ウマ娘短編集   作:カランコエ(Kalanchoe)

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《ラブコメ》
VS実は全部わかってるトレーナー

ずっと書きたかったユキノビジンのお話でがんす
けンど盛岡弁がわかんないべ


〈ユキノビジン〉
お付き合いから始めたいユキノVS早く結婚させたい大人達


「ほい!ユキちゃん!これもこれも、これも!か、け!」

「あ、ありがとがんす……」

「トレーナーさんも遠慮なさらず、おあげんしぇ!」

「ありがとうございます。いただきます」

 

ガヤガヤという喧騒。お酒の入った大人達のガサツな会話の渦中。小さな声で「はぁ……なして、なしてこったなことに……」とつぶやくユキちゃんの声は隣に居るトレーナーさんにすら届かない。

 

まあ、今のトレーナーさんはユキちゃんとは反対隣に座ってるユキちゃんのお父さんの相手で忙しいのもあるだろうけど。

 

「さっきも言ったけど、地元のみんながユキちゃんとトレーナーさんを早く結婚させたいんだって」

 

なしてこったな(どうしてこんな)、という問いに、ついさっきユキちゃんに告げ口した内容を繰り返す。どうせこの大騒ぎの中、私の声なんて誰にも聞こえていないだろうし、私がユキちゃんに密告することくらい織り込み済みだろう。だって、ここにはユキちゃんの両親だけじゃなく私の両親も居るし。

 

「だすけ、みんななして、あたしとトレーナーさんを結婚させようとしてンだべか…?」

「みんなユキちゃんに幸せになって欲しいだけだと思うよ。中央トレセン学園のトレーナーって言わずと知れたエリートだし、ユキちゃんのトレーナーさんって優しくてカッコいいし……」

 

そこで言葉を切って、一応トレーナーさんに聞かれないようにユキちゃんの耳元に顔を寄せる。まあ、この距離だとヒトの耳でも聞こうと思えば聞こえちゃうかもしれないけど。

 

「なによりユキちゃんはトレーナーさんのこと大好きでしょ?」

「そう、だども……」

 

ピンと立ったユキちゃんの耳がゆっくりとトレーナーさんの方を向いて、遅れてユキちゃんの顔もトレーナーさんの顔色をうかがうように、おそるおそるといった感じでトレーナーさんの方を向く。

 

相変わらずトレーナーさんは反対側のユキちゃんのお父さんの方を向いている。その横顔を見つめるユキちゃんの女の子な顔は、私がよく知っているユキちゃんとは全然違って、ユキちゃんが子供の頃からずっと目指してる"キラキラなシチーガール"みたいに綺麗だった。

 

「でもぉ、美冬ちゃん……こういうのって、やっぱり順番が……」

 

困り顔で振り向いたユキちゃんがモニョモニョと言い訳してるけど、その言い訳にはちょうどいい反論がある。

 

「じゃあ、告っちゃう?」

「それができたら、苦労しないべ……」

 

だよねー、と相づちを打ちながら、それができるなら、こんなおせっかいな宴会開かれてないよねー、とも思う。

 

「でもさ、温泉旅行で『これからも一緒にいてください』って伝えたんじゃないの?」

「そ、それは、あたしから言ったンじゃなくて、たまたま美冬ちゃんとの電話が聞かれてただけで……」

「それでもトレーナーさんは受け入れてくれたんでしょ?」

「……うん」

「それじゃあさ、トレーナーさんもユキちゃんと一緒にいたいって思ってくれてるんじゃない?」

「……そう、なンかな…?」

「そうだよ!」

 

私からすると全然脈アリだと思うんだけど、なぜかユキちゃんは弱気だ。そんなユキちゃんを(あお)っているその時、突然それが聞こえてきた。

 

「───ところで、トレーナーさん、今恋人はいンのか?」

 

誰が喋ったのかはわからなかったけど、その言葉の意味はすぐにわかった。ここから隙あらばユキちゃんを推して、外堀から埋まっていく予定なんだろう。

 

思わず静かになる私とユキちゃん。気のせいかもしれないけど、周りの大人達も少しだけ静かになった気がする。

 

みんなが固唾を飲んで見守る中、微笑を崩さないトレーナーさんが柔らかく温かみのある声で語り始める。

 

「今は恋人は居ませんね。特に気になる人も今のところ居ません。それに今は仕事の方に集中していたいので恋愛は後回し、ですかね」

 

そこまで語り切ってからトレーナーさんがお酒の入ったグラスを傾ける。静まり返った宴会場を全く気にしないのはマイペースなこの人らしい。

 

静かになったのも(つか)の間、すぐにトレーナーさんに次の質問が飛ぶ。

 

「トレーナーさん、好きな女性のタイプとかあります?」

 

興味津々といった様子でウマ耳も顔も体もトレーナーさんの方に向いているユキちゃん。それを見て思わず吹き出す私。どっちにも全く気が付かないトレーナーさんが口を開く。

 

「特にこれが好きという点はありませんね。やっぱり男女の交際というのは価値観や性格の相性が重要ですし、今までの経験から言っても一概にどういった人が好みというのは決められないですね」

 

再び静かになる宴会場。ジッと真面目な顔でトレーナーさんを見つめるユキちゃん。それらを意に介さずグラスを口に付けるトレーナーさん。カランコロンと氷が鳴る音がやけに大きく聞こえる。

 

「えっと、例えばユキノちゃんとかどうですか?」

「じゃじゃっ!?」

「えっ、ユキノですか?」

「えっ、それ聞いちゃうの?」

 

慌てて口を手で押さえるけど、相変わらずトレーナーさんはこっちを見ていない。赤くなってワタワタとしているユキちゃんに対して、キョトンとして動かないトレーナーさんが対比っぽくもなっている。

 

「ユキノは真面目で優しくて、少々のことでは諦めない根性のある強い子ですね。将来どういう女性になって、どういう人生を送るのか彼女の担当トレーナーとして、とても楽しみです」

 

違う。そうじゃない。

 

柔らかく微笑むトレーナーさんが傾ける空のグラスから、カラカラと氷の音だけが響く。

 

ユキちゃんの呼び方が『女性』とか『女の子』じゃなくて『強い子』だったり、わざわざ付け加えられた『担当トレーナーとして』という一言だったりから漂うユキちゃんのことを子供扱いしている感じ。徹底的に女性扱いはされていない。教育者としては模範的な解答だと思う。

 

「そう言えば、ユキノから聞いたんですけど───」

 

気まずい空気にただ一人だけ気付いていない彼が切り出した話に、笑顔という名前のポーカーフェイスを作った大人達が文字通り大人な対応をしている。こういう時、大人ってすごいなって素直に思える。

 

一方の私は、シュンと耳を横に倒して肩を落としているユキちゃんに掛ける言葉が見付からず、そっとオレンジジュースをユキちゃんのグラスに注ぐのだった…

 

 

 


 

 

 

酔いつぶれる人達も出始め、みんなが順番にお別れを言いながら帰って行く中、宴会場に残っているのは、この宴会場になっていた旅館に泊まるトレーナーさんと落ち込んでいて動く気配がないユキちゃん。そして、ユキちゃんの付き添い役としての私だけになってしまった。

 

マイペースにお水をゆっくりと飲んでる人と、オレンジジュースを両手で持ってうつむいている人の隣で、一人座っているのはとても居心地が悪い。

 

そんな中、突然、空気を読まないトレーナーさんのひとりごとが始まる。

 

「さっき気になってる人は居るのかーって話があったけど、実はさ、本当は気になってる女性が一人だけ居るんだよね」

 

ピクリとユキちゃんの耳が反応する。

 

「三年くらい前に知り合った女性で、ずっと憧れていた夢を叶えるために、ずっと諦めずに努力する彼女の姿を間近で見てきて、その夢を追い続ける直向(ひたむ)きさに、そのために努力し続ける強さに、その心の綺麗さに、頭ではダメだと分かってはいても、どうしても心惹かれてしまったんだ」

 

うつむいていた顔を上げたユキちゃんがトレーナーさんの横顔を見つめている。

 

これだけヒントを出されれば私にもユキちゃんにも、トレーナーさんの気になってる女性に見当がつく。

 

「あの、それって、もしかして……」と少し明るい声でユキちゃんが話し出すのもよくわかる。私は今すぐにもでもユキちゃんにおめでとうって叫んでしまいたい気持ちを抑えるのに必死だけど。

 

でも、トレーナーさんは困り顔をユキちゃんに向けて言葉を(さえぎ)る。

 

「ごめんね、ユキノ。その質問にはまだ答えられないんだ。僕は大人で、君は子供だから」

 

あくまで一般論だけどね、と彼は穏やかな声で付け加える。

 

何も言えないユキちゃんに微笑(ほほえ)みかけたトレーナーさんが空のコップを机の上に置き、オレンジジュースの入ったコップを持っているユキちゃんの両手を両手で優しく包み込む。

 

「だからさ、ユキノ、君が学園を卒業して、僕も君も誰にも後ろ指を指されなくなって、その時にも今と同じ気持ちだったら、一緒にご飯でも食べながら答え合わせ、しようか?」

 

さっきと同じく穏やかな声でトレーナーさんはそう語ったけれど、ユキちゃんを見つめるその目は、さっきまでの学生を諭すような理知的な大人の男の人の目じゃなくて、もっと感情的で同い年の男の子みたいで、どうしようもなく情熱的だった。

 

「……はいっ!」

 

ようやく口を開いたユキちゃんが、なんとか震える声で一言だけトレーナーさんへと返事をする。それにトレーナーさんはうなずいて、名残惜しそうにユキちゃんから目を離し、こっちへと視線が向く。

 

「美冬さん、さっきの話は三人だけの秘密にしてくれないかな?」

 

僕だって職を失いたくはないからね、なんてお願いにしてはずいぶんと軽い調子で付け加えた彼は、わざとらしくウインクなんかしてる。その軽さに反して、私はなんとか叫ばないように「はい」と返すのがやっとだった。

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