ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
彼氏に襲われたいセイちゃんががんばって誘惑する話

意図的に文体を変えてます


セイウンスカイは襲われたい

スカイは激怒した。

必ず、かの両思いの男の方から襲われなければならぬと決意した。

 

お喋りしたり、からかい合ったり、時には甘えたりしてイチャラブに発展することは数あれど、男がケダモノのように襲いかかってくることは今までに一度たりともなかった。

 

これはつまり、私には女としての魅力がないのでは?とスカイは勘繰(かんぐ)った。

 

もし私に魅力を感じているのなら、私がそうであるように、相手のことなんか考えずにイチャラブしたいと思うこともあるはずだ。

実際に私はあまり乗り気でない彼と力ずくでイチャラブしたことがある。

一度も襲ってくれないということは、彼がガマンしているか、彼は私に魅力を感じていないということだろう。

 

彼氏にガマンさせてるのはイヤだし、彼が私に女性としての魅力を感じていないのはもっとイヤだ。

彼氏に対して彼女として振る舞えていない自分に無性に腹が立った。

だから、男の方から襲ってもらおうとスカイは固く決意した。

 

しかし、スカイには恋愛事が分からぬ。

昼でも夜でもリードは必ず男の方から。

だから、どうすれば彼の欲望を(あお)れるかなんてスカイには見当もつかなかった。

 

 

 

なので、まずはペタペタとスキンシップをとってみることにした。

人肌の温かさや女性特有の柔らかさを嫌というほど押し付ければ、彼氏もその気になってくれるのでは?と考えたのだ。

 

というわけで、いつ襲われてもいいようにおうちデートの日に、ひっそりと作戦は決行された。

 

手始めに胡座(あぐら)をかいて(くつろ)いでいる彼の両足の間に収まってみた。

 

「スカイ?どうしたの?」

「特に何もないよー」

「絶対なんかあるヤツじゃん」

 

そのまま彼の両手を絡めとって自分の前で抱きかかえてみる。

さりげなーく胸なんかも当てておく。

 

「今日は甘えた?」

「かもねー」

「じゃあ、いっぱい甘やかしてやろう」

 

しれっと下腹部の方に誘導しておいた両手が動きだし、おっ?と思ったスカイであったが、その期待はすぐに裏切られる。

 

彼の両手は全くいやらしい素振りを見せずに左手がお腹にしっかりと巻き付けられ、右手は頭の上に行って優しく頭の上を行ったり来たりし始めた。

 

違う。そうじゃない。

 

スカイは何とも言えない感情に包まれた。

これ自体は彼からの私への愛情表現だ。とても嬉しい。

どうせなら頭はわしゃわしゃっと荒っぽく撫でて欲しいけど、この優しい感じも彼っぽくてとても好きだ。

 

でも、今日はこの人の欲望をくすぐって襲われるのが目標なのだ。

女としての私をアピールし、他の子に目移りしないように色々と発散してもらう絶好の機会なのだ。

 

ペシペシと尻尾で抗議しながら、グリグリと頭を彼の胸の方にこすりつける。

 

「言葉にしてくれないとわかんないよー」

 

困った声でそう言いながらも頭を撫でる手は止まらない。

 

言葉にできたら、とっくにそうしてる。

恥ずかしがりやのスカイにとって、『お誘い』を言葉にするのは非常に難しかった。

 

だから、わざわざ回りくどい方法を取っているのだ。

 

さっきの攻防(とスカイは思っている)でスカイは理解した。

この人とは距離感が近すぎるから、こんな遠回しな方法だとアピールできないと。

 

迷いは一瞬。

恥ずかしさに気付かないフリをして『トリックスター』の仮面を被る。

 

スカイはお腹に巻き付いている手をやんわりと押し退()け、胡座の上でグルッと一回転する。

 

「スカイ?」

 

そして、キョトンとした顔の、少しかさついた薄紅色の唇に口付けを落とす。

こんなに積極的なことしたことないから、体中がめちゃくちゃ熱い。

驚いた様子の彼だったけど、拒絶したりはせずに、そのまま受け入れてくれた。

 

一方でスカイの方は、勢いでキスまでしてしまったものの、それから先のことは完全にノープラン。

完全に停止した動きと思考の中、ゆっくりと男の方からリードされ始めていることに気付く。

 

ためらいがちに、でも着実に唇の間に舌が入り込んできている。

それに(うなが)されるようにスカイの方も舌を出す。

 

絡み、離れ、口内を這い回り、再び絡む。

 

男に好き放題されていたスカイだが、男の方が先に息が続かなくなり離れる。

 

チカチカと白く光る視界の中、彼と私を繋ぐ銀色の橋が落ち、深呼吸していた彼が優しく語り始める。

 

「スカイ?どうしたの?今日はやけに積極的だけど」

 

あなたに襲われたくて誘惑してるんですよ。なんて恥ずかしくて言えない。

スカイがいくつか言い訳を考えている間にも彼は話を続ける。

 

「何か悩んでるなら相談に乗るよ?」

 

どうやったら彼氏に襲ってもらえますか?なんて恥ずかしくて聞けない。

というか、こんなにも情熱的なキスを交わしておいて続きがないとはどういうことなんだ。と理不尽な怒りをスカイが心の中で抱いている間にも彼は続ける。

 

「とりあえず美味しいものでも食べて、お風呂に入ってサッパリしようか」

 

なんでそうなるの?と思い切り顔に出してムスッとむくれてみるが、彼はただ困ったように微笑むばかりだった。

 

 

 


 

 

 

スカイは激怒した。

必ず、かの両思いの男の方から襲われなければならぬと改めて決意した。

スカイには恋愛事が分からぬ。

スカイは、学生である。ターフを走り、釣りをして暮らしてきた。

 

だから男を誘惑する手段なんて、ほとんど思い付かなかった。

 

「スカイ?なんでお風呂まで?」

「お、おおおお背中を、な、流しに……」

 

思い付かないなら行動するしかない。とスカイは考えた。

キスで(ゆだ)った頭で思い付いたのが『お背中流しますよ』作戦だ。

 

ただ、この作戦には明確な問題があった。

それは単純に恥ずかしいことだ。

裸を見るのも見られるのもスカイは恥ずかしいと感じていた。

身を隠すものは脱衣所で手にした白いバスタオル一枚。

水に浸かれば、ほとんど透けてしまう程度の代物だ。

彼に至っては何一つ隠していない。

だから、スカイにとってはとんでもない難所であった。

 

ちなみに、クローゼットに眠っている色付きバスタオルや、水着を着れば自分の体はしっかり隠せることに、既に()で上がっているスカイは気付いていない。

 

「大丈夫か、スカイ?熱があったりしないか?」

 

なので、男がスカイの体調を気にするのは至極当然の帰結であった。

 

「だ、大丈夫です……」

 

心配そうな顔の男を無視してスカイは湯船へと浸かり、男の目の前に座る。

濡れたバスタオルが体に張り付き、男の視線が体に突き刺さるのをスカイは感じる。

お風呂場に入ってきた時点で赤くなっていた白い肌は、男の無遠慮な視線に(さら)され更に紅くなる。

 

「……いや、スカイ、お風呂から上がろう」

 

そう言いながら男は体勢を変え、真っ赤なスカイを横抱きにする。

肩と太ももに腕が回った形、いわゆるお姫様抱っこというものだ。

 

男はスカイを(かか)えたままザブザブと浴槽から出て、そのまま浴室を後にする。

あっ……このまま美味しくいただかれちゃうんだ。とのぼせた頭でスカイは思った。

 

乾いたタオルで体を(ぬぐ)われ、新しい下着を着せられ、氷枕を頭に添えられたところで、ようやく違うことに気付くのだった。

 

 

 


 

 

 

スカイは激怒した。

 

「どうして襲ってくれないんですか!!!」

 

理不尽な怒りの勢いに任せて、普段なら恥ずかしくて言えないことを男にぶつけた。

 

「こんなに誘ってるのに、どうして気付いてくれないんですか!!!」

 

スカイの心からの叫びに対する男の返答は、ため息であった。

 

「お前な?俺がどれだけガマンしてると思ってるんだ?」

 

眉を吊り上げながら男は続ける。

 

「俺とお前の仲だぞ?誘ってるのなんかとっくに気付いてるに決まってるだろ」

 

(いま)だに氷枕の上に寝転がっているスカイの両肩に男の両手がガッシリと掴みかかり、ベッドへと押し付けられる。

 

「だから、せめて普通に愛し合おうと思ってたのに。そんなこと言われたらガマンできねえだろ」

 

スカイは恐怖した。

氷枕を投げ捨て、お腹の上にウマ乗りになっている彼はいつもの優しい顔でも、イチャラブしてる時の凛々しい顔でもなく、飢えた肉食獣のような恐ろしい顔だった。

 

「や、やだっ!」

 

ウマ娘の膂力(りょりょく)を存分に活かし、男を強引に退かしてスカイは逃げ出した。

ついに念願叶って彼氏に襲われるのだと頭では理解していたが、被捕食者的な恐怖が体を動かした。

 

「逃がす訳ないだろ」

「に゛ゃ゛ぁ゛!?!?」

 

好スタートを切ったスカイだったが、扉を前にほんの一瞬まごついている間に男に追い付かれてしまった。

尻尾の根元をギュッと掴まれ、全身から力が抜けたスカイに逃げ出す(すべ)は、もう無かった。

 

「俺が満足するまで寝かさねえからな?」

「お、お手柔らかに……お願いします……」

 

お手柔らかになんて全くされなかった。

 

 

 


 

 

 

スカイは満足していた。

柔らかな朝の光に包まれ、驚くほど気だるい体にイヤになりながらも、昨夜の出来事を反芻(はんすう)して頬を緩ませていた。

 

昨夜はドン引きしそうなくらい彼に愛された。

数え切れないくらい『愛してる』って言われた。

すっごい疲れた。

 

ガッツいて嫌われたくなかったって彼の本音も聞けた。

場の雰囲気に流されて私も本音で話せた。

ガマンされるよりはガッツいてくれた方が嬉しいって。

 

でも、これを毎週とか言われるとしんどいかも。とスカイは真面目に考えた。

全身だるいし、腰は抜けてしまって立てそうにない。

とりあえず今日が日曜で良かったと思った。

 

「おはよう、スカイ」

 

ふんわりと味噌の香りをまとった男がスカイの居る寝室へとやって来た。

昨日の恐い顔がうそみたいな優しい顔だ。

 

「おはよー」

「簡単だけど朝ごはん作ったから食べようか」

 

男はゆっくりとベッドの縁へと腰掛け、心配そうな顔でスカイの顔をのぞきこむ。

 

「立てる?」

「むりー」

 

ズイッと突き出された両手を見て、男はしょうがないなぁとため息を(こぼ)し、ほんの少しだけ笑いながらスカイの肩とシーツの間に腕を突っ込んだ。

 

「あのー?」

「布団にくるまって行こうか。今抱き合ったら朝ごはんが昼ごはんになりそうだ」

 

太ももとシーツの間にもう片腕を突っ込み、軽々とスカイ(と彼女にかかっていた布団)を抱き上げた男が語る。

男が(あん)に言ったことを理解してしまったスカイは頬を朱に染めつつも、いたずら心を抑えられなかった。

 

「昨日、あんなに激しかったのに?」

 

男は目を丸くする。

スカイ自身、こういう話題は苦手な自覚があるので、彼は私がこんなことを言うなんて予想もしてなかっただろう。とほくそ笑む。

 

「"昨日、あんなに激しかったのに?"」

 

ニヤッと笑った男が復唱する。

 

……何かおかしいだろうか?とスカイは考えた。

 

単に煽りを入れるための文句で、特に深く考えず口にしたが、何か文法、ないし内容がおかしくはないかと再び考え……おかしくなくない?という結論に至る。

 

それに対する答えは、クツクツと笑いを(こら)えきれなかった様子の男が教えてくれた。

 

「そのセリフ、"昨日"じゃなくて"昨日も"にしてやるよ」

 

スカイは恐怖した。

今日の彼氏の予定を理解してしまったからだ。

でも、まともに立てない足で逃げることなんかできない。

 

目の前に居る優しい笑顔に、ギラギラと光る瞳の男を説得するのは無理だろう。それくらいは目を見ればわかる。

なら、張り倒すのが一番簡単な解決策だろう。

だが、スカイは彼に手をあげるなんて考えたくもなかった。

 

「やだやだやだっ!今日は二人でダラダラするのっ!」

 

だから、スカイが取った作戦は駄々をこね、感情に訴えることだった。

 

「大丈夫大丈夫。今日は一日中ベッドの上でゴロゴロするつもりだから」

 

もちろんそれで引き下がるような男ではなかった。

 

「絶対ダラダラする気ないよね?!」

「まあまあ。とりあえず朝ごはんとスカイをいただいてから考えよう?」

「もう隠す気もないじゃん!とりあえずで私をいただかないで!」

 

布団にくるまったまま男に運ばれるスカイは、悪態をつきながらも幸せそうに頬を緩ませていた。

 

 

 

 

 

後にこの時のことをセイウンスカイは友人たちとの猥談の中で、幸せそうな、だが確かに疲れの(にじ)む顔でこう語ったと言う。

 

淀の坂よりしんどかった、と。

 

それ以来、彼女らの間でスカイの彼氏は『菊花賞ウマ娘をバテさせた男』として畏敬と親しみの念を込めて『淀の坂』と呼ばれるようになるのだが、そんなこと当の本人は知る(よし)もないのであった。

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