意外と子供っぽいカフェ概念
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「トレーナーさん、こんにちは」
「? いらっしゃい、カフェ」
違和感。何に違和感を覚えたかはわからないが、それもすぐに消える。
強いて言うならカフェがウグイス色の和メイド服を着ているのは珍しいのだが、勝負服として正式に登録されているこのメイド服を着ていることはそれほど変な事ではない。
僕の許可を取っていないことを除けば。
「どうしてそのメイド服を着ているんだ?」
「これですか?たまには、着てみようかと思いまして」
にっこりと、そしてイタズラっぽく
「……そうだな」
「ふふっ、変なトレーナーさん♪」
くすりと笑うカフェ。年頃の少女らしい、あどけない笑顔だ。
「コーヒー、淹れてきますね?」
ゆらゆらと上機嫌に揺れる黒い尻尾を見送りつつ思うのだった。
何かがおかしい、と。
「実は、相談があるんです」
ことりとコーヒーのカップを二つ。それと同時にカフェはそう切り出した。
「相談?」
カフェが相談なんて珍しい。
クラシック級のころの爪に関する相談や、凱旋門賞への挑戦の時なんかはよく相談を受けていたが、ドリームトロフィーリーグに移籍してからはミーティングこそあれど、彼女から相談なんてこれまで一度も無かったのに。
「これは友だちの話なのですが」
あまりにも典型的な前置き。大人っぽいカフェに似合わない子供っぽい切り出し方。この切り出し方で本当に友達の話なことはあるのだろうか。
……いや、カフェの場合は『お友だち』の話の可能性はあるか。
「実は、その友だちは自分の専属トレーナーさんが好きなんです。それで告白しようと思っているそうなのですが……トレーナーさんは担当ウマ娘とそのトレーナーの恋愛について、どう思いますか?」
……明らかに『お友だち』の話ではない。彼女は実体を持たず、トレーナーもいないから。
つまりは、本当にカフェの友達の誰かか……もしくはカフェ自身の話か。
前者ならまだ良いが、後者の場合は僕に恋しているカフェの話を第三者視点で聞くことになる。そんなややこしい上に、どう答えて良いか分からない問題にはできれば直面したくない。
まあ、それを選ぶ自由は僕にないのだから、ここでの答えは慎重に、誰も傷付けないように、かつカフェに不審に思われないような、僕が言ってもおかしくないような模範解答を返さなくてはならない。
……適当な文章作るの無理じゃない?
「……僕は、当人達が納得しているなら、トレーナーとウマ娘の交際も良いと思ってるよ」
そういう訳で、若干の諦めを含めながら自分の見解を述べる。
教育者と生徒の恋愛はハッキリ言って大問題なのだが、なぜかここトレセン学園内では黙認されることが多い。実際問題として、トレセン内部だけで内々に処理できる範疇ならウマ娘ファーストである秋川理事長がなんとかしてしまえるし、メジロとシンボリ、サトノ家が裏で控えている以上、変なスキャンダルも揉み消せてしまうからだ。
僕自身、担当であるカフェのことを憎からず思っている上、そう思う前からプラトニックな関係であれば、情状酌量の余地ありだと考えていたんだ。
恋愛感情を制御できるのなら、そもそも『禁断の愛』やら『不貞』なんて起こり得ないだろう?
「当人たちが納得していたらいい。そうトレーナーさんは思っていらっしゃるんですね?」
ぎらりとカフェの瞳が光り、ぞわりと背筋に悪寒が走る。
がたりとカフェが立ち上がり、ゆったりと距離が詰められる。
違和感。
「トレーナーさん、好きです」
知ってる。知ってるからこそ、
カフェが恋を自覚する前から無邪気に好意を向けられているからこそ、この『好き』が本気であることが理解できてしまうから。
「愛しています」
ぎしりと僕の座っている椅子が鳴り、するりと向かい合うようにカフェが膝の上に。がたがたと窓と扉が揺れる。
熱い呼吸が鼻をかすめ、金色の瞳がひとつのブレもなく僕を映す。またしても違和感。
「二人だけの秘密、作っちゃいませんか?」
鼻と鼻が触れ合い、しなだれかかってくる体。退路はしっかりと脚を挟み込む太ももに断たれていて、両手は肩の上に。
かあっと頬が熱くなる。この状況で『二人だけの秘密』なんて想像に
がたがたと扉が揺れる。違和感。
その『想像に難くない』こと自体が違和感。ゆえにようやく違和感の原因に思い至り、
「……!──!」
聞こえていたはずの声が、ようやく耳に入ってくる。
遅れて、ようやく違和感が形を得る。
「君、誰?」
僕の目の前に居る
かたりと鉄面皮のまま首を動かす様はさながら人形のようだ。
「何を言っているのですか?私はマンハッタンカフェですよ?」
妙な確信が僕にはある。
「もしかして『お友だち』?」
ぴんっと目の前の少女の耳と尻尾が伸び、へにゃりと無表情と共に崩れる。
「バレちゃうかー」
「わざとカフェに似せなかったでしょ?」
「それもバレちゃうかー」
てへっと舌を出す仕草はカフェなら絶対にやらないだろう。
さっきからそうだが彼女は、わかりやすく感情を表現したり、わざとらしく無表情を作ったりと、あまり顔には出さないけれど決して無表情ではないカフェには意図的に似せていない。
「初めまして……でいいのかな」
「いいんじゃない?顔を合わせるのは初めてなんだし」
「えっと、名前を聞いても?」
「うーん……忘れちゃった!」
「そっかー」
てへへとわざとらしく彼女は笑う。
そもそも『忘れた』が嘘である可能性もあるのだが、初対面の彼女の嘘を見破る方法がない。少なくとも『お友だち』以外の名前で呼ばれる気はないらしい。
「ふふっ♪温かいね♪」
不意に彼女はぎゅうっと抱きしめてきた。冷え性なのか、そもそも血が通っていないのかはわからないが、とにかくひんやりとした彼女の手が背中に触れる。
それと同時に、がたがたと扉が音を立て「トレーナーさん…!」と悲鳴にも似た声が部屋の外から響く。
まあ、居るよね。カフェも。それでおそらくは扉を閉じてるのは膝の上に居ると。
「ねえ、扉開けてくれない?」
「いいよー。私も疲れてきたし」
「疲れるんだ……」
すんごい軽い感じで彼女が答えてすぐに、がたんと扉が大きく開き、漆黒の幻影が
あっ、本物のカフェは濃紺の制服なのね。
「トレーナーさんから離れてください…!」
「いいじゃん。ちゃんと代わりにトレーナーに恋愛相談したんだしー」
「なっ…!それは…!」
「トレーナーには言わない約束だったけどさー、トレーナーに聞かれちゃいけないなんて言ってないじゃん?」
「……詭弁じゃない!」
ぼんやりした顔でカフェを煽る彼女と、珍しく真っ赤に顔を染めて怒るカフェ。いやまあ、彼女が言うまでもなくカフェの恋愛の話なのは分かってた……とは言わない方が良さそうだな。うん。
「んじゃ、後はお熱いお二人に任せるねー」
「ちょ、ちょっと待って…!」
するりと猫のようにしなやかに降りたった彼女は、音もなくカフェの横をすり抜け、こちらを一瞥することもなく扉へ。
「報酬はまた今度もらいに来るから、がんばってね。カフェ」
「……もう。ありがとう」
何を頑張るのか……は思い当たる節があるが、報酬とは何か。どうして実体を持っているのか。謎をいくつも残したまま彼女は、ひらひらと手を振って扉の向こうへと消えて行った。
ぱたりと扉を閉め……少しだけ開く。こういう時に肉体があると不便だ。
でも、人肌の温かさや色々なものの匂いを感じたり、おしゃれしたりするのに身体は必要だ。特に、地を踏みしめ、空を切り、熱い血潮が全身を駆け巡るあの感覚を味わうには。
……やっぱりカッコ付けずに報酬もらっておくべきだったか。
「……!」
「……」
緊張した面持ちの頬を真っ赤に染めたカフェと困り顔のトレーナー。この距離なら会話くらい簡単に聞けるけど、結果は分かりきってるから興味もない。
「……」
「……!」
ほら、抱き合った。これでカップル成立だろう。
私個人としては、とっとと既成事実作っちゃって逃げられないようにした方がいいと思うんだけど、あの二人は両方真面目だからなぁ。このまま卒業まで大きくは進展しないんじゃないかな。
これじゃあ卒業するまで報酬もらえないかもなぁ……。
「せっかくカフェに似せたのになぁ」
この日のために、身長も体重もスリーサイズも、触り心地からカフェしか知らないような体の隅々までちゃんと真似て作ったのに。
まあ、自分の顔すら思い出せなかったのも理由のひとつではあるけど。
「膝の上に居る間にキスだけしとけば良かったなぁ」
この身体はこの勝負服に残るカフェの想いと依代、そして私の想いでなんとか存在している。
これを維持するためには生きている人の体液を摂取するのが一番手っ取り早い。
……官能小説かよ。
ちなみに相手が男性である必要はないので、困ったらカフェに頼むつもりである。身体が無くても別に困らないから頼むつもりは全く無いけど。
「はあ……まあ、いいや。めっちゃカフェ怒ってたし」
せっかくカフェそっくりの身体にしたんだし、私は未成年じゃないし、キスでもそれ以上でも、既成事実を作ってからネタばらししてカフェに交代しようと思ってたのに。
報酬として肉体を維持したいからトレーナーとキスしてもいい?って事前に話はしてたんだけど、やっぱ目の前で盗られそうになると想像以上に嫌なんだろうか。
私はあんまり独占欲とかないしわかんないや。
「しばらくは退屈しなさそうだしいいか」
二人のイチャつくところを見てるのはしんどいだろうけど、カフェを煽ったり
がちゃりと目の前の錠が音を立てる。カフェから鍵を拝借していおいて良かった。カッコ付けて出てって、行く場所なくて戻るなんてカッコ悪い展開にならなくて。
居心地の良い暗闇。アンティークの机。ふわりと私を受け止めるソファ。本当にカフェとはよく趣味が合う。
するりと、まるで身に着けていないように服を脱ぎ捨てる。
本当はハンガーにでも掛けて置きたいところなのだが、この実体は勝負服ありき。服を脱いで既に実体を失いつつある私には無理。いつもの空き教室。そのソファの上に置いておくくらいで許してもらおう。
『ここまでありがとね』
みゃうと一言、私の相棒が答えた。
さて、お若い二人にちょっかいでも掛けに行きますかね。