ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
逃げウマだけど逃げないセイちゃん

三人称で書く習作
一応R-15くらい


トリックスター、温泉旅行にて誘惑す

「だああぁぁーっ!なんで俺に荷物の支度まで任せんだよっ!?」

 

トレセン学園の美浦寮には珍しい男性の声が響く。寮の入口、ウマ娘たちの団欒(だんらん)の場で野次ウマ娘達と大量の荷物に囲まれながら頭を抱えている男は、皐月賞、菊花賞を制したトリックスターとも称される二冠ウマ娘、セイウンスカイの担当トレーナーだ。

 

「まあまあ、アタシも準備手伝うから元気出しなって」

「私も手伝いますから、がんばってスカイちゃんの旅行支度をしましょう」

 

その男を(はげ)ますように話しかけるウマ娘が二人。健康的な小麦色の肌と深い海のような群青(ぐんじょう)色の対比が綺麗なウマ娘、美浦寮の寮長であるヒシアマゾンと、ライトベージュのきめ細やかな肌に鮮やかなマルーン色の髪が美しく輝くセイウンスカイのルームメイト、サクラローレルだ。

 

「ヒシアマさんもローレルさんも、本っっっ当に助かるよ……」

「スカイに手を焼いてる者同士、困った時はお互い様ってね」

「服のチョイスとかはトレーナーさんにお(まか)せしますね?」

「じゃあ、化粧品とかの男の俺には分からない物は頼むね。

 それはそうと、スカイはどこ行ったんだよ」

 

男の疑問に返って来たのは、周りのウマ娘たちの同情と苦笑だけだった。

 

 

 


 

 

 

一方そのころ、セイウンスカイはというと、

 

(いやぁ、温泉旅行の荷物の準備はしなくていいし、トレーナーさんの服の好みも探れるし、こうしてお昼寝もできるし、もしかしてセイちゃんって天才かも?)

 

お気に入りの昼寝スポットである木漏れ日が揺れてポカポカと暖かい原っぱの上に寝転びながら、心の中で自画自賛していた。

 

この場所に来る知り合いは物好きなトレーナーか仲の良いニシノフラワーくらいで、その内一人は現在荷物と格闘中、もう一人は美化委員としての仕事中だから見つかる心配もほとんどない。

 

(生真面目なトレーナーさんのことだから、キングとかローレルさんが手伝うって言っても私の支度してくれるんだろうなぁ。

 トレーナーさん、どんな服を選んでくれるかなぁ。フリフリのフリルがいっぱいのとか、お腹が見えちゃうのとか、普段は選ばない服も用意したし、古いのは全部捨てちゃったからなぁ)

 

少し前に、半ば強引にキングに引き連れられてショッピングモールへ行き、『いやぁ、セイちゃんにこういう服はちょっと……』などと(のたま)いながらも、普段は選ばない服をいくつも買ったのだ。

 

ただ、今までに何度もお出かけやらなんやらで新しい私服を見せる機会があったのに、今日まで見せることができなかった意気地の無さを棚に上げてはいるが。

 

ゴロゴロと落ち着きなく左右に揺れていたセイウンスカイの体がピタリと止まる。

 

(下着、どれが選ばれるかなぁ……)

 

セイウンスカイが今一番気になっているのがトレーナーの性的な嗜好だ。

 

セイウンスカイは自身のトレーナーのことが好きだ。それも異性として。恋人になった後の甘酸っぱい妄想をしたことは数えきれないほどあるし、それ以上のいかがわしい空想をしたことも一度や二度ではない。

 

(やっぱりトレーナーさんだって男の人だし、大人っぽい黒のレースのとか、透け透けのやつとかが好きだったりするのかなぁ……)

 

春の陽気にあてられ、トレーナーが自分の下着を選んでいる場面を想像し、ピンク色の妄想が加速する。

 

(下着のひとつやふたつ、盗られちゃったりして……

 それでそのままトレーナーさんに……)

 

にゃあぁぁ…!と黄色い鳴き声を上げて、恥ずかしさを抑えきれずにセイウンスカイが草むらの上をゴロゴロと何度も往復する。

 

 

 


 

 

 

「服のコーディネイトとか全く分からん。とりあえず一緒に釣りに行く時によく着てるオーバーオールとシャツと……勝負服に似てるから、このチュニックとズボンのセットでいいか」

 

その言葉と共に無造作に衣服がカバンに詰められ、即座に取り出される。

 

「おいおい、畳んで入れないとシワになっちまうだろ!?」

「あっ、ごめんごめん」

 

悪びれた様子もなくトレーナーは次の標的を物色する。

 

「下着とか良し悪し分からんし一泊だから2セットありゃ十分だろ。アスリートなんだしスポブラでいいか。後は釣り道具……一式……は重いだろうから必要な奴だけ選んで持って行くか」

 

下着は興味無さそうにテキパキと畳まれカバンに詰められているのに対して、釣竿は真剣に一本一本精査されている。

 

(スカイちゃんの衣服よりも釣り道具の方が丁寧に扱われてる……)

 

サクラローレル他、野次ウマ達も呆れ顔だ。さっきまでは全方位から黄色い声が飛んでいたはずなのに、今や()()()にウマ娘が居るだけなのが状況を雄弁に物語っている。

 

 

 


 

 

 

(もし、私の下着姿を見たら、トレーナーさんはどんな反応するのかな…?)

 

トレセン学園での惨状を(つゆ)とも知らないセイウンスカイは、思春期の少女特有の豊かな想像力を存分に活かし意中の相手を頭の中に形成する。妄想に集中するため、セイウンスカイは目を閉じ身動きを止める。

 

(温泉旅行……お風呂上がりに下着の上に浴衣だけ着て……ちょっとだけ胸元をはだけて……)

 

『ス、スカイ!?』

『どうしたのー、トレーナーさーん?もしかしてー、今セイちゃんでエッチなこと考えちゃいましたー??』

『ち、ちがっ…!』

 

(顔を真っ赤にして距離を取ろうとするトレーナーさんにのしかかって……)

 

妄想が危険な領域に至る直前に、セイウンスカイははたと気がつく。

 

(うーん……全然トレーナーさんっぽくない)

 

トレーナーさんは生真面目で女性経験も少なそうな男性だけれども、三年間も私と一緒に居て、なんだかんだで(したた)かになったあの人が、今更下着を見せたぐらいで照れて逃げるとはセイウンスカイには全く思えなかった。

 

(シチュエーションから考え直そう。お風呂上がり、トレーナーさんの部屋に押し掛けて……子供みたいに甘えて膝の上へ……胸元がちょっと着崩れして……)

 

『スカイ……』

 

(耳元で名前をささやかれて……熱い吐息が耳にかかって……ギュッと抱きしめられて……)

 

『ひゃっ…!?なにっ…!?』

『誘ってるんだろ?』

『さ、さそっ…?!』

『逃げるなよ?お前は俺のモンだって、体に刻み込んでやるからな』

 

(超いいけど何か違う…!)

 

大好きな人に抱きしめられ布団の中に引きずりこまれ、真昼の屋外で想像できる限界に達したところで、セイウンスカイの頭の中は解釈違いを起こす。

 

(私の知ってるトレーナーさんならこの後は……)

 

ガッシリとたくましい体に組みしかれ、後はトレーナーさんの好きにされるだけ……なのだが、恐いくらいにカッコいい顔をしていたトレーナーさんの顔が苦笑へと変わる。

 

『バカ。自分の体なんだから、もっと大切にしろよ?』

 

優しい声でささやかれながら、割れ物を触るような手付きで頭が撫でられる。この悪辣な()()()()方は実に私のトレーナーさんっぽい。私のトレーナーさんはそういうことする。

 

(私のこと、よくわかってるくせに肝心な一歩は踏み込んで来ないんだよねぇ……)

 

もちろんセイウンスカイだって、トレーナーがなぜ踏み込んで来ないのかは一般論として知っている。教育者であるウマ娘のトレーナーと担当ウマ娘が交際することは(ファンや友人、場合によっては学園も黙認するだろうが)世間一般的にはダメなことも知っている。彼が人生経験の少ない私のことを考えて一線を引いていることも知っている。

 

ただ、それがわかっていても理不尽な悪態をついてしまいそうになるくらいに、彼のことが好きなだけだ。

 

(ここから一歩、トレーナーさんに踏み込ませる方法は……)

 

それでもセイウンスカイは考える。向こうの手のひらの上はまっぴらごめんだ。私は『トリックスター』だ。レースでも日常生活でも、展開を掌握して好きなように他人を動かすのは私の特権だ。トレーナーさんに好き勝手やられてなるものか。

 

『……トレーナーさんだから、ここまでするんですよ…?』

 

わざとらしく全身をモジモジと、上目遣いにまつげをパチパチと、意識して甘ったるいささやき声も添えておく。目を丸くした妄想上のトレーナーさんだったが、それもすぐに苦笑に戻ってしまう。

 

『もっと大人になってから、そういうセリフを言うんだな。』

『あんまり大人を揶揄(からか)うんじゃないよ』

『そういうことはもっと自然にした方が良いよ』

『将来スカイが悪い男に(だま)されそうで俺は心配だよ』

 

トレーナーさんが言いそうな言葉が幾つも頭に浮かぶが、そのどれもがセイウンスカイの欲しい言葉では無かった。

 

(うーん……やっぱり手強い……)

 

妄想の中ですら思い通りにいかないトレーナーを相手に、セイウンスカイは作戦を練り直すのであった。

 

 

 


 

 

 

「スカイが湯冷めしないように半纏(はんてん)とか持ってった方が良いのか…?」

「流石に半纏は暑そうだし、薄手のカーディガンと寝る時用に腹巻きとかでいいんじゃないか?」

 

(ごめん、スカイちゃん。どうやってもトレーナーさんが全然スカイちゃんのこと意識してくれない……)

 

 

 


 

 

 

そして(きた)る温泉旅行当日。

 

「トレーナーさ~ん。お腹すいたー」

「駅弁買って来たよ」

「……ついでに、食べさせてくださーい。あ~ん」

「しょうがないなぁ……」

 

 

「トレーナーさ~ん。椅子が固くて眠れない~」

「ネックピロー、持って来たぞ」

「……それじゃ足りマセーン。膝かして~」

「え、膝…?」

 

 

「混浴……」

「ダメだからな」

「わ、わかってますよ!」

「だといいんだが……」

 

セイウンスカイは今までにないほど攻めていた。経験の少ない彼女にも二人きりの温泉旅行がこれ以上ないほどの仕掛け所だというのは理解していたし、未だに踏ん切りが付かない自身に逃げを許さないための強硬策でもあった。

 

「じゃ、じゃあ、早速温泉に入りましょっか!お風呂上がったらトレーナーさんのお部屋行きますっ!」

「えっ、まあいいけど……」

「言質取ったんでお風呂行きますっ!」

 

それだけ言ったセイウンスカイはトレーナーの方を確認もせずに女湯へとズンズンと進んで行く。本人は隠し通しているつもりだが、赤くなった顔もご機嫌に揺れる尻尾もトレーナーはとっくに確認済みなのだが。

 

 

 


 

 

 

セイウンスカイは焦っていた。

 

(全然相手にされてない…!)

 

熱い湯に浸かりながら、ここに至るまでの道程を振り返る。

 

ご飯をあーんで食べさせてもらい、移動中の電車では膝枕してもらって、手を繋いでここまで歩いて来て、混浴気になりますアピールもした。

 

(私だって女の子なんだから、ちょっとくらいトレーナーさんも照れてくれたっていいじゃん…!)

 

あーんで食べたご飯は味が分からなかった。膝枕にドキドキし過ぎて一睡もできなかった。繋いだ手は汗でヌルヌルして気持ち悪いって思われないか不安だった。混浴なんて恥ずかし過ぎて一緒に入れる訳ないじゃん。

 

でも、トレーナーさんは涼しい顔して全部に対処した。

 

(攻めてダメだったから、もっと攻めるしかない…?)

 

この勝負だけは釣果ゼロでは絶対に引き下がれない。既に引けないところまで来ている(と本人は思っている)セイウンスカイは逆上(のぼ)せそうなほど熱くなった頭でもっと攻めることを決意するのであった。

 

 

 


 

 

 

緊張で爆発しそうな心臓に気付かない振りをしてセイウンスカイは旅館の廊下を足早に行く。たどり着いた部屋の前で深呼吸し、よし、と気合いを入れて扉をノックする。ほどなくして扉が開く。

 

「はいはーい。あなたの可愛い愛バ、セイちゃんがやって来ましたよー」

「いらっしゃい、スカイ。浴衣(ゆかた)似合ってて可愛いよ」

「ん゛っ…!」

 

自分で『可愛い』と称したのにも関わらず、ふわりと柔らかく微笑むトレーナーに『可愛い』と褒められてセイウンスカイは喉が詰まるほどに照れる。

 

(相変わらず鈍感なくせに、不意打ちばっかりしてくるから心臓に悪い……)

 

そんな彼女の様子に気付く様子もなく男は既に部屋の奥へと引っ込んでおり、「ジュースでも飲むかい?」と冷蔵庫を開けている。

 

「じゃあ、ニンジンジュースで」と答え「はいはーい」と返事をするトレーナーの目線がこちらを向いていないことを確認したセイウンスカイは迷うことなく浴衣の帯を解いた。

 

解かれた帯が重力に従いポトリと落ち、音に反応したトレーナーがセイウンスカイを視界に(とら)える。前を(はだ)けたセイウンスカイは浴衣の下に何も身に付けていなかった。

 

「……え?何してんの…?」

「トレーナーさん、私、本気です」

 

最初は帯を緩めて、着崩した浴衣から下着を覗かせるつもりだった。それなら最悪の場合でも『いやー、帯緩んじゃってましたー』で済ませられる。

 

でも、それは逃げの一手だ、

 

思えば私の人生って逃げてばっかりだ、とセイウンスカイは思った。合わないトレーナーから逃げ、宝塚記念で惨敗した時も『つまんない』なんて言って勝負から逃げ、見かねて発破を掛けに来たキングに八つ当たりして友人からも逃げようとした。

 

それでも、どこまで逃げてもトレーナーさんは追って来た。逃げ道を塞ぐようなやり方じゃなくて隣に寄り添ってくれて、『勇気を出して壁にぶつかってみる』なんて作戦とすら言えないことを伝えるためだけに突然海に飛び込んで、また逃げちゃうかもーって言ってみても『信じてる』なんて、そんなこと言われたら逃げたくなくなっちゃうじゃん。

 

そんな大好きなあなただから、この勝負からは絶対に逃げたくなかった。

 

浴衣の前を広げて剥き出しの自分をアピールする。こちらをポカンとした表情で見つめるトレーナーさんが驚きに目を大きく見開く。顔も体も恥ずかし過ぎて燃えるように熱いし、心臓は本当に爆発しそうだ。

 

それでも逃げない。友人の言葉を借りるなら『不退転』だ。絶対にここで差し切る。

 

「トレーナーさん、私、本気であなたのことが、好き、です」

「……スカイ」

「わ、私、大好きなトレーナーさんになら何されてもいいです!」

 

ゆっくりとセイウンスカイとの距離を詰めた怖い顔のトレーナーが彼女の浴衣を掴む。恥ずかしさに身を震わせ、期待に目を輝かせたセイウンスカイだったが、予想に反してトレーナーは浴衣の前を閉め、肩の上から腕を回して彼女を抱きしめた。

 

「……トレーナーさん?」

「スカイ、何をしてるんだ?」

「え…?」

 

大好きな人に抱きしめられて幸せいっぱいだったセイウンスカイだが、感情の()もらない声に(こた)えて顔を上げると、無表情のトレーナーが待ち構えていた。

 

背筋に氷を当てられたように急速に体から熱が引いていき、浮わついていた心が元の場所へと戻って来る。

 

(あっ、これ本気で怒ってるやつだ…!)

 

セイウンスカイはこの男に本気で怒られたことは一度も無い。それは彼女が品行方正だからではなく、彼がサボりを許してしまうほどに甘い男だからだが、一度も怒られたことが無くても怒っていると理解できるくらいには無言の圧があった。

 

「スカイ、そんな風に体を安売りするな」

「や、安売りなんて……」

「お前が俺のこと好きなのは()()()知ってるけど、体を使えば男は落とせるなんて二度と考えるなよ」

「ご、ごめんなさ……今何か「とにかく!自分の体はもっと大切にしろ。わかったか?」

「……。」

 

二人の間に気まずい沈黙が流れる。トレーナーはこう言っているがセイウンスカイから目を離せなかったのを彼女は確信していた。

 

だから、この拘束代わりのハグが終わったら彼女は浴衣を脱ぎ捨てるつもりだったし、テキトーに相槌を打ってすぐに反故にした場合、後で痛い目を見るのは分かり切っていたから何も答えなかった。それは彼も分かっていたからこそ二度目は無いぞとわざと強い口調で告げ、肩に回した腕は(ほど)かなかった。

 

ちなみに、セイウンスカイがウマ娘特有の膂力(りょりょく)に物を言わせて拘束から抜け出さないのは、単にトレーナーから抱きしめられているという幸せな時間を手放したくなかったからだ。

 

しばし無言を貫いていた二人だったが、根負けした男がため息を吐き、口を開く。

 

「スカイ、一つ聞いて欲しいことがある。そのままでいいから聞いてくれ」

 

怒りが霧散したかのような穏やかな声にセイウンスカイは耳を立てる。どちらにせよ彼の腕の中にすっぽりと収まったこの状態では彼女の頭の上、耳のすぐ横に男の顔があるのだ。どうやっても話を聞くしかないだろう。

 

深呼吸をしたトレーナーがセイウンスカイの耳に顔を寄せ、打ち明け話をするように言葉を(ささや)く。

 

「好きだ」

「ミ゜…!?」

「大好き」

「ヒャッ…!」

「愛してる。俺のセイウンスカイ」

「ヒョェ…」

 

生ASMRで腰砕けになったセイウンスカイをトレーナーが抱きしめた格好のまま優しく座らせる。

 

「スカイは奥手だし、好き好きアピールに気付かない振りすれば卒業まで待ってくれないかなって思ってたけど、むしろ逆効果だったみたいだな」

 

優しく彼女の頭を撫でながら男は(ひと)()ちる。

 

「これで、自分の体をもっと大事にするって約束してくれるか?」

「ハイ…」

 

穏やかな声で尋ねる男に、放心状態で幸せに顔を緩ませた少女が簡潔に答える。

 

「じゃあ、スカイにここまでさせたのは俺のミスだし、決意表明と言うとちょっと大袈裟(おおげさ)だけど、さっきの『好き』ってヤツ録音しておこうと思うんだが要るか?」

「! い、要りますっ!絶対欲しいですっ!」

「オッケー。トレセン学園に無事に帰ったら録音して送るから、この温泉旅行中はもう脱いだりとかしないでね」

「はいっ!」

 

この後しばらくトレーナーの腕の中で幸せに浸っていたセイウンスカイであったが、よくよく考えるとトレーナーの手のひらの上で踊らされたのでは?と釈然としない気分になったけど、ギュウっと抱きしめられながら頭を撫でられて、そんなことどうでもよくなるセイウンスカイであった。

 

 

 


 

 

 

二人が温泉旅行から帰って来た数日後。

 

「スカイちゃんのトレーナーさん」

「ローレルさん?どうしたの?」

 

セイウンスカイの担当トレーナーをサクラローレルが珍しく訪ねていた。穏やかに尋ねるセイウンスカイのトレーナーに、言い辛そうにサクラローレルが答える。

 

「最近、部屋で、スカイちゃんがちょっとうるさいんです」

「あー……」

「何とかできませんか?」

「わかった。こっちでなんとかする。ありがとね」

 

 

 

 

 

音声データ取り上げに対してゴネにゴネたセイウンスカイは代わりに一日一回の生ASMR権を獲得するのであった。

 

「好き。大好き。愛してる。俺のセイウンスカイ」

「わたしもすきぃ…」

 

なお友人達にふにゃふにゃになった顔を揶揄(からか)われるのも日課になるのであった。

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