ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
「私、今…日本一幸せですっ!」

メインストーリーを見て、スペへの想いが溢れたので
甘々スペちゃんが書きたかっただけなんだ……


〈スペシャルウィーク〉
日本一のお嫁さん(予定)


「お帰りなさい!トレーナーさん!」

「えっ、スペ?」

「ご飯にしますか?お風呂にしますか?それとも私ですか?」

 

……理解が追い付かない。

仕事帰りで回らない頭を抱えつつも、状況を整理する。

 

俺の家の合鍵を持ってるスペが家に居るのは百歩譲ってわかることにしよう。もう門限過ぎてるけど。

 

エプロン付けてるのもわかる。

料理してたんだろうなってわかるし、実際にご飯の香りもするし。

 

「なあ、スペ?その三択の意味わかってるのか?それにその勝負服はなんだ?」

 

いつも通りの真っ直ぐな笑顔で新婚三択を尋ねてくるのはよくわからない。こういうのは照れるのが王道ではなかろうか。

スペのことだから、意味はよくわかってないけど、テレビとか本で見たから言ってる可能性が高い。

 

エプロンの下が勝負服なのもわからない。

しかも、いつもの白と紫の勝負服じゃなくて、年度代表ウマ娘に選ばれた時に貰った赤を基調とした"日本総大将"の勝負服だ。

レースの時以外に勝負服を着るなとは言わないが、今俺の目の前に居るエプロン姿の"日本総大将"はあまりにも場違いだ。

 

「えっと、このセリフはセイちゃんに『トレーナーさんが喜んでくれる』って聞いたので言ってみました。トレーナーさんもお仕事で疲れてるでしょうし、ご飯とお風呂の準備なら私もできますから!」

 

フフンと自信満々の顔でスペは語る。

やっぱり『新婚三択』ってことは知らないらしい。

 

後に続いた「『私』って言われたら何をすればいいですか?ハグとか?」という言葉は聞かなかったことにする。

相変わらずそっち方面の知識には(うと)いみたいだ。

頼むからそのままの君でいてくれ。

 

「勝負服はキングちゃんが『トレーナーの家に行くなら勝負服で行くべき』って言ってたので、勝負服で来ました!」

 

……キングが言ったのは『レースの勝負服』じゃないと思うぞ。

 

「それに今日はトレーナーさんの"日本一のウマ娘"になりに来たので、これにしました!」

「俺の"日本一のウマ娘"?」

「はい!トレーナーさんの恋人として"日本一のお嫁さん"になります!」

 

……日本一のお嫁さんとはまたスペっぽい目標だ。

というか、『恋人』から『お嫁さん』って結構飛躍(ひやく)してないか?

いや、俺もスペと別れる気なんて毛頭ないけどさ。

 

「さあさあ、トレーナーさん!早くご飯食べましょう!私、もうお腹ペコペコなんですよ!」

「わかったわかった。着替えるから待って」

「あ!スーツは私がかけます!」

「ありがとう」

 

駆け寄って来たスペに慣れない手付きでスーツを脱がされ、笑顔で見送られながら、そそくさと自分の部屋へと入った。

 

着替えを済ませリビングに入ると、そこには既に所狭しと料理が並べられていた。

 

「シチューにハンバーグ、ムニエル、卵焼きもありますよ!」

「どれも美味しそうだな」

「えへへ。この日のために、みんなと練習してきましたから!」

 

今挙げられた物以外にもオムレツに鶏の唐揚げ、肉じゃが、サラダにご飯もある。

 

……多くない?

いや、スペが居ることを考えると少ないのかもしれないけれど、独身の成人男性の感覚からすると異様に多く感じる。

 

「みんなで練習した料理、全部作っちゃいました。冷めない内にいただきましょう!」

 

今にも食べ始めそうな雰囲気のスペに影響されたのか、俺のお腹の虫がグゥと鳴き、途端に猛烈な空腹感を覚える。

 

「トレーナーさん!早く早く!」

「はいはい」

 

(うなが)されるままに、とっくに配膳を終えて席に着いているスペの反対側に座る。

今にもよだれが垂れてきそうなスペの顔にホッコリとしながら、スペが両手を合わせるのに釣られて、俺も両手を合わせる。

 

「それでは!いただきます!」

「いただきます」

 

まずはサラダから手をつける。

透明感のある濃い茶色のソースがかかったチキンサラダだ。

 

「お醤油のソースにしてみました!どうでしょうか?」

 

鶏肉とレタスを箸で挟み、口に運ぶ。

シャキっとみずみずしい音をたてレタスが割れる。

香ばしい醤油の味と香りに包まれた蒸し鶏はさっぱりとしていて、前菜として申し分ない。

 

「美味しいよ。スペ」

「本当ですか!?たくさんありますから、じゃんじゃん食べてくださいね!」

 

取り皿に山のように盛られる食事を前に、どうしようかと苦笑いしつつも、久しぶりに誰かと囲む自宅での食事に、どうしようもなく目頭が熱くなるのだった。

 

 

 


 

 

 

「お風呂は沸かしてあります!えっと、私、トレーナーさんの背中を流してみたいので、水着を着てお風呂に入ってもらってもいいですか?」

 

……誰だ『背中を流せ』とか吹き込んだヤツは。

大方すごい頻度でお泊まりに行ってるセイだろうけど。

 

「スペ、流石にそれは……」

「ダメ、ですか…?」

 

ウルウルと目を潤ませて、こちらを(うかが)うスペに謎の罪悪感が湧いてくる。

水着を着ていても一緒にお風呂はダメ、という言葉はそれだけで言えなくなってしまう。

我ながら意志薄弱だとは思うが、学園でもスク水姿はよく見ているので問題ないと自己弁護させてもらおう。うん。

 

「……わかった」

「ありがとうございます!」

 

パァっと明るくなった恋人の顔に、思わずこちらまで笑顔になってしまうのだった。

 

 

 

「失礼しまーす!」

「……。」

 

ガラッと開いたお風呂の扉の外。

湯船から湯気越しに見えるそこにはなぜか黄色いビキニ姿のスペが。

 

なんで?と頭の中がハテナマークでいっぱいになるが、よくよく考えてみれば『水着を着て』とは言われたが、スペが何を着てくるかは言われていない。

いつの間にか勝手にスク水だと思い込んでいただけだ。

 

そこまで考えて、次に思ったことは『裸じゃなくて良かった』という教育者としての安堵と『裸じゃないのか』という男としての落胆だった。

 

俺だってトレセン学園のトレーナー以前に男だ。

好きな子と一緒にお風呂なんてシチュエーションにドキドキしない訳がない。

ましてや恋人のスペはスタイルの良い美少女だ。

そんな子と一緒のお風呂なら、ちょっとくらい下心がある方が健全な男子だろう。

「お邪魔しまーす!」

今だって目の前にある尻尾とお尻に目を奪われて……

 

尻尾とお尻…?

 

「ちょっと待った!スペ!」

「はい。なんでしょうか?」

 

すんでの所で俺の膝の上に座ろうとしていたスペを止めることができた。

 

「膝の上じゃなくて、そっち側に座ってくれ」

「えっ、私はトレーナーさんの膝の上の方が「そっち側に座ってくれ」

「……わかりました」

 

脚を曲げてスペが座れるスペースを確保する。

うちの湯船は少々狭いが、二人並んで座れるくらいの広さはある。

不満気な顔で向かい合うようにスペは渋々と湯船に身を沈めた。

 

「背中は絶対に流しますからね!」

「わかってるよ」

 

二人でお風呂に入る理由が『背中を流す』だったからな。

ただ、今も目の前にある胸の谷間から目が離せない自分が情けない。

 

「……触っても、いいですよ?」

 

俺の視線に気付いたスペが恥ずかしそうに顔を逸らしながらささやく。

顔は逸らされたが、胸の方はむしろ触ってくれと言わんばかりに両腕で挟まれ強調されている。

 

気付いた時には無意識にその双丘へと手を伸ばしていて……

 

「……スペ、背中を流してくれないか?」

「……え?あっ、はい!」

 

理性を総動員し、なんとか伸ばしていた手を浴槽の(ふち)へと移動させる。

そのまま勢いよく体を湯船から引き上げる。

 

……危なかった。

取り返しのつかないことをする前に止まれてよかった。

……スペが残念そうな顔をしていたことは見なかったことにする。

 

バシャバシャと音をたて浴槽を出ると、それに続いてスペもチャプチャプと音をたて出てくる。

 

椅子に腰掛け、石鹸を(つか)むのと、視界内に白い腕が二本現れ、背中で何か柔らかいものが二つムニュっとつぶれるのはほぼ同時だった。

 

胸の前で組まれる腕をやけに冷静に見ながら、のぼせた頭でセクハラにならないように言葉を選ぶ。

 

「……スペ、当たってる」

「えっと、こういう時は……当ててるんですよ?」

 

……誰が吹き込んだんだ、そんなセリフ。

マルゼンスキーか?

 

耳元でささやかれる言葉にも吐息にもガリガリと理性を削られる。

でも、俺は彼女のトレーナーだ。

 

「……スペ「トレーナーさん、私たち、恋人、ですよね?」

 

悲しそうなスペの声がささやく。

 

「その……大人だからって、ガマンしてたり、しませんか?私だって、その……もっと恋人らしいこと、してみたいんですよ?」

 

状況から察するに『もっと恋人らしいこと』とは、まあ、そういうことだろう。

 

「ここには私たちしか居ませんよ?だから「スペ」

 

だから、俺は……

 

「確かに俺は大人だからガマンしてる。もっと恋人らしいこともしたい」

「じゃあ…!」

「だから、スペが卒業してから、真剣にスペと向き合いたい。欲望のままにってのは、こう……不真面目な感じがするからさ?」

 

だから、俺は偽らざる本心を語る。

まとまりのない、うまく言葉にできない本心を。

 

『卒業してから』というのは逃げ口上だろうか?

『真剣にスペと向き合う』ってのもフワフワとしている。

『不真面目』と表現したが、もっと相応しい言葉があるはずだ。

 

それでも、思いの(たけ)を伝える。

君の気持ちを(ないがし)ろにしてる訳じゃないと伝わるように。

 

「だから、もう少しだけ一緒に、この先に進むのは待ってくれないか?」

「……そんな状態で言われても格好がつきませんよ?」

「ッ! これは生理現象だからっ!」

「……わかりました。今は背中を流すだけにしておきます」

 

俺の手から石鹸を取り上げ、スペが背中から離れる。

……柔らかい感触が離れていくのを残念だと思ってしまう俺は、やはり意志薄弱なのだろうか。

 

「トレーナーさん、一つお願いしてもいいですか?」

 

 

 


 

 

 

「トレーナーさん!早く早く!」

「いやぁ……やっぱり同衾(どうきん)はマズいんじゃないか…?」

 

とっくに布団の中に入ってスタンバイしているスペが、ポンポンと布団を叩いて待っている。

 

結局俺は、お風呂での『添い寝したい』というスペのお願いを断り切れなかった。

 

絶賛後悔中なのだが、やっぱり意中の女性と同じ寝具に入るというシチュエーションに興奮している自分もいる。

 

「えへへ♪暖かいですね!」

 

これくらいなら許されるだろうと強引に自分を納得させ、布団へと入ってしまった。

 

入った途端にスペの両腕に絡め取られ、胸板にスペの頭がグリグリと押し付けられる。

ちょっと痛いが、なんとも言えない幸福感があり、思わず頭を撫でてしまう。

 

「トレーナーさん、実は私、不安だったんですよ」

 

さっきまでの上機嫌な声とは打って変わって、沈んだ声で俺の胸に顔を押し付けたままスペは話し始めた。

 

「トレーナーさんに告白して、想いが通じて、恋人になったのに、恋人らしいことをあんまりできてないじゃないですか」

「それは……」

 

それは『ダービーウマ娘だから』『日本総大将だから』『学生だから』

今まで使ってきた言い訳が無数に浮かんでくるが、口をつぐむ。

スペが求めているのは、そういう理屈じゃないと察して。

 

「やっぱり子供として見られてて、私には魅力がないのかなって思っちゃったんですよ」

「それは違う」

 

今だってドクドクと心臓が普段より早いビートを刻んでいるくらいには、スペに魅了されている。

胸に顔をつけているスペにも聞こえるはずだ。

 

子供として、教え子として、一線を引くことができればどんなに良かったかと、トレーナーとして何度も悩んだものだ。

皮肉にも、その悩みは結局スペの告白という形で解決してしまったのだけど。

 

「お風呂でのお話でわかったんです。あなたは、本当に私のことを想って、待ってるんだって。言葉じゃなくて、想いが伝わってきたんです」

「スペ……」

「だから、私も、トレーナーさんを信じて待ちます。あなたの"日本一のウマ娘"になれる日を!」

 

顔を上げてこちらを見つめる、黒鹿毛に白い流星がトレードマークの想い人は、赤い頬にキラキラ光る瞳をしていて、相変わらず元気で、ひたむきに、夢をまっすぐに追いかけていた。

 

「"日本一"じゃなくて"世界一"だよ、スペ」

「えっ」

「世界中の誰よりも君のことが好きだよ」

「もう!それなら私は"宇宙一"あなたのことが好きです!」

 

そんな他愛のないお喋りで互いの愛を再確認しながら、夜は更けていくのであった。

 

 

 

 

 

ちなみに、真夜中に寝相の悪いスペにジャーマンスープレックス(もどき)を食らって叩き起こされたのは、ここだけの話。

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