ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
純朴スペシャルウィーク概念
複数人を動かす習作

(ふと気付いた時には私の中でスペが母子家庭設定になってたけど、アニメでもアプリでも父親については言及されてないみたいだしヨシ!ってことにしておきます)

いつもご清覧、お気に入り等ありがとうございます
励みになっております
新シナリオも始まってモチベーションが高まっておりますので、この際にたくさん書いておきたいですね



スペシャルウィークはわかってない

「それでね!トレーナーさんがね!」

 

「この前、トレーナーさんとお出かけに行ったんだけど」

 

「えーっと、それってトレーナーさんが言ってた……なんだったっけ?」

 

 最近のスペシャルウィークはある特定の話題が多い。本人に自覚は全くないが。

 そしてここには(ちまた)で有名な黄金世代が六人。ゆえに派閥が生まれる。

 

「スペちゃんって本当にトレーナーさんが好きだよねぇ」

「お話すると必ずトレーナーさんが出てきマス。好き好きデース」

 

 それを揶揄(からか)うは彼氏持ち派閥。片や怪我で傷心のところを想い人にお持ち帰りされた自称策士。片や大舞台の高揚感のまま雰囲気に流され事実を作った自称最強。

 普段通りの少しだけ上がった口角のセイウンスカイと、少しだけ呆れた表情のエルコンドルパサーだ。

 言うまでもないが、二人共に有名かつ未成年なため事実が露見すると大問題待った無しである。

 

「人を揶揄い過ぎるのは良くないわ。特に恋愛に関してはね」

「そうですね。私たちだって皆トレーナーさんのことは好きですからね」

 

 それを(たしな)めるは告白失敗派閥。片や告白は受け取れないが指輪(これ)持ってろと正妻の余裕持ち。片や成人してから出直して来いと雪辱の機会待ち。

 呆れた表情を隠そうともしないキングヘイローと、普段通りの能面のような笑顔のグラスワンダーだ。

 言うまでもないかもしれないが、二人共に担当トレーナーとは両想いであり、公然の秘密となっている。

 

「昨日トレーニングを早めに切り上げた後に、トレーナーにマッサージしてもらったんだけどすっごい良くてさ!

 トレーナーに聞いたんだけど、トレセン学園のトレーナーならみんなできるんだって!」

「そうなの?私のトレーナーさんはあんまりマッサージしてくれないけど」

「スペちゃんも頼んでみたらどうかな?股関節とか自分じゃマッサージしにくいし」

「そうだね。私も頼んでみようかなぁ」

 

 そして二つの派閥を完全に無視する純真無垢派閥。

 この六人の中で唯一担当トレーナーが女性で今までの会話から恋愛の『れ』の字も連想できないツルマルツヨシと、父親を含んだ男性経験の無さから恋愛の『れ』の字も連想できないスペシャルウィークその人である。

 ちなみにだが、ツルマルツヨシはトレーナーと一緒にお風呂に入ったことがあるほどに、スペシャルウィークはトレーナーにほぼ毎日お弁当を作っているほどに担当トレーナーと仲が良い。

 

「スペちゃん、それはやめておいた方が良いと思いますよ?」

「そうだよースペちゃん。男の人なんて、みんなえっちなことばっかり考えてるんだから」

「そうなの?セイちゃんやグラスちゃんのトレーナーさんも?」

 

 日本総大将の純朴な質問に対し、曖昧な笑みを返す不死鳥と得意の逃げを披露する策士。全然ごまかせていないのだがスペシャルウィークはごまかせてしまう。

 

「ツルマルさん、マッサージと言っていたけど、具体的にはどこのマッサージをしてもらっているの?」

「ふくらはぎとか腰、股関節が多いかなぁ。この間は二の腕から脇腹のマッサージしてもらったよ」

「……思ってたより、キワどいとこが多いデース」

 

 自分もマッサージを頼もうと考えていたキングヘイローとエルコンドルパサーだったが、同性のトレーナーというアドバンテージを遺憾なく活用しているツルマルツヨシを前にしては考えを改めざるを得ない。

 流石に女子高生として、男性との接触についての分別、というか羞恥心は持っている。もっとすごいことをしている者がここに複数人居ることは棚に上げておく。

 

「そういえばこの間さぁ。新しく駅前にできたカフェに行って来たんだけど──」

「あのお店の方とは前々から懇意にさせてもらっているのだけれど──」

 

 露骨に話題を逸らしたセイウンスカイに意図を察して乗っかるキングヘイロー。この話題を続けるとプライベートな話題になりそうだと判断した結果である。

 決してスペちゃんの甘酸っぱい青春と自分の依存にも似た爛れた関係を比べて勝手に落ち込んだり、ツルマルさんと彼女のトレーナーのマッサージシーン(ぬれば)を想像して勝手に気まずくなった訳ではない。

 

「抹茶ラテ……」

「こんなに美味しそうなケーキが本当にあるんですか!?」

「エルはこっちのチャイマサラが気になりマスね」

「次のチートデイいつだったかな…?」

 

 同じく意図を察した二人と美味しそうなスイーツに惹かれた二人によって、SNSに投稿したら『匂わせ』で炎上待った無しな写真をお供に、どこのお菓子が美味しいかという話題で盛り上がるのであった。

 

 

 


 

 

 

「それで……えーっと……」

 

「この前、その……」

 

「…………えっと、何だったっけ?」

 

 最近のスペちゃんは意識的に特定の話題を避けている。その結果がしどろもどろであり、注意力散漫であり、絶不調である。

 

「スペちゃん、最近様子がおかしいようですが、何かありましたか?」

「……グラスちゃん?」

 

 それを最初に指摘したのはグラスワンダーであった。他四人は気付いた上での静観だったのだが、彼女だけは目下に迫った対決を前にして好敵手の不調を見過ごせなかったのだ。

 

「トレーナーさんと何かありましたか?」

「うぇっ?!」

 

 そしてスペシャルウィークとその担当トレーナーの問題ならば、普段から仲の良い二人のことだから、それほど悪い事態ではないのだろうという信頼もあった。

 

「い、言えないよ。あんな恥ずかしいこと……」

「ふむ?」

 

 墓穴を掘ったことに気付いたスペシャルウィークは慌てて口を押さえ、意味深な言い分にグラスワンダーは目を光らせる。

 

 だが、ここには他の黄金世代も(つど)っている。

 

 息を吸うグラス。本気で心配するツヨシ。興味津々なキング。恥じらうスペ。真顔のスカイ。半目のエル。ゆえに派閥が生まれる。

 

「スペちゃん、少しでもあなたの力になりたいんです。それに私たちの仲じゃないですか」

「あんなに仲良しのトレーナーさんと喧嘩でもしちゃったの?」

「喧嘩ではないと思うけれど……スペさん、何があったのかしら?」

 

 本心からスペシャルウィークを心配する一人と、ついに彼女にも春が来たのかと目を輝かせている二人。

 スペシャルウィークがトレーナーに恋してるのは第三者目線からしても明白で、かつ自分たちはこれ以上の進展を望めないのもあって、恋バナ仲間は喉から手が出るほど欲しかったのだ。

 

「う、うぅ……」

「スペちゃんも喋りたくなさそうだし、そのくらいでやめておいた方がいいんじゃない?」

「A secret makes a woman woman. デス。ソッとしておきまショウ」

 

 顔を真っ赤にしてる一人と、止めに入る真顔の二人。

 この流れは順番に恋バナさせられていく流れだと照れ屋二人は確信していた。一流たれ大和撫子たれと普段は語る親友二人は、その実、狡猾な策略家である。今までもあの手この手で恋人との赤裸々な話を聞き出しにきているのだ。今回もそうであるならと早めの保身行動である。

 

「えっと、話さなきゃダメ…?」

「そんなに話したくないんですか?」

 

 無意識に上目遣いで小動物のような表情を浮かべるスペシャルウィークに、無意識に威圧感を放ち猛獣の如き笑顔を見せるグラスワンダー。

 関わり合いになりたくないと示し会わせたように四人は別の話題に移る。

 

「そうそう。スカイさんは毎週末に外泊して何をしてるのよ?やましいことじゃないんでしょう?」

「……セイちゃん急用を思い出しちゃったなぁ。後はよろしくー」

「そう言えばエルちゃん、遠征の時に毎回ツインとダブルを間違えてるって聞いたけど大丈夫?」

「……セイちゃん!併走!併走行きまショウ!!」

 

 そうして痛い腹を探られた照れ屋二人は、過去の自分が掘った墓穴から物理的に逃げ出すのであった。

 待ちなさい!私にもその手練手管を教えなさいよ!やら、そもそも二部屋じゃなくて一部屋なのおかしくない?やらの声は当然無視して。

 

 

 


 

 

 

 コンコンと軽くノックが二回。それと同時にお腹がくぅと鳴く。我ながら現金だなぁと思うが、彼女の作るお弁当を楽しみにしているのもまた事実だ。胃袋を掴まれたというのかもしれない。

 

「失礼します!」

 

 元気良く入室してくるは黒いショートに、特徴的な白の前髪と編み込みの少女。そんな彼女と大きめのお弁当が一つ。

 

「いらっしゃい、スペ」

「はい!スペシャルウィークです!」

 

 ダービーウマ娘、日本総大将、そして俺の愛バであるスペシャルウィークは満面の笑みで応えた。

 

「今日はですね、チンジャオロースにしてみたんです!」

「おー、今日も美味しそうだね」

 

 ぱかりと開けられたお弁当から漂う香ばしい香りに意識せずとも(つば)が湧いてくる。お弁当を受け取り、ふと気付く。いつもよりスペが静かだと。

 顔を上げると感慨深そうな表情の彼女が。

 

「なんだかお父ちゃんみたいですね」

 

 お、とう、ちゃん…?

 

「私、お母ちゃんたちしか家族が居ないから、お父ちゃんに憧れてたんですよ」

 

 いつから俺に娘が…?などと胡乱(うろん)なことを考えている間にもスペの話は続く。

 

「その、たまにでいいんで、お父ちゃんって、呼んでもいいですか?」

 

 恥ずかしそうに、でも少しだけ熱が込もっている視線。期待されているのは明白。

 残念ながら学生時代から勉学一辺倒でやってきた自分には、上目遣いで迫ってくる仲の良い女性の()なし方なんて全くわからない。

 

「……二人きりの時だけね?」

「ありがとうございます!」

 

 だから、仲の良い娘のような子からのお願いを断ることなんてできなかった。

 そんな指導者としては緩い態度が悪かった。

 

「じゃあ……はい、あーん」

 

 いつの間に食事が目の前に、と現実逃避するには目の前の満面の笑みは刺激が強すぎた。

 

「ダメ、ですか?」

 

 つい先程の"娘"からお弁当をもらう"父親"は百歩譲って良いとして、"あーん"は無いだろうと思ってはいる。いるのだが……

 

「……仕方ないなぁ」

「やった!」

 

 結局は断れないのだ。知らないことはできない。そう自分を正当化して、噂に聞く"パパ活"とやらはこんな感じなのだろうかと、昼食を咀嚼しながら他人事のように考えるのであった。

 

 

 


 

 

 

「あのね、スペちゃん?えっと、その話は他の人にはしない方がいいと思うわ。

 その……私はスペちゃんとトレーナーさんのこと、よく知ってるから大丈夫だけど、誤解する人もいると思うから」

 

 スペシャルウィークのルームメイト、サイレンススズカは乏しい語彙を総動員して自分の思いを表現する。

 

「お弁当をトレーナーさんに渡すのは良いのよ?私もしたことあるもの。

 でもね、お父さんって呼んで、あーんして食べさせるのは、その……ちょっと良くない感じがすると思うの」

 

 なぜこんな話を一つしか違わない親友にしているのかと恥ずかしくなってきたスズカは言葉を(にご)す。

 当然のようにスペは「ちょっと良くない感じって、どういう意味ですか?」と首を(かし)げ、当然のようにスズカは困る。

 

「えっと……女の子に、お金を払ってね…?そういうことをする……仕事がね?ある……らしくてね?」

 

 そこまで直接的に言われると流石に鈍感なスペでも理解できる。真っ赤に染まっていくスペと、既に真っ赤なスズカ。

 明日からどんな顔をしてトレーナーと会えばいいの?と頭を抱えるスペと、私も昔同じことやったことある…!と過去の自分を思い出して頭を抱えるスズカであった。

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