ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
すり抜けてきたSSRマックイーンにやられました
おかげで当初のコメディ多めのプロットは一割も残ってないです


貴方は私の

「あのっ!メジロマックイーン先輩のトレーナーさんですよね!?この後お時間ありますかっ?!」

 

「マックイーンさんのトレーナーさんですね?今から私の走りを見てくれませんか?」

 

「トレセン学園のトレーナーさんですよね!?スカウトしてくださいっ!」

 

こういう手合いはまだいい。

 

「ごめんね。この後は予定があって……」

 

「えっと、また時間がある時でいいかな?今急いでて……」

 

「今の担当で手一杯だから……」

 

妥当な理由や断り文句で引き下がってくれるから。大抵は後日トレセン学園内で簡単な指導をしたり、他のトレーナーの紹介を入れるのが常だ。

 

 

 

「そこのお兄さん、ひとり? 良かったらアタシたちと遊んでくれない?」

「友達と待ち合わせしてたんだけど、ブッチされちゃってさー」

 

こういう手合いは本当に面倒だ。

 

「今急いでるんで」

「そんなこと言わずに、ね?」

「あなた達に興味が無いんで」

「つれないこと言わないでよー。折角のいい男が台無しよ?」

「台無しでいいんで、他の人を見つけてください」

「待って待って、お茶くらいいいでしょ?」

 

きっぱり断っても食い下がってくることが多い。心底面倒だ。サマーウォークの下見だからって油断していたが、一人で行動しないで他にも何人か連れて来るべきだった。

 

「あら、トレーナーさん」

 

背中に掛かった馴染み深い声に、反射的に振り向いて返事をしようとして、絶句する。

 

「こんなところで出会うなんて奇遇ですわね」

 

夏物の制服を着こなし、余所行きの微笑みを浮かべ、声音こそ平静を(よそお)っているが、目が全く笑っていない。耳も限界まで絞られている。彼女のことをよく知らない人が見ても分かるくらいのブチ切れ具合だ。

 

それに気付かない察しの悪いやつが一人。

 

「えっ、メジロマックイーンじゃね?ファンですー。写真撮っていいですか?」

「ちょ、ちょっと、あんた……」

「申し訳ありませんが今はプライベートですので」

「し、失礼しました!応援してます!さよなら!」

「えっ、ちょっ」

 

あまりに冷たい対応で流石に可哀想だとは思うが、虎の尾ならぬウマ娘の尾を踏んでいる以上、仕方のないことだろう。そう自分を納得させる。

 

「トレーナーさん」

 

普段通りの声音、あるかないかの微笑。だが、少しキツい視線だと感じるのは気のせいではないだろう。

 

「なんだい?」

 

努めて穏やかに返す。触らぬ神もとい触らぬウマ娘に祟りなしだ。

 

「私に付いて来てください」

 

有無を言わさぬ口調。こちらの意思を確認せずに彼女は普段より幾分(いくぶん)早い速度で歩き出す。

 

「わかった」

 

一も二もなく(うなず)いて追いかける。

ここで置いていかれると後々が怖い。

 

黙々と二人で歩く。

なんとなく前を行く背中に声を掛け辛い。

 

目指す先には見覚えのある黒い高級車と執事さん。

 

「じいや、あれを」

「畏まりました」

 

そして差し出される紙袋。

 

「こちら、トレーナー様のお召し物です」

「ありがとうございます?」

「車内でそちらに着替えてくださいまし」

「……わかった」

 

聞きたいことは沢山あるが、マックイーンの(まと)う雰囲気がそれを許してはくれない。たとえ耳を絞っていなくても不機嫌なことくらいは目を見ればわかる。

 

言われた通りに車へと入り紙袋を開く。中身は半ズボンタイプの水着とシャツが一枚。服飾に興味の無い俺でもブランド名から高級品なのがわかる。

 

これを突き返しても何も始まらないので黙って着替える。

 

「マックイーン、着替えたよ」

「私の見立て通りです。素敵ですわ、トレーナーさん」

 

やっと機嫌を直してくれたようでマックイーンが眉尻を下げてくれる。

 

「では、私も着替えて参ります」

 

覗かないでくださいよ?と付け加える彼女は本当に上機嫌だった。

 

 

 

 

 

 

ほどなくしてマックイーンはいつかのサマーウォークで着ていた水着に着替えてきた。

 

「いかがですか?」

 

相変わらず露出が多くて目のやり場に困る。前にお腹は隠れるデザインにしたと言っていた気がするが、上に羽織っているチュニックはシースルーだから(うぐいす)色のビキニも彼女の白い肌も何も隠していないのが余計に背徳感を(あお)っている。

 

「似合ってるよ。とても綺麗だ」

「ありがとうございます。お上手ですわね」

 

上機嫌だった先ほどとうってかわって、不満げな声と表情が返ってくる。セリフの選択を間違えたか…?

 

「……さて、着替えも終わりましたし、海までエスコートしていただけませんか?」

「……喜んで。お嬢様」

 

期待に満ちた視線を前にして俺に選択肢は無かった。

 

 

 


 

 

 

「えいっ!」

「冷たっ!?」

 

夏日の(きら)めきのもとに、水飛沫(しぶき)が宝石のように(またた)く。

 

貴方は気付いているのでしょう?この不意打ちはただの八つ当たり。そうではないと知りながらも女性と話しているというだけで嫉妬した私の幼稚な独占欲。

 

身を包む(よそお)い全てを私が選んだ物にしたのも、貴方は私のものだと主張したい(いや)しい私の独占欲。

 

だからこそ貴方には絶対に言えない。

 

「くっ…やったな、マックイーン!」

「貴方の水鉄砲も用意してありますわ!いざ尋常に!」

「おりゃぁ!先手必勝!」

 

貴方の水鉄砲を用意したのも私の自己満足。子供らしく貴方と二人だけの海岸で、一夏の思い出を作りたかっただけ。

 

メジロ家のプライベートビーチではなくサマーウォークで訪れる海岸を選んだのも私の自己満足。わざわざ二人きりになれる場所を下調べしておいたのもそう。

 

メジロでも担当ウマ娘でも、ましてやマックイーンでもなく、ただの私として、貴方と一緒に遊びたかっただけ。

 

「追いかけて来てくださいね?」

「あー!もー!手加減してくれよ!」

「ふふっ♪もちろんです!」

 

まるで映画のワンシーンのように貴方と二人で海岸を走ったり、

 

「このジェラート美味しいですわよ!一口いかがですか?」

「じゃあ、こっちのコーヒーフロートも一口どうぞ」

「言質取りましたわよ!では遠慮なく…あーん…」

「マジか」

 

アイスクリームを食べさせあったり……

 

私欲まみれの夏ですが、貴方と過ごした夏はきっと、結果がどうであろうと、いつ思い出しても美しいものですわ。

 

「トレーナーさん」

「なに?」

 

少しだけ前を駆けて距離を取る。貴方の顔をよく見たいから。

 

「お慕い申し上げております」

 

だって貴方は私の初恋の人ですから。

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