……知らなかったのか…?
トレーナーからは逃げられない…!
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インデントを入れてみる習作
「トレーナーさーん♪」
その日のセイウンスカイはほんの少しだけ調子に乗っていた。
「このドレス、どうですか?セイちゃんに似合ってます?」
調子に乗っているは語弊があるだろうか。
正確に言うなら、とても上機嫌であった。
似合ってるよ、と当たり障りのない答えを返す男。
「えぇー!それだけですかぁ?」
わざとらしくがっかりするスカイに対し、と言われてもなぁ、と男は頭を掻く。
ドレスを頂いて以来、何度となく着て見せられては感想を求められているのだ。語彙力ではなく慣れの方が問題であろう。
───そんな男の油断を待っていたのがトリックスターである。
「セイちゃん、このドレスに相応しいセリフ、まだ聞いてないんだけどなぁー?」
この日のために慣れないドレスに身を包み、子どもっぽく上機嫌にドレスを見せびらかし続けてきたのだ。
男が好むセリフもポーズも当然リサーチ済み。頬に指を添え、上目遣いに男に迫る。
それに動揺することなくウエディングドレスに相応しいセリフ、彼女の求める言葉にすぐさま思い至るのは流石トリックスターの相棒。
普段のじゃれあいの睦言ではなく、決定的な誓いの言葉。プロポーズ……とまではいかずとも、それに近しい宣言。
男が明確に避けている言質を求めているのだろうと。
「ねえ、トレーナーさん?
セイウンスカイは自身のトレーナーに恋をしている。そして男はそれを察している。セイウンスカイも隠し切れているとは考えていない。
だからこその逃げウマとは思えない鋭い差し。暗黙の了解を踏みにじる行為。教育者と学生として絶対に超えてはならない不可侵領域。そこに手を掛ける。
端的に言ってセイウンスカイは掛かっていた。
「……ダメ、ですか?」
うるうると瞳を揺らすくらいは朝飯前。うそ泣きだとわかっていてもトレーナーは断れない。
サボりを許容し、ご褒美と称してお菓子や小物で担当を甘やかして、やる気を出させてきた男だ。そもそもとして上手い断り方を知らない。
敗けを悟る男と勝ちを確信する女。
そこに油断と隙が生まれる。
「スカイ」
逃げウマ娘もかくやと言わんばかりのロケットスタートで男が飛び出す。
ほんの
まずい。
そう思って
強制的に座らされる少女。肩にあった手はすでに頬に。両膝の間に膝を差し込まれ、見上げるは真剣な表情の想い人。
ああ、こういう強引なのもいいかも……なんて乙女回路には火花が舞い踊っている。
てらてらと光る男の人にしては綺麗な
「そういうことは大人になってからにしなさい」
ぺちりと痛くも
「───ということがあったんだけど、ひどくない?」
その日のセイウンスカイは大いに愚痴っていた。
「そうね。全面的にあなたがひどいわね」
愚痴と呼ぶのは語弊があるか。
正確に言うなら、盛大に
なおも言い
「キング~、私の話聞いてる~?」
「聞いてるわよ。あなたが強引に迫ったことも、反撃されて逃げ帰ったことも」
「逃げ帰ってなんかないですー」
「あら、トレーナーを落としに行って、トレーナーに落とされて来たようにしか聞こえなかったけれど?」
「それは……まあ、そうなんだけどさ……」
珍しくセイウンスカイを言い負かしたことより彼女が素直に負けを認めることにキングヘイローは驚く。
この軽口ばかり叩く友人は、その実、かなりの負けず嫌いだから。
「正直言って、そろそろ手詰まりなんだよねー」
「手詰まり…?」
「色々策を仕掛けてみてるんだけど、全然釣れなくってねぇ」
ため息を吐きたい気持ちをキングヘイローはぐっと堪える。
部外者からすると一目瞭然だけれど、当事者にしか判らないこともあるんでしょう、とかなんとか理由を付けて。
でも、返答には理由なんか付けずに。
「告白しなさいよ」
「……いやいやいや!それは流石にトレーナーさんに迷惑でしょ!」
「本当にそう思ってるの?都合の良い理由付けで逃げているだけじゃなくて?」
「それは……」
そもそもドレスを着てプロポーズ
わざわざ言ってやらなくても、目の前にいる友人はその程度のことは理解してくれると信頼しているから。
そして、この素直になれない友だちが私に求めているものは、告白するための
「あなたのトレーナーは頭ごなしに告白を否定するような人じゃないでしょう?」
「……うん」
「ストレートに尋ねれば必ず理由も教えてくれるはずよ。あなたと違って彼は真面目な人だから」
「……そうだね」
キングヘイローの推測に同意しつつも、なんとなーく面白くない気分のセイウンスカイ。
私の担当トレーナーの話なのに、なんて子どもっぽい嫉妬だと内心自嘲する。
「じゃあ、行きましょう」
「行くって……どこへ?」
「あなたのトレーナー室に決まってるでしょ。どうせあなた一人だと適当に理由を付けて行かないでしょ」
バレンタインのチョコレートを渡すだけでも照れて逃げてきたものね、とキングヘイローは呆れ顔で付け加える。
彼女が茶々を入れるために同行を提案する訳がないとセイウンスカイは確信している。
目の前にいる面倒見の良い友人は、どこまで行ってもお人好しだ。あくまで善意で私の告白を後押ししようとしてくれている。それも、私が逃げられない形で。
立ち上がるキングヘイローにセイウンスカイも続く。
が、足音は一人分。それに気付いたキングヘイローは振り返り、どうしたの?と一言。
答えは沈黙。ほんの少しだけ口角を上げることでセイウンスカイは返事とする。
セイウンスカイは逃げだした!
「ちょっと!スカイさん!」
公開告白なんて冗談じゃない!
「───ってことがあったんだけど、フラワーはどう思う?」
その日の放課後のセイウンスカイは少し悩んでいた。
「えっと、私も、告白した方がいいと思います」
「えぇ……」
悩んでいたは語弊があるか。
正確に言うなら、告白しない理由探しをしていた。
告白するなんて恥ずかしいから、なんて建前の理由は言わない。その言い訳は子どもっぽくて恥ずかしいから。
断られるのが怖いから、なんて本音の理由も言わない。勇気を出して、なんて言葉でごまかされるだろうから。
「大丈夫ですよ。きっとうまくいきます」
「どうしてそう思うの?」
キョトンとするフラワーは同性から見ても可愛い。
膝枕され頭を撫でられフラワーに見惚れ頭が働かなくなって、それでもなおセイウンスカイは理論派であった。
「だって、スカイさんのトレーナーさんはスカイさんのこと大好きじゃないですか」
「……そう?」
「そうですよ!」
思い当たる節は……まあ、確かにある。
担当契約した頃の生真面目な新人トレーナーの雰囲気は薄れ、人をからかうような、それこそセイウンスカイのような、のらりくらりと振る舞い、場合によっては仕事をサボるようなトレーナーに、たった三年間で変貌しているのだ。セイウンスカイ色に染まったと言ってもいい。
客観的に見ても、そんなに
セイウンスカイのトリックスターたる部分が結論を下す。
告白、成功する可能性大。いくつか思いついて却下された作戦より明らかに素直に告白する方が勝算が高い。
───セイウンスカイは理論派であるがゆえに、理由がないと断れなかった。
「スカイさん、一緒にトレーナー室に行きましょう?」
ようやくセイウンスカイは失策に気付く。
ニシノフラワーも世話焼き好きだ。こうなる可能性は十分に想像できた。
素直に打ち明けるべき話ではなかったのだ。せめていつでも逃げられるように座っておくべきだった。
「いやぁ、フラワー? 私一人でもトレーナー室までは行けるよ?」
「行く"だけ"ですよね? 告白、できますか?」
相手が悪いとセイウンスカイは悟る。
キングヘイローなら彼女を煽ってうやむやにできただろう。他の同期の面々だってグラスワンダー以外ならなんとかできただろう。
だが、ニシノフラワーに論点ずらしは効かない。それに彼女を煽るなんてセイウンスカイ自身が許せない。力尽くなんて
……という訳で取る手段はひとつ。
ゆっくりと、気取られないように体を起こすが───腰に小さい手が回ってくる。
「……え?」
「ごめんなさい。スカイさんが逃げちゃわないようにしようと思って」
セイウンスカイはニシノフラワーを絶対に振り払えない。
詰み。よりにもよってフラワーに捕まるかぁ、と当の本人は既に諦めモードである。
「えっと、キングさんも呼びますね。私だけだと不安ですから」
「……そっかー」
スマホを操作するニシノフラワーを前に、セイウンスカイに何かを選択する権利はもはやなかった。
「トレーナーさんは私のことどう思ってるんですか?!」
その時のセイウンスカイは自暴自棄だった。
セイウンスカイの面倒な彼女のような告白とも呼べない発言に、扉の影で聞き耳を立てているキングヘイローは呆れを、ニシノフラワーは不安を隠しきれない。
「わ、私がトレーナーさんのこと好きなの知ってますよね?!わかってて思わせ振りなことしてますよね!?」
自暴自棄は語弊があるだろうか。
正確に言うなら、恥ずかしすぎて正常な判断ができていなかった。
そもそも照れ屋のセイウンスカイが想い人に面と向かって告白なんて難易度が高いのに、それに加えて親友二人が様子を見ているのだ。
まともに言葉を発して告白
「わ、私、勘違いしちゃったんですよ!?す、好きにっ、大好きになっちゃったんですよ!!あーっ!!もうっ!!愛してますっ!!付き合ってくださいっ!!!」
当然セイウンスカイは考えていたセリフを話している訳ではない。男が好むセリフもポーズも既に頭にはない。ただ荒れ狂う心のままに口を開いているだけである。
頭を抱えるキングヘイロー。落ち着きなく
一方で、告白されている当のトレーナーは至って冷静にセイウンスカイを見つめるだけであった。
「……なんとか言ってくださいよ。いつもみたいに」
セイウンスカイはその
ニシノフラワーは代表例だ。当然の権利のように尻尾ハグを行い、構ってもらえるように先回りして狸寝入りし、あまつさえ悪い虫が付かないようにとストーカー染みたことさえしばしば。
そんな訳で男は警戒していたのだ。セイウンスカイが男に執着していることは明白だったから。
「スカイ」
扉の向こうの気配。真っ赤な頬に挙動不審な担当ウマ娘。唐突で支離滅裂な告白。名前を呼んだだけで震える肩。状況証拠から男は結論を
両肩に手を乗せ、膝を屈めて目線を合わせる。すぐに逸らされる視線を真っ赤な頬に手を添えて強引に合わせる。セイウンスカイが好むシチュエーションを多少は理解している。
「俺も君のことが好きだよ」
微笑む男と言葉が出ない少女。
「本当はスカイが卒業したら俺から告白しようと思ってたんだけどね」
男は真面目であるがゆえに、好きな女性の告白を断るつもりなど
「キスしてもいいかい?」
いまだ夢見心地の少女は男の最終勧告を前に致命的に出遅れる。
肩にあった手はすでに頬に。見上げるは少し赤い頬に優しい微笑みの彼氏。
こういう強引なのも好きだけど、キングとフラワーに見られるのは恥ずかし過ぎる!
幸い前回とは違って体や足を拘束されている訳ではない。ゆえに短絡的に、癖と言ってもいい。セイウンスカイは行動を選択する。
セイウンスカイは逃げ出した!
「まあ、スカイは逃げるよね」
すでに回り込んできているトレーナーと、扉の向こうで仁王立ちしているキングヘイローを確認して、ようやくセイウンスカイは失策を理解した。