
「とにかく。気の知れた友達ならいざ知らず、初対面の人に他人の過去をやたらと明かすもんじゃないぞ」
「はいはい。善処しますよっと」
「その返事、この世で1番信用できんわ」
「善処は善処です。それ以上でもそれ以下でもない」
「あー分かった分かった。もういい」
「うす」
辺りはすっかり暗くなり、街灯の明かりが存在感を示している。
「で?ぶっちゃけどうなんだよ、お役目の方は」
「まあまあ。今の所は特に困る事も無くって感じ」
「ほーん。意外とどうにかなってるみたいな。初めてのお役目の前はこの世の終わりみたいなテンションだったのに」
「慣れよ、慣れ。最初って知識はあっても、実際の肌感覚は分からんし。それが分かって少しずつ慣れてきたのが大きいと思う」
「そうなんか。やっぱ慣れは偉大ですなぁ」
詠嘆するかのごとき言葉を口にした光安が、その、と言って一呼吸置いた。
「その…怖くはないのか?」
「怖くないと言えば嘘になる。でもやらんと皆心中だからな。やるしかないって使命感がそれを超えてる」
「使命感か……」
「要するに、皆で生き残るために1人1人が各々の役目を果たすしか無くて、俺の場合はたまたまそれが『お役目』だったって事。逃げられるもんでもないしな」
「なるほどな……。ふま兄、随分と大人になっちったな。もちろんいい意味で」
そんな事を話しているうちに、鏡家の前に到着した。一軒家ではあるものの、鷲尾邸や乃木邸とは異なりごく普通の一般家屋という広さ。2階建の建物に小さい庭が付いた程度のものである。
「じゃあまた」
「うん。また」
光安と別れ、話した内容を思い出しながら1人帰りを急ぐ。
(そういや父さん、光安にはお役目の中身を話してもいいと言ってたけど、どういう事なんだ?学校の友達には言っちゃダメらしいけど……)
彼が何か特別な立ち位置にいるのか。それとも、幼馴染という事で厚遇してくれているのだろうか。
(お役目の根幹に関わる事だから、大赦が絡んでるのは間違いないんだろうけど……)
だがどこまで考えようがあくまで想像の域を出ない。疲れた脳を無理に回転させる事を止め、歩く事に集中した。