ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
スカイがトレーナーを落とそうと画策するお話


セイウンスカイは恋もゲート難

お昼休み、今日も今日とてトレーナー室へお昼寝しに行く。

 

お昼寝なんてどこでも出来るけど、寝心地のいいソファがあって、私用の毛布があって、なんなら仮眠用のベッドで寝てもいいトレーナー室が一番心地好い。

 

……まぁ、一番重要なのはトレーナーさんが居ることなんだけどね。

 

私、セイウンスカイは、専属の男性トレーナーが付いているウマ娘のご多分に漏れず、担当のトレーナーさんに恋をしている。

 

自分で言うのもなんだけど、私は扱い易いウマ娘じゃない。才能はない。血統もない。おまけに、トレーニングはしょっちゅうサボる。

そんな私に寄り添って、頭ごなしに怒ったりせずに、私のことを理解しようとしてくれる男の人に、恋心を抱くのは当然の事だった。

 

URAファイナルズが終わって、私もレース四年目に入ったのでそろそろ引退するつもりだし、これからも関係を続けていくためには、どうすればいいか。

 

私はトレーナーさんのことを異性として意識してるけど、彼にとって私はただの教え子のセイウンスカイかもしれない。

 

だから、私から一歩踏み出さないといけない。色々と振り向かせるための策は練っている。これから仕込みに行くところだ。

 

いくつか考えた作戦の中から、お昼休みの間に使えそうなのを頭の中でピックアップしてる内に、トレーナー室へとたどり着いた。

 

「どもども~、お昼寝にやって来ましたよ~」

 

いつも通りの挨拶を言いながら入室する。めちゃくちゃ緊張してるけど、ポーカーフェイスは大の得意だ。

 

トレーナーさんが私の挨拶に片手を挙げて応える。どうやらお昼ご飯の最中らしい。何かの資料を片手にプラスチックの容器に入ったご飯を食べている。

 

私の引退と、次の娘のスカウトが重なって、忙しいのは知ってるけど、ちょっとお行儀が悪いんじゃない?

 

「おやおや~?トレーナーさんは今日もコンビニ弁当ですか?」

 

最近、コンビニ弁当ばっかり食べてますよね?私には色々言うのに自分の体調管理は適当なんですか?

 

近寄ってお弁当の中身をのぞき込むと、鮭とご飯でほとんどが埋まっている中身が見えた。

 

「それで栄養足りてます?」

「んっ…ちょっと野菜が足りないかもなぁ」

 

予想通りの答えが返ってきた。だから、考えてきた口説き文句を告げる。

 

「じゃあさ、セイちゃんが毎日お弁当作ってきましょうか?……なーんて「スカイ、毎朝の味噌汁も作ってくれないか?」にゃ!?」

 

恥ずかしくなって逃げようとしたところに、とんでもないカウンターが飛んで来て、色々と考えていたことが頭の中から跡形も無く消し飛ぶ。

彼のしたり顔から、恐らくは私を動揺させるための発言なのだろうけど、内容が内容なだけに、心臓と尻尾が暴れるのを止められない。

 

「きゅ、急用を思い出したので!し、失礼します!!」

 

火照(ほて)った顔と崩れた表情を、これ以上見られたくなくて、急いで後ろを向いてトレーナー室を後にする。

明らかに私らしくないセリフとか、上擦(うわず)った声とか、激しく揺れる尻尾とかで、動揺してるのがバレバレなことなど、今のオーバーヒートしてる私には全く考え付かなかった。

 

 

 


 

 

 

午後の授業が終わる頃には、なんとか平静を取り(つくろ)ってトレーナー室に戻って来た。

 

最近はトレーニングの代わりに、ここでトレーナーさんと雑談したり、宿題したり、夕寝するのが日課になっている。お昼のアレのせいで、本当はトレーナー室に来たくなかったけど、なんとなく行かなかったら負けた気がするので、虚勢を張ってここまで来た。

 

内心、いつ爆弾発言が飛んでくるかと気が気じゃなかったけど、トレーナーさんはいつもと変わらない感じでお昼のアレはなんだったのかと思わせられるくらい穏やかに時間が過ぎていった。

 

雑談しながら宿題を始めて約一時間ほど経った頃、トレーナーさんが机の上に散らばっている資料を片付け始めた。

 

「次にスカウトする娘は決まりました?」

「候補は絞ったよ。後は実際に走りを見て決めるかな」

 

普段私と軽口を叩き合っている私色に染まった彼はそこには居なくて、私が出会った頃のドが付くほど真面目な彼の姿がそこにあった。

 

ここももうすぐ私達だけの居城じゃなくなっちゃうし、トレーナーさんも私だけのトレーナーじゃなくなってしまう。

出会った頃のような彼が、それを遠い未来のことじゃないとヒシヒシと伝えてきて、どうしようもない(さみ)しさが胸を(さいな)む。

 

私を眺めていた彼が突然ニヤリと笑って言う。

 

「スカイ、君が世界で一番好きだよ」

「うぇ!?」

 

トレーナーさん、そんなキザなこと言うキャラだっけ!?

私の大好きな優しくて真面目なあなたは一体どこへ!?

 

混乱しているところに、追い討ちが飛んでくる。

 

「今夜、俺の家来る?」

「ちょわ!?な、何言って…!?」

 

夜に男の人の家にお呼ばれ。その意味が分からないほど私は子供じゃない。それにトレーナーさんと"そういうこと"をするのは満更でもない…いや、むしろ"はじめて"は彼が良いけど、やっぱり段階を踏んでから…でも、そういう関係からなし崩し的にいく方が良かったり…?

 

思考の迷路に囚われている最中、不意に彼と目が合った。さっきまでのニヤニヤ笑いはどこへやら、一転して真面目な表情で何かを考えていて、不覚にも胸が高鳴ってしまう。

 

……このままトレーナーさんに強引に、ってのも……

 

 

 

…………両思いだって分かって掛かり過ぎでは?

 

このままだと悪い男にいいように使われる都合のいい女になってしまうのでは?いや、トレーナーさんは絶対に悪い人じゃないし、私は都合のいい女でも……

 

あー!もう!こんなところに居られません!私は寮の自室に帰らせてもらいます!

 

そそくさと広げていた荷物をまとめて、腕に抱え、逃げるように席を立ち、

 

「きょ、今日のところはこれで「待てよ」

 

音も無く距離を詰めてきたトレーナーさんに壁際まで押し込まれる。私と扉の間にトレーナーさんの腕が割って入ってきて、後ろの壁がドンと鳴り、手に持っていた物を全て落としてしまった。

 

「ぴぇ…」

「誰が帰っていいって言った?」

 

耳元でトレーナーさんが(ささや)く。普段通りの優しい声音で、普段なら絶対言わない言葉が出てくる。

 

彼の空いている方の手が私の頬に添えられ、ゆっくりと真剣な顔が近付いてくる。

 

吐息が交わる距離まで近付いた時、ついに私の意識は限界を迎えた。

 

白転していく景色の中で、彼はこの三年間何度も見た困り顔をしていた。

 

 

 


 

 

 

目を覚ますと見慣れたトレーナー室の天井が広がっていた。ふかふかのソファで寝ていて、私愛用の毛布がかけられており、まるでお昼寝をしていたみたいだ。もう外は暗いけど。

 

ぼんやりと天井を眺めていると、少し離れたところから声がかけられる。

 

「スカイ、ごめんな。やり過ぎた」

 

トレーナーさんの声を聞いて、今日の彼の積極的すぎるアプローチが頭の中に蘇ってきて、顔が熱くなってくる。声がした方に視線を送ると、困ったような笑い顔のトレーナーさんと目が合った。

 

「スカイって照れ屋で逃げ癖あるから、逃げられないようにこっちから攻めたんだけど…ちょっとやり過ぎたわ。ごめん」

 

……つまり、私からアタックしてくることも、恥ずかしくなって逃げちゃうことも分かってたってこと?流石、私のトレーナーさん、よく分かってるじゃん。

 

本当は私から一歩踏み出すべきだったんだけど、こうしてリードされる立場に甘えてしまっているのは良くないなぁ…

 

 

 

 

ゆっくり起き上がって、トレーナーさんを真正面から見つめる。

彼も私の方を見て、笑みを収める。

 

言うべき内容も結果も分かり切っているのに、鼓動が早くなり、視界が揺れている。口の中が乾き、汗がにじむ。

 

私の決心が付くより先に、彼から話し始める。

 

「スカイ」

 

「はい…」

 

「好きだ」

 

「はい…」

 

「俺と付き合ってくれ」

 

「こちらこそ、よろしく、お願い、します…」

 

ガチガチに緊張した私の言葉を聞いて、トレーナーさんが苦笑してる。

「本当は俺がちゃんと断るべきなんだろうけどな。」と呟きながら、彼は立ち上がり、こちらへと近付いて来る。

 

私の目の前で彼は屈んで、私と目線を合わせ、私の左頬に手が添えられる。

 

ゆっくりと柔らかい笑みを浮かべた顔が近付いて来て、

 

吐息が交わり、

 

唇が触れ合った。

 

 

 

 

 

ちょっとした出来心が芽生えて、トレーナーさんの背中に手を回して、後ろのソファに倒れこんだ。

 

「ちょっ?!」

 

思った通り焦った顔で、私にぶつからないように手をついてくれた。ちょうど私に覆い被さるような形だ。

 

「キャー、トレーナーさんに襲われるー。セイちゃん怖くて逃げれないなー」

「お前なぁ…」

 

最近見た中で一番の困り顔だ。この顔が見たくて色々イタズラしてるんだよね♪今日の分の仕返しは、その顔に免じて、このくらいで勘弁しておいてあげようかな♪

 

彼は困り顔を崩して、ゆっくりと微笑んで言う。

 

「今夜は寝かせないからな?」

「ふぇ!?」

 

肩に手がかけられる。

 

反射的に目を(つむ)ってしまう。

 

今日どんな下着だったっけ!?

それよりトレーナー室はダメでしょ!!

 

肩から首の後ろへと手が動いていき、太ももにも手が触れる。

 

あ、でも、このシチュエーションは結構いいかも…

いや、そうじゃなくて!!

 

一瞬、無重力を味わって…?

 

不思議に思って目を開くと、いつの間にかお姫様抱っこされてました。

 

「流石に付き合ったその日にトレーナー室で、なんてしないよ」と苦笑いしながら彼は言った。

 

その後、無事、何事も無く、寮まで送り届けられたのですが、「続きはまた今度な」と囁かれて、一人悶々として、なかなか寝付けませんでした……

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