ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
スカイ「No, that's not true. That's impossible!」

実は元ネタの超有名SF映画を見たことないです


I am your father.

「スカイ。大丈夫だ、スカイ」

 

落ち着く低い声が近くで聞こえ、トントンと肩を優しく叩かれる。

 

目蓋を開くと先程まで見ていた景色とはまるで違って、見慣れたトレーナー室の天井が広がっていた。

 

「おはよう、スカイ。うなされてたが大丈夫か?」

 

おはよう。つまり、さっきまで見ていたものは夢?

少し視線を動かすと、すぐそばで座っているトレーナーさんが見えた。

 

「スカイ?」

「……ねぇ、トレーナーさん」

 

悪夢の名残(なごり)が心に染み付いていてまだ怖い。だから、夢の中で恐怖の原因となった()()()()を、現実で確かめる。そうしないと、この恐怖からは解放されそうにないから。

 

「トレーナーさんは私のお父さんじゃない、よね…?」

「……ん?」

 

怪訝(けげん)な顔をしたトレーナーさんが口元に手をやる。じっくりと考えて……どちらかと言うと、私の発した言葉の裏を探ってから、ゆっくりと困惑気味の声で答える。

 

「……いや、俺の年齢から考えて、どうやっても俺はお前の父親にはなれないだろ。もし俺がお前の父親なら、俺が小学生の時に子供作ったことになるぞ」

「だよね。良かった……」

 

ようやく人心地ついて、回りが見えてくる。

いつもお昼寝に使っているトレーナー室のソファに私は寝転んでいて、トレーナーさんの手元には何らかの書類がある。トレーナーさんが座っている辺りには普段何もないから、わざわざ椅子を引っ張って来たのだろう。

 

いつもの私なら『そんなにセイちゃんの寝顔が見たかったんですかー?』とか煽るところだけど、悪夢のせいでそんな余裕は消え失せていた。

 

「実はさ。夢の中でね」

 

さっき見てた光景を思い出しながら、その悪夢が現実でないことを確かめながら、それを語る。

 

「その日は卒業式だったんだ。卒業したらトレーナーさんに告白しようって思ってた」

「俺達もう付き合ってるのにか?」

「夢の中だと付き合ってることは全く覚えてなかったねー」

 

夢にありがちな、現実とは全く違う状況だった。まぁ、ちょっと恥ずかしがりやの私からすれば十分にありえた世界線のお話だ。

 

「ちょうどこのトレーナー室で、涙ぐんでるトレーナーさんに『好きです。私と付き合ってください。』なんてガラじゃないこと言ったんですよ」

「まぁ、恥ずかしがりのスカイが言うセリフじゃないな」

「……私だって、やる時はやりますよ?」

 

トレーナーさんが苦笑いする。あの顔は絶対『いや、お前はへたれて逃げるだろ』って思ってる顔だ。

 

色々と言ってやりたいけど、そろそろ本筋に戻らないとグダグダと雑談タイムになりそう。

 

「一世一代の告白をしたのにさぁ、トレーナーさんったら突然『お母さんから父親のことは聞いてるのか?』なんて、よく分かんないこと言い出すんですよ?ひどくないですか?」

「いや、夢の中の俺のことを現実の俺に愚痴られても困るんだが……」

 

本当に困った顔と声のトレーナーさんを無視して続ける。

 

「『私が物心ついた時にはお父さんは居ませんでしたし、お母さんもあんまり教えてはくれませんでしたねぇ。』って愛想良く返したんですよ」

「その話は一度聞いたな。結局、生きてるかどうかも分からないんだっけ?」

「そうそう」

 

そういや二人で釣りをしながら自分語りしたこともあったなぁと思い出しながら話の先を続ける。

 

「そしたらね?『お前の父は俺だ。だから、付き合えない。』って」

「……まぁ、さっきのスカイからしてわかってたけどさぁ」

 

呆れとも苦笑ともつかないトレーナーさんの声がするけれど、私の頭の中では夢の続きがフラッシュバックしていて、そんな声を聞いてる余裕すらなかった。

 

『ウソだ……。ウソだ。そんなのウソだ!!!そんなことあるわけない!!!』

『お母さんでもお爺さんでもいいから聞いてみなよ。本当のことだから』

『ウソだ!ウソだあああぁぁぁ!!!』

 

思い出すだけでも、お腹の中から体が崩れて消え去っていくような絶望を感じる。目の奥が熱くなってきて、体の芯から寒くなってきて震える。

初めて体が震えるほど、心が燃え立つほどに好きになった人なのに、()()()()()で失恋するなんて。いっそのこと、嫌いだって言われた方がスッパリと割り切れて良かったのに。

夢だと分かっていても、恐怖が背筋を這い上がってくる。他の子にとっては絶対にあり得ない笑い話かもしれないけれど、私にとっては十分にあり得る怖い話だった。

 

咄嗟(とっさ)に目を思い切りつむって、涙をこらえようとしたけど、後から後から頬を伝って熱い液体が流れていく。

 

「スカイ。スカイ」

 

優しい声でささやかれながら、背中に腕を回されて抱きしめられ、ギュッと手を握られる。

 

触れているところから、じんわりと温もりが伝わってきて体が暖まっていき、ゆっくりと震えが収まってくる。涙も止まってきた。

 

……この状況、上手く使えるんじゃない?

 

「ねぇ、トレーナーさん?」

 

彼の好きな吐息混じりの少し高い声を意識して出す。

 

「なに?」

 

わずかに警戒をにじませた優しい声が返ってくる。

そりゃあ警戒するよね。この声を出す時はワガママ言う時だもんね?

 

「セイちゃんはまだ怖いです」

 

少し声を震わせて"怖い"を強調する。こんな演技でだまされてくれるような人じゃないけど、やらない理由もない。

 

「だから、私が安心するまでセイちゃんの"お父さん"になってください」

「……え?」

 

目を開くとトレーナーさんがめちゃくちゃ困った顔してる。イヤそうな顔はしてないから、もうちょい押せば受け入れてくれるはず。

 

「セイちゃんに優しくして、甘やかして、しかも、ワガママ聞いてくれる年上の男の人なんて、実質"お父さん"でしょ?」

「うーん…?」

「お父さん♪頭なーでて?」

「はいはい」

 

わしゃわしゃと少し乱暴に頭を撫でられる。私の好きな撫で方だ。トレーナーさんに甘えるのはちょっと恥ずかしいけど、"お父さん"になら甘えてもいいよね?

 

「お父さん♪」

「なに?」

「パパ♪」

「……。」

「お父ちゃん♪」

「……俺にそういう趣味は無いからな?」

「えー、今度のパパ活でしてあげようと思ったのになー」

「パパ活って、お前なぁ…」

 

"お父さん"が苦り切った顔をしてる。やっぱりその顔いいね。そんな顔してくれるなら、もうちょっと甘えたいかも。

 

「ねぇ、お父さん?」

「"お父さん"?」

「……。」

 

私たち二人がよく知ってる高い声がして、引きつった顔のトレーナーさんがゆっくりと後ろを向く。

トレーナーさんが少し動いたことで私からもフラワーの困惑気味な顔が見えるようになった。

 

だよねー。"お父さん"って呼ぶ"プレイ"にしか見えないよねー。

 

「お父さんって、もしかして赤ちゃんできちゃいました?」

「え?」

「は?」

 

赤ちゃん?えっ、そういう?

いや、その勘違いは絶対まずい。

 

「そうですよね。最近、私はティアラ路線に向けてトレーニングばっかりでトレーナーさんのお(うち)に行けてませんし、私の分までスカイさんとしてるんですよね。赤ちゃんできちゃってもおかしくないですよね」

「いや、フラワー!誤解だ!言い訳させてくれ!」

 

トレーナーさんが立ち上がり、視界が広がる。フラワーの後ろ、トレーナー室の扉が開いていて、ウマ耳が二対見える。もしかしなくても、めちゃくちゃヤバい状況じゃない?

 

私の予想を裏付けるように声が聞こえてくる。

 

「フラワーちゃんのトレーナーがロリコンってウワサ、ホントだったんだ。いや、フラワーちゃんにも手を出すとかマジないわ」

「フラワーさんのトレーナーを『要注意人物』と判断。ミッション『フラワーさん救出』を実行します」

 

誰の言葉も耳に入っていないようで、フラワーは早口で話を続ける。

 

「トレーナーさん、私決めました。スカイさんが赤ちゃんを産むなら、私もトレーナーさんの赤ちゃんを産みたいです!トゥインクルシリーズはあきらめることになりますけど、私はスカイさんと一緒にお母さんになりたいです!」

「フラワー!話を聞いてくれ!ちょっ!」

 

流石スプリンター。目にも止まらぬ勢いですっ飛んで来たフラワーがトレーナーさんを床に縫い付けている。

 

「暴れないでください!ちゃんと気持ち良くしますから、私にもあなたの赤ちゃんをください!」

「フラワー!やめっ!だ、誰か助けて!」

「……これ助けなかったら、私も本当にお母さんになれるんじゃない?」

「……『フラワーさん救出』はフラワーさんのためにならないと判断。メモリを消去。私のログには何もありません」

「……フラワーちゃんって、あんな可愛い顔して意外と肉食系なんだ。今度恋バナ振ってみっか」

 

 

 

 

 

この後、トレーナーさん必死の説得のおかげで、三人でフラワーを止めましたとさ。

ちなみに、全員の前でフラワーが「今日はトレーナーさんのお家に泊まります!」って宣言して、トレーナーさんをすんごい顔にしたのは、ここだけの話。

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