花は散れども舞う風は   作:PP

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木曜日の夜くらいに上げるつもりが、本文があれよあれよと長くなり土曜夜にまで延びました。
毎日投稿されてる方とかいらっしゃいますが、どんなスピードで文章錬成されてるんですかね......ただただ尊敬。


第7話「亡霊」

(こんなに地図を頼もしく思ったのは初めてかもな)

 

遠足帰りのバス車内。外の景色が流れていくさまをぼんやり見ていると、突然車窓の風景が停止し樹海化。ため息をつきながら勇者アプリを起動させるも距離の離れた大橋は見えず、今こうして地図で大橋の方向を確認しながら向かっているところだ。

 

(お、アレだな。もう地図はいいか)

 

ぼんやりと淡い光を放つ大橋を視界に捉えたところで端末を懐にしまい、速度を上げる。心の中には2つの考えが渦巻いていた。

 

(3人は無事なのか……?)

 

(いや、そろそろお役目にも慣れてきた頃だ。既に終わらせてるかもしれない)

 

不安と期待。表裏一体の2つの感情は、橋の姿がクリアになるにつれますます大きくなる。

 

(……ん?)

 

異変を感じたのは、戦闘音が聞こえる距離まで近づいた頃だった。

 

(何だあれ…2体いないか?)

 

向かって手前に1体、壁側に1体。大橋上部から突出して見える頭部の位置からの判断だ。戦場となっているであろう場所の状況は、残念ながら完全には見えない。

 

(安心要素ゼロかよ…不安しかねぇ!)

 

まずは手前の敵にフォーカスを当てつつ、全貌を把握。その後不利な方に加勢し、有利な状況を作っていつもの様にラッシュに持ち込む。頭の中で作戦を組み立てながら、一層距離を縮めていく。だが橋が近づくにつれ、かろうじてゼロを指していた安心要素の針はマイナスに振れていった。

 

「は、3かよ」

 

ため息混じりに漏れ出た声。前衛の2体が視界に一直線上に並んでいたのを誤認したのだろう。

 

(すぐ行く……!)

 

大橋の正面は経由せず、神樹の根を伝って最短ルートで向かう。橋の左側から戦場へ侵入すると、前衛の左側にいる反射板を装備した個体に対して勢いそのままに仕掛けた。

 

「おおりゃあああ!!」

 

衝撃で少し敵が傾く。勢いがある分効いている。反射板に着地して向きを変え、逆方向からもう一閃。

 

(体制が崩れた!今のうちに……!?)

 

今のうちに3人と合流しよう、という考えはすぐに消し飛んだ。見る限り勇者は1人———赤い、赤い、勇者。

 

(銀、お前……1人で3体を?須美と園子は?)

 

浮かぶ疑問。だが余計な事を考えている暇はない。

 

(銀との意思疎通ができればいいけど、この状態じゃ下手に話しかけても銀の隙を作るだけ。だったら先に、敵さんの隙を作ろう)

 

もう片方の前衛個体に対して、銀が上部の顔らしき部分に攻撃を加えているのを確認し、液体の溜まっている部分に狙いを定める。銀を狙う矢の雨の流れ弾を食らうのは必至だが、構わない。

 

「そこが急所なんだろっ!!」

 

先程同様に、スピードをつけて勢いに乗せた斬撃を加える。

 

(どうだ……!)

 

効き目を確認しようと振り返ったと同時に、右足のすねを赤い矢が貫いた。右足が、黄色い勇者服には不似合いな紅黒さに染められていく。ジクジクと焼かれる様な痛みが襲ってくる。

 

(ぐっ...でもこのくらい、アイツに比べれば!)

 

その時、銀に対する尻尾の突き攻撃が一瞬鈍くなったのが見えた。その刹那、痛みに耐えながら叫ぶ。

 

「銀!!一旦引くぞ!!立て直す!!」

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

戦況の立て直しのため、大橋の入り口よりさらに手前、神樹の根の上まで後退した。無我夢中で攻撃し続けていた所に風馬の声が聞こえ、提案通り一時撤退したという訳だ。

 

「銀」

「ちょっと…無理しちゃったかも」

「ちょっとどころじゃないだろ。須美と園子は?」

「今はちょっと休んでもらってるだけ」

 

まともに攻撃を食らって戦闘不能、とは言えなかった。そう言ってしまうと2人がもう帰って来ないような気がして。

 

「休んで……そうか……」

 

風馬の視線が下がる。心配させまいと無理して笑顔を作ったが、やはり限界はある。言葉にこそしないが、もう分かってしまったに違いない。しばらくの沈黙の後、彼が発した言葉は。

 

「分かった、ありがとう。後は引き受けるから休んでてくれ」

「うーん、悪いけど…それはできないかな」

「でもその傷でどうしようってんだよ」

 

ただでさえ赤がモチーフの勇者服は、もはや白い部分が残っていない程には真っ赤だった。全身傷だらけ、という表現そのままの状態。だがこちらも勇者としてのプライドがある。

 

「それは風馬も似たようなもんだろ。右足庇ってるの、知らないとは言わせない」

 

見れば誰でもそれと分かる、黄服に垂れる赤色。すねをやられたとあっては歩くのも苦痛になるだろう。

 

「俺のは大した事ないって。でもお前は…」

「そんなの関係ない。アタシらはやらなくちゃならないんだ。だって…勇者だから」

「……けど」

「そんなにアタシが信用ならない?」

 

心配してくれるのは確かに嬉しい。だが戦いとなれば話は別だ。戦いにおいて、自分が戦力として見られない事ほど屈辱的な事は無い。

 

「っ、そんな事は」

「なら…いいよな?」

 

言葉を遮り、多少強引に思いつつも了承を取り付ける。

 

「……分かった。その…悪かった」

「別に良いって。気を遣わせるくらいに無茶した自覚はあるし」

「ありがとな。耐えてくれて」

「全然、4人で帰るためならこのくらい。さっきついた傷もだいぶ治ってきたし、まだまだ動ける」

 

(半分嘘だけど。まだ動ける、これは本当。でも傷の方は、多少治ったけどまだキツイんだよなぁ……)

 

それでもそう言い放ったのには理由がある。1つは自分を奮い立たせるため。そしてもう1つは。

 

「おいおい…まあ、適度に頼んだよ」

 

彼に戦力として信用されたい、という気持ち。

 

「適度に、ね。考えとく」

「考えとく、か…やっぱ信用できないかも

「今何て?」

「なーなな何でもない。ただ、俺もお前ら3人と一緒に帰りたいってだけ。それだけだから」

 

風馬はアタシに生きててほしいと願っている。アタシが彼に対してそう願うのと同じで。

 

「生きて帰るぞ。必ず」

 

その言葉を合図に、再び前線へと跳躍する。

 

「銀、奥のアレを先に仕留めたい。今の状態だと俺の方がスピードは出るから自分が行こうと思うけど…手前で足止めできる?」

「3分。3分だけなら...正直ちょっとキツイし」

「3分了解。頼んだ!」

 

スピードを上げる風馬をのんびりと見送ってから足止めに入りたいところだが、そうは問屋が卸さない。手前の2体もまた彼の足止めに入る。そのための前衛だ。

 

「お前らの相手は…こっちだ!」

 

2丁の斧を振るい、とにかく手当たり次第に仕掛ける。今は気を引く事だけ考えれば良い。

 

「それはさっきも見た!」

 

2体は持ち前のハサミと巨大尾で叩きつけ・突きといった攻撃を繰り出すが、そこは先の戦いで予習済み。攻撃軌道を読みながらかわしあるいは流し、カウンターを入れていく。

 

(風馬は…そろそろ突破できたな)

 

勇者サイドの前衛は敵の懐に潜り込めた。ならば次は、前線の後退を抑える段階。この作戦の心臓とも言える最重要部分だ。ここを耐えきれば勝機はある。

 

「まだ行けるよな…アタシの体っ!」

 

近接型の勇者システムのため、回復能力は他のメンバーに比べて高く設定されている。だがいかに傷を治そうとも、持久戦となれば体力の限界という問題が浮上する。

 

(敵さんの攻撃もパターン化してきたな…後は気力勝負!)

 

交互に飛んでくるハサミと巨大尾の攻撃に対し、下がっては攻め、下がっては攻めの繰り返し。相手に合わせて自身の動きもパターン化してしまってはいたが、致命傷クラスの攻撃さえ食らわなければ良いのだ。1人の人影が攻勢をかけているのが遠くに見える。

 

(あと少し…あと少しで……!?)

 

ふと上に目をやると、白い ”何か” が接近してくるのが見えた。だがその距離およそ10メートル。その ”何か” を避けるには、あまりにも遅すぎた。

 

「っあ……あぁ……」

 

右脇腹に突き刺す様な痛みが走り、体が “何か” の動く方向に引っ張られる。

 

(痛っ、何だよこれっ!)

 

そしてズン、とどこかに刺さった様な感覚を感じた。

 

(これにやられたって事か…)

 

「自分に矢が刺さっている」と言うよりは「矢に自分が刺さっている」と言った方が適切かもしれない。仰向けに四肢を投げ出し、脇腹を貫通して地面に刺さった矢に無理矢理宙に浮かされている状況。

 

(こんな所で終わる訳には……いかないんだ……)

 

矢を折ろうとして武器を探すが、いつの間にか手放してしまったらしい。どこに行ったのか分からない。

 

(頼むよ……動いてくれよ...…アタシの……から…だ……)

 

だが想いとは裏腹に、徐々に全身の感覚が失われていく。

 

(やくそく…まも……れな……ごめ……)

 

閉じた目からこぼれた水滴が、顔に2筋の跡を作った。

 

 

 

 

 

* * * * * *

 

 

 

 

 

去り際に放たれた矢の行き着く先を見た俺は愕然とした。最後の一撃とばかり放たれた1発限りの遠距離狙撃は、標的を寸分違わず貫いていた。神樹の根に刺さった特大の矢の真ん中辺りに、赤い色が見える。

 

「は?何だよそれ」

 

異常とも言うべき攻撃の兆候は、無い訳ではなかった。ラッシュをかけ始めてから、押し負けた敵が後退を始めるまでの約1分もの間、そのバーテックスは全く矢を放たなかったのだ。彼の専門にも関わらず、である。

 

(まさか狙っていた……?)

 

残りが2人と言う状況下では、弱っている方を倒して数的有利を作るのがセオリーだ。となれば普通は、2人のうちで万全に近い自分が2体を相手する方が良い。だが今回は敵を1体確実に減らすため、確実に攻勢に出られる自分が前に出て先に1体を仕留める、という判断をしたのだった。

 

(裏目に出た…のか?)

 

攻勢が必須の前衛ではなく、耐えさえすれば良い後衛を銀に任せる。間違いではなかったはず。

 

(間違えた?俺が?)

 

(なぜ?どうしてこうなった?)

 

(誰だ?誰のせいだ?)

 

(いやお前だよな?仲間の状態を正しく把握できないくせに自身は調子良く突進し挙句三ノ輪銀を危険に晒したそこのおま)

 

「うわああぁぁぁぁ!!!!」

 

怒りが湧き上がる。銀を瀕死状態にしたバーテックスへの怒り。そうなる前に決着をつけられなかった、不甲斐ない自分への怒り。

 

「おおおおぉぉ!!」

 

怒りに身を任せた渾身の一撃。矢を射出する顔部分に、薙刀を左上から右下へと振り下ろす。弓兵バーテックスは、受けた衝撃そのままに押し出されるかのごとく退いていった。

 

(後2体…)

 

橋の入り口にまで到達している前衛2体。そこへ向かおうとして地を蹴ったその時、どこからかドスの効いた声が聞こえた。

 

『アレが憎いか?』

「……」

『おい』

「誰だよ。どこから喋ってる」

『俺はまぁ精霊みたいなもんだ。あ、周り見てもいないぞ。お前の脳内に直接話しかけてるからな』

「精霊?バカにしてんのか」

『そこはどうだって良い、今はここを切り抜けるのが先決。して、答えは?」

「そんなもん憎いに決まってる」

 

ゆっ●り実況動画の低い声を彷彿とさせる声の主は、どこから見ているのかあるいは感じ取っているのか、俺の状態を把握しているらしい。手玉に取られている様な感覚が一層イライラさせる。

 

『ならその憎しみに身を任せろ。んで———』

「いやまさに今その状態なんだが?黙ってろよ」

『人の話は最後まで聞け。それで紫の球をイメージしろ』

 

頭の中に紫の炎の様なイメージが流れ込んでくる。人魂、というやつだろうか。

 

「そんな茶番で勝てりゃ苦労しねぇよ。邪魔すんな」

『状況を見ろ。勇者は残り1人で手負い。敗色濃厚だろう。一発逆転の方法があれば、俺なら賭けるが』

「一発逆転......?」

 

確かに状況は最悪だ。1体を退けた体で追加で2体相手するのは至難の技。それも、押し返して撃退せねばならない。

 

(どうせ勝てる望みが薄いのなら…)

 

少しでも、望みのある方を。

 

「……分かった。勝てるんだなそれで」

『勝てる。アレを潰すぞ』

 

大橋の入り口を過ぎ、進み続ける前衛2体に追いついた。所々で神樹の侵蝕が始まっている。

 

「お前ら、絶対に許さねえぇぇぇ!!」

 

先の紫のイメージを頭の中で再現する。黄色の勇者服に紫の線が走り、薙刀の先端にも紫炎が灯った。

 

 

『上手くいったな。ここからは俺が…』

 

 

 

力がみなぎるのが分かる。だが体の感覚がおかしい。さっきまでとは違う。まるで別の人が体を操っている様な———

 

 

 

 

「引き受けるッ!」

 

 

 

 

 




「紫の炎」は、モンハンライズに登場するマガイマガドの鬼火をイメージして書きました。
表現不足の気はしていますが、なかなか良い言の葉が思い浮かばず。無念です。
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