スズカが恋心を自覚するお話
実はスズカも推してるのですが、なかなか文章に出来ない
サイレンススズカは想い患う
最近、スズカの様子が変だ。
トレーニングやミーティングの合間合間に、しょっちゅう左旋回しながら考え事をしている。「何か悩んでいるのか?」と尋ねると「何でもないです」とか「大丈夫です」とか言われて、はぐらかされる。あの様子だと大丈夫なはずがないのだが……
同室のスペちゃんなら何か知ってるかと思って聞いてみたが、彼女も悩んでいるのは知っているが、何を悩んでいるかは教えてくれなかったそうだ。
あの走ることしか考えていないウマ娘のスズカが、俺にもスペちゃんにも話せないこととは一体何なのか。少し……いや、かなり気になるが、俺自身が問題だったり、女性特有の悩みだったりすると、パワハラやらセクハラなんかになりかねない。
それに俺だって、スズカやスペちゃんには話せない悩みの一つや二つくらい抱えている。スズカだって、同じように誰かに話せない悩みがあってもおかしくはない。
可能な限り…トレーニングやレースに集中出来なくなったりしない限りは、スズカの方から話してくれるまで待とう。そう決心した。
今日も今日とてスズカはターフの上で左旋回している。心なしか耳は
「大丈夫か?」と尋ねると「大丈夫です」と答えて、急に走り出そうとして……
スズカがバランスを崩した。
傾いていくスズカを見て、考えるより先に体が動いた。
スズカの肩を掴む。
そのままの勢いでスズカを引き寄せ、彼女を抱きしめる。
「スズカ!大丈夫か!?」
「……。」
返事が無い。スズカはうつむいており、耳もペタッと倒れている。
つまずいた拍子に、足をひねったのかもしれない。
「スズカ、ちょっと失礼するよ」
「え…ひゃっ!?」
断りを入れてからスズカを抱き上げる。いわゆるお姫様抱っこの形だが、幸いにも周囲に人影は無いので、変な噂が立つ心配は無い。
そのままトレーニングコースから出て、近場にあったベンチにスズカを座らせ、触診を開始する。
「痛いところは無いか?スズカ」
「……大丈夫です」
返事までに少し間があったことが気になる。足首を触りながら顔を上げると、真っ赤な顔で涙目のスズカと目があった。
「スズカ、本当に大丈夫か?」
「はい…」
ジッとスズカの顔を見つめる。足首を押したり曲げたりしてみるが、スズカは痛そうな素振りはせず、目のやり場に困ったかのように視線を泳がせていた。
とりあえずケガはしていないようだが、流石にスズカが走るのに集中出来ないほどの悩みは見過ごせない。強引にでも聞き出すべきだろう。
「スズカ、何を悩んでいるんだ?つまずくなんて、らしくないぞ」
「……。」
「俺に出来ることなら、なんでも言ってくれ」
スズカは目を
少しして、ゆっくりと目を開いたスズカは決意に満ちた瞳をしていた。
「トレーナーさん、彼女はいらっしゃいますか?」
「…………は?」
「今、付き合っている方はいらっしゃいますか?」
……これは、つまり、恋煩い。しかも、相手は俺。
そりゃ、俺には相談出来ないわ。
表情が崩れないように苦心しているが、内心では
「トレーナーさん……好きです。もし、今、付き合っている方がいないなら……私と、付き合ってくれませんか?」
紅い顔で震えながらも、スズカはハッキリと言い切った。
この告白をウヤムヤにすることは簡単だ。それにトレーナーとしては、ハッキリとは答えずに優しく諭すのが正解だろう。
だが、スズカは悩みに悩んで告白してきたんだ。俺は、大人として間違っているとしても、自分が納得出来ない方法は採りたくなかった。
「スズカ、俺も君が好きだ」
「トレーナーさん…!」
「それに、今、付き合っている人はいないよ」
「じゃあ…!「だけど、俺は大人で、君は学生だ。お付き合いすることは出来ない」……えっ」
パァっと明るい笑みを浮かべていたスズカが、一気に暗い顔になる。
……そんな顔をさせたくはなかったが、ここの線引きは絶対に必要だ。俺が彼女の
急いでスズカの手を取り、続きを話す。
「だから、スズカ、君が卒業したら、俺の方から告白させて欲しい」
「……分かりました。私、待ちます」
フッとスズカが微笑む。釣られて俺も微笑むと、キラッとスズカの瞳がイタズラっぽく光った。
そして、
「ッ!?スズカ!?」
「ふふっ♪お付き合いはダメと言われましたけど、キスはダメとは言われませんでしたよ?」
カッと頬が熱くなり、心臓がバクバクと脈打つ。無意識の内に唇に手が行く。ほんの一瞬だけ触れ合っただけなのに、まだスズカの唇の柔らかい感触が残っている気がする。
「……キスもダメだからな」
「はい♪」
「トレーニングに戻りましょうか」
「……ケガはしてないみたいだけど、今日は軽めのトレーニングにしよう。多分、寝不足でしょ?顔色悪いよ」
「……はい」
シュンとしてしまったスズカに、『軽めのトレーニング』にしようと言ったもう一つの理由を伝える。
「トレーニングが終わったら、"お出かけ"しようか。ショッピングにでも行こう」
分かりやすくスズカに元気が戻る。
ピンと伸びた耳と、ご機嫌にブンブンと揺れる尻尾がなんとも愛らしい。
「"デート"ですね?」
「"お出かけ"だよ」
「"デート"は付き合ってなくても出来ますよ?」
「一応、"お出かけ"って言った方がいい。誰かに聞かれるかもしれないからさ」
俺の言葉を意に介さず、スズカは優しく微笑みながら言う。
「今日の"デート"、楽しみにしてますね」
そう言って、スズカはターフへと駆け出して行った。
走っていった彼女の横顔は、思わず見惚れてしまうほど魅力的な満面の笑顔だった。