ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
掛かり気味で攻め攻めのルドルフ概念

会話を増やし場面描写を減らす習作


"私の"トレーナー君はチーム全員に狙われている

「───という感じで、今月、六月の間は全員軽めのトレーニングにして疲労と負担を減らしつつ、(きた)る夏合宿に備えて熱さに慣れていこうと思う。

 僕からは以上だ。何か質問はあるかい?」

 

方針を言い終わったトレーナー君が部屋全体を見渡し、チームメンバー全員の意思を確認する。

 

全員に異論がないことを認識した彼は一つ柏手(かしわで)を打ち、改めて注目を集める。

 

「じゃあ、今日のミーティングはこれでおしまい。お疲れ様でした」

 

「お疲れ様でした」と私を含めた幾つもの声が上がり、我々チーム〈サビク〉の面々は各自行動を開始する。

 

「今日の夕飯だ。明日の朝食は貴様の家で作るつもりだ。前回買った食料はどのくらい残っている?」

「うーん。パンと卵は残ってたよ。それ以外は思い出せないや。いつもごめんね、グルーヴ」

「たわけ、謝るより先に自炊する時間を作れ」

「それはなかなか難しいね」

 

何食わぬ顔して明日の朝から彼の家にお邪魔することを約束しているエアグルーヴ。

 

「おい」

「了解。ソファでいい?」

「ん」

「オーケー。パソコン持って行くからちょっと待ってね」

 

必要最低限の会話で(少なくとも私には理解不能な会話だ)トレーナー君に膝枕を催促するナリタブライアン。

 

「紅茶を淹れて来ました。お砂糖はいつも通りスプーン二杯分です」

「ありがとう、アリス」

「……頭を撫でれば喜ぶと思ってませんか?」

「あ、ごめん」

「撫でないで、とは言ってません」

 

頭の上から逃げようとする彼の手を慌てて留める、今年デビューする新進気鋭の小柄な鹿毛のスプリンター、オルギアリス。

 

「トレーナーさん、お仕事でお疲れではありませんか?」

「今日はまだ大丈夫だよ、ディーバ、ありがとう」

「わかりました。マッサージが必要であればいつでも(おっしゃ)ってくださいね?」

 

最近トレーナー君にマッサージをするようになった、既にダート重賞での勝利経験がありチーム期待のクラシック級、長身尾花栗毛のカランディーバ。

 

要するに、トレーナー君はチームメンバー全員に異性として好かれているのだ。

 

もちろん、私も例外ではない。

 

「ルドルフ、腕から離れてくれない?仕事出来ないんだけど……」

「君も少しくらい休憩してもいいだろう?私の記憶が正しければ今日の君の始業時間は「分かった分かった。僕の負け、休憩するよ」

「うむ。そういう素直なところも好きだよ」

「またまたー」

 

そして、私が取る手段は単純明快、明らかに近い距離感で一途に『好き』と告げるだけだ。

 

「私達学生とも対等に接する真摯な姿勢が好きだよ」

「そんなことばっかり言ってると勘違いしちゃうかもしれないよ?」

「私としては勘違いしてくれてもいいのだが?」

「そんなセリフはせめてお酒が飲めるくらいの年齢になってから言ってね」

 

……効果覿面(てきめん)とは決して言えないが水滴石穿(すいてきせきせん)だ。特に私にはチームメンバーの中で最古参というリードがある。

 

「ごめん、ディーバ、冷蔵庫にお菓子があったはずだから好きなの持って来てくれない?」

「はーい♪」

「飲み物も頼む」

「ブライアン! ディーバ、私も手伝う」

「……相変わらず騒がしいですね」

「私はこの喧騒も好きだよ」

 

その日の他愛もない時間は楽しく飲み食いしながら流れていったのだった。

 

 

 


 

 

 

翌日、私は少し遅めの休憩を取ろうとカフェテリアへと歩みを進めていた。まあ、自主的に息を入れようとしたのではなくエアグルーヴに『働き過ぎ』と追い出されたせいなのだが。

 

そんな人気のない時間に仕事が大好きな似た者同士が出会うのは偶然ではないのだろう。

 

「やあ、トレーナー君。奇遇だね」

「え? ああ、ルドルフか。君も休憩かい?」

「ああ、エアグルーヴに『働き過ぎ』だと追い出されてしまってね」

「あはは、君もか。僕も追い出された口だよ」

「君の謹厳実直なところは好きだけど、もう少し休みも必要だと思うよ。私が言えたことじゃないけれどね」

「いやぁ、止めどころがなかなか難しくてね」

 

他愛のない会話をしながら注文した軽食を受け取り、何食わぬ顔して彼の腕に体を押し付ける。

 

「さっきもキリのいいところまでやろうと思ってたんだけど、ディーバに怒られちゃってね」

 

相変わらずではあるが、私が勇気を出して『好き』と言葉にしたり体を押し付けたりしているのに、私の頬の熱さの一割も彼の頬には伝わっていない。

 

私はこんなにも熱を感じているというのに。

 

「トレーナー君、君のサンドイッチを少し貰ってもいいかい?」

 

食事中の歓談の合間を縫い次の策を仕掛ける。この朴念仁には攻めて攻めて攻めるしかない。恥じらっている時間すら惜しい。

 

「味見?いいよ。はい」

 

挙止進退のように口許にサンドイッチを運んでくるのはやめて欲しい。心臓に悪い。彼が食べさせてくれること自体はこちらとしても好都合なので断る理由は全くないのだが。

 

「ふむ。アクセントのホースラディッシュが美味しいね。風味も良いし癖になりそうな味わいだ」

「だね。コーヒーを飲み終わったら戻ろうか」

「そうだね。そろそろエアグルーヴもディーバも落ち着いた頃合いだろう」

 

そこで気が緩んだのが良くなかったのだろう。

 

「うおっ!?」

「トレーナー君!?」

 

濡れた床でトレーナー君がバランスを崩した。咄嗟(とっさ)に持っていたトレイを投げ捨てなんとか彼の腕を掴んだが……簡明直截(ちょくせつ)に言って力加減に自信がなかった。

 

このまま腕を引けばトレーナー君が床に激突せずに済むのは事理明白だ。だが、力任せに腕を引っ張った場合、彼が脱臼ないし筋肉を痛めるのもまた明白だった。

 

もう片方の手でトレーナー君を抱き止めようにも勢いが付き過ぎている。

 

迷いは一瞬。足を踏み切り、跳び付くようにトレーナー君を抱き締め、背中から受け身を取ろうと身を(ひるがえ)し……それを予期していた彼が更に(ひね)りを加えて私を(かば)って背中から落ちた。

 

「トレーナー君、大丈夫かっ!?頭は打ってないか?!体は動かせるか?!」

「大丈夫大丈夫。俺よりルドルフは?足を(くじ)いたりしてないか?」

 

いてて、と(つぶや)く彼の様子に異常が無いのを確認し少し冷静さが戻ってくる。トレーナーと担当ウマ娘の思考は已己巳己(いこみき)になるとよく言われているが、まさかお互いに庇い合うことになるとは。

 

「私は大丈夫だが……トレーナー君は本当に大丈夫なのか?君の大丈夫は信用ならないからな?」

「それは君もだろう?」

「……なら、二人仲良く保健室行きということでいいかい?」

「それでいいよ。僕もルドルフは保健室に行って欲しいし」

 

投げ捨てたトレイと食器には陶器やガラス製の物は無かったはずだから、申し訳ないが片付けは誰かに任せよう。こちらの方が喫緊の問題だ。

 

「じゃあ行こうか。トレーナー君」

「……いや、俺が君を運ぶよ」

「私の方が力も体幹も強いし、トレーナー君が庇ってくれたから私の方が軽症だ。それに私が運ぶ方が速い。何か反論は?」

「異論は認めないってのは分かったよ」

「話が早くて助かるよ」

 

許可も貰えたことなので苦笑するトレーナー君から降り彼の体を抱え上げる。

 

「……せめてお姫様抱っこはやめてくれない?」

「私だって一女学生として横抱きには憧憬を抱いているんだ。少しくらい練習させてくれないか?」

「憧れてるのは抱き上げる側なの…?」

「時にトレーナー君、転んだ時に服が濡れて不愉快じゃないか?」

「待て待て待て。器用なことするな。ここがどこか覚えてるか?待てルドルフ!」

 

 

 


 

 

 

「それで、何か釈明はありますか?」

「魔が差した。反省はしている」

 

溜め息を吐き二本の指で目頭を押さえるエアグルーヴを前に思わず苦笑が溢れそうになるが押し止める。今回は全面的に私が悪い。

 

「会長、あなたが"ただの"シンボリルドルフであったなら私もここまで詰問したりはしなかったでしょう」

「それはそれでどうなんだ…?」

「ですが、あなたはトレセン学園の生徒会の会長です。

 分かりますか?あなたの軽率な行動が招いた余波が」

「ああ、今まさに目にしているよ」

 

そして、今まさに後悔しているところだ。

 

「……あの、アリスどいて?ディーバも膝枕やめて?」

「……私だって抱っこくらいはしたいです」

「トレーナーさーん♪クッキーはいかがですかー?アリスちゃんもどう?」

「ブライアン、見てないで助けて」

「私の入れる場所はどこだ?」

「ブライアン!?」

「しょうがないですね……」

「よし」

「よしじゃないが?!」

 

単刀直入に言って、私自身の肩書き、影響力を無礼(なめ)ていた。

 

この『担当ウマ娘からの過剰な身体的接触の問題』は我らがチーム〈サビク〉だけではなく学園に所属しているトレーナーの半数以上から被害報告が上がっている。

 

しかも、その大半の申し開きとして述べられるのが『生徒会長シンボリルドルフもやってた』だ。そもそも私は事故で抱き合うことになった上に、その後のセクハラ疑惑のせいで一週間の謹慎処分になった事実を知らないのだろうか。

 

まさか、たった一度の浅慮な行動がこんなにも影響を及ぼしてしまうとは……

 

「ところで、エアグルーヴは……」

「する訳がないでしょう」

 

私の質問に被せ気味に即答したエアグルーヴは、ふうと一呼吸入れ、改めて背筋を伸ばす。

 

「女帝として、生徒会副会長として、過剰な身体的接触をするつもりはありません。それにあいつに相応しい女性として、今更色仕掛けに頼らないといけないような真似はしていませんから」

「相変わらず手厳しいな、君は」

 

少し棘があるように感じるが、淡々と述べるエアグルーヴからは単に事実を告げているように聞こえる。

 

それに彼女は着々とトレーナー君の胃袋を掴みつつあり、一方の私はエアグルーヴのような甲斐甲斐しさも、ブライアンのような甘え上手さも、アリスのような庇護欲をそそる愛嬌も、ディーバのような包容力も持ち合わせていない。

 

私に出来ることは彼との長い付き合いからくる信頼を活かした強引な攻めだけだ。

 

「ルドルフ!グルーヴ!助けて!」

 

切羽詰まったようなトレーナー君の声に、エアグルーヴと顔を見合わせて苦笑する。君は本当に女心というものを理解していない。

 

「さて、私も混ぜてもらうとしようか。生憎だが、私も君とのハグは大好きでね」

「ちょっ…!?シンボリルドルフさん!?」

「手くらいなら握っててやる。全員が満足するまで、そのまま休んでいろ」

「グルーヴ、お前もか…!?」

 

ああ、今日は格別に良い夢が見られそうだ。

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