ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《シリアス》
【精衛填海】
・無謀なことを企てて、結局それが失敗すること。
・いつまでも悔やみ続けること。

色々と重いので閲覧注意です
もうちょっと詰めれそうだけど、文才が足りない


精衛填海、苦やんでも苦やみきれない。

「おはよう、トレーナー君」

「おはよう、ルナ」

 

トレーナー君のベッドで起きる。

 

生徒会長としては、どうかとも思うのだが、ここ一年ほど彼の家で寝泊まりしている。所詮、私も、自分の気持ちを抑えられない一人のウマ娘ということらしい。

 

他の生徒会役員や秋川理事長からは黙認されていて、ある種、公認のようでもある。元々、色恋沙汰には節度さえ守っていれば、不干渉だからか、はたまた、私は生徒会長であるからか。どことなく特別扱いにも感じられて、申し訳ない気持ちもある。

 

一糸纏わぬ姿でベッドから起き上がる。どうせ見られて困るものでもない。堂々と歩き、着替えを始める。

 

「今日の朝御飯は何がいいだろうか?」

「そうだな…卵の消費期限が近かったはずだし、スクランブルエッグにしようか」

「それに加えて、トーストとサラダかな。中々いいメニューじゃないか」

 

いつもと変わらない一日が始まる。

 

 

 


 

 

 

日課となった朝のトレーニングを始める。もうレースへの出走は、ほとんど無くなってしまったが、長年続けてきた習慣というものは中々抜けない。

 

意味もなくコースを周回する。

 

風が気持ちいい。

 

この瞬間だけは、余計なことを考えることなく過ごすことが出来る。

 

 

 

「そこまでにしておこう。時間的にそろそろ潮時だ」

 

トレーナー君に声をかけられ、時計を確認する。これから汗を流して、着替えて、移動となると若干の猶予があるくらいだろうか。

 

トレーナー君の方へとクールダウンしながら向かい、彼の傍らに置いてあるスポーツドリンクを手に取って、一気に煽る。

冷えた水分が喉を伝わり、火照った体に染み渡っていくようだ。

 

人心地ついたところで、トレーナー君に謝罪する。

 

「すまない。少し走り過ぎたようだ。最近、身体を動かす機会が減ったせいか、無性に走りたくなってしまう」

「あんまりレースに出なくなって、最近はデスクワーク続きだもんな」

 

うんうんとトレーナー君が(うなず)く。

 

「それも理想実現の為だ」

「オーバーワークにはならないように注意してくれよ?」

「善処しよう」

「そこは善処じゃなくて、約束して欲しかったなぁ…」

 

大袈裟に落胆するトレーナー君を見て、思わず笑みが溢れる。

 

「そうだな。"皇帝"の名にかけて、約束しよう」

「そこまでは言わなくてもいいんだがな…」

 

 

 


 

 

 

「おはようございます。会長」

「おはよう。エアグルーヴ」

 

生徒会室にエアグルーヴが入ってくる。

 

ここ一ヶ月ほど毎日のように見る、何も持たずに入室してくる彼女の姿を確認する。

 

「エアグルーヴ、昨日渡した資料はどうしたのかな?」

「申し訳ありません。自室に忘れました」

 

ここ一ヶ月ほど毎日のように繰り返しているやり取りを繰り返す。推測だが、自室ではなくシュレッダーの中にでも入っているだろう。

 

「やはり、副会長がボイコットなんて出来ないか?」

 

冗談に聞こえるように、多分に笑いを含んだ声で話しかける。

 

勿論、冗談などではない。私は、エアグルーヴの意向も助言も全て無視して、事を進めているのだから、冗談など言える立場に既に居ない。

 

「……私は副会長として、異論を述べるまでです。たとえ、それが聞き入れられなくても」

「再三再四の問い掛けになるが、やはり不満か?」

 

"何が"とは問わない。お互いに理解しているから。

 

「……ええ。私が生徒会長になる件には反対です。第一、トレーナーや生徒会の増員を図っている今、生徒会のトップが交代などしようものなら、大混乱は間違いありません」

 

予想していた通りの答えが返ってくる。

 

「……ルドルフ。エアグルーヴの言う通り、君は急ぎすぎている。もう少し時間をかけて臨むべきだ」

 

トレーナー君もエアグルーヴも正しい。私は急ぎ過ぎている。だが、私にはなんとしてでも、()()中に生徒会長を辞めるべき理由がある。

 

だから、エアグルーヴは資料を忘れたフリをするし、ブライアンは生徒会室に顔を出さない。私が()()(こだわ)る理由を知っているから。

 

チラリとトレーナー君の方へ視線をやると、エアグルーヴが眉をひそめる。

 

「それに対しての答えは以前述べた通りだ。私の考えた草案は既に秋川理事長に提出済みだし、原本はこの部屋に置いてある。私の思想は君と幾らも変わらないはずだ。なら、私が居なくても生徒会は充分に回るよ」

 

詭弁だ。

 

私自身、私が生徒会長をしている方が効率がいいと理解している。代案を出すにしても、調整を加えるにしても私以上の適任者はいないだろう。

 

それでも、私情で生徒会長を辞めるために、もっともらしい理由を挙げているに過ぎない。

 

「ですが、会長「ところで、エアグルーヴ」

 

これ以上の議論は無駄だ。ならば、私の方の用件を伝える方が有意義だろう。

 

「明日の"私達のトレーナー君の一周忌"に君も参列するのだろう?」

 

唇を噛み締め、俯き、エアグルーヴは答える。

 

「……はい」

 

トレーナー君が倒れた時のことを思い出しているのだろう。唇が震えている。

未だに、私達はあの時のことを内心では引きずっているのだろう。

 

「あいつは、自己管理も出来ず過労死するような愚か者でしたが、我々にとって、最高の相棒でしたから」

「……確かに、最高のパートナーだったな」

 

トレーナー君は鈍感な人だったから気付いていなかっただろうけれど、私にとっても、エアグルーヴにとっても、ブライアンにとっても、君という存在はなくてはならない存在だったんだ。

……君が亡くなってから改めて確認させられるとはね。

 

「では、欠席する私に代わって、非礼を詫びておいてくれないか?」

 

努めて明るい声でエアグルーヴに伝える。こんな稚拙な手で騙されてくれる彼女ではないが。

 

「……会長、やはりあなたは…」

「……やはり君なら分かっていると思ったよ」

「……考え直してはくれませんか?死者に引かれるなど…」

「……ルドルフ、やっぱり考え直さないか?」

 

トレーナー君までそんなことを言う必要はないんじゃないだろうか?いや、君なら絶対にそう言うだろうとは思うが。

 

「エアグルーヴ、君は一つ勘違いしている」

「……何を、ですか?」

「彼は今も私を思いとどまらせようとしている。私は私自身の意志で自害を選ぶんだよ」

 

そう。私に見えている彼は、私の記憶から再構築されたトレーナー君であり、私の理性的で合理的な部分だ。自殺なんて許すような性格(キャラ)思考(ルーチン)もしていない。

 

自殺を選ぶのは、非合理的な感情的な私自身だ。

 

「……私が、生徒会が、全力で阻止します。シンボリルドルフ」

 

私の決意が伝わったのか、エアグルーヴは固く決心した顔で宣戦布告してくる。

 

だが、生徒会には私に心酔している者もたくさん居る。今頃、生徒会役員のほとんどは私が命じた野暮用に奔走していることだろう。

 

だから、私を止めに動けるのは"女帝"と"影をも恐れぬ怪物"、"スーパーカー"くらいだろう。

 

なんとまあ、私の最期のレースに相応しい相手じゃあないか。『血沸き肉躍る』とは、まさに、このことだろう。

 

思わず、口角が上がる。

 

「やれるものならやってみせろ。この"皇帝"を止めることが出来るものなら、な?」

 

 

 


 

 

 

親愛なる我々のトレーナー_____へ

 

君が亡くなってから手紙を書くなんて、奇怪千万だが、どうしても君への想いを文章に(したた)めたくなって、こうして筆を執っている。

 

君との出会いは、まさに合縁奇縁、君の他にも優秀なトレーナーが居たのに、偶然、私と相席し、偶然、私の取材に協力してもらった君に、私が心を動かされたのが、私達の契約の始まりだったな。

 

君と歩んだレース人生は順風満帆とは行かなかったが、中々に満足のいくものだった。君との二人三脚によって、他人を信じること、頼ることの大切さを学ぶことが出来た。改めて、感謝を述べておこう。

ありがとう。

 

疾風勁草と言うが、君が過労で倒れた時、エアグルーヴは即座に駆け寄って介抱し、ブライアンは部屋の外へと走り去って、保健室の先生を呼びに行った。

 

だが、私は何も出来なかった。頭の中が真っ白になり、息が出来なくなり、目の前が暗くなった。

私は、倒れた君に対して、何も出来なかったんだよ。

 

君が亡くなってからは『あらゆるウマ娘が幸福で居られる世界』という私の理想を『あらゆるウマ娘とウマ娘に関わるヒトが幸福で居られる世界』と改め、トレーナーの増員や、トレーナーの仕事の一部を生徒会で負担するようにして、君のようなトレーナーを減らせるように尽力している。

 

エアグルーヴやブライアンは徐々に立ち直りつつあるが、私は立ち直ることが出来なかった。表面上はいつも通りに振る舞えていたとしても、終始、君の事を考えていた。

 

君と一番接していたのは私だ。私が君の不調に気付いていれば、私が君の仕事内容をちゃんと確認していれば、私が君のことをもっと大切に想っていれば、私が君に愛の告白をしていれば、こんなにも後悔することはなかっただろう。

 

いつか重見天日となる日を夢見て、仕事に没頭し、時には趣味に傾倒したりもしたが、生徒会の仕事をしていても、映画を見ていても、河川敷を歩いていても、走っていても、常に君のことを思い出し、君の不在を痛感させられるばかりだった。

 

これほどまでに君のことを想っているのに、私は未だに、君のために一滴たりとも涙を流すことが出来ていない。まるで、君が亡くなった時に、私も一緒に死んでしまったみたいだ。

 

いつの間にか君の幻影が見え始め、幻覚の君と会話することが当たり前になって、私は如何に君に依存していたかを再認識させられたよ。

 

君が私と担当契約を結んだあの日、君は私と同じ景色が見たいと望んでくれた。だから、今度は、私が君と同じ景色が見たいと望む番だ。君が絶対にそれを望まないと分かっていてもね。

 

今から、君に会いに行くよ。

 

君の愛バ、ルナより

 

 

 

追伸

この手紙を私とトレーナー君以外が読むとすれば、エアグルーヴ、君くらいだろう。

君がこの手紙を読んでいるなら、私と君達との勝負は私の勝ちに終わったということだろう。

君は一ヶ月前から準備を始めたようだが、私は半年程かけて準備させてもらった。スタート地点が違うんだ。勝敗は明白だろう?

 

私が自決を選んだ理由は上記の通りだ。君に色々と仕事を押し付けてしまって申し訳なく思っているが、私には、彼の居ない無味乾燥な色の無い世界に、これ以上耐えられなかったんだ。許して欲しい。

 

それと、君が仕掛けた()()、並びに、データは速やかに処分して欲しい。君の()()の証拠や、私の裸体などがうっかり露見、漏出などしたら、目も当てられないからな。出来れば、この手紙の処分も頼むよ。

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