ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
"二人の"スカイとイチャイチャするお話

綿津子様(https://twitter.com/watakko1209)主催の企画#DOPPELIA(https://twitter.com/watakko1209/status/1564810315602489344)に参加させていただきます
お題がかなり好みだったのでコツコツ書いていたのですが、かなり出遅れてしまった


『つよつよセイちゃん』と『よわよわスカイ』

『事実は小説より奇なり』という言葉があるが、まさにその通りだと思わずにはいられなかった。

 

気が付いた時には、何の脈絡もなくトレーナー室のソファに座っていた。

直前まで何をしていたかの記憶すらない状態で、何が何だかわからない中、下と右の二方向からこの三年間ずーっと聞いてきた甘え声がする。

 

「トレーナーさーん?手が止まってますよー?」

「トレーナーさーん、私にも構ってくださいよー」

「……は?……え?」

 

なぜか俺の両膝はスカイの枕代わりになっており、なぜか右肩にも背中側からスカイの頭が乗っていた。

右手は膝枕しているスカイのお腹の上に抱きかかえられており、左手はそのスカイの頭の上に収まっている。

背中には柔らかいものが当たっている気がするが、気にしないことにする。

 

色々とあらぬ誤解を(まね)きそうな状況だし、どうしてこうなっているのか理由も知りたいが、それ以上に知りたいことがある。

 

なんでスカイが二人も居るんだ…?

 

「「トレーナーさん?」」

 

膝の上からこちらを見上げてくるスカイも、右肩側から顔を覗きこんでくるスカイも、俺が三年間担当したスカイの顔でスカイの声だ。間違えるはずがない。

 

ただのイタズラにしては出来過ぎている。

こんなに似てる別人なら親族の可能性が高いが、俺が知りうる限りスカイに兄弟姉妹は居ないし、母親は栗毛でスタイルも全然違う。

従姉妹(いとこ)の線がない訳ではないが、スカイから仲の良い従姉妹の話を聞いた憶えはない。

 

なら、なんらかの怪奇現象やら、色々と問題事を起こしているアグネスタキオンやらの仕業と考える方が妥当だろう。

全く現実的ではないし、根拠も何もないが、なぜかそうとしか考えられないと直感が告げた。

 

何にしても、まずは情報が必要だ。

 

「えっと……スカイ?」

「「はい、なんですか?」」

 

当然のように両方のスカイが全く同じように返事をする。

反応速度の差や返事の違いを比べることには失敗。

まあ、呼び掛け程度にあまり期待もしていなかったが。

 

「なんでこんなことになってるんだ?」

 

わざと曖昧に質問してみる。

なんで二人居るの?とか、なんで膝枕してるの?とか具体的に質問するよりは、曖昧に訊ねた方が二人のスカイの違いを見極められると思っての発言だ。

 

「……えっと?それって、どういう意味です?」

「そんなことどうでもいいじゃないですかー。私も撫でてくださいよー」

 

膝の上のスカイは怪訝(けげん)な顔を、肩の上のスカイは小悪魔的な笑顔を浮かべる。

 

これでハッキリしたが、この二人はドッペルゲンガーやスワンプマンみたいな完全に同じ人物ではない。

この二人には明確に違いがある以上、本物のスカイと偽物のスカイが居るはずだ。

もちろんこの二人が両方偽物の可能性もあるが。

 

なんとなくだが、膝の上のスカイの方がいつも俺と一緒に居る時の『オフの時のスカイ』っぽい気がする。

どうやって俺を言いくるめるか、どうしたら俺を巻き込んで遊べるか考えている時の顔にそっくりだ。

 

一方で、今俺の頬にペシペシと耳を叩きつけているスカイはファンの前に立っている時の『トリックスター、セイウンスカイ』っぽい。

『にゃはは☆』なんて言いながら人を揶揄(からか)う時には、よくこんな風にイタズラっぽく笑うものだ。

 

「あの、えっと、もしかして、あなた、トレーナーさん?」

 

さっきまで上機嫌だった膝の上のスカイが、パタパタと不規則に耳を揺らしながら、赤い顔でしどろもどろに意味のわからないことを訊ねてくる。

 

「ああ、もちろん俺はスカイのトレーナーだけど?」

 

その問いかけの意味を少しだけ考えてみたが、結局意味なんてわからないままに返事をすると「うにゃぁ…」なんて(うめ)きながら、膝枕している方のスカイは赤くなった顔を両手で隠してしまった。

 

え、俺、何か変なこと言ったか?

 

「ほうほう?それはそれは……」

 

一方で肩の上のスカイは、俺の肩にお腹を乗せ、尻尾を俺の首に巻き付けながらニヤニヤと笑っている。

正直に言うと結構重いのだが、流石に女の子にそんなこと言うほどデリカシーに欠けていない。

 

……それはそうと、スカートが(まく)れそうになっていることは指摘すべきなのだろうか?

 

「そんなにセイちゃんのスカートの中が気になりますかー?」

「なっ!?」

 

まさかスカイからそんな発言が来るとは思っていなかった。恥ずかしがりやのスカイはあまりこの手の話は振ってこない。

 

それに(まれ)にあるこういう展開の後は、大抵スカイが恥ずかしがって固まったり逃げだしたりするのに、相変わらずニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべているスカイは、俺の返事すら待たずに行動を開始する。

 

「私のスカートの中もいいですけどー、こっちのセイちゃんの方も気になっちゃいませんかー?」

 

不穏な言葉と共に肩の上のスカイは両腕を伸ばし、膝の上のスカイのスカートを捲って、隠されていた大腿四頭筋が(あらわ)になり……

 

「だ、ダメッ!」

 

思いっ切り上から押さえつけられたスカートにより、もう一度隠れる。

 

危なかった。

あまりにも唐突過ぎて目が離せなかった。

教え子の下着なんて見ようものなら懲戒処分では済まないだろう。

 

なんてどうでもいいことを考えている間にも時間は流れる。

 

「別に減るもんじゃないしいいじゃん?」

「そういう問題じゃないのっ!」

「たたの布切れ一つで恥ずかしがる必要ないと思うんだけどなー?」

 

なんて普段のスカイならしないであろう言い争いをしながらも、肩の上のスカイは前へ前へと重心をずらしていき……

 

スカートの裾が目の前にあるのに気付くのと、肩の上のスカイが重力に引かれて落ちて行くのはほぼ同時だった。

 

「ちょっと?!何して…!?」

 

器用にソファとその上に居るスカイを避けて、猫のようにしなやかに床に着地したスカイはフワリと広がるスカートをはためかせながら、ゴロンと一回転し起き上がる。

 

……肌色?

 

……見えなかった、のか?

 

突然のことに、一瞬しか見えなかったとはいえ、顔を(そむ)け損なった上に、一番最初にそんなことを考える自分に嫌気が差す。

もちろんそんなことを考えているなんて()()()にも出さないが、クルッとこちらを振り向いたニヤニヤ顔のスカイには見透かされていそうで嫌だ。

 

「さて問題です。今日のセイちゃんのパンツは何色でしょうか?」

「………………は?」

「……えっ!?」

「だってー?トレーナーさんったらー?セイちゃんのスカートの中、ガッツリ見たでしょー?」

 

しっかりバレてる。

 

「……見たんですか?」

 

依然としてニヤニヤと笑うスカイとは対照的に、膝の上のスカイは恥ずかしそうな不安げな表情を浮かべている。

すかさず「見てない」と返事すると、膝の上のスカイはホッとしたようで頬を緩めた。

 

正確には『下着は見えてない』だが、わざわざ説明してやる必要もあるまい。

 

赤い顔はそのままに、柔らかい笑みに変わった膝の上のスカイがいる一方で、ニヤニヤしていたスカイはより笑みを深めており、今やニタニタと悪い顔をしている。

絶対(ろく)なこと考えてない。

 

「そりゃあ『見てない』ですよねー?だって『はいてない』んですから♪」

 

「にゃはは☆」なんて付け加えられて、イタズラっぽく軽く落とされた重い爆弾発言は、俺から思考力を奪うには十分過ぎた。

 

トレセン学園は女子校とはいえ、なんで…?

流石に無防備過ぎない…?

というか、履いてない状態をわざわざ見せつけにきた…?

 

そんな益体(やくたい)もないことを考えていたから、視線の下にいるスカイがパタパタと(せわ)しなくスカートの上から自分の腰の辺りを触っているのを見ても、すぐには意味を理解できなかった。

 

「……めくらないでくださいよ?」

「そんなことする訳ないだろ……」

「私ならいつでも大歓迎ですよー?」

 

赤い顔で涙ぐんでいるスカイの頭を、彼女が落ち着いてくれるように優しく撫でる。

よく分からないが、こっちのスカイは『はいてない』ことに今気付いたのだろう。

恥ずかしがりやのスカイにとって、この状況は耐え(がた)いはずだ。多分。

 

視界の端でスカートの裾をヒラヒラさせているスカイは(つと)めて無視する。

「ちょっとくらいこっちにも(かま)ってくださいよー?」なんて言ってるが、中が見えそうになる度にドキドキなんてしたくない。

 

「まあ、セイちゃんが『はいてない』ことなんて、どーでもいいんですよ」

「どうでも良くないよぉ……」

 

膝の上のスカイが言う通り、どう考えてもどうでも良くはない。

特に突然見せつけられる可能性がある身としては。

 

「そんなことよりー、セイちゃんはー、トレーナーさんとー、もっと濃厚にイチャイチャしたいんですよねー」

 

濃厚にイチャイチャってなんだよ。

それとここはまだトレセン学園内だぞ。時と場合を考えろよ。

 

「まだ時間はありますから、ね?」

 

甘い囁きを紡ぎながら、目の前に居るスカイはニヤニヤ笑いを収め、柔らかい微笑を(たた)えて、少しだけ空いている俺達の間の距離を縮めてくる。

 

『時間』と聞いて、ようやく『今何時だ?』という疑問が頭に浮かぶ。

カーテンは締め切られており外の様子を(うかが)うことはできず、室内を見渡し壁掛け時計を探すも、なぜかいつも時計が掛けてあるところには何もなかった。

 

なんで時計がないなんだ?と思いつつも、腕時計はしていないし、普段スマホを入れているシャツの胸ポケットにスマホは入っていない。

ズボンのポケットに入っている訳でもなさそうだし、デスクの上に置いてある訳でもない。

 

「探しものはこれですかー?」

 

なんて揶揄(からか)うような声を出すのは当然俺の前に居る方のスカイだ。

手が届く距離まで詰めてきた彼女は、どこから取り出したのか俺のスマホをプラプラと振っている。

 

「そう。それ。時間だけ確認したいんだけど?」

 

たったそれだけのお願いに対して、スカイはスマホを片手に持ったまま思案げな表情を作る。

 

「どうするー?」

「もう言っちゃっていいんじゃない?」

「それもそっか」

 

たったそれだけの会話で、二人のスカイの間では結論が出たらしく、すぐに小難しい顔を崩していつもの緩い笑顔に変わる。

 

「実はですねぇ」

 

打ち明け話をするような口調で口火は切られた。

 

「これ、『夢』なんですよねー」

「…………は?」

「だって、突然セイちゃんが二人になるなんておかしいと思いませんか?私はおかしいと思いまーす♪」

 

確かにスカイが増えるのはおかしいと思うが、今だに膝の上に乗っている頭の重厚感と人肌の(ぬく)もりには『夢』とは程遠い現実感がある。

 

「それにー、時間のことなんて気にしてもなかったんで、設定されてませーん♪」

 

カチッと電源ボタンが押され、光りだした液晶には見慣れた背景と共に『--:--』なんて有り得ない表示がされていた。

 

……試しに頬でもつねってみるか…?

 

「頬をつねっても痛いだけだよー」

「お昼寝マスターのセイちゃんは何度もやったことあるからね……」

 

腕を動かし始めた時点で二人に忠告される。

 

昼寝大好きなスカイが言うならそうかもしれないが……

 

いや、そもそも……

 

「夢ってことは、お前たち二人も俺の想像なのか?」

 

夢の中なら二人共に『本物のセイウンスカイ』ではないはずだ。

俺の想像の産物なら従う義理もない。

 

ビクッと膝の上のスカイは震え、目の前のスカイは笑顔を崩して真面目な顔を作る。

 

「私は違いますねー」

「……私は半分当たり、かな…?」

 

同時に喋り始めた二人を交互に見やると、二人共に全く同じ神妙な面持ちを浮かべていた。

 

「まずですね。私たち二人は両方とも本物のセイウンスカイです」

「……どういうこと?」

「えっとね……私たちとトレーナーさんは同じ夢を見てるみたい、です」

「トレーナー室に入ったら、抱き心地の良さそうな抱き枕がソファに寝転んでましてね?

 ちょっとだけって思いながら、そのまま寝ちゃったみたいなんですよ」

「いい匂いするし、暖かくて気持ち良かったんだけど、起きたら絶対後悔するだろうなぁ……」

 

……つまりは、一緒に寝てるから同じ夢を見てるってことか?

で、この二人は俺と同じ夢を見てるスカイ?

 

「それで、ここからが質問の答えなんですけど、私はセイちゃんが『こうなりたい!』って思ってるセイちゃんです!」

 

目の前に居る方のスカイが元気良く手を挙げる。

 

「私はトレーナーさんが『イメージしてる』セイちゃんです」

 

膝枕している方のスカイが控えめに手を挙げる。

 

「現実のセイちゃんは膝の上のセイちゃんみたいに『よわよわ』じゃないですよー?

 これからは『つよつよ』の!私のイメージで上書きしちゃってくださいね?」

「私だって好きで『よわよわ』じゃないんですよ。ただ……その……色々やってから恥ずかしくなっちゃうことが多くて……ね?」

 

添い寝してるって話や、スカイがどうなりたいかとかは俺の知らない情報だし、ずっと膝の上に寝転んでいるスカイは確かに俺の(いだ)いているスカイのイメージっぽい。

というか、恥ずかしくても膝枕からは逃げないんだな。

 

スカイが二人居るのも、時計がおかしいのも確認した。

だけど、どうしても夢とは思えない。

 

このトレーナー室もそうだし、スカイの体温や重みもそうだが、あまりにも現実味がありすぎる。

 

「トレーナーさん、まだ信じてないって顔してますねー?なかなか手強いお方のようで」

「まあ、スカイが二人になったってのもおかしいけど、突然『これは夢です』って言われて信じるのもおかしいだろ?」

「まあ、そうですね。じゃあ、『百聞は一見に如かず』って言いますしー、よーく見ててくださいよ?」

 

不意に目の前のスカイが「シャララーン☆」なんて口にしながら、その場で回りだす。

何が起きるのかと見守っていると……

 

「……は?」

「おかえりなさいませ、ご主人様♪ なんちゃって☆」

 

瞬きしている間に制服姿だったスカイはメイド服へと変わってしまった。

 

俺好みの黒いロングスカートに白のエプロン、イヤーキャップの隣にはホワイトプリムまでちゃんとある。

フリルが少なめのクラシカルなメイド姿だ。

なんでそんなピンポイントで……

 

「こういうメイドさん好きなんですよね?」

「……なんで私まで着替えてるの…?」

 

いつの間にかメイド好きだってバレてるし、膝枕してる方のスカイまでメイドになってる……

 

「夢の中だから、こんなこともできるんですよー?」

「……えっ!?なっ!?」

「ちょっとちょっと!?これはやり過ぎだって!!」

 

スカイが俺の肩に手を掛けた……と思った時には素肌にしっとりとした手の感触が伝わってきて、気付いた時には着ていたはずのシャツは影も形もなかった。

 

落としていた視線を上げると、先程までのクラシックメイドの姿はなく、ギリギリ大事な部分が隠れる程度の布切れを(まと)ったスカイが、お互いの息が届くほどの距離でニヤニヤと笑っていた。

 

確かに『百聞は一見に如かず』だ。

これだけ物理法則もあったもんじゃないことを見せつけられれば『夢』だと納得せざるを得ない。

 

ちなみに、膝の上のスカイは真っ赤な顔でこちらを見上げながら、全身を抱くようにして色々隠そうと頑張っている。

 

「ねえ、トレーナーさん?ここは『夢』なんですよ?『現実』のセイちゃんには絶対にできないこと、やってみたくないですか?」

 

蠱惑(こわく)的な笑みを浮かべたスカイは優しい声音のまま続ける。

 

「セイちゃんも年頃の女の子ですから、好きな男の人とやってみたいこと、いーっぱいあるんですよ?

 というか、夢の中の妄想のトレーナーさんと色々するつもりでした」

「色々ってなんだよ……」

「ここから逃げたい……」

 

一応聞いてみたが、目の前のスカイはニタニタ笑うだけだし、膝の上のスカイは真っ赤なまま、こちらと目を合わせようともしない。

 

まあ、シャツが消えた時点で元々は何するつもりだったか大体察しはつくが。

 

「私は何言われてもノリノリでやりますし、そっちの私は押しに弱いですから、やりたい放題できますよ?

 それを(とが)めるような人も夢の中だから居ませんしね♪」

「……ねえ、私?やっぱり、こういうのは段階踏むべきじゃない?」

「一足飛びでも、脈絡なくてもいいじゃん?だって『夢』なんだから。楽しんだもん勝ちだよ♪」

「それは……そうかもだけど……本物のトレーナーさん相手だとどうしても……」

 

本当に楽しそうに笑うスカイと、赤い顔をさらに紅くするスカイ。

 

言われてみると確かにいつものスカイより『つよつよのスカイ』と『よわよわのスカイ』だ。

足して2で割ると『いつものスカイ』になるかもしれない。

 

「ねえ、トレーナーさん?」

 

先程までのイタズラっぽい笑みを収め、少しだけ真面目な顔……といっても唇の端が少しだけ上機嫌に吊り上がっている『つよつよスカイ』に呼ばれる。

 

「一緒に、羽目(はめ)、外してみませんか?」

 

マイクロビキニの肩紐を(いじ)りながらのその誘惑は、まるでそうするのが当然のような口調の、形ばかりの提案だった。

 

 

だから、俺は……

 

 

 

「外しません」

 

キッパリと断った。

 

ピシリと固まった両スカイは目を白黒させた後、

 

スゥっと息を吸い、

 

「もしかして、セイちゃんのこと、嫌い、だったり、します…?」

「ごめんなさい、トレーナーさん!そっちの私の分まで謝りますから、嫌いにならないで!」

 

同時に喋り始めた。

二人共に俺がスカイのことが嫌いって扱いなのはなんなんだ。

 

「スカイ、まず言っておくが、俺はスカイのことが好きだ」

「すっ…!?」

「じゃあ、なんで?」

「夢の中で、君に手を出したくない」

 

キョトンとした二人に対してニヤッと笑いかけ、啖呵(たんか)を切る。

 

「どうせなら夢じゃなくて現実で、ね?」

 

理由なんてない。

単に夢の中のスカイたちよりも、現実のスカイの方が好きだなと思っただけだ。

 

それにスカイの思い通りに事が運ぶのは少々(しゃく)に障る。

男ってのは、好きな女の子に対してだけ天邪鬼(あまのじゃく)になるもんなんだよ。

 

俺の言い訳を聞いて真っ赤になっていた『よわよわスカイ』は「にゃあぁぁ……」なんて(うめ)きながら、俺の腹に赤い顔を埋め、

 

「……そんなこと言っちゃうトレーナーさんが、私は好きですよ」と呟く『つよつよスカイ』は両腕を伸ばして、ギュッと俺の頭を抱き寄せ、薄い水着越しの胸に顔が押し付けられる。

 

二人共に露出が多いし、俺自身も上半身裸だから色々とヤバい。

お腹に吐息をかけるな。顎で頭をグリグリするな。

 

「わかりました。じゃあ、夢の中でしかできないようなイチャイチャをしましょう」

「……夢の中でしかできないって?」

「女の子になってみたり、セイちゃんと入れ替わったりしてみます?」

「いやぁ……普通にしよう…?」

 

結局この後、三人で着せ替えパーティーをやって、起きるまでの時間を潰すのだった。

 

 

 


 

 

 

ゆっくりと意識が浮かび上がってくる。

 

横向きに寝ていて、左手が下。ちょっと暑い。

 

ジットリと汗ばんだ体に不快感を覚える。

 

腕の間には何か暖かく柔らかいもの。

それを右足も使ってガッチリと捕らえている。

 

ふんわりと暖かくて優しい香りを味わいながら、ゆっくりと目蓋を開く。

 

すると、

 

「お、おはようございます……」

 

と、真っ赤な顔の葦毛の愛バがお出迎えしてくれた。

 

まだ回らない頭で「おはよう」なんて返しながら、右手でわしゃわしゃと頭を撫でる。

 

「きょ、今日からは、今までのセイちゃんとは一味違いますからねっ!」

 

赤いけれどキリッと真面目くさった顔でスカイは宣言する。

 

そのカッコいい顔に、ボーッと見惚れながら「そうか」なんて生返事をしながら、時計を確認するとちょうどお昼休みが終わる頃だった。

 

スカイを抱き(かか)えて起きる。

 

「ほら、授業行っておいで」

 

簡単にスカイの身嗜(みだしな)みを確認し、退室を(うなが)すも、スカイは動かない。

 

まさかサボるつもりじゃないだろうな?と考えていると、スカイが口を開く。

 

「夢の中でも、あんなこと言ったんだから、ちゃんと責任取ってくださいよ…?」

 

あんなこと…?と固まっている間に、レースの時のようなスタートダッシュを決めたスカイがご丁寧にも「バイバイッ!」なんて叫びながら出て行ってしまった。

 

「あんなことって、夢の中じゃなくて現実で、ってヤツか…?」

 

疑っていた訳じゃないが、本当に同じ夢を見てたらしい。

 

「はぁ……」

 

なんであんな啖呵切ってしまったのかと後悔しながら、昼からの仕事の準備を始めるのだった。

 

 

 


 

 

 

ピンポーンとチャイムが夜の静寂(しじま)に響き渡る。

 

「こんな時間に誰だよ……」

 

仕事終わりで疲れた体ではインターホンに向かうのも億劫(おっくう)だ。

 

それほど間を置かずにピンポーンともう一度チャイムが鳴る。

 

「はいはい、今行きますよ」と(ひと)()ちながら立ち上がり、インターホンを取る。

 

「はい?何のご用ですか?」

 

若干の不満を(にじ)ませながら、カメラに映っていない訪問者に話しかける。

 

「トレーナーさーん。私ですよー。お泊まりに来ましたー」

「……は?」

 

死角からフェードインしてきたのは葦毛の愛バ。

背中にリュックサックまで背負っている。

 

「今日はそういう予定じゃなかっただろ?」

「でも、お泊まりしたい気分だったんですよ」

 

普段ならお泊まりしたくなった時は学園に居る間に伝えてくれるのに。

そう思いながらも、これが『一味違う』ということなのだろうかと思い至る。

 

「外泊届出しちゃったしー、お金もないから、このままだとセイちゃん野宿になっちゃうなー。どうしよー」

 

わざとらしい棒読みの演技だが、しっかりとこちらの退路を断ってくる。

まあ、こんなことを言われずとも、家の前に子供一人立ってるのも外聞が悪すぎるので、スカイがここに辿(たど)り着いた時点で退路なんてあってないようなものだが。

 

「ちょっと待ってて」

 

それだけ言ってインターホンを切り、足取りも重く玄関へと向かう。

 

ガチャリと鍵を開け、ドアを開くと、当たり前のことだが、俺の愛バ、セイウンスカイが(たたず)んでいた。

 

「ほら、早く上がりなよ」

「それじゃあ、今晩は可愛がって……いや、そのぉ……よろしく、お願い、します……」

 

そこで照れるのかよ。

 

シドロモドロの真っ赤なスカイに、心の中でのツッコミは口からは出て来ず、なぜかドッと疲れを感じて、口から漏れ出たのは「はぁ……」というため息だけだった。

 

 

 

 

 

この日からスカイは、唐突にお泊まりに来たり、お昼に仮眠を取っていると腕の中に滑り込んで来るようになり、当然のようにトレーナーが上の人から怒られるのだった。

曰く『私だけじゃなくて、他の人にもバレないように、ちゃんと隠し通してください!』とのことだ。

それでいいのか、トレセン。

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