ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
真面目なラブコメ

前々から書きたかった真面目なファインモーションです

以下あらすじ怪文書

~~~~~

『君と僕は釣り合わない』
そう思うのは一体何回目だろう。
他人には言われたことないけれど、そんなこと誰かに言われるまでもなく僕自身が一番分かってる。

『僕は君の運命の人じゃない』

でも、ひとつだけ、胸を張って言えることがある。



I'm not your destiny.

『君と僕は釣り合わない』

 

そう思うのは一体何度目だろうか。

 

ザッと思い返すだけでも十は挙げられるだろう。

 

君がアイルランドの王族だと知った時。

 

君のトレーナーになった時。

 

君が楽しそうにカップラーメンを食べるのを見た時。

 

君が友達とお喋りしてるのを見た時。

 

君が秋華賞を三バ身半も差を付けて圧勝した時。

 

君が乗り込んだ飛行機を未練がましく見送った時。

 

君が日本に戻って来てしまった時。

 

君に告白された時。

 

君と初めてキスを交わした時。

 

君が───

 

「どうしたの?」

 

───今まさに僕の隣で君が幸せそうな微笑を浮かべているのを見た時。

 

「なんでもないよ」と笑って取り繕うけれど、聡明な君なら、たったそれだけの言葉で僕が何を考えていたかまで理解してしまうのだろう?

 

「もう!またそんな顔してる!」

 

普段は冷静で穏やかな淑女然とした笑みを(たた)えている端正な顔が、年相応の少女のようにわざとらしくプクリと膨れる。

 

「キミを選んだのは私だよ?それとも私なんかに選ばれたのは不満?」

 

「そんなことはない」と敷かれたレールに乗るように否定の言葉を返す。

 

「ねえ、そんなに緊張しないで?最初から何でも完璧にできる人なんていないし、何よりもキミにはこの私がついてるんだよ?」

 

芝居がかった仕草(しぐさ)で君が自分の胸を叩く。

 

確かに全部君に任せてしまうのが最適かもしれない。

でも、それだと僕の存在意義が無いだろう?

 

ファンファーレが聞こえる。

 

僕達二人の入場の合図だ。

 

「もう行かないと」と君の手を引いて立ち上がるけれど、頑固な君は立ち上がってなんてくれない。

 

「待たせておけばいいじゃない」

「そういう訳にはいかないよ」

 

目の前の扉の向こうでは彼女の友人であるエアシャカールやシンボリクリスエス、僕の同僚である桐生院トレーナーやたづなさん、それに彼女のお父さん、つまりはアイルランドの王様も、みんなが僕達を待っているんだ。

 

僕達の私的な都合でみんなを待たせる訳にはいかない。

 

「キミが笑顔になるまで立たないもーん」

「これでも笑顔のつもりなんだけど」

 

つーんと言葉にしつつ()ねたフリをする君には苦笑しか出てこないけれど。

 

それでもさっきまでの僕はちゃんと笑えていたはずだ。

 

「ねえ、"トレーナー"」

「君からそう呼ばれるのは懐かしいね」

 

君を担当していたのはもう何年も前なのに、君の"トレーナー"という言葉1つだけで背筋が伸びる。

 

あの頃のように君の前を行くために胸を張らなくては。それがあの頃と変わらずに虚勢であったとしても。

 

「何を恐れているの?」

 

何を、恐れている、か。

 

確かに僕は、この()(およ)んでも怖がっているのだろう。

 

君に幻滅されることを。

 

だって、

 

「……君と僕は釣り合ってない」

「それは『理由』でしょ?」

 

あっさりと君は僕の弱音を受け入れる。

 

それも微笑んで。

 

「『何を』怖がっているの?」

 

何を。

 

君と僕は釣り合ってない『から』

 

「……君の隣に居られないかもしれない」

 

君と僕は釣り合ってないから、君の経歴に汚点を付けてしまうかもしれない。

 

君と僕は釣り合ってないから、君が軽んじられるかもしれない。

 

君と僕は釣り合ってないから……僕自身が君の隣に居ることに耐えられないかもしれない。

 

「あら、そんなこと?」

 

でも君はまるで自嘲ばかりしている僕の心を見透かしているかのように優しく言の葉を(つむ)ぐ。

 

「キミは1つ、私の隣に居るのに相応(ふさわ)しい理由を絶対に挙げられるはずだよ?」

 

二度目のファンファーレが鳴り響く。

だけど、そんなことはどうでもいい。

 

君が思い浮かべた理由を僕も理解しなければならない。

 

そうしないと僕は心から胸を張れない。

君と並んで扉の向こうまで歩いて行けない。

 

「……君に選ばれたこと?」

「ぶぶー、不正解。それは結果であって理由じゃないよ」

 

君に選ばれたのは『結果』か。

 

君に選ばれた『理由』なんて僕は知らない。

 

だから、

 

「ここに、証明してくれない?」

 

いたずらっぽく自分の唇を指し示す君に安堵する。

 

なんだ、そんな簡単な『理由』で良いのか、と。

 

君はそんなに単純な『理由』で受け入れてくれるのか、と。

 

確かに、僕が君の隣に居るのに十分過ぎる程に相応しい『理由』だ。

 

そんな簡単な『理由』だけで君は良いって思ってくれてることに気付かないくらいに、僕は憔悴していたのだろう。

 

君の頬に手を添え、触れるだけのキスをその唇に落とす。

 

「君を愛してる、ファインモーション」

「もう。それだけ?」

 

不満そうな君に唇を()むように何度もキスをする。

 

こんなことで良いのなら君が満足するまで何度でも。

 

「世界で一番君のことを愛してる」

「うん。知ってる」

 

立ち上がった君が僕の首に腕を回してくる。

その体を壊れないように抱きしめ、そして口内に侵入してくる舌。

 

「……舌を入れるのはやり過ぎじゃない?」

「あら、イヤだった?」

「……ノーコメントで」

「ふふっ♪」

 

三度目のファンファーレが鳴り響く。

 

抱きしめていた君を注意して下ろす。

 

「僕は君の運命の人じゃない」

「かもしれないね」

「でも僕は、世界中の誰よりも君のことを愛してる」

「私も、愛してるよ。私の王子さま」

 

軽く(しわ)を伸ばして、君へ手を差し出す。

 

「行こうか、僕だけのファインモーション」

「うん。行こう、Darling」

 

君の手を引いて、僕達の結婚式へと足を踏み出した。

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